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第1章
◇給仕のお仕事と魔物討伐
しおりを挟む「いらっしゃいませ!」
ケイトン大国にやってきて早いことでひと月。
私は、ステラさんのお店で働いていた。このカフェには、ほとんどが警備を担当している騎士様かこの辺で働いている人がやって来る。
「ミミちゃん、また来ちゃったよ」
「ありがとうございます。フェルさん」
フェルさんは王宮騎士団にいたのだが、負傷して警備隊に異動して今はここらの担当らしい。
「今日もいつものお願いします」
「はい! お待ちください!」
私は厨房へ行くと「フェルさんだろ? 出来てるよ」とステラさんはサッと出した。なのでそれを持ってフェルさんのテーブルに持っていく。
「お待たせいたしました。ビーフシチューとバケットです」
「ありがとう、美味しそうだ」
私はごゆっくり、と言うとまたお客さまが来たので対応した。お昼はあっという間に過ぎていき、お昼休憩になる。
「ミミ、お疲れ様」
「ステラさん、お疲れ様でした!」
お昼ご飯は、ロールパンに残ってしまった野菜とお肉を挟んだサンドイッチにコーンスープ。
「ご飯食べたら買い出しお願いしていいかい?」
「はい、大丈夫です。今日のお昼も美味しいですっ」
「残り物だけどね、そう言って貰えて嬉しいよ。ありがとね」
ササっと食べ終えると食器を洗って片付けをしてから買い物リストと買い物カゴを持って出かけた。
「……大丈夫かい? ミミちゃん、台車で持って行った方がいいんじゃないか?」
「いえ。大丈夫です!」
私は、街で頼まれたものを購入して来た道を戻ろうとした……のだが。小麦粉が重すぎてフラフラして倒れそうだったのに誰かに支えられた。
「フェルさんっ」
「ミミちゃん大丈夫かい?」
さっきもお昼に来てくれたフェルさんが私と小麦粉ごと支えてくれた。
「ありがとうございます、助かりました」
「こんなたくさんの荷物を持つにはミミちゃん一人では大変だよ。俺が一緒に運ぼう」
「えっ、いいんですか? フェルさんもお仕事なのでは?」
「今はパトロールしているところだ。困った人がいたら助けるのが仕事だからね」
フェルさんはそのまま、小麦粉の袋を担いでくれてお店まで送ってくれた。
「ありがとうございました、フェルさん。何かお礼できたらいいんですけど……今、何もなくて」
「お礼など不要です。私は当たり前のことをしただけですよ……でも、もし良かったら出かけませんか?」
「お出かけですか? そんなことでよろしいのなら、ぜひ!」
「ありがとうございます、ではまた」
そう言ってフェルさんはパトロールに戻って行った。
だけど、この日を最後に彼を見ることはなかった。噂では、魔物討伐に駆り出されたらしいと話が出ていた。確かにお店に来ていた王宮所属の騎士さんや警備隊の方々が少なくなっていたのだった――……
***
「……客、少ないですね。討伐で、この辺の方も徴兵されてしまいましたし」
「そうだね」
あれからもうひと月経つ。私がこの国に来た時は賑やかだった街は今じゃ男手が減ったことで閑散としている。お店を閉めてしまったところも少なくない。
「こういうことってよくあるんですか?」
「あぁ、そうだね。一年に一回、この時期に魔物が大量発生するんだ。ここからは遠いんだが、そこでね」
「そうなんですか……」
「魔物討伐で、毎年多くの人が命を落とすんだ。私たち女にはできることがないのがもどかしいよ、無事を願うことしかできないんだから」
そう言ったステラさんは寂しそうに遠くを見た。もしかしたら彼女の大切な人が討伐によって亡くなったのかもしれない。
「今日は閉めようかね」
「はい」
ステラさんにそう言われてドアに【closed】という看板を出してテーブルを拭いてからステラさんとお茶を飲む。
「今月の給金なんだけどね……」
「はい、大丈夫です。ここに住まわせてもらっているだけでありがたいのにこれ以上は望んでません」
人が来ないためお店の利益はほとんどなくなったのだ、給金が出なくても今も変わらず住まわせてもらえているんだから幸せ者だと思う。
「そう言ってもらえて嬉しい限りだよ。早く討伐が終わるといいんだけどね……そうすれば、フェルも帰ってくるよ。フェルと出掛ける約束していたんだろう?」
「はい、急な招集だって言っていました。きっとすぐに帰ってくるからって手紙で……」
「そうか、無事に帰って来てほしいね」
そんな話をしていた数週間後、魔物討伐が終わったと共にこの討伐で二百を超える人が亡くなったという知らせが届いたのだった。
だけど、待っても待ってもフェルさんは帰ってくることはなかった。
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