まじかる⭐︎ふれぐらんす -魔法少女と3LDK-

むくみん

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第二章「傷だらけの汐苑」

05

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 (・・・今度こそ、僕死んだのかな。)

生まれたばかりの頃の記憶を思い出すような、朧げな意識の中に汐苑はいた。
まるで深海のゆっくりとした海流を漂っている感覚だ。
 
 (・・・死んだっていいか。どうせ僕は誰かに支配されて一生を終えるだけだし・・・)

 (あ、いい匂いだな・・・ お腹減った・・・ それになんだかすっごく気持ちいい・・・ ずっと昔、お母さんが今みたいに厳しくないとき、思い出すな・・・)

気がつくと、ベッドの上で汐苑は目を覚ました。

 (病院・・・? じゃないな。どこの部屋だろ)
ベッドの脇には由希が腰掛けながら、自分の腕を摩っていた。
 (この人、さっき穂積と一緒にいた人だよな・・・)
 「あ、汐苑君、起きた?」と由希。
 「ここは・・・」
 「ん? 私の部屋だよ」
体を起こそうとすると、身体中に激痛が走った。
 「うっ・・・!」 
 「動いちゃ駄目! 安静にしてなきゃ」
 「あれ、あんなに怪我してたのに・・・」
自分の体を見回しても、かすり傷一つ残ってない。
 「紗南ちゃんが魔法で直してくれてたんだよ」
 「穂積が・・・?」
 「うん。今は晩ご飯作ってくれているんだ。私は汐苑君、ずっと介抱してたんだよ」
由希はニコリと紫苑に微笑み、髪をかき分けた。
そして汐苑の額に手を当てる。
 「熱は・・・ うん、もう下がったみたいだね。さっきまですごい高熱だったんだよ」
額に当てられた指の感覚が、柔らかく優しかった。

 「おはよー。Mr.変態さん。いい目覚めでよかったね」
エプロン姿の莉愛が寝室にやってきて、皮肉をこぼした。
隣にいる紗南は心配そうに見つめている。 
 「穂積・・・」
その視線に耐えられず、目をそらしてしまう。
殺そうとした相手に向けられる哀れみの目線ほど、居た堪れないものはない。

 「・・・なんで僕を殺さなかったの。あのまま止めをさせば良かったのに」
 「こっちは地獄に叩き落とすつもりだったけどね」と莉愛。
 「お前には聞いていない。・・・穂積」
 「だって・・・ 可哀想だったから」
 「可哀想? 可哀想だって?」
またもプライドを傷つけられた感覚に、汐苑の手が震え始めた。
そしてその怒りを押さえ付けるかのように、小指の爪を噛み始める。
 「どうしてお前に同情されなきゃならないんだよ・・・!」
頭に血がのぼり、目に悔し涙が浮かび始めた。

 「ほら。そういうところが可哀想だと思ったんだ」
 「え・・・」
 「・・・ううん。なんでもない。あえて全部傷を直さなかったのは私たちからの罰。これでこの件はもうおしまい」

空腹を覚えていた汐苑に莉愛がシチューを作ってくれていた。
これが夢の中で感じていた、いい匂いの正体だった。
 「はい、どうぞ。これ食べたらさっさと病院に帰りなさい」
 「う、うん。・・・アチッ!」
口の中の傷が染みるので、息を吹きかけ冷ましながら少しずつ食べた。
淡白な病院食がずっと続いていたので、久しぶりに家庭的な味が食べられた。
テレビを見て、由希と少女たちは談笑している。
汐苑は女の会話から外れた居心地の悪さを感じてしまい、それを誤魔化すかのように無心でシチューを平らげた。

テレビではデパ地下スイーツの特集が放送されている。
 「あ~ん 美味しそう。なんか甘いもの食べたいなあ」と由希。
 「今度由希姉にお菓子作ってあげるね」
 「でもこれ以上太りたくないしなあ・・・」
 「由希さんは太ってないですよ!」
と、汐苑は不意に立ち上がり、声を張り上げた。

その声に由希と少女はハッとした。
 「あいててて・・・」
体の節々に電気ショックを受けたような痛みが汐苑を襲う。
 「ほら、急に立ち上がるから」
と紗南は汐苑をいたわった。


食後、由希と少女はアルメルスのワープ能力で、汐苑を病院まで送ることに決めた。
 「それじゃあ、またそのうち学校で」
と、汐苑に紗南は優しく微笑んだ。
 「・・・悪かったね」
 「しっかり病院で頭冷やして反省しなさい」と莉愛。
 「うるせ・・・。じゃあ、アルちゃん、お願いします」
 「任せれ」
アルメルスが汐苑の肩に乗っかると、二人は瞬時に消えた。
そしてしばらくして、アルメルスだけが部屋に戻ってきた。
 「あのワラシ、医者に怒られてたで。それよりも紗南。ホントにこれでいいんだか?」
 「うん。これで大丈夫」
 「もし次に変なことしたらホントに地獄送りにしてやるんだから。いけすかない。あのガキ」
と、莉愛は強い口調でそう言った。
 「・・・同じ歳じゃないの?」と由希。

その頃、
 「フン。ダメだったか。俺の見込み違いだったな」
アパートの角で、202号室の窓を見つめながら黒フードの男は舌打ちをついた。
 「あの、ちょっとよろしいですか」
 「は、はいっ!?」
後ろから不意に声をかけられ、男は振り返った。
すると二人組の警察官が怪訝に男を見やっている。
 「警察のものですが、危ないものなどはお持ちではないでしょうか?」
 「い、いえ。私は怪しいものでは・・・」

ふと、フードの内側にに忍ばせていた注射器が落ちてしまった。
 「むむっ!!」
警察官たちの顔に緊張感が走る。
法の番人らしい険しい表情だ。
 「こ、これは・・・その・・・」
 「ちょっと署までご同行願います」
 「ち、違う! これは決して・・・」
 「ええい! この後に及んでシラを切るか! 大人しくお縄を頂戴しやがれってんだ!」
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