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第十三章
私の居場所、大切な人たち。
しおりを挟む━︎━︎━︎━︎━︎━︎━︎━︎━︎━︎…
「陽愛ちゃんは、今日は俺と一緒に行動だからね。」
「うん、仁くんよろしくね」
時間まであと1時間ちょっと。
みんなは今、気を引き締めて……なんてわけなくて殆どが戯れて遊んでいる。
「任せて!もうすぐ陽平もくるよ。」
「そうなんだ…忙しくないのかな?」
「ははっ…陽愛ちゃんに会いたいんだよ。今は、響くんと打ち合わせ的なのをやってるよ」
そっか、響くんは司令塔だから……響くんって喧嘩すると人が変わるってこの前言ってたけどどんな風に変わるのかなぁ
今日はそんな姿見られるかな?
陽平くん来ないかな…今日は一緒にいる時間がいつもより少なくて寂しい。
「陽愛、おまたせ。」
「あ、陽平くん!」
陽平くんのこと考えてたら本当に陽平くんが来てくれた。なんだか、久しぶりに会った感覚がする。
「陽愛ちゃん、陽平が来たら一瞬で女の子の顔になったね~可愛い。」
「え!そんなに顔変わった?」
「うん、恋する乙女って感じ。そうだ、俺チームの奴らに話すことあるから時間までいちゃいちゃしなよ~」
い、い、いちゃいちゃ⁈
何を言ってるの!そんなこと言ったら、陽平くん本当に……。
「陽愛、少し総長室行こうか。まだ出発まで30分あるんだから。」
私がなにかを言う暇なく彼に手を握られる。
みんなが見てるのに……って思うのに手を握られるのは安心するからなにも言えなくなるんだ。
「陽愛、大丈夫?……怖い?」
総長室のドアを閉めた陽平くんからそんなことを聞かれる。
「え………」
「……今日朝から不安そうな顔してる。何が陽愛をそんな顔にさせてるの?」
「そ、れはっ……」
自分でもわからないんだ。何かが不安で仕方ない。
「…元仲間だった人と戦うの嫌?それとも俺たちが心配?」
「……陽平くんが心配っ……。私、陽平くんがいればそれでいいの。陽平くんが隣にいてくれればそれで」
すると彼はぎゅっと少しだけ強めに私を抱きしめる。
「ありがとう、陽愛。俺らは絶対負けないよ。傷一つ作らずは無理だけどさ……必ず、勝つ。」
「……うん、」
私は、彼の強い言葉にそれしか言えなかった。
総長室から出てみんながいる下を見ると綺麗に整列して、みんな特攻服を着ていてカッコいい。
「そうだ…陽愛。これ、日向の姫だって証に作ったんだ……」
彼が差し出したのは向日葵をモチーフにしたネックレス。
「陽愛は、日向にとって光なんだよ。俺たちの道しるべの存在……だから笑ってて。」
彼にネックレスをつけてもらうと、優しく手を握られて彼と階段を降りた。
そして彼らの真ん中を通り、彼らを見た。
「怪我はなるべくしないこと。絶対に……陽愛を守れ。さぁ、行こうか。」
「「「はいっ!」」」
みんな一斉に返事をすると、後ろから仁くんに声をかけられる。
「陽愛ちゃん俺たちも行こう。大丈夫……俺たちが守るから。」
陽平くんを先頭に私はみんなに守られながら仁くんのバイクに乗せてもらった。
陽平くんの一言によって、順に出発する。
……というか、どこに行くの?それ私知らないんだけど……。
「ねぇ、仁くん。今からどこに行くの?」
「えっ⁈知らなかったの?!月輝のB倉庫だよ。」
B倉庫……?
B倉庫なんてなかったはず。
「ねぇ!待って‼︎B倉庫なんてないよ!私がいた時はなかった!」
「は⁈どういうこと⁈」
「ねぇ、仁くん……私ここに残る。」
私はここに残らなきゃいけない気がする。何か、月輝の罠なんじゃって思うから。
「もしかしたら、月輝はここを狙ってくる。だから……」
「……わかった。俺が陽に連絡する。一緒に残ろう。」
だけど、なんで架空の倉庫だってわからなかったんだろう……だって響くんは天才ハッカーなんだよね?
「陽愛ちゃん、おっけーでたよ。それがね─︎─︎─︎」
【陽平 side】
……ふぅ…
結構早かったな……終わるの。
「もう終わりかよ。つまんねーな」
「……終わりなわけねーじゃん。俺らは「時間稼ぎなんだろ?」」
俺がそう遮って言えば、彼らは驚いた顔をする。そりゃそうだ…こんな展開を予想していたなんて思わないだろう。
「な、なんで……っ!じゃあ、倉庫には……」
「いますよ。日向会の半分残ってるんだよね」
……まぁ、俺らもここにくる1時間前に響から伝えられて知ったんだけどな。
ギリギリで焦ったけど……。
1時間前━︎━︎━︎…
「陽くんっ……大変!」
「響?どうしたんだ?」
急いで俺の元に来たのはまだ着替えてないラフな格好の響だった。しかもすごく焦った顔でやってきた。
「B倉庫がなかったんだよ!今、一応調べたんだ。そしたら無くてこれは…きっと罠じゃ」
「罠、ねぇ……あっちがそう来たなら」
「僕もそれに賛成」
・
・
・
「……ってことだよ。」
「そんな、だけどお姫様はこっちにいる!」
彼らのそばには、陽愛に扮した天陽の幹部候補生くんが捕まったふりをしていた。その姿がそっくり過ぎて笑えたけど……
「えっ⁈……なんて言うと思った?」
「そんなの計算済み。いいよ」
目を開けて驚いている彼らを偽の陽愛が回し蹴りをすると一気に倒れて気絶した。こいつ、すごい……蹴る力半端じゃない。
「よし、倉庫に戻るよ」
あっちは大丈夫だよな。仁も響もいるんだから……
【仁 side】
ここに陽愛ちゃんと残るって決めた俺は、ここに残る奴らに話をして準備をしてもらっていた。
「陽平くん大丈夫かなぁ……?あっちは多いんだよねっ?」
「まぁね。だけどすぐに陽が来るから安心して。きっと、もうすぐ来るよ。」
……陽が向かったのは更地になってる公園だ。時間稼ぎのつもりだろうけど、陽愛ちゃんが言う前に響が気付いてだなんてな。
まぁ、陽愛ちゃんは場所を知らされてなかったらしいけど。
すると、たくさんのバイクが走って来る音が聞こえてくる。
「よし!おめーら、一発で仕留めろよ‼︎」
……と、言うのは俺じゃない。だって、陽愛ちゃんが驚いてるから。
「響くん……だよね?」
「うんそうだよ。ガラッと変わるでしょ?」
まぁ普段の彼からは考えられないくらいに性格が違いすぎる。
……って呑気に話してる場合じゃない。
俺は陽愛ちゃんを守らなきゃいけないんだから。
俺の役割は、お姫様を守ること。
指一本だって触れさせない。
「陽愛ちゃん、俺から離れないでね。」
「うん……仁くん」
彼女がまた笑顔を見せてくれるように、ね……。
【陽愛 side】
ギギギィ━︎━︎━︎━︎━︎━︎━︎━︎
倉庫が開く音が聞こえる。遂に来たんだ……月輝vs.日向会…いや、
………月輝と私の戦いが今始まろうとしている。
「やぁ、日向会の皆さま…と裏切り者のお姫さま?」
……っ!
やっぱり私は、裏切り者なんだ……彼らを見るのが怖くて下を向こうとする。すると、仁くんが強く私の手を握った。
「陽愛ちゃん、大丈夫だよ。俺らは絶対陽愛ちゃんが裏切るような子じゃないってわかってるから。全力で守ってみせるから……必ず前を向いてて。俺らを導く光になって。」
小声で仁くんに言われて前を向いた。すると、みんなが一瞬だけど笑ってくれて……私にとってもみんなが太陽だよ。
「みんなっ…頑張って!」
太陽なみんながもっと暖かくなるように、私は頑張るよ。みんなが輝けるように、みんなでまた笑えるように。
「おー!!」
倉庫にいる仁くんも含めた彼ら全員が手を腕にあげ、私を見て笑った。
「……ありがとう、姫。」
そう、仁くんが私に言うと今度は日向会に向かって叫んだ。
「おめーら!!日向会の名に懸けて、一発で仕留めろよー!!」
そう言い、指を鳴らすと彼らは月輝へと目を向けた。
「………ふっ、この人数で俺らを潰せるのか?そいつを守りながら」
月輝の総長の三間が上から目線で言う。
確かに、今は人数が少ない。だけど、きっとすぐに彼が来る。
「残念だけど、大丈夫なんだなぁ~まぁやってみないとわからないだろ?」
「……挑発してんのかよ。まぁいい…どっちが勝つのかなんてわかりきってるけど」
挑発するように響くんが言えば三間も挑発してくる。響くんの雰囲気が全く違うことを彼が言葉を発する度に驚いてしまう。
どちらかが掛け声をかけずに急に戦いが始まった。
「陽愛さん、大丈夫です。もうすぐに総長来ますから」
「え……?なんで……」
「総長が来るまでは俺らが守ります。日向会幹部候補生の名にかけて……」
私の前では喧嘩が繰り広げられていて、勝っているのは日向会……圧倒的な強さだ。
すごい……っ!
すると、月輝の幹部の一人である銀波 楽(ぎんなみ がく)が私のそばにやってくる。
だけど、彼の前に名前は分からないけど幹部候補の子が彼を一発で仕留めた。
「……いってぇ…………」
一撃だったはずなのに、もう立てないらしい。そんな人がたくさんいる中で、立ってるのは総長と副総長、幹部と下っ端数名と白鳥花凛。
「……終わり?はえーなぁ」
「な訳ねーだろ?こっちには秘密兵器が居るんだから。」
秘密、兵器……?
秘密兵器ってなんなの?三間の笑みが怖い。
♪~~~
沈黙が走っていたのに、誰かのスマホが少ない鳴りはじめた。こんな時にだれ……?
「悠介さん仕事早いなぁ…よし、みんな片付けるか。」
「そうだな。」
なんて仁くんと響くんが呑気に話している……だけどあちらは焦り顔が伺える。
この差は何なのだろうか……?
すると白鳥花凛と目が合う。彼女は、焦りなんてなくて堂々としているし…
するとまた、バイク音が聞こえてきた。
この音……知ってる。
だけど彼女は「終わりね、日向も陽愛ちゃんも」なんていっている。
「……くくっ…あっちのぶりっ子お姫さま
勘違いしてるよ~~陽愛ちゃん、今から俺たちのショーの始まりだよ?」
「………え?」
ショーの始まりってどういうことなのか知りたくて聞こうと思ったけど、倉庫の入り口に現れた複数の人達。
…そして、その先頭にいるのは、私の大好きな人。
「おまたせ、陽愛。みんな。」
「陽、おせーよ。早く片付けよう。」
「あちらの方は悠介さんから連絡あった終わったって」
ま、またみんなで話してる。戦わなくていいのかと思っているけど地味にこちらにくる輩をどんどん倒してるしかも綺麗に…一回で。
「……さぁ、始めようか。ステキなショーを」
陽平くんの低い声が響く。
さっきから思ってたんだけどなんでそんなに楽しそうなの⁈
「俺たちも今から応援が来るんだよ!なぁ?花凛?」
「そうよ!今から白鳥組が来るの!私、そこの娘なんだから!」
え……何なの白鳥組って。
なんかのクラス?
「陽愛ちゃん…!陽愛ちゃんってほんとさいっこー!」
「……え?何が」
「陽愛と話してるとコントみたいだぞ?」
な、なによ……知らないんだから仕方ないじゃない。でも、この前白鳥なんちゃらって言っていたような?
けど、なんで日向の人たちはこんなに呑気に話せるの?今度は月輝はピリピリしだしたよ。
「…お前らが待ってるのは、こいつか?」
悠介さん⁈
全身黒スーツを着る悠介さんが今いる入り口からこちらに誰かを連れて歩いて来る。
「月輝が、いや…お姫様が待つ白鳥組副組長はこいつだろ?」
「え、おお兄ちゃん‼︎」
「詠佑(えいすけ)さんっ!どうして」
「白鳥組 副組長、白鳥 詠佑。こいつはお姫様のお兄さんらしいね?
そして、組を動かしたのは君。君は馬鹿なの?
極道のこと、何も知らない小娘が……組を動かすな。この世界は信用されなきゃ生きていけないんだ。優しい世界じゃないよ。
君のせいで今日…白鳥組は解散を迫られて今日付けで解散となった。誓約書も勿論ある。」
悠介さんはA4の紙を花凛に差し出した。それを見て彼女は一気に青ざめていくのが分かる。
「きっと君は今まで自分が欲しいと思ったものは、自分が言えば手に入った。
本当のおとぎ話に出てくるお姫さまのように、すべては君の思い通りになってきたんだろうけど。」
まぁ、確かに。
普通に彼女を見れば如何にもお姫さまって感じだ。なんて言うんだろう……ワガママ姫?
うーん…
「それになんで自分の家に頼る?
君の近くには月輝の奴らがいるはずだろう?
月輝がいるのに、なんで頼らないんだ?
仲間なんだろう?
そりゃあねぇ…陽愛を突き落としといて、手に入れたんじゃ“仲間”にはならねぇよ。
なれるはずない。
何度も言うが、この世の中信頼で成り立ってんだよ。暴走族だろうが極道だろうがな。
信頼してない時点で、君たちは仲間じゃない…。
ただの偽物のお仲間ごっこだな。」
お仲間ごっこ、って……。
彼女を見ると悔しそうに顔を歪めている。
図星ってとこかな……だけど━︎━︎━︎━︎━︎━︎━︎。
すぐに大人しくなる彼女ではない。
「けど、裏切るよりマシだわ!」
「……まだそんなこと言ってんだな。仕方ない。」
彼はタブレットをどこからか取り出した。
「……真実がどっちなのか今からはっきりさせてやるよ」
そう言えば、どこから持ってきたの⁈と思うような真っ白なスクリーン。
そして映像を映す機械。
本当にどこから出てきたのか謎なんだけど……
『朝倉陽愛を月輝から追い出したいの。だから、協力してよ…ねぇいいでしょ?』
『そんなの出来ませんっ……!』
『じゃあ、君たちの家族…ぼろぼろにしちゃおっかな~』
『……っ!それだけは、』
途中で録音した声が止まる。すると、響くんが話し出す。これを調べたのは響くん…?
「……で、彼らがしたというかさせられたのは写真を撮って合成したってとこだよ。
写真は決定的な証拠になる。
だけど、“口止め”が足らなかった……いや、君のことが仲間として大切なら口止めなんかしなくても言わないんだろうね。
……彼らが言ったこと教えてあげるよ。」
また、彼は録音機の再生ボタンを押した。
『仕方なかったんです…俺は、俺が信じてたのは……陽愛さんなのに。
けど、家族を見捨てるなんてこと出来なくて……っ
陽愛さんは、俺たちみたいな下っ端でも良くしてくれたのに恩を返すどころか……裏切ったのは、本当の裏切り者は俺たちですっ…』
すると、録音機から流れていた声の主である彼らが私の前に出てきた。
「タキくん、いっくん……」
月輝に入った頃から追い出されるまでずっと仲良くしてくれた彼ら。
私は彼らを知らないうちに苦しめていたんだ……。
「陽愛さんっ……ごめんなさい。俺たち、謝っても許されないことしましたっ……本当に、」
土下座をしちゃうんじゃないかというくらいに彼らは座り込み下を向いた。
その時私の手を繋いでいた陽平くんの手が離れた。だから……。
「……もう、謝らないで……。タキくんいっくん、頭あげて……」
「ひ、よりさん……っ」
「ごめんね、私のせいで苦しめて……本当にごめん。
2人が私を選ばなくてよかったよ。私なんかよりも大切なのは家族だよ。
私ね、月輝を追い出された次の日にね唯一の家族だったお母さんが死んじゃったの。
今の私だから家族の大切さが当たり前に大切な人が隣にいる毎日が幸せなんだって思える……今、ある幸せをずっと陽平くんの隣で感じていたいから」
彼らに頷くと、陽平くんにアイコンタクトを送る。
「陽愛っ……!」
そう私を呼ぶけど、彼に再びアイコンタクトをする。大丈夫だよ、心配ないよって彼が安心できるように。
だってこれは私の問題でもある。みんなはいつかは戦う相手だったというけど、引き金を引いたのは誰でもない私だ。
ちゃんと、解決したい。
私はもう怖くない。陽平くんたちが側に居てくれるんだから。
戻る場所、居場所があるってこんなに安心感があるなんて知らなかったよ。
その場所にちゃんと戻るために私は……私がケリをつけるんだ。
彼らの為だけじゃない。私のために。堂々と陽平くんの隣に居られるように。
「ねぇ、三間くん……」
そう彼に、彼らに話しかけた。
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