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第一章
一年後の陽だまりで
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この世界に生まれ落ちる命は、全てが尊く美しい。
生まれる前から大切に、愛される。
一つとして無駄な命はない。
今は弱々しい胎動もいずれ力強くなり、自らの意思で母胎の外へーー世界へ飛び出していく。
生きる事への希望と、未知なる世界で出会うであろう誰かに胸躍らせて・・・・・・。
「ーー殿下あああ! どちらにおいでなのですかあああ!」
地下へと続く洞穴から、イザークの叫び声がこだました。
地上に出て、暖かな日差しを浴びながら我が子を愛でていた俺は、地響きのような眷属の声に、びくりと体を揺らした。
「うわ、イザークの奴、もう俺が屋敷を抜け出したことに気づいたのか」
ばれないよう、こっそり抜け出してきたつもりだったが、ものの十分でばれてしまった。
恐らくイザークは地下王国内を駆け回って叫んでいるのだろうが、それが地上まで響いてくるとは驚きだ。
俺は切り株に腰掛けたまま、わずかに膨らみ始めた腹部を撫でた。
「ごめんな、驚いたろう。あれは俺の眷属のイザーク。ーー小姑みたいなやつだよ」
子供はお腹の中でころりと動いた。
まるで、俺の話に相づちを打っているようだった。
「・・・・・・あれから一年か。早いな」
俺がヴァンパイアに戻り、エルヴィスと結ばれたあの日は、つい昨日の事のようだ。
だが、今俺の体内に宿るかけがえのない命が、歳月の流れを実感させてくれた。
人間であれば妊娠後一年たらずで出産するが、俺たちヴァンパイアの子供は、生まれるまで三年はかかる。
長命のせいか、成長がひどく遅いのだ。
だから俺の子も、この一年でようやく形をなしたーーというところか。
会えるのはまだ先だが、今は子供とのつながりを実感できる大切な期間。
俺は今、何よりも幸せな時を生きていた。
「早くお前に会いたいよ」
再びころんと子宮内で動いた我が子に頬を緩めながら、俺は晴天を仰いだ。
「パパ遅いな。まだ帰ってこないのかな・・・・・・」
昨晩、この近くで聖騎士団との大きな闘争があった。
エルヴィスは周辺の安全を確かめるため、デズモンドやカトリーヌを連れて出て行ったきりだ。
「まさか、何かあったんじゃ・・・・・・」
「私の心配をしている場合か?」
「あ・・・・・・!」
ふわりと俺の体を抱き上げ、俺の夫であるエルヴィスは微笑していた。
たった一晩離れていただけだが、彼のことが無性に愛おしく、抱かれたまま頬に唇を寄せた。
「お帰り、エルヴィス」
「あのなあ、また一人で地上に出て・・・・・・そんなに俺たちに心配をかけたいか?」
「そんなつもりじゃないけど、屋敷で皆の帰りを待つだけじゃ、落ち着かなくて」
結界や術式でここ一帯を守ってはいるが、外にいる仲間一人一人を守ってやることはできない。
ただでさえ世界中が俺たちの存在を認識し、ヴァンパイアをあぶり出して殺そうとしている。
俺一人だけ安全地帯に隠れているのは、どうにも気が引けた。
「俺も何か手伝いたい」
「その気持ちだけでいい。今お前がすべきなのは、未来の王を守ることだ」
エルヴィスは俺の腹部を見下ろし、口元を緩ませた。
「この子を誰より近くで守れるのはお前だけ。他の仲間は俺が守るから、安心しろ」
「・・・・・・分かったよ」
納得しきっていないが、我が子を守るのが役目だと言われてしまうと、頷かざるを得ない。
エルヴィスの胸に額を押しつけて膨れ面をすると、お腹の中の子がころんころんと転がった。
慰められているようで、俺の中のもやもやとした気分が、少しだけ軽くなった。
生まれる前から大切に、愛される。
一つとして無駄な命はない。
今は弱々しい胎動もいずれ力強くなり、自らの意思で母胎の外へーー世界へ飛び出していく。
生きる事への希望と、未知なる世界で出会うであろう誰かに胸躍らせて・・・・・・。
「ーー殿下あああ! どちらにおいでなのですかあああ!」
地下へと続く洞穴から、イザークの叫び声がこだました。
地上に出て、暖かな日差しを浴びながら我が子を愛でていた俺は、地響きのような眷属の声に、びくりと体を揺らした。
「うわ、イザークの奴、もう俺が屋敷を抜け出したことに気づいたのか」
ばれないよう、こっそり抜け出してきたつもりだったが、ものの十分でばれてしまった。
恐らくイザークは地下王国内を駆け回って叫んでいるのだろうが、それが地上まで響いてくるとは驚きだ。
俺は切り株に腰掛けたまま、わずかに膨らみ始めた腹部を撫でた。
「ごめんな、驚いたろう。あれは俺の眷属のイザーク。ーー小姑みたいなやつだよ」
子供はお腹の中でころりと動いた。
まるで、俺の話に相づちを打っているようだった。
「・・・・・・あれから一年か。早いな」
俺がヴァンパイアに戻り、エルヴィスと結ばれたあの日は、つい昨日の事のようだ。
だが、今俺の体内に宿るかけがえのない命が、歳月の流れを実感させてくれた。
人間であれば妊娠後一年たらずで出産するが、俺たちヴァンパイアの子供は、生まれるまで三年はかかる。
長命のせいか、成長がひどく遅いのだ。
だから俺の子も、この一年でようやく形をなしたーーというところか。
会えるのはまだ先だが、今は子供とのつながりを実感できる大切な期間。
俺は今、何よりも幸せな時を生きていた。
「早くお前に会いたいよ」
再びころんと子宮内で動いた我が子に頬を緩めながら、俺は晴天を仰いだ。
「パパ遅いな。まだ帰ってこないのかな・・・・・・」
昨晩、この近くで聖騎士団との大きな闘争があった。
エルヴィスは周辺の安全を確かめるため、デズモンドやカトリーヌを連れて出て行ったきりだ。
「まさか、何かあったんじゃ・・・・・・」
「私の心配をしている場合か?」
「あ・・・・・・!」
ふわりと俺の体を抱き上げ、俺の夫であるエルヴィスは微笑していた。
たった一晩離れていただけだが、彼のことが無性に愛おしく、抱かれたまま頬に唇を寄せた。
「お帰り、エルヴィス」
「あのなあ、また一人で地上に出て・・・・・・そんなに俺たちに心配をかけたいか?」
「そんなつもりじゃないけど、屋敷で皆の帰りを待つだけじゃ、落ち着かなくて」
結界や術式でここ一帯を守ってはいるが、外にいる仲間一人一人を守ってやることはできない。
ただでさえ世界中が俺たちの存在を認識し、ヴァンパイアをあぶり出して殺そうとしている。
俺一人だけ安全地帯に隠れているのは、どうにも気が引けた。
「俺も何か手伝いたい」
「その気持ちだけでいい。今お前がすべきなのは、未来の王を守ることだ」
エルヴィスは俺の腹部を見下ろし、口元を緩ませた。
「この子を誰より近くで守れるのはお前だけ。他の仲間は俺が守るから、安心しろ」
「・・・・・・分かったよ」
納得しきっていないが、我が子を守るのが役目だと言われてしまうと、頷かざるを得ない。
エルヴィスの胸に額を押しつけて膨れ面をすると、お腹の中の子がころんころんと転がった。
慰められているようで、俺の中のもやもやとした気分が、少しだけ軽くなった。
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