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第三章

想いを忘れるために

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「筑前煮にポテトサラダ、かぼちゃの煮物とひじきの和物……それから――」
 翌日、私は作り置き用のおかずを作っていた。
「カレーも冷めたし……」
 タッパーにラップを引き冷めたカレーを入れて蓋をした。そのほかのおかずも日付を書いたところに詰めていく。本当は明日、実家に帰る日だった。だが伊織さんの顔を見たら帰れなくなる……そう思った。だから、仕事でいない間に行こうと考えた。
 作り置きのタッパーを冷蔵庫にしまい、三日分の献立を書いてメモ書きをテーブルに置く。旅行カバンを肩に掛けると部屋から出た。
「確か十六時半くらいの新幹線だから……」
 今の時刻は三時だからタクシーで行けば余裕でいける。コンシェルジュの方にタクシー呼んでもらったし、フロントで待とうかな。
 下に降りると「葛木様、タクシー到着されました」とコンシェルジュのお姉さんが教えてくれたのでお礼を言って外に出た。
「葛木様でしょうか?」
「はい、あのよろしくお願いします」
「では、どうぞ」
 タクシーの運転手さんは車のドアを開けてくれたので乗り込む。
「行き先は東京駅でよろしいですか?」
「はい、大丈夫です」
 タクシーが出発すると、見ていた風景が変化し東京駅が近づいているのがわかる。前に実家に帰ったぶりだし、一年ぶりかな……。
 それから二十分ほどで駅に到着すると、料金を払う。
「はい、ちょうどね。じゃあ気をつけて」
「ありがとうございました」
 タクシーから降りて駅構内に入るとたくさんに人が行き交い人酔いしそうになる。やっぱり東京駅は大きいな……迷子になりそう。
 時計を見ると、十六時十分過ぎだったのでトイレに行くと改札に近いパン屋さんでサンドイッチを三つとアイスミルクティーを購入してから改札を通り、すでに来ていた新幹線に乗り込む。ネットで予約しておいた禁煙の指定席に座ると、旅行鞄を荷物棚に乗せて座る。
 スマホを開き、母に【今、新幹線乗ったよ。京都駅には十九時には到着する】とメッセージを打って送信した。その次に伊織さんのトーク画面を開く。
【今日、帰ることにしました。急にごめんなさい。三日分の食事は用意して冷蔵庫に入れてあります。温めて食べてください】と文章を打って送信ボタンを押した。それと同時に新幹線は出発し、走り出した。
「サンドイッチ食べようかな」
 紙袋に入っているミルクティーを取り出しストローを指す。一口飲むとサンドイッチのラベルを外すと、食べ始める。
「カボチャにさつまいもにフルーツサンド……って甘いものばっかりじゃん」
 前はこんなことなかったんだけど、伊織さんがいつも甘いものばかり食べるから……伊織さんの影響だよね。
「いただきます」
 甘くて、美味しい……でも何だか何か物足りない。共有してくれる人がいないから、かな。食べ終わると外は暗くなっていて伊織さんは帰って来る時間だな、なんて考えて伊織さんとのトーク画面を開く。
 既読にもなっていない。もしかしたら残業しているのかもしれないな、と思いアラームをセットして目を瞑った。

 ***


 十九時半を回り、京都駅に着いた私は八条口から出て【一般車乗降場】に向かうと分かりやすいところにブルーの普通車が止まっていた。
「彩葉~迎えにきた」
「お父さん、ありがとう」
 車の後部座席に乗り込むと、すぐに出発する。
「久しぶりね~彩葉」
「うん、でも迎えに来てくれるなんて思わなかった」
「まあね。お父さんが迎えに行くって聞かないから」
 お父さんは、まだスーツを着ていて仕事帰りに来てくれたんだと思うと何だか嬉しい……。それから無言が続き、都会の景色から田舎の景色に変わる。暗いけど空気が田舎の匂いがしてくる。帰って来たんだな、と実感した。

 家に入ると、荷物を置きに二階に上がる。久しぶりに帰ってきたり、自分の部屋は一年前と同じで懐かしい。ベットに座り、寝転がるとスマホを見る。彼のトークページを見ると既読になっていて【美味しかった、ありがとう】と返信が来ていた。
 私は下に降りると、リビングでは夕食を並べていて「彩葉、手伝ってちょうだい」とお母さんに言われテーブルに配膳する。
「婚約破棄のことは残念だったな。彼と彼の両親から電話とお詫びの品が届いたのよ」
「そうなんだ」
 あの人電話、したのか……まあ、当たり前だ。
「早く帰って来たのはね……そのお見合いのことだよ」
「うん、それがどうしたの?」
 どうしたのじゃないよ……。
「お見合いの件、お断りしてください」
「何だって?」
 お父さんは低い声でそう言い放つ。
「私が帰って来たのはそれを伝えるためで……私はお見合いはしません」
「お前が何と言おうが、決めたことだ。彩葉は、相手に気に入られればそれでいいんだ」
「いやです。私は、顔も知らない誰かと結婚するよりも好きな人と一緒になりたい。自分が添い遂げたいと心から思える人と結婚したい」
「ああ言えばこう言う……彩葉、わがまま言うんじゃない! 専門学校も就職先も東京に行くのを許したんだ。それにお見合いは明日やることになった」
 話は一方通行で進み、日曜日だったはずのお見合いは明日に変更されている事実がわかり唖然とする。
「それなら私、行かないから」
「この家に来てもらうことになっているからどこにも行かなくていい。佐久間くんはいい青年で期待の星だ」
「肩書きなんてどうでもいい。私は……」
 伊織さんの顔が頭に思い浮かんだ。忘れたくて、蓋をしたくて早く帰って来たのに……思い出してどうするんだ。
「……彩葉?」
 私は、やっぱり伊織さんが好きだ。
 お見合いはちゃんと断ろう。断って、想いを伝えて……ちゃんと失恋しにいこうと心に決めた。



 
 
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