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第三章

消えることなんてできなくて、だけど君といると楽しくて。

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   ❁


家を出て数日。
居候生活を始め、私は今……


「陽平くん、ご飯できたよ?」


「ありがとう。うわぁ、今日も美味しそう」


……主婦やってます。私には出来ることがこれしかない。

料理して、掃除して、洗濯して……と仕事してきた私だけど。



「今日は、学校行くんだな」


「あ、うん。そろそろ行かなきゃだし……」


今日は学校に行く。
そんなに休めないし…私なんて誰にも覚えられてないし行ったところで嫌味言われるのはわかりきってる。

…それに、殴られるんだろうけどね。


「そっか、じゃあ迎え行くわ。陽愛の学校って松崎学園だろ?帰り、連絡して」

「大丈夫……私は一人で帰るよ。」

彼の言葉を遮り、強くそう言ってしまってなんだか気まづい空気……になってしまった。




「……もう行くね、じゃあ」

私は彼に何も言わせずに初めて彼より先に家を出た。

久しぶりにバスに乗って学校に向かう。沢山の目線が痛い。

だけど不思議と怖いとは感じなかった。


「あれ?朝倉さん来てるよ~~生きてたんだ」

「ほんとだ。死んだかと思ってたよ」


生きてるし!!
出席日数だって、足りなくなったら卒業できなくなるし。


「…なんだ、来たんだ“裏切り者”さん」

「最近来なかったからさ、どうしたことかと思ってたよ」


最近って軽く数日じゃん。しかも、心配なんてしてないくせに何言ってんの。




「……なんか喋ろよ。ほんっと、生意気」

話したところで信じてなんてくれないのに話すことなんてないじゃんか。

また殴られるのかなぁなんて思ってれば最初の一撃をされて数分は殴られた。彼らが行ったと思ったら彼らの信者の生徒が私に攻撃をする。


彼らよりも長い時間……ずっと殴る蹴るの繰り返し。それはチャイムが鳴る前に続いてかえりたかったけど折角授業受けに学校来たんだから教室に向かった。

教室に入ると、まぁ標的にされ罵声を受ける。トイレに行けば定番の水かけられたり……した。

私は体操服を持ち合わせてなくて午後からの授業は諦めて学校を結局出た。


こんな格好じゃ授業受けれないし。



あーあ……何やってんだろう。

私、なんでこんな目にあったんだっけ?


『ずっと守るから』

その言葉を信じたから。こんなにも辛いんだ。

彼らと私にはなんの信頼関係なんて存在してなかった。それだけだよ……。


「信じたから。信じた私が悪いんだよ……」


やっぱり、海は綺麗だなぁ……海の中で死んだら誰にも傷つけずに死ねる?

もし、死ねたらお母さんに会えるかな?


……私、海になりたいなぁ…………
私はどんどん海に足を進める。

すると足元は冷たくなって行く…海の水が腰くらいまで浸かり始めた時。

『陽愛。』

お母さんの、声…?

冷たかったはずなのに、いままで感じてなかった温もりに包まれて意識を失った……


『陽愛、生きて』
その時、たったその言葉だけが木霊していた。




     ━︎━︎━︎━︎━︎━︎━︎━︎━︎━︎
          ━︎━︎━︎━︎━︎━︎━︎━︎━︎━︎…


ん………

……っ…なんだか冷たい………

なのになんでこんなにふかふかしてるの……?


「あ、起きた…?」

え?

「良かった、目覚まして。君、海の中に入って行くんだもん驚いた」


………私、死ねなかったんだ。

というか、助けられたんだ…結局迷惑をかけちゃったな


「すみません……」

「俺、龍ヶ崎 昇(りゅうがさき のぼる)。ここはひ━︎━︎━︎━︎」

何かを言いかけたのに扉が思いっきり開いた。そこにいたのはまだ制服姿の男の子。

そしてぎゅっと抱きしめられてふわっと…彼のにおいがしてドキッとする。


「…陽愛!良かった……ここにいて。」

…え、陽平くん?
なんでここにいるの?この人の知り合い?

というかここは何処…………


「……陽愛、帰ろ。昇、また連絡する」

そう言って、私の手を握る。階段を降りれば不良たち。

彼が帰ると知れば、振り向いて「お疲れ様です」なんて言う。


……あぁ、この光景知ってる。

私も数ヶ月前は実際にいて見ていた光景だから。

そっか……陽平くんもあの人たちと同じ“暴走族”なんだ。


彼に手を引かれて外に出る。陽平くんは知ってるのかな?

私の正体。私が月輝の元姫だって。
本当じゃなくても“裏切り者”だってこと……。

暴走族なのに知らないはずない。近所にも広まっていたぐらいだよ。

それより早く、すぐに広まってるに決まってるじゃん……


なのに、どうして私と一緒にいるんだろうか……



    【陽平 side】


学校が終わり、帰ろうとすると担任に呼ばれて職員室に行って15分くらい話をして……学校を出れたのは夕日が沈む頃だった。

もう、陽愛は帰ってきてるだろうか。朝ケンカみたいになっちゃったし、仲直りしないと…

深呼吸をして入るけど靴がない。まだ帰ってきてない……か。

陽愛は帰ってくるよな……?
帰ってこないなんてことはあるはずない。


すると、スマホが鳴る。

『━︎━︎━︎━︎陽平?今家?暇?暇なら来て』

鳴ったから出たけど、一気に話すのは彼しかいない。

『昇……一気に話すのはやめろ。言いたいことはそっちに来いって話か?』

『そう。俺女の子拾っちゃったの。女の子の世話苦手だからさ…来てくれない?陽平のタイプだと思うんだけど』

タイプって………俺は家で陽愛を待ちたいんだけど。


『名前もキーホルダーになって書いてあるよ……HIYORI?名前も可愛い』

ひ、より…?
まさか、ひよりって陽愛じゃないよな……?

『なんか、海で死のうとしてたんだよ』


海………会った時も海にいた。
本当に陽愛かもしれないと思ったらもう体が動いていて。


『今すぐいく!!』

それだけ言って、車に乗っていつもの場所に向かった。

……そういえば、あそこにいるってことは俺バレるじゃん。

喧嘩して仲直りしてないのに今度は逃げられるかもしれない。

そう思うだけで嫌……今日はちゃんと話そう。

俺のこと、ちゃんと話してから決めて貰おう……。


少しだけ深呼吸をして、急いで彼がいるであろう部屋のドアを思いっきり開けた。

すると、ベッドに座っている陽愛と横に立つ昇がいた。

昇がいるけど、構わずに彼女を抱きしめる。

「良かった…」


彼女の手を握り、ここを出た。きっと気づいたと手から伝わってくる。

そりゃそうだ、下に降りたら不良ばかりいて気づかないはずがない。彼女も一応関係者だったんだから。


俺は意を決して、彼女を車に乗せた。




    【陽愛 side】


家に着き、リビングに再び手を繋がれて入った。


「……座ろうか。俺、お茶淹れてくるから待ってて」


彼は私をソファーに座らせると、近くから離れようとする。だけど、私はそれを止めた。


「…陽愛……?」


彼の服の裾を引っ張ると彼は私の顔を見た。


「……行かないで………っ」


「じゃあ、隣に座るから話そうか……気が付いてるんだろ?」


“気が付いてる”
そう言われた瞬間に心臓がドクンとなったのが分かる。


「……陽愛の思ってる通り、だよ。俺は、陽愛が嫌いな暴走族だ。」


何にも言葉が出て来ない。何か言いたいのに、言えない。


「…俺、知ってるんだよ。知って、たんだ…陽愛が月輝の元姫だってこと。初めから知ってた。」


……は、じめから…?

じゃあ、なんで私に良くしてくれたの……っ


「…噂では“裏切って追い出された姫”って言われてるみたいだけど信じてないんだよ、俺。」

「え………?なんで…っ」

「実はさ、その噂を聞いてから見に行ったんだよな月輝に。」

「え……」

「あのさ、はっきり言わせてもらうとさ。あいつら馬鹿だろ。あの今の姫。遠くからみてもぶりっ子ぽいし、性格悪そう。元姫が可哀想だと思ったね。あんな奴らが仲間だったなんて。本当馬鹿なやつらに捕まって…可哀想だって、チームの奴らと話してたんだよ。」


…えぇ⁈なんか、キャラが……


「本当にあんなのがこの街一番だなんてありえないし、」

ちょっ……待って、よ。
けど次の瞬間、真剣な顔をした。

「……俺らなら、姫のこと信じるのに。何があっても絶対に。

だって、1度信じようと思った奴を疑うなんて間違ってる。

信じたらずっと信じ通す。長い時間いたのは陽愛なのに数日過ごしただけのぶりっ子女を信じるなんて、そんなこと俺らはしない。絶対に。

守ると決めたら守りきる。命をかけてもね。それが出来ないなんてさ。

そんな薄っぺらい関係なんて、まっぴらごめんだね。」


なんだか涙腺が緩んじゃうよ……。
どうしよう…涙が出ちゃいそうだよ。

彼は、そっとぎゅっと抱きしめて言う。


「……泣きなよ、我慢しんでいいよ。陽愛は良く頑張ったよ」

彼の温もりに安心したのか、彼の言ってくれた言葉が涙を誘ったのかわからないけれど……

でも、彼の存在が私の中にあった苦しさや辛さ、寂しさを全部包み込んでくれた気がした。



    ━︎━︎━︎━︎━︎━︎━︎━︎━︎━︎
         ━︎━︎━︎━︎━︎━︎━︎━︎━︎━︎…


「……泣き止んだ?」

「ん、ありがと…」


彼の言葉に促されて、泣いてしまった私はもう30分は経ってしまっていて。


「陽愛、目真っ赤だな…冷やすもん持ってくる」

彼は立ち上がりキッチンの方に行っちゃったからスマホのミラーで確認すると本当に真っ赤だった。

…笑っちゃうくらいに、


「はい、これ当てて冷やしな。」


タオルで覆われた保冷剤を目に当てるとすごく冷たくて気持ちいい。

「飲み物何がいい…?」

「んー…ココアかな」


彼は手際よくココアを作ると、こっちに持って来てテーブルに2つマグカップを置いた。


「そういえば、ごはん食べてないよな。外で食べる?目真っ赤だけど」

「え……いいの?」

「うん、陽愛が良ければの話だけどさ。」


思いがけないお誘いに私は思い切り頷いた。外で食べるなんて、初めてだ。

というか、外食すら初めてだよ。


「じゃあ、車で行こうか。行こ。」

ちょっとだけオシャレをしようと家から持ってきたワンピースを着る。


「なんか、雰囲気違う……?」

「え?変かな?」

「似合ってるよ、陽愛。」


『似合ってるわよ、可愛いね。』
『可愛い、陽愛。陽愛っぽくて似合ってるよ』
そう言われてワンピースを買った日に言われた言葉を思い出した。


私、なんでこの服にしちゃったんだろうか……辛くなるだけなのに。




「陽愛?どうした?」

「え…あ、やっぱ違う服にしてくる。」

陽平くんに声かけてタンスを開けて服を選んだ。無難で思い入れもそんなにない服。


「ごめんね、お待たせ……」

「いいよ。行こうか」


陽平くんに当たり前のように手を繋がれてマンションを出た。


「何食べたい?和食?洋食?」

陽平くんは、ハンバーグとか好きって言ってたし洋食がいいかな?


「洋食かな」

「んー…じゃあ、ファミレス行こ。安いし、駐車場沢山あるし、いい?」


ファミレスってファミリーレストランのことだよね…?

「うん、行ったことないから行きたい!」

「え、行ったことないの⁈なら行こっか。じゃあ出発するからさシートベルトしてね」

そう言ってすぐにエンジンの音が聞こえたから急いでシートベルトをする。

その音と同時に車は出発した。



    ❁

「結構、混んでるなぁ」

「そうだね、この時間にもくるんだね。もう8時近いのに。」

「ファミレスはいつもこんなんだよ。でも、空いてる方だよ。」


これで空いてる方なの?
ファミレスは層が広いからかな?

店員さんに案内され、ソファ席に座ってメニューを見た。


「何品か頼んでシェアして食べよ。その方が沢山食べれるよ」

そう言って私が返事をする間も無く、店員さんを呼んでいた。


「このトマトたっぷりミートパスタと、サウザンサラダと、チキンドリアと、チーズたっぷりトマトピザと、ポテトフライください。ドリンクバーもお願いします。あ、取り分け皿もいいですか?」


……え、そんなに頼むの?食べれるの?
ねぇ、陽平くん大丈夫なの?

陽平くんを見れば笑顔で「お願いします」なんて言っているし、店員さんも笑顔で行ってしまった。


「…陽平くん?そんなに食べれるの?」

「大丈夫だよ。ドリンク何がいい?炭酸か、フルーツ系か、お茶とかか。」

「…お茶がいいなぁ」

そう言うと彼はドリンクバーとでかでかと書かれている場所へ歩いて行った。だけどすぐに戻ってきて、グラスを2つ置いた。


「なんかね、アップルティーがあったからそれにしてみたよ。」

「ありがとう」


お礼を言って一口飲むとほんのり甘くてりんごの味が広がる…おいしい。

あんまり紅茶は飲まないけど、たまにはいいかもしれないなぁ。紅茶の美味しさに感動していると頼んでいた料理の数々が運ばれてきていた。

店員さんが伝票を置いて「ごゆっくりどうぞ~」と言い中に入って行くのを見ているともう、陽平くんは早速取り分けていて量に驚くしかない。


……で結局そんなに食べれる訳もなく。


「ご馳走さまでした。」

陽平くんがほとんど食べた。すごい……本当に食べちゃったよ。無理させちゃったかな……。


「陽愛、デザート食べない⁈」


え………まだ食べるの?
大丈夫なの…


「あ、うん。食べれるかなぁ?」

「食べれんかったら食べるから大丈夫!」


…え、本当に?本当に食べるの?
驚いていればもう店員さん来ていて注文し終わってて、デザートだからか来るの早かった。


「パフェ……?でも、スプーン1つしかなくない?」

「じゃあ、食べあっこすればいいじゃん。はい、あーん」


急にスプーンを差し出され、食べるしかなかった。これを繰り返して…10分くらいで完食出来た。

やっとレジで精算。割り勘にすると思ったのに陽平くんが全て払ってくれた。

「俺がほとんど食べたし、女の子に払わせちゃダメだしね。」なんて言って。


「ありがとう、陽平くん。ご馳走さまでした」

「いいよ。いつも家事してくれるお礼だと思って。」


私の方が居候させてもらってるからお礼を言うのは私の方なのに……。

彼と手を繋いで車まで歩いていると向こうから彼らが歩いてくるのが分かった。逃げたいけど、陽平くんいるし……どうしよう。

そんなことを考えているうちにすぐそこまで来ていて、あちらも私に気がついたみたいだ。


「…あれ、朝倉さんじゃん。どうしたのこんな時間に、しかも男連れてさ」


そう、月輝の幹部が言うと陽平くんは気づいたみたいで握っている手を少しだけ強く握る。まるで“大丈夫だよ”と言っているみたいだ。


「しかも手繋いで、裏切り者の癖にさ幸せそうにして…おまえも気をつけた方がいいよ。裏切られるからな。」


……陽平くんの顔、見れない。どうしよう、もし離れて行っちゃったら。

でもこんな風に言われたらきっと彼らを信じる…そう諦めて手を緩めたのに陽平くんは手が離れないように強く握って来る。

そして淡々と彼らに向かって陽平くんは話し出す。


「……ふっ、それはご忠告ありがとう。けど、安心して。そんな心配いらないから。それにさ、俺の“大切”なやつのこと傷つけんな。わかったら散れよ」

あ、あの……挑発しちゃダメだよ……挑発乗る人いるんだよ。


「はぁ?おまえも騙されてんじゃねーの?」

なんて短気な幹部が言って回し蹴りをしようとしたから咄嗟に目を瞑る。だけど何も当たるどころか陽平くんに抱きしめられていた。

彼のぬくもりが離れて彼らを見てみたら、あの一瞬で何が起きたのか……彼らは倒れて「いてぇ…」なんて言っている。


「お前、何もんだよ。どっかの族入ってるのかよ」

「……は?入ってるわけねーじゃん。ただ、陽愛とファミレス帰りの19歳だけど。」


何、ファミレス帰りの19歳って……。
しかも、暴走族に入ってるでしょう?

だけどなんで彼らは知らないの…?暴走族なのに。


「…てか、退いてくれない?そこでさ、転がってないでさ。」


彼はとてつもなく、強かった…だけど少しだけ悲しそうな顔をした。そんな彼を知らないなんて本当にこの人は何者なんだろう。

暴走族とは無縁そうな、穏やかだけど少しだけ悲しく笑う…君のことが知りたいよ。

















































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