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ver.1.0 ~始まりの音色~

ver.1.0.1-8話 考えつつ、地道に積み重ね

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【ブルルシュワァァ!!】

 目の前で咆哮をあげ、襲い掛かる気満々なモンスターは『ハリセンラビット』。ハリセンを持っているのではなくハリセンボンのごとく全身が針で覆われており、体当たりで相手を傷つけることに特化したモンスターだそうだ。
 接近戦はその鋭い針でやや難しく、魔法使いや弓兵と言った遠距離攻撃手段を持つ者たちが相手をしやすいのかと思えば、ウサギのモンスターでもあるせいか俊敏で、素早く目の前に迫って接近戦を仕掛けてくるなど、一部のプレイヤーたちは職業対応殺しの凶悪ウサギと呼んでいたりするらしい。

「でも、ドロップ品は上等ラビット肉かライトメタルニードル‥‥金属インゴットとかいうものの材料らしいし、手に入れて見たいんだよね。マリー、あれ一緒に相手できるかな?」
【シャゲ!】

 茂みに隠れながらハリセンラビットを観察しつつ尋ねて見れば、どこでどう覚えたのか尻尾の先でぐっと指を立てるように動かし、大丈夫だというマリー。テイムして色々と連携方法なども確認し合ったので、たぶん行けるだろう。テイムモンスターがどれだけソロプレイヤーの役に立つのか、もう分かっている。


「それじゃいくよ!」
【シャゲゲゲ!!】

 ばっと素早く茂みから飛び出し、僕らの接近にハリセンラビットが気が付いた。

【ブルルシュワァァ!!】

 勢いよくその強靭な後ろ足で地面をけり飛ばし、跳躍して一気に迫りくるハリセンラビット。凶悪ウサギと言われるだけあって、他のラビット系モンスターと似た接近方法だが、その全身がハリセンボンになっているのでトゲトゲした鉄球が迫ってくるのと変わらないだろう。
 だがしかし、大人しく接近されるわけにもいかない。防御を固めているとはいえ、確実に痛いのは目に見えているので、刺さりたくもない。
 そこで今回懐から取り出したるのは、カラカラ草を元にしたアイテム『激辛爆弾(小)』である。

―――――
『激辛爆弾(小)』
制作評価:4
効果:手のひらサイズの小さな団子状の物体だが、思いっきり何かに叩きつけると目に染みる程辛い粉末が煙幕みたいに広がる。(小)ゆえにお手軽だが効果時間と範囲は短くて目にしか効果を発揮せず、辛さに耐性がある場合効きづらい。
―――――

「これでも喰らえ!!」

 それを思いきって容赦なくハリセンラビットの顔面を狙って投球すると、直撃と同時に赤い粉が飛び出して顔に思いっきり降りかかる。

【ブル!?ブシュワァァァ!?】

 真っ赤なトウガラシの粉をかけられたも同然な激辛の粉に対して、ハリセンラビットが悶え苦しむ。一時的な怯みだが、一気に怒髪天を突くほど激怒したのか毛が一層逆立ち、刺々しさがさらに増す。
 けれども、そのほんのわずかな怯みが隙を生み出す。そう、既にその背後には事前にこのやり方を学んでいるマリーが迫っているのだ。きちんと目を閉じつつも獲物の位置は把握できており、逆立つ針の毛の合間をかいくぐり、牙を突き立てる。

【シャゲッ!!】
がぶぅっ!!
【ブッシュワワァァ!?】

 背後からの突然の奇襲に対して驚くハリセンラビットだが、気が付いたときにはすでにマリーは反撃を受けないほどの距離まで素早く後退している。
 素早く動けるがその反面、HPが低いからこそ無駄にダメージを受けないヒット&アウェイの戦法を教え込んだのだ。さらに言えば今の攻撃でブラッディスネークとしての特徴でもある紅毒を注入しており、ハリセンボンラビットに毒ダメージが入り始める。

「さて後は、チクチク攻撃して逃げ惑うぞ!!」
【シャシャゲ!!】

 怯ませ、毒状態にしたとは言え反撃されるだろうし、ハリセンラビットの攻撃力も侮れない。そこで僕らが取るのは、事前に作成しまくった爆発薬を投げまくり、ひたすら回避に専念する行動である。
 マリーも器用に噛みついてダメージを与えたり、時々爆裂薬を僕から受け取って尻尾で巻き取り、近づいて仕掛けて爆発させるなど、ダメージをありとあらゆる方向から与えまくって、攻撃が一ヵ所に集中しないように動いてくれる。

 そうこうしているうちにジワジワと毒ダメージが積み重なり、爆裂薬によって爆発のダメージを受けて弱ってゆく。そして最後には跳躍する気力も失せてボロボロになり、しゅわわあぁっと綺麗な光になって消え去った。

―――――
>ハリセンラビットのHP消滅を確認。
>ドロップ品『上等ラビット肉』を獲得しました。
―――――

「よし、倒せた!!」
【シャゲ!】

 見事に削り切って狩れたようで、ドロップ品が収められる。経験値も手に入り、レベルアップにまた一歩近づいた。
 まぁ、ライトメタルニードルとやらが入手できなかったのは残念だが、今のところ連携に問題は無さそうである。マリーの毒で地道に削りつつ、一緒に回避に専念しながら攻撃をする方法は中々良いようだ。

「それじゃマリー、出来れば狙っているドロップ品が出るまで無理しない程度で狩りを続けよう。得られれば新しい錬金術が試せるし、うまくいけばテイムモンスター用の装備品を作れるかもしれないからな」
【シャゲェ!】

 僕の言葉にうなずき、やる気満々という姿勢を見せるマリー。出来ればもっと動きやすい装備も欲しいし、マリーの防御を固めたいからな。テイムモンスター用の装備品の情報はすでに回っているので、どういうのが良いのか大体分かっている。





 アップデートによって一部のモンスターがテイムできるようになったという事は、既に周知の事実になっていた。
 とはいえ、それでもまだまだ分からないところも多く、ネット上の情報を集める掲示板が熱い事になっているらしい。今のところだと、中三病さんがドラゴン狙いだったけどもまだ実装されていないので試せなかったり、始まりの街内で初心者相手に講義を行っているゴリラマンさんが2日間ほど休業してテイムに時間をかけ、アーマードヘッドゴリラというモンスターをテイムした情報があるぐらいか。

 そして僕もまた、ブラッディスネークをテイムした事がすでに知れ渡っているようで、掲示板をちらっと確認するとネタにされていた。ニガ団子の次は毒蛇使いになる気かって書かれているが、連携の仕方を考えると間違ってもいない。しかし誰だ、「団子暗殺者」から「紅蛇の暗殺者」ってあだ名をつけようと動いているやつは?錬金術師であって、暗殺者じゃないんだけど。


「そりゃ、蛇を使うイメージだと暗殺者もあるからじゃないか?」
「そうなるものですかね?っと、ぽっけねこさんは『メタルキャット』をテイム済みですか」
「ああ、そうさ。しかもネームドモンスターだ!!」

 本日は前線組から一旦離れて一人気ままにぶらぶらしていたらしいぽっけねこさんと合流し、ちょっと話してみたら納得できそうな理由を言われた。
 確かに、蛇って錬金術師や魔法使い以外にも暗殺者が使うイメージもあるんだよね。しかしぽっけねこさん、そのメタルキャット凄い頭をかじってますよ?

「大丈夫大丈夫、テイムしたモンスターは仲間のプレイヤーへダメージを与えることは無いからね、HPは変動していないよ」
「でもどくどくと凄い流血しているんですが…‥‥」
「これ、こいつの赤い涎だよ。ネームドなのは通常のものと違う特徴があるけど、このメタルキャットの『玉五郎3世』は火傷状態にする涎を持つらしいんだよね」

 こっちのマリーに対して、濃い目の日本語の名前か。ネームドモンスターなどについてはまだまだ研究中のところもあるようで、情報が色々と捜索していたりして把握しづらい。
 ついでに玉五郎とマリーが互いに気安く挨拶をしており、どうやらフレンド登録をしているプレイヤーのテイムモンスター同士が争う事はそんなにないらしいという情報も得た。

「とはいえ、テイムって高い確率でできるって訳でもない様でさ、条件は満たすと思われているのに既に100体以上狩ってもできないやつが、こっちの前線組にいたりするな」
「100体以上!?そりゃまた、根気強い事だ」
「人によってはどうしてもという事で土下座しまくったり、ソロプレイならテイムしやすいのではと思ってパーティを一時的に脱退扱いになったりとして、ちょっと面倒なことにもなっているけどな。そこまで熱意を注ぐほど、テイムできるシステムに魅力ってあるのかなぁ?」
【ニャゴロッ!!】
「おーおー、玉五郎三世、お腹がへったか?適当な店で飯にしようかねぇ」
「思いっきり魅力にやられていませんかね?」
【シャゲェ】

 玉五郎三世の鳴き声にデレデレし始めたぽっけねこさんに僕はそうつぶやき、マリーも同意するのか頷いていた。現実だとペット禁止なマンションで住んでいる人もいるからこそ、ペットのようにあつかえるテイムモンスターは魅力的なのかもしれない。
 とはいえ、このテイムシステム、全てが良い事ばかりではない。ペットをまともに育てることができない人のように、テイムしたモンスターに対して虐待をしようとする人も出たのだ。
 だがしかし、それをやらかした場合、しっかりと運営から罰が落されるようで、最悪の称号が付けられるらしい。その称号があると二度とテイムできなくなるだけではなく、その称号持ちに対してだけ戦闘時の敵対モンスターの全能力が3倍以上に爆上げされてしまうそうな。

‥‥‥虐待などは絶対に許さず、テイムする以上はきちんと責任を持てといっているのが目に見えるようだ。現実でもペットを飼うのであれば、最後まで責任が必要だからな。

 ゲームとは言え現実と同様に甘くはない一面を見つつ、アルケディア・オンライン内でのしっかりした対策に妥当だとぽっけねこさんと納得し合うのであった。

「でももうちょっと、罰を与えられないかな?そんな状態になってもログインし続けるメンタルの猛者がいるんだよ」
「強くなるところを逆に利用したいのだろうが、そいつを相手にしている時だけ強くなるのであって、ドロップなどは変わらないらしいからな。まぁ、この自由度の高いオンラインのシステムを考えると、なんかテイムシステムをただ出して終わらせない気がするぞ。控えめに発表していたが、様子を見るともっと派手に宣伝して良い事のはずだからなぁ‥‥‥‥」
「テイムが結構人気になりそうなのは分かっているのに、出来ることに気が付くまで見なかったりしますからね。そう考えると、何か企んでいそうで怖いですね」
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