仮の総長様は向日葵のような元姫さまを溺愛せずはいられない。

伊桜らな

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第一章

心のキズアトと悲しみに、曇り空。

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     ━︎━︎━︎━︎━︎━︎━︎━︎……



「あいつ、今日も来てるよー」


「懲りないねぇ」


今日も暇なやつらだ。今日も来てるって来るに決まってるでしょ?

学費払ってるんだから来るに決まってる。来なかったら留年決定だし、そんなのお金を溝に捨てるようなものだ。


「だけどさ、月輝の人も早く“制裁”しちゃえばいいのにねぇ」


「ほんと、ほんと。そしたら私たちも手出せるのに」


“制裁”って……
私、何も悪いことしてないんだけど。

そんなことをされるようなことは絶対にしてない。




…なのにね。


「あ!噂をすれば!!“月輝”の方々が来たよー!今日もキラキラしてるね~~カッコいい」


“月輝 Gekkou”とは、この街一の暴走族のことをいっている。
月輝の話をしている生徒らは目が輝いていて、憧れの眼差しで彼らを見つめている。


「ほんとだ!それに姫の花凛(はなり)ちゃん可愛いよね~。前の姫とは大違いだよね」

彼女らは私を見ながらそう言う。私に聞こえるようにはっきりとした口調で。

花凛とは、月輝の現在姫の白鳥 花凛(しらとり はなり)。
可愛くて天然な彼女。いつものようにショートボブの髪をふわふわ揺らして彼らに引っ付いている。

彼らが歩いてこちらに近づいて来る。まぁ、校舎に入るんだから当たり前だ。なんせ、私は校舎前にいるからねぇ…
あーあ、今日は早く来る日だったのか。会っちゃうなんて最悪だわ。


「…ぁ、陽愛ちゃん……」


いつものようにか弱そうな声で彼女が私の名前を呼んだ。

出たよ、彼女の得意な演技が始まった。


「……まだ、来てたのかよ。こいつが怖がるから来んなって昨日言ったよな」

「……ほんと、なんなのさ。こんなやつが昔の“仲間”だったなんて俺らの黒歴史だな。」


……好き勝手に言って。私を仲間にはしたのもあんたらで、私を追い出したのも花凛を信じたのもあんたらじゃんか。


「なんとか言ったら?」

はぁ?なんであんたらに何かを言わなきゃいけないの?

こんなやつらに何かを言う気には今日もならなくて無視をして歩き出そうとしたけど、それはやっぱりできない。


「イッタ……」

誰かに殴られたのが分かる。
それは彼らの誰かだ。

まぁ、当たり前だけど。いつものことだ……そんなの一瞬で終わる。


なのに、今日は一発だけじゃなかった。
何発殴られたかなんて分からない。

だけど、今まで以上に殴られたのは分かる。

月輝を含めた生徒が校舎に入って行って私は1人になる。

あーあ…虚しい。
こんな怪我してるのに誰も助けてはくれないし、きっと明日からいじめられるんだろうな。だって、彼らが手を出したんだから。

今日は授業受けるのめんどくさい。しかもこの怪我……いやだ。

先生に何かを言われるのは嫌だ。所詮、先生たちも月輝の味方なんだから。
味方…というか、月輝が怖くて何も言えないと言うのが正しいか。


そのまま校舎には行かず帰ることにした私。怪我した私は、重たい体を引きずりながら歩いて学校から出る。

高校の制服を着てこんな怪我をしてる私に誰も何も言わない。

「大丈夫?」なんて聞いてはくれない。

だって、街でも噂があるはずだ。彼らは、この街でも有名な正統派な族だからこの街のヒーロー的存在だから。


「…あの子、元月輝の姫じゃない?」

「あら、ほんとだわ。」


街のおばさま方も私のことを知ってるんだな……きっと可哀想なやつじゃなくて、“自業自得な姫”だと言われてるんだろうね。


早く、早く……帰りたい。

誰も助けてなんでくれないんだもの、家に帰ってお母さんの笑顔が見たいよ。




     ❁


バスに揺られて15分、バス停から歩いて10分程度。

海が見える場所に私の家がある。


「…ねぇ、聞いた?朝倉さんちの娘さんの話」

「聞いたわよ~~怖いわね。」


……あぁ、ここも噂が広がってるのか。彼らは本当に有名なんだ…暴走族なのにね。
ここにも、私の居場所がないんだ。


「こんにちわ。」

「あら、ひ陽愛ちゃん…こ、こんにちわ」

彼女らが話す中、気にせず挨拶すると彼女らは動揺しながら挨拶を返してくる。私はそんなこと気にもしないで通り過ぎすぐそこの家に入る。
おばさんたちが知ってるんだからお母さんも知ってるのかな……?


「……ただいま、」

だけど、家の中にはお母さんはいない。どこに行ったんだろう。

ご飯でも作って待ってようかな。今日は何も予定ないんだからゆっくりご飯作ってゆったり過ごそう…怪我もしてるし。

これ、心配するかな…お母さん。いつ、帰ってくるんだろうか……

あれからお母さんは帰って来なくて、もうじきいつもの私の帰宅時間になった。

いつもは家にいる時間なのに……どこに行っちゃったのかな…だけどきっとしばらくすれば帰ってくる。

小さい頃にお父さんは交通事故で亡くなって今はお母さんと2人暮らしてる。

だから、いつも暗い時間にはお母さん帰ってくるはず。


「もう、8時…なのに。もしかして、事故に遭ったとか……?」


いやいや、大丈夫だよ。
だって、「安全運転は運転の基本でしょ?」ってお母さんがいつも言ってるもん。そんなお母さんが事故に遭うなんてありえないよね。

すると、いきなりスマホが鳴った。テレビも付いてない部屋には着信音が鳴り響く。恐る恐るスライドすると、男性の低い声が聞こえてきた。


『もしもし、朝倉 榛名(あさくら はるな)さんのお宅で間違いないでしょうか?』


「はい、そうですけど……」


『私、青田総合病院の笹川と申しますがただいま朝倉さんが運ばれてきまして、』


━︎━︎━︎━︎━︎え?

お母さんが運ばれた……?そんな、


『大変危険な状態でして、すぐにきていただけますか?』


危険な状態……そんな、嘘だよ。
朝は元気だったのに。
いつもと同じように「行ってらっしゃい」って見送ってくれたのに……。向日葵のように笑ってくれて、安心したのに…。

「い、今すぐ行きますっ」
そう言うと、必要最低限の荷物だけ持って家を出た。タクシーで行きたかったけど、そんなお金もない。連れて行ってくれる優しい人もいない……

だから、自転車か徒歩しか足がなくて自転車を急いで走らせた。急いで急いで…病院に着いたのは30分も経った頃だった。


「あの、朝倉 榛名の家族のものですがっ……」


「…えっと、朝倉さんですね。ご案内します」


受付のお姉さん…看護師さんに連れられて病室に案内された。

そこには沢山の機械に囲まれるベッドに寝ているのは、痛々しい傷があるお母さん。


「…お母さんっ……」

「…朝倉さん、今夜が山だと思ってください。」


じゃあ、朝が来たらお母さんは死んじゃうってことだよね……どうして、そんなっ……!



神様…もし神様がいるなら助けてよ。

私の唯一の家族だよ?お母さんもいなくなっちゃったら、私ひとりぼっちになっちゃうよ……。


ねぇ、目覚ましてよ。今すぐ起きて「陽愛、お帰り」って笑顔で言ってよ。
また向日葵のような笑顔で、私を安心させて…ぎゅっと抱きしめてよ。

…ずっと、ずっと一緒に生きていくんじゃなかったの?

お父さんがいなくても陽愛がいるから大丈夫って寂しくなんかないよって言ってたじゃんか……なのに、なんでお父さんのいるところに行こうとしてるの。


ねぇ、神様……お願いだから…………私、なんでもするから。
だから私のお母さんを連れて行かないで……っ

だけど、心拍が低下しているのを知らせる機会が赤いランプが点滅しながら嫌な音と共に鳴った。

看護師や医師が走り回ってバタバタしてる。いろんな単語が聞こえて来る。

私にはすべてがゆっくりスローモーションに見えた。すると、医師が私の顔を見て静かに時間を言った。


お母さんはこの日、死んだ。もうすぐ太陽が目を醒ます頃に私に何も残さずに静かに息を引き取った。
私が彼女を見るともう機械はもうなくなっていた。


「困ったことがあったら気軽に来てね。」

その後、知り合いのいない私は病院の看護師さんのサポートを受けて翌日には通夜を行った。葬儀屋さんも親身に対応をしてくれて無事に小さな葬式をした。

それから、どうやって…帰ったんだろう。だけど気づいた時には家にいた。
お母さんがいなくなったのは、夢じゃないのかって思う。だけど遺影を見れば…現実なんだと思い知った。

私は制服を脱ぎ、グレーのワンピースに着替えた。

もう……いやだ。

本当に神様はいるの…?私の願いも叶えてくれなくて、どうしてこんなにも私に残酷な運命を与えるの……。
私、何か悪いことしたのかな…神様は乗り越えれない壁は与えないって誰かが言っていたけど私は無理だよ。

だって学校には居場所もない。お母さんもいなくなった……全てを失った私。
そんな私に何をどうやって乗り越えろっていうの……っ



ひとり、お母さんとの思い出が詰まった家にいるのはつらくて。

辛くて辛くて、

悲しいような苦しいような……


だから私は、夜なのに家を飛び出した。
どこに向かっているのか自分もわからない。

だけど、ひたすらに走ってどこかに向かって走った。


━︎━︎━︎━︎━︎━︎━︎━︎そして、着いた場所は以前お母さんと来た海だった。
















海岸の砂浜にどこから来たのかわからないけれど大きな大木が横たわっている。

その大木に座り、海を眺めていると月が海に映って光っていてなんだか眩しく感じる。


「…おまえ、なんで泣いてるの?」


……え?
1人のはずなのに、誰かの声が聞こえた。








































































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