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第四章
好きなのに、ある想いが交差する。
しおりを挟む【陽平 side】
あれから彼らとは別れて、車でアパートまで戻る。
車内は沈黙が続いていて彼女は下を向いていて、部屋に入っても黙ったままだ。折角、笑ってくれたのに。
あいつらのせいでぶち壊しだ。俺はまず彼女をお風呂に先に入ってもらった。
彼女が入っているうちに昇に電話をする。
『……何?今何時だと思ってるんだよ。早くしろよ。』
『月輝と接触した。今。総長はいなかったけど、副総長と幹部2名な。』
『へー…理由はまたじっくりと話してもらうかな。総長さまはいつ来るの?』
『しばらく行かねーよ。昇がいるんだから問題ねーよ』
『は?お前総長だろ。ずっとこないつもりかよ』
そんなつもりはない。一応総長だし…仮のな。
『もう少し居てあげたい。』
『なら、姫にしちまえばいいんじゃねーの。』
……やっぱ、それ聞くよな。俺も普通の女子ならそうしたはず。
『…まだそん時じゃない。お前らにもまだ紹介はしない。俺は暴走族だとは言ったが、総長だということは知らないからな。』
『はぁ⁈マジかよ……じゃあ、お前が言ってたあれは本当なのか?なぁ、信じていいのかよ。』
『あぁ、信じろよ。もし何かあれば俺が責任取るから。』
そう強く言うと昇は「わかった。こっちは任せろ」と言ったからホッと一安心して電話を切った。
だけど、彼の言った言葉が耳から離れない。
“一応総長だし…仮のな”
俺は、堂々と総長だなんて言えない奴で前の総長の代わりにやってる代理。
ちゃんと“総長”だと名乗れないのはそのせいかもな。
【陽愛 side】
お風呂を済ませ、リビング前の扉。陽平くんが誰かと話してる。
『総長だということは知らないからな。』
……そ、うちょう?
『もし何かあれば俺が責任取るから。』
もし、“私”が裏切り者だった場合の話だよね。裏切り者だったら、責任を取るってこと……?
外で考えていても悲観的になる一方だから意を決してリビングに入った。
リビングに入れば、彼のスマホはテーブルに置かれていて彼はソファに座ってテレビを見ていた。
「陽愛、お帰り。俺もお風呂入って来る。待ってろ話がある」
「あ、うん……わかった。」
……話?話って何なの?
彼がお風呂に入っている間本当に退屈で。ソファに寝転んだりスマホいじってみたりして15分くらいで彼は出てきた。
「おまたせ。」
は、早い……しかも上半身裸。
まだまだ慣れない……っ
「は、ははは早かったね!」
「そうか…?いつも通りだけど」
……うん、その通りだと思う。いつも15分程で出て来る。
「……あのさ、陽愛。俺の」
陽平くんの言葉を遮るようにスマホの着信音が響いた。
そのスマホの主は私じゃない。陽平くんのだ。
彼は舌打ちをして応答のボタンを押し電話に出ると一気に顔が変わった。
そしてすぐに電話を切り電話に出る前の顔でこちらに来た。けど、すごく落ち着きがない……こんな彼は見たことない。
私の頭の中には1つ思いつくことがある。
彼の所属する暴走族が襲撃されたのかもしれない。もしかして危険なのかもしれない。
「……行きなよ。」
「え……」
「…大切、なんでしょ?それに陽平くんを今必要としてるのは、彼らだよ。」
私だって、暴走族と関わっていた身。全部は理解出来ない。でも、きっと陽平くんを待ってるはずだ。
「…でもっ……」
「ほら、…行きなよ。早く行かなきゃダメだよ。“総長”さん」
私が総長だと言うと驚いたのか目を見開いたけど、すぐに真剣な表情をする。
「陽愛はここにいろよ。…行ってくるっ……」
彼はグレーのVネックのTシャツに黒のパーカーを着て出て行った。
彼の出て行った音が聞こえ、部屋の中はとても静かだった━︎━︎━︎━︎━︎━︎━︎。
彼が出て行ってから襲ってくるのは不安ばかり。あんな後押ししたけど……心配だ。
きっと、喧嘩をしてるだろうし……怪我しないといいけど……
大丈夫かなぁ…何時に帰ってくるんだろう。夜中とかだよね、きっと……。
━︎━︎━︎━︎ピーンポーン、
…………もう、帰って来たの…?
だけど、なんでチャイム……?ふつうに入って来ればいいのに……。
「はーい…今開けるよ~~」
玄関のドアを開けたけど、誰もいなくて一旦外に出ると私の視界は真っ暗になる。
……え………な、に……
「これで、“日向”は終わりだ。」
意識が遠のく中、それだけが聞こえた━︎━︎。
━︎━︎━︎━︎━︎━︎━︎━︎━︎━︎
━︎━︎━︎━︎━︎━︎━︎━︎━︎━︎…
………ん……
……ここは、どこ……?
なんか、揺れてるし……身体が動かない…
「これで総長も喜びますね。」
「そうだな~」
「これでトップになれますね」
総長……?
総長って、誰?
それに、トップってなんの話?
「早川の弱みだからな。」
早川って、陽平くんだよね……?
まさか私、陽平くんのチームに迷惑をかけようとしてる……?
だけど、きっと陽平くんは助けになんて来ないよ……ね。
だって、今抗争中だと思うもん。
急に揺れていた車内が止まった。ドアが開く音が聞こえる。
「あれ?お姫様起きちゃったの?早いね」
…だれ……?
というか、目隠しされてて何も見えない。本当にどこに着いちゃったの?
彼らに降ろされると何かがぶつかる音や叫び声が聞こえて騒がしい。
「日向の奴ら必死だな。」
1人2人の足音が聞こえると、強引に引っ張られる。
「もう、終わりかよ。」
圧がかかった声……やっぱり陽平くんだ。なんか急に静かになったけど、どうしたんだろう……。
「この子を見ても早川陽平は、そんなこと言えんのか?」
そう嘲笑うように話す男の声が聞こえた瞬間、急に強く押されて転んだ。
目隠しのために目も見えない、
手足は拘束されていて全く動かない……
自由なのは口だけ。
どうしようもなく怖かった。
でも、急に前が明るくなったと思ったら見えたのは月輝より大きな倉庫の中。
そして、私を見つめる彼…陽平くんだった。陽平くんが総長を務めてるチームの倉庫だったの……?
【昇 side】
目隠しされて、拘束されてやって来たのは陽が大切な女だった。
陽のことだ。ちゃんとマンションで鍵をかけて来たはず……なのに、なんで………捕まったんだよ。
「早川の弱みは、この子だろ?ずっと、早川のマンションを張ってたんだよなぁ……やっと、わかった日が抗争の日だとは思わなかった。」
……マジかよ。タイミングを見計らってたのかよ。
「大切な彼女、ぐちゃぐちゃにしてやるよ…嫌ならさ、やられてくれない?」
…やられてって、そんなこと……
「……わかっ「………違う。」」
陽が答える前に彼女が遮る。それにみんなが反応して、彼女を見る。もちろん、陽も……
「…私、は…っよ、早川くんの彼女でも大切な人でもない……」
「はっ…?何言って……」
「だから、早川くんは気にしないで私大丈夫だから……」
彼女が強く言えば、相手はニヤリと笑った。そして、無抵抗の彼女に手を出した瞬間にボタンがちぎれる音が響いた。
それには陽も我慢ならない様子で。顔が怒り狂ってる……
すると陽は俺にアイコンタクトをして、言う。
「……やるなら、俺をやれよ」
「へぇ、覚悟出来たんだ。チームより女を選ぶんだ?じゃあ、最初は土下座して貰おうかな」
は……?なんで土下座?悪いことしてないのに。
だけど、彼はそれを実行……それには他の幹部や下っ端が驚く。
……それは俺も同じだった。
だけどその時、あっちの総長さんが陽に近づく。そして、横腹に蹴りを入れた。
その衝撃にトップのはずの彼は倒れた。すると、あっちには見えないように彼が手で合図した。今のうちに、ってことね。
泣きそうになっている彼女を連れて安全な場所に連れて行く。それを確認した彼はさすがトップと言えるだけの強さ…2分もかからないで倒した。
「……バカな奴らだ。早く失せろ」
ど太い低い本気で怒りに染まった声で言い放った………
彼らは1人残らず、帰って行った。
・
・
・
「……陽愛っ!大丈夫かっ……」
「…迷惑かけてごめんなさいっ……私、」
彼女はまだ話そうとしていたけど、彼が遮った……いや、強制終了させた。
またも、俺らは驚かせられる……。
━︎━︎━︎━︎━︎━︎ガシャン、
「……ごめん、陽愛っ………怖い思いさせて本当にごめん」
そう言ってぎゅっと強く抱きしめられる。
「……私こそごめんね、拐われちゃって……でも大丈夫だから心配しないで。」
「大丈夫、な訳無いだろっ……手震えてるんだから」
彼は優しく温めるように私の手を包み込む。少しだけ恐怖心があったけど、彼の言葉にハッとする
「……陽愛、俺の彼女になってくれませんか?」
「え………?」
「わかってる。だけど守りたいんだ。陽愛を。それに、…好きなんだ」
陽平くんの彼女になると言うことは、総長の女になるってことだ。それは、チームの“姫”になることを意味している。
「ごめんなさい。私、姫にはなれ「…わかってるよ」」
……え、どういうこと………?
「陽愛は、姫にならなくていい。あそこにも行かなくていい。」
……姫にはならなくてもいいだなんて。私が元姫だから?
「ただ……側にいてほしいんだ。俺の横で笑っていてくれればそれでいい。」
「なんで……私が元姫だからっ……?やっぱり、私…………」
下を向いていると、彼にまたぎゅっと抱きしめられる。
「……元姫だからとかそんなんじゃない。俺だけの気持ちとしては、陽愛には姫になってほしいよ。
けど、陽愛の気持ちは関わりたくないだろ?
また信じて裏切られたらどうしようって、信じたくないって思ってるんじゃない?怖いって気持ちがある限り、俺は無理矢理姫にしようなんて思わない。…陽愛の気持ちが何よりも大切だから。」
そう言って、彼は私の頭を撫でると私から離れた。
すると、差し出したのは以前と同じスウェットを渡されて浴室まで案内をされ浴室に押し込まれたからシャワーを簡単に浴びて彼の元に戻った。
「あれ?もう出たの…?じゃあ、俺も入ろうかな」
「う、うん……いってらっしゃい」
「……陽愛、あの行けないんだけど。」
……いつの間に私は、彼の服の裾を無意識き引っ張っていた。
「あ、ごめん……私ね陽平くんのこと、好きだよ」
「……え?」
「いつ好きになったとか分からないけど……キャッ」
え……私、抱きしめられてる?
どうしよう。胸が熱い……心臓の音、聞こえてないかな。
「陽愛……好きだよ。出会った日からずっと……」
そう言って陽平くんは唇を重ねる。私にとって陽平くんとのキスは……私の初めてだった。
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