アルケディア・オンライン ~のんびりしたいけど好奇心が勝ってしまうのです~

志位斗 茂家波

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ver.1.0 ~始まりの音色~

ver.1.0.2-18話 全力返球、してやりたい

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ドッバッァァァン!!
【ホンギョラバァァァァ!!】


 大きな咆哮をあげ、身を震わせながら沼の毒を落として巨大なカニのモンスターが沼地から姿を現し、這いあがって来た。
 名前を聞きつつ、さっと図鑑の方に説明が載ってないかと探してみたら、直ぐに記述を見つけることが出来た。というか、姿形がそこまで奇特なものでもなく、大きなカニそのものなので分かりやすかったのもあるだろう。

―――――
『ポイズンクラブ』
毒の沼地に住む巨大なカニのモンスター。
カニと言えば海や川ではないかと言いたくもなるだろうが、毒沼のおかげで天敵に狙われにくいこともあり、毒沼に住まうモンスターたちは意外に栄養が多かったので、かなり大きく成長した。
―――――

「そんなモンスターがここのボス扱いってどういうことだよ!!」
「どういう事と言われても、それは作ったやつに言ってほしいのじゃが!!いや、文句を言っている場合でもないじゃろ!!」

【ホンギョラバァァァ!!】

 っと、のじゃロリのツッコミもその通りだろう。今の大声で僕らの事に気が付いたようで、ポイズンクラブの大きなはさみが振り下ろされ、慌てて僕らは回避をする。

どっごずうううううううん!!
「思いっきり地面がえぐれたぁぁ!?」
【シャゲェェッ!?】
【ガウッ!?】

 巨体ゆえに既に切る機能は有していないそうだが、その大きさゆえに質量もかなりあるそうで、叩き潰す攻撃に利用してくるらしい。
 とはいえ巨体だからこそ動きもやや鈍くて、なんとか避ける事が出来るのは幸いな事だろう。とは言え、その遅さから逃げたいのだが、どうやらそれは許してくれないらしい。

―――――
>ポイズンクラブのスキル『毒泡結界』が発動しました。
>この戦闘からは逃げることはできません。
―――――

 無慈悲にもログにその記述が出されて、逃げ道を防がれた絶望が襲い掛かる。
 いつの間にと言いたいが、どうやらこれはボスレベルのモンスターが有する特殊なエリアを発生させるスキルのようで、逃亡を防ぐらしい。
 確かネット情報だと、各エリアにはそれぞれボスモンスターと呼ばれるような主が存在しているらしく、それぞれかなり特殊なスキルを持っているそうで、下手に遭遇するのは不味いのだとか。
 かなりレベルの高いプレイヤーが集団で襲う事でようやく戦えるほどの代物らしいのだが、生憎そこまで高いわけでもないので、絶望的な状況だろう。まぁ、ここでやられてもどうせ始まりの街で復活できるのだが…‥‥

「でもその場合、そちらはどうなるの?」
「わらわか?ぷちっとやられたら逝くじゃろうなぁ。なにしろNPCじゃからプレイヤーとは違って命は一度きりなのじゃ」
 
‥‥‥言われてみればそうなのかもしれない。アルケディア・オンラインというゲームの世界では、プレイヤーは復活できるし不死身とも言えるだろう。
 だがしかし、NPCとなるとそうはいかないようだ。モンスターもテイムされたものであればプレイヤーと一緒に復活できるけれども、そうでなければドロップ品を落として消えるからな。自由度も高い、リアルといえるような感覚が非常に優れている分、シビアな部分があるらしい。
 というか、そんな話を聞かされると全滅しづらくなった。僕らがいなくなったら、こののじゃロリ一人だけがここに残されて末路が‥‥‥あれ?

「何だろう、生き延びる未来しか見えないような」
【シャゲシャゲェ】
【ガウ?】

 まだよくわかっていないリンは良いとして、何となくひしひしとしぶとそうな気配を感じとれているらしいマリーが頷く。
 とにもかくにも、今は雑談よりもこの状況をどうするべきか考え、


どっずううううううんん!!
【ホンギョベラァァアァ!!】
「って、考えさせてもらう暇がない!!全員、今は回避で何とかしのげ!!」
【シャゲ!!】
【ガウガウ!!】

 巨大なはさみが振り下ろされ、辛うじて交わすもこのままでは時間の問題だろう。
 幸い、相手の方が巨体すぎて動きが鈍いようだが、それでもこちらには体力の問題がある。何しろ先ほどまで全力逃走をしていたので精神的に結構疲れてもいるのだ。HPは減ってないようだけど、流石に肉体に影響がなくとも精神的に影響を及ぼし過ぎている。


 しかし、どうやってこの場を乗り切るべきだろうか?交わし続けても意味がないので攻撃に転じたいが、相手の殻は固いようで、攻撃が通じにくそうだ。
 マリーが体当たりや毒を仕掛けても、毒沼に住まうやつだけに毒耐性は高くて意味を成していない。リンガ蹴り上げても相手が硬くてダメージが通じにくい。爆裂薬なども試してみるが、こちらも高い防御力の前には無意味だろう。
 となると防御を下げる手段として、いっその事殻よりもまだ柔らかそうな真珠に変えればいいかと思ってマリーに魔眼を発動してもらうも、これも効果はない。このあたりもしっかり対策が取られているようで、物理、状態異常に関してはほぼ効かないようだ。


「残る手段は魔法とかだけど、生憎そんなものないし‥‥‥そっちは何か無いのか?」
「わらわか?残念ながら物理攻撃の方が得意でな、魔法攻撃というのは全然できんのじゃ!妹の方がむしろ得意なのじゃが、そっちは今この場におらぬしのぅ」

 元々この状況に陥らせた元凶と言えるのじゃロリに問いかけてみると、良い回答は得られない。妹がいるとか言う情報があったが、こののじゃロリの血縁者かと考えると、それはそれで面倒な予感しか抱かせてくれない。
 状況が好転せず、回避し続けるも疲労感が蓄積し、このままでは全滅も時間の問題だろう。こうなると他に何か手段がないかと周囲を見渡すも、良い素材などもないし、手持ちで逆転できそうなものもない。

「むぅ、けれどもこのままお主らがやられると、わらわがやられるしのぅ‥‥‥おおそうじゃ!!いい手があったのじゃ!!」

 っと、考えこんでいたのじゃロリがふと相手のはさみ攻撃をかわしながら何か名案を思い付いたように、ポンッと手をうってそう口にした。

「何かあるのか?」
「あると言えばあるのじゃ!!魔法攻撃とはちょっと違うのじゃが、次回アップデート当たりで詳しく出る予定の代物がのぅ!!まぁ、今は告知されておらぬだけで、すでに実装済みの要素なのじゃがそれならなんとかできるはずなのじゃよ!!」

 アップデートで新情報が追加されたりするが、どうやら告知前でも密かに実装された要素があるらしく、それを利用すればこの状況をどうにかできるかもしれないようである。
 本当はプレイヤーがこの世界で活動する中で、偶然にも見つけたりして楽しむ要素の一つらしいのだが、この状況で使えるものは徹底的に使うことにしたらしい。

「まずは前にあげたスキルを使ってくれぬかのぅ!!ちょっとばかり性別によって左右される代物なので、女になってほしいのじゃ!!」
「いきなり何を言っているんだよ!!」

 でも、理解できていないわけでもない。頓珍漢な言葉を放っているが、スキルの中に性別を変えることが出来るのがあるけれども…‥‥ソレでどうするというのか?
 とにもかくにも、今は言われるままに動いた方が得策なので詳しく聞く前に使用する。

「『女体化』のスキル発動!!」

 ぼんっと音を立てて煙が出た後、僕の視点が少し低くなった。
 男性のアバターだった体が女性へと変わり、元の容姿の影響を受けた少女の姿になる。個人的には大事なものが失われた喪失感をかなり感じるのでやりたくはないのだが、これでどうにかできるのであればやってみるしかないだろう。
 でも、何もなかったらこのまま全滅してやるからな?しぶとく生き延びそうだし、放置しても大丈夫だろう。

「変わったのなら、これを持つのじゃ!!」

 そう言いながらのじゃロリが取り出したのは、二つの扇。それを手渡しされてきたが、どうやら受け取れるようになっているらしい。

―――――
『初心者の舞の扇』
制作評価:4
効果:素朴な原木を利用して作られた木製の扇。柄も何もなく風を仰ぐ程度の機能しかなさそうだが、装備品として機能する。装備することで『戦闘の舞』が発動可能になる効果を持つ。
―――――

「『戦闘の舞』?」
「そうじゃよ!!本当は次回のアップデートで予定されていたものじゃけど、今なら先行お試し体験ということで出来るのじゃ!!ひとまず使ってみるのじゃ!!」

 言われるままにスキル欄の方も確認してみると、確かに追加されていた。どうやら特殊な装備品を装備することで使えるようになるスキルが存在するらしく、この扇がその例に当たるらしい。

―――――
『戦闘の舞』
スキルを使用することで、自然に舞う事が出来る初心者向けの舞。
男性が使えば自身の攻撃力と素早さを30%上昇、女性が使えば自身の味方の攻撃力と防御力を30%上昇させる効果がある。重複可能だが二人目からは上昇率が25%⇒20%⇒15%と効果が下がる。
ただし、代償にHPを3割削るので乱発はお勧めしない。一度使用した後は20分間再使用不可能。
―――――
 っと、これはこれで中々強力なスキルの類だろう。でも、こんなものがあるという事は、今後これを生かさなければいけないような場面が想像できるので、素直に喜びにくい。
 でも今は、この状況を確かに逆転できるかもしれない。

「わらわもやるからのぅ!!合わせて55%%の上昇じゃけれども、それでもかなりの強化が可能なはずじゃ!!」

 もともと僕らの攻撃力は微々たるものだが、戦闘面で考えると味方の攻撃力を上げるのは非常に強力だろう。特に、この面子内で一番恩恵を受けるのであれば‥‥‥格闘をたしなむリンに一番効果があるはず。

「同時に使用するぞ!使用後に強化が分かればリン、全力であのカニをぶっ飛ばせ!!」
【ガウガウッツ!!】
「マリーも元からの素早さでサポートだ!!攻撃力上昇の恩恵は受けるから、足を狙って体当たりをして姿勢を崩すなどの手段が取れるぞ!!」
【シャゲェェ!!】
「良い返事だ!!それじゃ、やるぞ!!」
「分かっているのじゃ!!」
「「『戦闘の舞』!!」」

 スキルの使用と同時に、体がその動きを理解しているかのように動き始める。自分の踊りのセンスは正直言ってないに等しいのだが、それなのに動けてしまう。
 一応、ある程度の自分の意思で動かせる部分もあるようで、相手の攻撃を回避したいと思うとその通りに勝手に動き、体が舞い踊る。
 見ればのじゃロリのほうも同時に動いており、二人の舞が合わせってその効果が発揮する。

【ガウガアアアアアアアウウッ!!】
【シャゲェェェェ!!】

 舞終わり、HPの減少と同時に全員の攻撃力と防御力が上昇し、僕とのじゃロリはお互いに一人分の恩恵しかなかったが、二人分の舞の効果を受けてリンとマリーは咆哮を上げ、全身を震わせる。
 ちょっと格闘漫画とかにあるような気の高まり具合を表すようなエフェクトが出ているというような感じであり、一気に強化されたのだろう。

「いっけぇぇぇ!!リン!!マリー!!」

 そう叫んだ瞬間、二体は一気に駆け抜け始める。
 巨大なポイズンクラブはその変化に気が付いて脅威と認識したのか、急いではさみを振り下ろして潰そうとしたところで、マリーが瞬時にとぐろを巻いてばねのような形態をとると、リンをその上に乗せる。

【シャゲェッ!!】
【ガウガウ!!】

 ジャンプするための補助だったようで、マリーをばねにして勢いよくリンが上に飛び、はさみに向かって蹴りを入れる。

ドッゴォォォォォン!!バギィッツ!!
【ホンゲゲゲゲゲゲ!?】

 一撃を入れられたクラブのはさみにひびが入り、完全に砕ききらずともそれでも弾き飛ばされる。
 そうなると、防御をしたくとももう一つのはさみが届くには距離があり、リンの正面からの一撃を許してしまう。
 何とか逃れようとのけぞろうとする体制をとるが、生憎巨体ではそううまくもいかないようだ。そもそもカニだからのけぞりようがない。
 そしてそのまま無防備に等しい顔面に、リンが空中で姿勢をとり、力を一気に爆発させる。

【ガウガウガアアアアアアアアアアアアア!!】

 くるんと空中で回転しながら顔面へ降り、強烈な蹴り技が振り下ろされた。かかと落としのようでありつつも、その蹴りの威力は並ではない。

メッゴウゥバグギィィィィィ!!
【ホンゴゲエエエエエエエエエエエエエエエエエ!?】

 見事に正面から殻が今度こそ砕かれ、カニの巨体が地面に叩きつけられる。
 倒れ伏し、リンが改めて着地し直して僕らの側についてマリーも素早く戻って来て臨戦態勢をとるが‥‥‥どうやら今の一撃で終わったらしい。

ぼばっぶしゅううううううう!!

 大きく煙が吹きだすような音を立て、カニの姿が消えうせた。通常のモンスターが敗れた時にはキラキラと消えるのに対して、ボスモンスターと言われるような類ゆえの独特な消失演出なのだろう。
 そして、巨体が消えゆくと同時に周囲の景色が一転し、あの爆裂湿地帯の通常通りのような景色になって、毒沼のようなものとかがすべてなくなっていた。


―――――
>‥‥爆裂湿地帯、隠しボスエリアのボスモンスターが討伐されました。
>称号『毒沼の王殺し』を獲得。スキル『女体化』のレベル上昇及び新スキル『カニ殺し』を獲得しました。
>ドロップ品『ポイズンクラブの外骨格:ハサミ』を入手。
>経験値の獲得!!テイムモンスターのレベルが上昇し、進化可能になりました!!
>進化いたしますか?
―――――

 完全に倒しきったようだが、ログから流れ出る情報にちょっと気圧される。というか、何だろうこのカニ殺しって…‥‥そんなスキルあるのかよ。

―――――
『毒沼の王殺し』
毒沼を支配している巨大なボスを討伐できた称号。生憎、ボスモンスターは一度討伐した後、現実の時間で1週間後に再出現するのだが、そこで新しく討伐しても新しい称号は獲得できないので要注意。

『カニ殺し』
カニのような見た目をしたモンスターに対して、攻撃力15%上昇効果を持つ常時発動型スキル。クラブなどの名前が付いているものは当然だが、スキルによる判定でカニ相手と認められれば攻撃力が上昇可能。
―――――

「ありか、こんなあやふやなスキル」
「しょうがないのじゃ。まだまだ発展途上ゆえに、きちんとした線引きが出来ておらぬところもあるからのぅ‥‥‥とは言え、何とか生き延びれて良かったのじゃ」

 ふぅっと安堵の息を吐くのじゃロリだが、そもそもこんな危ない状況になったのがお前のせいなのは忘れていないからな?
 良い感じに討伐できてごまかそうとしても意味がないからな…‥後で運営に苦情を出して、こののじゃロリへの処罰をちょっと求めよう。

 それはともかくとして、ついでに出てきたが獲得した経験値でレベルアップし、ついにテイムモンスターたちが進化可能になったらしい。
 あれだけのボスを倒したからこそ経験値も一気に入り、成長率などの差はあれどもどうやら二体とも同時に30レベルぐらいにまで上昇した様子。

「一応聞くけど、進化するか?」
【シャゲェ!!】
【ガウガーウッ!!】

 聞くまでもないというように、ふんすと自信満々に近寄ってそう返答するマリーとリン。仲間の強化にもつながるし、せっかく倒した喜びがあるのだから、より強くなる祝い事を重ねればいいだろう。

―――――
>選択を確認、受理いたしました。
>『パールスネーク』の『マリー』および『ファイターレオパルド』の『リン』の進化先をそれぞれ選択してください。
―――――

 以前は確か種族名だけだったが、どうやらアップデートでちょっとは改善されたようで、誰が選ばれたのか分かりやすくなったようだ。
 まぁ、複数体テイムモンスターを狙う人とかもいるのであれば、同時進化の時に同じ種で間違って選択してやらかす人も出かねないので、名前もしっかり出るのは改善された点だろう。
 そう思いつつ、選択先を見ればある程度の予想通りとそうではない部分が出て来た。


―――――
>『パールスネーク』の『マリー』の進化先
1:『シルバースネーク』
・銀色の鱗を纏う、巨大な銀の蛇。魔眼の効果は真珠化から銀化させる効果へと変更されるが生物に対しての効果時間が飛躍的に上がり、受けた時点で即死判定をされる可能性が出てくる。

2:『ライトメタルスネーク』
・全身がライトメタルで出来た蛇のモンスターだが、硬いはずの身体は柔軟かつしなやかに、身軽に動くことが可能であり、防御力が飛躍的に上昇している。
・毒攻撃は消え失せるが、その代わりに魔眼が『金属像の魔眼』へと変質し、対象を高確率でライトメタルへ、低確率でヘヴィーメタルへ変化させる。今まで生きた相手では5分程度の効果しか発揮しなかったが、この変化によって1時間の効果に上昇する。

3:『???』
・開示不可能。選択するまでは不明です。


>『ファイターレオパルド』の『リン』の進化先
1:『スーパーレオパルド』
・おっす、と気さくな声掛けする人が金色になる姿と似た容姿になる豹のモンスター。常にすさまじい気迫を纏い、接近戦よりも色々飛ばしまくる遠距離戦が得意になる。

2:『爆裂レオパルド』
・攻撃全てに爆発属性が付き、攻撃力が一気に強化された豹のモンスター。爆発を利用しての加速手段なども備わり、正面突破力が上昇した。
・新たに咆哮自体が攻撃手段にも転じることが可能になり、咆哮が届く範囲で対象のみを爆発させることが可能になる。

3:『???』
・開示不可能。選択するまでは不明です。

―――――

 ちょっと、前までは4つぐらいの進化先があったけれども、一応条件などがあるせいか3つだけのようだ。とは言えまた不明な『???』が二体に生じているし、これはこれで面白そうだろう。

「それじゃ、この3つ目の選択にしようか」

 確認をとると、二体ともこくりと頷く。
 了承は得られたようなので選択すると、それぞれの身体に同時に変化が起きた。


 カッっと光り、全身が白く輝く二体。
 それぞれの身体がぐぐぐっと一回り大きくなったかと思えば、数十秒ほどかけて造形が変わり始めていくのだが…‥‥

「…‥‥って、あれ?」

 何かこう、もっと巨大な蛇とか足回りが強化された豹になるとか思っていたのだが、進化後のその容姿は予想を裏切った。


【シャゲェ‥‥‥シャゲ!?】
【ガウ‥ガウッ!?】
「ほぉ、こりゃまた面白い遊び心というか、進化したのぅ。もしやわらわが与えたスキルの影響かのぅ?」

 二体とも互いにその姿を見て驚愕の声を上げつつ、のじゃロリが邪悪な笑みを浮かべてくししと笑い声を漏らした。
 無理もないだろう。まさかの進化後の姿が、人に近くなっている・・・・・・・・・のだから。


 マリーの下から半分は大きな蛇のままだが、腰回りが存在しており、いつの間にか布のようなものを身にまとっており、上半身が人間の少女のように変化をしていた。
 蛇の顔の名残としては瞳が赤いままで、髪色は真珠のように輝いているのだが、上半身が美しい少女の姿になっているのだ。
 一方でリンの方も、下半身は豹のままだがきちんとした二足歩行の造りへと変わっており、ファンタジーものに有りそうな獣人に近い姿になっている。
 手の方も肉球があったはずなのに人の物に変化しており、爪の長さが名残だろうか。
 ピコピコと耳が動きつつ、虎のような毛皮と髪色になっていた。

―――――
『パールナーガ』
パールスネークの特殊な進化系であり、人前に姿を現す確率はめったに無い。
魔眼の威力が向上しており、効果範囲の拡張と効果時間の拡大がなされている。その分体が大きくなっているせいで素早さも落ちているのだが、より効果的な状態異常の魔法攻撃を覚え、魔法使いの職業の人に近くなる。
育ち方によっては暗殺系統の方が向いており、気配の消し方も非常に優れているので闇討ちがしやすい。

『ヒューマンレオパルド』
獣人に見えるかもしれないが、れっきとした豹のモンスターの一種。戦闘力が格段に上がりつつ、全身を覆っていた毛皮が下半身の方に移動したために防御力が下がったが、素早さは上昇している。
密林を主な住みかにしており群れで暮らすのだが、悪意ある者に対しては容赦ない蹴りを叩き込む。
ガントレットなどの武器を装備可能になり、武闘家としての技量を向上させると更に強くなる。
―――――

…‥‥まさかの擬人化、いや、モンスター娘と言って良いのだろうか、コレ。
 色々と驚きつつも、これはこれで情報の嵐がネットの中で起きそうな予感を抱かされる。

「…‥‥というか、与えたスキルって言っていたけど、実はすでに分かっていたとかは‥‥‥って、アレ?」

 色々とツッコミを入れたいところだったが、詳細情報はより知っていそうなやつに聞いた方が早いと思い、のじゃロリに尋ねようとしたら、既に姿を消していた。
 見れば「さらばじゃ!!」と書かれた置手紙だけが残されており、どこにもいない様子。


「面倒ごとを振りまくだけ振りまいて、逃げやがったぁぁぁぁぁぁあ!!」

 やっぱりのじゃロリは次回のアップデートの宣伝係とかそう言う者ではなく、プレイヤーへ面倒事を振りまく厄介な存在かと思いつつも、その叫びは誰にも届かないのであった‥‥‥‥どうしよう、コレ。街に戻ったら他のプレイヤーに滅茶苦茶質問されそうなんだけど。


 
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