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第一章

◇長宗我部家に到着

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 櫻月家を出て、結華郷むすびのはきょうの中心部にある長宗我部家に着いたのは空が茜色に染まった頃だった。
「紗梛さん、着いたよ」
「えっ、あ……す、すみません。眠ってしまって!?」
「いいえ、疲れたのでしょう……気持ちよさそうに寝ていたので起こすのは申し訳ないと思ってな」
「そうでしたか……ご迷惑をおかけしてすみませんでした」
 なんたる失態……!どれだけ座り心地が良くても、長宗我部様に迷惑をおかけするなんて。
「謝らないでいい。さぁ、降りようか。御者が今かと待っているから」
 小さな窓から見ると御者の方がそばで待っているようだった。長宗我部様が扉を開けるのを待っているのだろう。そわそわしている様子が見えた。
 長宗我部様が扉を開ければ御者の人が「お疲れ様でございました」と言いお辞儀をする。それにありがとうと長宗我部様が告げると、私が降りやすいように手を差し伸べてくれた。
「ありがとうございます……長宗我部さん」
「あぁ。慣れない馬車だと降りる時怖いだろう? 少し高さがあるから」
「はい。少しだけ、怖かったです。でも、長宗我部様のおかげで平気でした」
 少しだけ、高さがあって立ちすくんでしまったから助かった。
「そうか、良かった」
 私は地面に降りる御者の人に「ありがとうございました!」と言って長宗我部様の隣を歩いて行くと、大きなお屋敷……いや、お城かなと思わせるような建物が立っていた。
 いつだったか、絵本で見たことのあるような異国風のお城のようで思わず「すごい……!」と声が出てしまう。
「大きいだろう? 私も初めて来た時は驚いた」
「そうなんですね……え、あの長宗我部様はずっとこのお城にいたわけではないのですか?」
「あぁ。子供の時は、帝都にある邸に住んでいた。ここは、当主と当主が許した者にしか住めない決まりになっているから。私もまだ二年も住んでいない」
 そうなんだ……そういえばそれくらい前に新聞記事で【長宗我部家当主引退! ご子息に受け継がれる】みたいな内容で出ていた気がするし、綾様の代わりに女学校に行った時に生徒たちがご子息様の話に花を咲かせていたから。
「長宗我部様、私はここに入っても大丈夫なんでしょうか。ここはご当主の方が許したお方でないといけないのでしょう?」
「君のことはもう認めている。それに当主本人が連れてきたんだからいいに決まっている」
 そう長宗我部様は言って微笑まれるとお城の入り口へと歩き出した。私も一緒に歩き出し入り口の前では、洋装の旦那様より年上かなと思われる少しだけ白髪が目立つ男性が待っていた。
「……っ、旦那様。やっとお帰りですか! 待ちくたびれましたよ」
「あぁ。すまなかったよ松島。支度は出来ておるか」
「はい。もちろんでございます、旦那様」
「ありがとう。松島……こちらが櫻月家令嬢である櫻月紗梛さんだ」
 そう松島と言う男性に紹介してもらい私も挨拶をする。
「貴女さまが紗梛様ですか。た通りのお方ですね」
「みた……? 私、どこかでお会いしましたでしょうか」
 こんな高貴な方のお屋敷で働いている方に会ったら記憶があるはずなんだけど……
「貴方がまだ幼い頃に、一度。旦那様と一緒に……申し遅れました、私、松島と申します。先代当主の頃より長宗我部家にて執事として働いております。よろしくお願いいたしますね、紗梛様」
「ありがとう存じます。よろしくお願いします」
 挨拶が終わると、お屋敷の中に入る。外観もとても素敵だったけど中に入ればとても豪華で煌びやかな空間が広がっていた。


  ***


 松島さんの案内で足を進めると、櫻月にはない階段があった。それも登りも下りも大変な箱階段ではなく、少し足を上げれば登れる。これが異国のお屋敷なのね!すごいなぁ……
「……旦那様、紗梛様。こちらのお部屋です」
 案内されたのは階段を上がって手前の部屋。松島さんは手を握り掌側で扉を三回叩く。すると中から返事が聞こえて扉が開かれて中に入った。
 中に入ると綺麗な着物を着ている女性が二人いて私を見ると礼をした。
「紗梛様、紹介致しますね。紗梛様付き女中のはると女中見習いである花奈はなです」
 松島さんが紹介すると彼女たちはもう一度礼をする。
水無月みなつき春でございます。よろしくお願い申し上げます」
 春さんは言って綺麗なお辞儀をすると、花奈さんにも続けて言った
「水無月花奈と申します。よろしくお願いします」
 やっぱり高貴な家の女中さんだ。仕草も口調も丁寧だし、着物も綺麗。洗練された美しさがある。
「春さん、花奈さん。初めまして、櫻月紗梛です。どうぞよろしくお願いします」
 私も彼女らにお辞儀をすると「頭を上げてくださいっ」と春さんに言われてしまい、頭を上げた。

 それから部屋の中を案内してもらって夕餉が整うまで部屋で休ませてもらうことになったが、春さんに綺麗なお着物に着付けてもらい着るとお茶を飲みながら時間が来るまでゆっくりした。
 こんなのんびりした時間は母が生きていた頃ぶりだったからとても穏やかな時間を過ごすことができた





 
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