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ver.1.0 ~始まりの音色~

ver.1.0.1-10話 いざやってみようにも、調べれば沼に嵌りそうで

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「運営からのイベントで、魅せる映像を求められるのは分かっているよね?」
【シャゲェ】
「参加するのは自由だけど、せっかくの初イベント。参加資格を持っているし楽しみたいよね、マリー?」
【シャゲ!!】

 僕の言葉に対して、元気よく返事をするマリー。どうやらイベントに対してはかなりの乗り気のようで、物凄く楽しみにしているらしい。
 だがしかし、イベントが始まってその参加資格を得ようとテイムを必死に模索するプレイヤーが増える中で、ハルとマリーは悩んでいた。
 一口に魅せると言われても、カッコよさや美しさ、可愛さ、逞しさ、賢さ、強さなど多種多様な魅せ方が存在しており、どの方法が良いのか迷うのだ。自由度が高いと、選択肢をゆだねられまくる。
 後は何かこう、着せて飾るのもありかもしれないが、テイムモンスターに装飾品は付けられるのかな?いや、付けられるか。そうじゃなきゃこのイベントで配布されたバッジが胸元に付かないからね。キラキラと輝いており、あちこちのテイムされたモンスターたちもバッジを誇らしげにしている。

「衣装とかも、作れないことは無いけど、蛇だからなぁ‥‥‥」

 手足がある生き物であれば洋服ぐらいなら作れないことは無い。現実でも割と裁縫は得意な方だし、その腕前は発揮できる。布地とかも錬金術で用意可能な事も分かってきているし、マリーの紅毒で真っ赤な染色が可能な事も実験済みなので、その手の衣装を用意したいところだが、生憎マリーの姿は蛇なせいで袖とかズボンが用意できるはずもない。出来たとしてもフリルとかで飾るぐらいか。‥‥‥ソレはソレで、ちょっと可愛らしいような気がする。
 ちなみに、投稿されている画像はアルケディア・オンライン内でも閲覧可能なようになっており、昨日の時点で既に千を超えていた。皆、イベントに参加してテンションが上がっているのもあるのだろうし、親馬鹿ペット馬鹿ならぬテイムモンスター馬鹿になった人たちも自分の子を魅せたいのだろう。気持ちはかなり分かる。


 参考にならないかと思い、その画像や動画が閲覧可能な状態にしてマリーと一緒に見れば、人それぞれの創意工夫を凝らした魅せ方がが見えてきた。
 キャットなどであればだらける姿や丸くなる姿で愛くるしさを魅せるかと思えば、モンスターとの戦闘で襲い掛かる瞬間の映像で畏れを抱かせる。ドッグなどだと、犬っぽいしぐさを見せつつ、他の人と協力して闘犬みたいに見せてきたりと、協力し合って行う事もできるようだ。
 バードだと飛行する姿や羽繕い、モフモフな毛並みを撫でるとか、これはこれで羨ましい。というか、大鷲っぽいのに攫われる画像もあるが‥‥‥あ、これこっちの小さいゴブリンがテイムモンスターで、単に攫われる瞬間を慌てて撮っただけなのか。本気でヤヴァイと思うような、必死過ぎる形相が凄まじい。
 一応わざとではなく本当に偶然のようで、相当ドキドキしたというコメントが添えられている。必死になって救出した後の画像も出ており、結構仲良くしているようだ。

「色々あるけど、創意工夫されていてすごいよね」
【シャゲェ~】

 頷くマリーを見つつ、僕もどうやるべきか思考を巡らせる。ブラッディスネークだからこそ、その深紅の身体を魅せる方法はあるはずなのだ。
 とはいえ、そう簡単に出てくるわけでもないので、気分転換と撮影チャンスを模索するために、一旦適当な場所で狩りを行うことにした。レベルアップさせて強化すれば、また違ったものを得られるかもしれないからね。




「そして案の定、一歩街の外に踏み出せば結構分かれているな…‥‥」

 テイムモンスターがいなければ参加できないイベントだけに、このイベントに対して各プレイヤーごとに対応が異なっていた。
 必死になってテイムできるモンスターを捜しまわっている人もいれば、特にイベントを気にすることもなく楽しむ人、テイムモンスターが既にいるので気楽にしている人などが主に見られるだろう。
 中にはモンスターに土下座してまで参加を必死になって頼む人もいるようだし、初イベントというだけあって、楽しみたい人は多い。


 だがしかし、そんな中だからこそ他人のを奪えばいいんじゃないかと考える馬鹿も出たようだが‥‥‥そっちはそっちで、血生臭い事になっているから見ないでおこう。ペット好きな人たちの逆鱗に触れるような真似は例えゲームの中とはいえどもやってはいけないと彼らは身をもって示してくれているのだから。

「ついでにアイテムも新しいのをゲットできればいいけど‥‥‥うん、生き生きと活動している姿が一番そうだし、撮りつつも張り切って狩るぞマリー!!」
【シャー!】
「ひとまず今日は、ちょっと前から行ってみたかった追加エリア『深緑の森』に向かおう!」

 イベントにも気を向けつつ、自然体で撮ったほうが良いと思い、僕らは意気込むのであった。






 そして20分後、僕らは必死になっていた。‥‥‥撮影に?いや、違う。


【グバァァァア!!】
「ひぇぇ!!何で『タイラントベアー』がこんなところに出てくるんだよぉぉ!!」
【シャシャゲェェェ!!】

―――――
『タイラントベアー』
Ver.1.0からレアとして登場していたベアー系のモンスターがアップデートによってさらに強化され、違う姿として追加された大きな熊のモンスター。腕8本、各所に目玉をいくつか備えており、周囲を見渡して多方向に攻撃が可能だからこそ圧倒的な攻撃力を誇り、その巨体からは考えられないような速さも兼ね備えて、出くわしたら逃亡しないと一撃でやられる可能性がある凶悪なモンスターでもある。
―――――

 手持ちの「モンスターの書」がアップデートで遭遇したモンスターの説明が、行動中でも邪魔にならない程度で出してくれるようになった機能を見せつつも、余計に死の危険を感じさせる。
 ネットの情報だと戦士10人ぐらいのパーティでやっと相手にできるような強さであり、一部では出くわしたら絶対に逃げ出さないとHP0確定になると言われるほどである。
 そんな凶悪なものは、本来かなり奥の場所まで行かないと出てこないはずだが、なぜこんな浅い場所で出てくるのか。

「ああもぅ!これ絶対に他のプレイヤーが奥でやらかした奴だ!!」

 そう、モンスターがアップデートによって現実の生態系のような様子を見せるようになった分、他のプレイヤーが起こした行動が巡り巡って影響を与える事例が報告されているのである。
 例えばラビットの群れを攻撃したやつが死亡しても、群れが興奮を収めずにほかのプレイヤーに襲い掛かったり、スライムに餌を与えて懐かれていたら、他のプレイヤーからも餌をねだるようになるなどの行動があり、その中には凶悪なモンスターを激怒させて他のプレイヤーを巻き込んだ事例も存在しているのである。

 そして今回はその最悪な事例の一つに出くわしたようで、奥の方でこのタイラントベアーを怒らせた奴が全滅して、怒りの収まらぬこいつが本来の場所から出てきて、偶然僕らに出くわしたのだろう。
 それにしても運が悪すぎるというか、アルケディア・オンラインというゲームの中であっても、襲い掛かる激怒した熊さんは滅茶苦茶怖すぎる。

【グバァァァァア!!】
「しかも普通のベアーと違って、腕8本筋肉ムキムキ造形ってどうなっているんだぁぁぁ!!」

 ゲームなのだからしょうがないと言われても、納得できるかこんな凶悪な奴。しかも、ご丁寧に牙もリアルに表現されており、目の方もいくつか存在して全部が真っ赤になって激怒している様子を見事に見せている。お前は某風の谷の蟲かとツッコミを入れたいが、そんな余裕はない。

「マリー!!爆裂瓶、これ渡すから投げまくれぇぇ!!」
【シャゲェェェ!!】

 このまま必死に逃げても、激怒するベアーからは逃れられないので、せめてもの妨害と抵抗のために、手持ちのありったけの爆裂薬をマリーと一緒に投げつけまくる。
 多少は体力を削っているはずなのだが、相手の方が圧倒的にHPが高すぎるうえに、爆裂薬程度では物足りないようでびくともしていない。ニガ団子にマリーの紅毒を使った毒液なども散布したのだが、まったく効いていない。どうやら毒耐性なども持っているようで、相性が最悪過ぎる!!

「というかこれ、絶対に不味い方向に向かっちゃっているよね!?他のプレイヤーを巻き込むとPKプレイヤーキラー扱いされるから、そんなの嫌だから人のいない方に向かっちゃっているけど、どんどん奥に来ちゃっているよね!?」
【シャゲシャゲシャゲェ!!】

 そんなの知るかぁ!!というようなマリーの鳴き声ももっともだが、このままだと結構不味い。深緑の森というのは追加エリアの中ではまだ開拓されている方だが、奥の方に行くほど敵対するモンスターの凶悪さやレベルが高くなっており、そこいらにいるような僕らでは瞬殺されるのが確定する。
 でも、このベアーになぎ倒されるよりもまだ一瞬で楽にされる方がましだと思うので、突き進むしかないだろう。死亡しても一応復活できるのもあるけど、ベアーの顔を最後に拝みたくはない。

「っと、茂みでちょっとはタイラントベアーの動きも鈍いか?」

 必死になって逃げつつも、時々ふり返って見れば相手の動きが遅くなっているのが目に見えた。どうやらこの周辺の茂みが天然の足止めになっているようで、凶悪な熊さんとは言え多少は突き進みにくいようである。僕らの方は身軽なので地形的には有利に働いているのか。

【シャゲシャゲ!!】
「ああ、このまま何とか逃げ切ろう!!」

 熊にかまわないで逃げたほうがいいというマリーの言葉に、直ぐに前を向いて駆け抜け続ける。このままうまいこと行けば、おそらく何とか逃げ切れるはずである。
 ちょっとした希望の光を見いだせて、明るくなったと思った…‥‥が、自然の茂みというのは、僕らにとっても脅威に働いたようだ。

スカッ!!
「【‥‥‥?】」

 ふと、踏み出した先の感触が無く、僕とマリーはそろって不思議そうに顔を見合わせつつ、下をみる。
 どうやら茂みが足元を隠していたようで、地面が無くなっているのも気が付かせなかったらしい。前しか見ていなかったせいで、足元不注意であった。
 よく下の方を見れば切り立った崖になっており、下にほっそい小川が流れているのが目に見えるが、だんだん近づくような、いや、違うか?

「って、これ落ちているやつだぁぁぁあああああああああ!!」
【シャゲェェェェェェェ!?】

 互いに飛べるわけもなく、勢いよく崖の上に飛び出してしまったらしい。
 そして地面が無ければ当然のように落下していき、僕らはそろって川の中に突っ込んだ。

ドッボォォォォォン!!
「ごぼべべ、ぶはっつべべ!!生きているけど、流れが速い!!」
【ジャゲェェ!!】

 小川に見えているかと思えば、落ちて見ればそこそこの大きな「河」と言えるほうだったようで、マリーが腕に巻き付いて来たので離さないようにしつつ、流されていく。
 しかし、崖からの流れの速い河となると、どう考えて嫌な予感しかしない。
 そう思い、流される先を見れば先が無く、そこで途切れているわけでもないようで、嫌でも悟らされた。

「滝だぁぁぁぁあ!?」
【シャゲェェ!?】

 慌てて逃げようにも当然のように逃げる事もできず、僕らはそろって投げ出されてしまった。
 ああ、これどう考えてもダメな奴だ。熊に襲われるのと優劣が付かないような、痛みがまだ無い分マシと言い難いような、物凄く複雑な気分になる。
 取りあえず覚悟を決めて。滝に落下して‥‥‥‥そこで僕らの意識は途切れたのであった。
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