2 / 18
第一章
心のキズアトと悲しみに、曇り空。
しおりを挟む━︎━︎━︎━︎━︎━︎━︎━︎……
「あいつ、今日も来てるよー」
「懲りないねぇ」
今日も暇なやつらだ。今日も来てるって来るに決まってるでしょ?
学費払ってるんだから来るに決まってる。来なかったら留年決定だし、そんなのお金を溝に捨てるようなものだ。
「だけどさ、月輝の人も早く“制裁”しちゃえばいいのにねぇ」
「ほんと、ほんと。そしたら私たちも手出せるのに」
“制裁”って……
私、何も悪いことしてないんだけど。
そんなことをされるようなことは絶対にしてない。
…なのにね。
「あ!噂をすれば!!“月輝”の方々が来たよー!今日もキラキラしてるね~~カッコいい」
“月輝 Gekkou”とは、この街一の暴走族のことをいっている。
月輝の話をしている生徒らは目が輝いていて、憧れの眼差しで彼らを見つめている。
「ほんとだ!それに姫の花凛(はなり)ちゃん可愛いよね~。前の姫とは大違いだよね」
彼女らは私を見ながらそう言う。私に聞こえるようにはっきりとした口調で。
花凛とは、月輝の現在姫の白鳥 花凛(しらとり はなり)。
可愛くて天然な彼女。いつものようにショートボブの髪をふわふわ揺らして彼らに引っ付いている。
彼らが歩いてこちらに近づいて来る。まぁ、校舎に入るんだから当たり前だ。なんせ、私は校舎前にいるからねぇ…
あーあ、今日は早く来る日だったのか。会っちゃうなんて最悪だわ。
「…ぁ、陽愛ちゃん……」
いつものようにか弱そうな声で彼女が私の名前を呼んだ。
出たよ、彼女の得意な演技が始まった。
「……まだ、来てたのかよ。こいつが怖がるから来んなって昨日言ったよな」
「……ほんと、なんなのさ。こんなやつが昔の“仲間”だったなんて俺らの黒歴史だな。」
……好き勝手に言って。私を仲間にはしたのもあんたらで、私を追い出したのも花凛を信じたのもあんたらじゃんか。
「なんとか言ったら?」
はぁ?なんであんたらに何かを言わなきゃいけないの?
こんなやつらに何かを言う気には今日もならなくて無視をして歩き出そうとしたけど、それはやっぱりできない。
「イッタ……」
誰かに殴られたのが分かる。
それは彼らの誰かだ。
まぁ、当たり前だけど。いつものことだ……そんなの一瞬で終わる。
なのに、今日は一発だけじゃなかった。
何発殴られたかなんて分からない。
だけど、今まで以上に殴られたのは分かる。
月輝を含めた生徒が校舎に入って行って私は1人になる。
あーあ…虚しい。
こんな怪我してるのに誰も助けてはくれないし、きっと明日からいじめられるんだろうな。だって、彼らが手を出したんだから。
今日は授業受けるのめんどくさい。しかもこの怪我……いやだ。
先生に何かを言われるのは嫌だ。所詮、先生たちも月輝の味方なんだから。
味方…というか、月輝が怖くて何も言えないと言うのが正しいか。
そのまま校舎には行かず帰ることにした私。怪我した私は、重たい体を引きずりながら歩いて学校から出る。
高校の制服を着てこんな怪我をしてる私に誰も何も言わない。
「大丈夫?」なんて聞いてはくれない。
だって、街でも噂があるはずだ。彼らは、この街でも有名な正統派な族だからこの街のヒーロー的存在だから。
「…あの子、元月輝の姫じゃない?」
「あら、ほんとだわ。」
街のおばさま方も私のことを知ってるんだな……きっと可哀想なやつじゃなくて、“自業自得な姫”だと言われてるんだろうね。
早く、早く……帰りたい。
誰も助けてなんでくれないんだもの、家に帰ってお母さんの笑顔が見たいよ。
❁
バスに揺られて15分、バス停から歩いて10分程度。
海が見える場所に私の家がある。
「…ねぇ、聞いた?朝倉さんちの娘さんの話」
「聞いたわよ~~怖いわね。」
……あぁ、ここも噂が広がってるのか。彼らは本当に有名なんだ…暴走族なのにね。
ここにも、私の居場所がないんだ。
「こんにちわ。」
「あら、ひ陽愛ちゃん…こ、こんにちわ」
彼女らが話す中、気にせず挨拶すると彼女らは動揺しながら挨拶を返してくる。私はそんなこと気にもしないで通り過ぎすぐそこの家に入る。
おばさんたちが知ってるんだからお母さんも知ってるのかな……?
「……ただいま、」
だけど、家の中にはお母さんはいない。どこに行ったんだろう。
ご飯でも作って待ってようかな。今日は何も予定ないんだからゆっくりご飯作ってゆったり過ごそう…怪我もしてるし。
これ、心配するかな…お母さん。いつ、帰ってくるんだろうか……
あれからお母さんは帰って来なくて、もうじきいつもの私の帰宅時間になった。
いつもは家にいる時間なのに……どこに行っちゃったのかな…だけどきっとしばらくすれば帰ってくる。
小さい頃にお父さんは交通事故で亡くなって今はお母さんと2人暮らしてる。
だから、いつも暗い時間にはお母さん帰ってくるはず。
「もう、8時…なのに。もしかして、事故に遭ったとか……?」
いやいや、大丈夫だよ。
だって、「安全運転は運転の基本でしょ?」ってお母さんがいつも言ってるもん。そんなお母さんが事故に遭うなんてありえないよね。
すると、いきなりスマホが鳴った。テレビも付いてない部屋には着信音が鳴り響く。恐る恐るスライドすると、男性の低い声が聞こえてきた。
『もしもし、朝倉 榛名(あさくら はるな)さんのお宅で間違いないでしょうか?』
「はい、そうですけど……」
『私、青田総合病院の笹川と申しますがただいま朝倉さんが運ばれてきまして、』
━︎━︎━︎━︎━︎え?
お母さんが運ばれた……?そんな、
『大変危険な状態でして、すぐにきていただけますか?』
危険な状態……そんな、嘘だよ。
朝は元気だったのに。
いつもと同じように「行ってらっしゃい」って見送ってくれたのに……。向日葵のように笑ってくれて、安心したのに…。
「い、今すぐ行きますっ」
そう言うと、必要最低限の荷物だけ持って家を出た。タクシーで行きたかったけど、そんなお金もない。連れて行ってくれる優しい人もいない……
だから、自転車か徒歩しか足がなくて自転車を急いで走らせた。急いで急いで…病院に着いたのは30分も経った頃だった。
「あの、朝倉 榛名の家族のものですがっ……」
「…えっと、朝倉さんですね。ご案内します」
受付のお姉さん…看護師さんに連れられて病室に案内された。
そこには沢山の機械に囲まれるベッドに寝ているのは、痛々しい傷があるお母さん。
「…お母さんっ……」
「…朝倉さん、今夜が山だと思ってください。」
じゃあ、朝が来たらお母さんは死んじゃうってことだよね……どうして、そんなっ……!
神様…もし神様がいるなら助けてよ。
私の唯一の家族だよ?お母さんもいなくなっちゃったら、私ひとりぼっちになっちゃうよ……。
ねぇ、目覚ましてよ。今すぐ起きて「陽愛、お帰り」って笑顔で言ってよ。
また向日葵のような笑顔で、私を安心させて…ぎゅっと抱きしめてよ。
…ずっと、ずっと一緒に生きていくんじゃなかったの?
お父さんがいなくても陽愛がいるから大丈夫って寂しくなんかないよって言ってたじゃんか……なのに、なんでお父さんのいるところに行こうとしてるの。
ねぇ、神様……お願いだから…………私、なんでもするから。
だから私のお母さんを連れて行かないで……っ
だけど、心拍が低下しているのを知らせる機会が赤いランプが点滅しながら嫌な音と共に鳴った。
看護師や医師が走り回ってバタバタしてる。いろんな単語が聞こえて来る。
私にはすべてがゆっくりスローモーションに見えた。すると、医師が私の顔を見て静かに時間を言った。
お母さんはこの日、死んだ。もうすぐ太陽が目を醒ます頃に私に何も残さずに静かに息を引き取った。
私が彼女を見るともう機械はもうなくなっていた。
「困ったことがあったら気軽に来てね。」
その後、知り合いのいない私は病院の看護師さんのサポートを受けて翌日には通夜を行った。葬儀屋さんも親身に対応をしてくれて無事に小さな葬式をした。
それから、どうやって…帰ったんだろう。だけど気づいた時には家にいた。
お母さんがいなくなったのは、夢じゃないのかって思う。だけど遺影を見れば…現実なんだと思い知った。
私は制服を脱ぎ、グレーのワンピースに着替えた。
もう……いやだ。
本当に神様はいるの…?私の願いも叶えてくれなくて、どうしてこんなにも私に残酷な運命を与えるの……。
私、何か悪いことしたのかな…神様は乗り越えれない壁は与えないって誰かが言っていたけど私は無理だよ。
だって学校には居場所もない。お母さんもいなくなった……全てを失った私。
そんな私に何をどうやって乗り越えろっていうの……っ
ひとり、お母さんとの思い出が詰まった家にいるのはつらくて。
辛くて辛くて、
悲しいような苦しいような……
だから私は、夜なのに家を飛び出した。
どこに向かっているのか自分もわからない。
だけど、ひたすらに走ってどこかに向かって走った。
━︎━︎━︎━︎━︎━︎━︎━︎そして、着いた場所は以前お母さんと来た海だった。
・
・
・
海岸の砂浜にどこから来たのかわからないけれど大きな大木が横たわっている。
その大木に座り、海を眺めていると月が海に映って光っていてなんだか眩しく感じる。
「…おまえ、なんで泣いてるの?」
……え?
1人のはずなのに、誰かの声が聞こえた。
8
お気に入りに追加
60
あなたにおすすめの小説
地球を殺すと決めた、地球で恋に落ちた
松藤かるり
恋愛
この夏と地球が終わる前に。大好きなあなたが、生きててよかったと言ってくれればいい。
学校に行けなくなってしまった中学三年生の華奈。学校に行くふりをして公園に隠れていると、ひとつ願いを叶えると話す白猫が現れた。
「明日が来なければいい」その願いは聞き遂げられる。この地球は次の夏休みがきたら死ぬ。
白猫に願いを託した直後、ひとつ年上の耀と出会う。耀と再び会うために学校に戻り、念願叶って耀と同じ高校に入学する。だが、耀の態度は異なっていた。
耀が隠していたこと、隠れ場所と学校、不思議な図書カード、火事。
好きな人を助けたい、その気持ちから紐解かれていくひとつの事件。華奈の想いは耀に届くのか。
そして夏休みの終わり、地球の終わる日がやってくる。
片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜
橘しづき
恋愛
姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。
私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。
だが当日、姉は結婚式に来なかった。 パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。
「私が……蒼一さんと結婚します」
姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。
【完結】婚約者を譲れと言うなら譲ります。私が欲しいのはアナタの婚約者なので。
海野凛久
恋愛
【書籍絶賛発売中】
クラリンス侯爵家の長女・マリーアンネは、幼いころから王太子の婚約者と定められ、育てられてきた。
しかしそんなある日、とあるパーティーで、妹から婚約者の地位を譲るように迫られる。
失意に打ちひしがれるかと思われたマリーアンネだったが――
これは、初恋を実らせようと奮闘する、とある令嬢の物語――。
※第14回恋愛小説大賞で特別賞頂きました!応援くださった皆様、ありがとうございました!
※主人公の名前を『マリ』から『マリーアンネ』へ変更しました。
【完結】どうして殺されたのですか?貴方達の愛はもう要りません
たろ
恋愛
処刑されたエリーゼ。
何もしていないのに冤罪で……
死んだと思ったら6歳に戻った。
さっき処刑されたばかりなので、悔しさも怖さも痛さも残ったまま巻き戻った。
絶対に許さない!
今更わたしに優しくしても遅い!
恨みしかない、父親と殿下!
絶対に復讐してやる!
★設定はかなりゆるめです
★あまりシリアスではありません
★よくある話を書いてみたかったんです!!
【完結】結婚式当日、婚約者と姉に裏切られて惨めに捨てられた花嫁ですが
Rohdea
恋愛
結婚式の当日、花婿となる人は式には来ませんでした───
伯爵家の次女のセアラは、結婚式を控えて幸せな気持ちで過ごしていた。
しかし結婚式当日、夫になるはずの婚約者マイルズは式には現れず、
さらに同時にセアラの二歳年上の姉、シビルも行方知れずに。
どうやら、二人は駆け落ちをしたらしい。
そんな婚約者と姉の二人に裏切られ惨めに捨てられたセアラの前に現れたのは、
シビルの婚約者で、冷酷だの薄情だのと聞かされていた侯爵令息ジョエル。
身勝手に消えた姉の代わりとして、
セアラはジョエルと新たに婚約を結ぶことになってしまう。
そして一方、駆け落ちしたというマイルズとシビル。
二人の思惑は───……
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
夫の不貞現場を目撃してしまいました
秋月乃衣
恋愛
伯爵夫人ミレーユは、夫との間に子供が授からないまま、閨を共にしなくなって一年。
何故か夫から閨を拒否されてしまっているが、理由が分からない。
そんな時に夜会中の庭園で、夫と未亡人のマデリーンが、情事に耽っている場面を目撃してしまう。
なろう様でも掲載しております。
私と一緒にいることが苦痛だったと言われ、その日から夫は家に帰らなくなりました。
田太 優
恋愛
結婚して1年も経っていないというのに朝帰りを繰り返す夫。
結婚すれば変わってくれると信じていた私が間違っていた。
だからもう離婚を考えてもいいと思う。
夫に離婚の意思を告げたところ、返ってきたのは私を深く傷つける言葉だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる