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第二章
恋人繋ぎ
しおりを挟む「――じゃあ、お母さん行ってきます」
「うん。楽しんで来てね!」
私は、お母さんに見送られて玄関を出ると家の駐車場へと歩く。砂利道で歩く音が近づいてきて見上げると、ゆらくんがいた。
「妃菜ちゃん」
「ゆらくん……駐車場待ち合わせだって言ってたよね?」
「妃菜ちゃんに早く会いたかったから来ちゃった」
ゆらくんは、紺色のパーカーとジーパンに白色のスニーカーを履いたラフな格好で現れた。今日もかっこよさは健在だ。
「今日も可愛いね」
「あ、ありがと……」
以前、可奈ちゃんとお買い物に行った際一緒に買った紺色のパーカーワンピースを初めて着てみた。よく見たら、ゆらくんと服が被っている……なんだかペアルックみたいだ。
「お揃いだし、うれしい」
「わ、私も嬉しい」
照れる……。とても。恥ずかしい。……って私は中学生か! と自分に突っ込みたくなる。
「さ、行こうか」
ゆらくんはそう言い指を絡められ私の手を握る。これ恋人繋ぎだ。初めて恋人繋ぎで手、繋いだ……私の恋愛経験は中学生以下かもしれない。
***
ゆらくんにエスコートされ車に乗り込むと、彼はカーナビを設定し始めた。
「じゃあ、出発するね」
「う、うんっ」
車が出発し、駐車場から出た。ゆらくんは以前と同じく黒縁メガネをしている。めちゃくちゃ似合っていてかっこいい。
「……どうした?」
「えっ、いやなんでもないですっ」
「そう?」
恥ずかしくなって俯いているとゆらくんが「そういえばさ」と話しかける。
「今日、お昼中華食べたいんだけどいい?」
「中華? 大丈夫ですよ」
「良かった。前に仕事で中華料理店に行ったらすごく美味しくてさ……妃菜ちゃんにも気に入ってもらえたらいいな」
中華か。最近食べてないなぁ……。和食も洋食も好きだが中華料理も好き。だけど食べる機会がなくて、前食べたのいつだったかな、状態だ。
「まぁ、先にガラス工房なんだけどね」
「うん! 楽しみ!」
今日行く場所は、都内から少し離れた車で1時間ほど掛かるガラス工房だ。そこには以前にテレビの特集で見て行きたいなぁと思っていた場所だった。私が行きたいと声にだしてしまったのをきっかけにゆらくんが予約をしてくれた。
「まだ、掛かるし音楽好きなのに変えていいよ。妃菜ちゃんが好きなのあるか分からないけど」
車の中にある収納スペースを引き出すとCDを見つけた。
「あ、iPodもあるからそれでもいいけど……」
「ゆらくんのオススメは?」
「俺? ん~……」
ゆらくんってたしかバンドが好きだったよね。名前は忘れちゃったけど……。中学生の頃の記憶だし、今は違うかな。
「その妃菜ちゃんが持ってるCDかな」
ゆらくんに言われて「これ?」と聞き返すと、ゆらくんは赤信号の間にCDをセットした。するとすぐに音楽が流れ出す。
「あっ、この人たちって中学生の頃も好きだったよねゆらくん」
「え、なんで知ってるの? 確かに中学ん時からだけど」
「だって聞かせてくれたでしょう? この歌」
『桜橋? 今帰り?』
――中学2年の頃、私は家の仕事が嫌だった。
『あ、加賀美くん……うん』
嫌で嫌で、家に帰るのが嫌で仕方なかった。だから放課後、薄暗くなるまで教室で過ごしていた。
『途中まで一緒に帰ろう』
それはその日も同じで……帰りたくなかった。いつも自分で帰るタイミングがあった。でも、ここで断ったら変に思われそうだし。
『……どうかした? 帰らないの?』
『帰るけど、もう少しいるから……先に帰っていいよ』
『……そっか、なら俺もいる』
ゆらくんとちゃんと話したのはこの時が初めてだったけど、彼はその時いろんな話してくれてその歌も教えてくれたんだよね……。その後、ゆらくんと話をしていつものように薄暗くなった時間に帰ったんだよね。
懐かしいなぁ。あの頃は本当に反抗期だったなぁ。
「……覚えてたの?」
「うん。だって初会話だったし、あの人気者の加賀美くんとだしね……今思えば、だけど」
本当に今思えば、ゆらくんと話せることがすごいことだよね。でもあの日、ゆらくんはなんでいたんだろう……?
「俺、あの頃から妃菜ちゃんのこと好きだったんだよ」
「えぇ!? 知らなかった……」
「だと思った。俺もガキだったし、素直に言えなかったんだよ。話してくれなくなったら、怖くて」
もし、その時ゆらくんに告白されていたらどうなってたんだろう。
「でも、ゆらくんと卒業式の後連絡先交換したのにくれなかったよね?」
「あー……それは、学校に慣れてからと思ってて。連絡しようと思った時には妃菜ちゃん、婚約したって聞いて」
あぁ、思い出した。高校に入ってすぐ、お祖父様が縁談話を持ってきてほとんど強引に決めてきたんだった。
「めちゃくちゃ後悔したんだよ、卒業式で告白すれば良かったって」
「私、実は待ってたんだよ……でも自分からするのはダメかなと思ったらできなかったんだよね。そしたら、縁談話が進んでて」
「……好きだった?」
「好きとかそういう感情はなかった。だって櫻庵のためだって思ったから……本当にバカだよね」
高校生になると、立派な若女将にならなくちゃという使命感からそれに必要なことだと思っていた。
「そんなことないよ」
「……だからおあいこなんだよ。そのおかげで、ゆらくんと一緒に居られるし今幸せだから」
高校生の頃のことを話をしていると、もう1時間経ったようで第一目的地に到着した。
「ありがと……あ、着いたよ」
「すごい、なんか可愛い」
白壁の可愛らしい一軒家とその隣に工場のような建物が二つ並んでいる。ゆらくんはエンジンを切ると、運転席から降りて助手席のドアを開ける。
「はい、どうぞ」
「ありがとう」
駐車場から少し歩いて行くと建物のそばに、木でできている看板に【ガラス工房・結】と書かれている。一軒家の扉を開けて入る。
「いらっしゃいませ」
女性スタッフがすぐにやって来て挨拶された。
「予約した加賀美です」
「加賀美さまですね、作業室にご案内いたします」
女性スタッフに連れられて、奥にある作業室②の部屋に案内された。
「改めまして、本日加賀美様を担当させていただきます植木と申します。よろしくお願いします」
植木さんの説明に従って部屋から工房へ移動する。工房では2、3人の職人さんたちが作業している。
「まず、おふたりにはどれを作るかとこちらのサンプルからデザインを決めていただきますね」
サンプルには花入れやコップ、小鉢などがある。
「迷うね」
「そうだね……どうしよう」
やっぱり無難なコップにしようかなぁ。
「妃菜ちゃん決まった?」
「私このコップで」
「じゃあ俺もこれで」
「ありがとうございます。では今から1000度以上に溶けたガラスをステンレスの竿に巻きつけて息を吹き込み形を作っていきます」
スタッフさんの説明のもと、溶けたガラスに息を吹き込んで風船のように膨らませる。
「いい感じですね、じゃあこれで形を整えます」
お手伝いしてもらいながらなんとか完成したコップはこれで出来上がりというわけではないらしくそれから冷やして配送されると説明を受けた。
「どっちの住所にしようか」
「ゆらくんの方にしてもらっていいかな?」
うちの住所だと、旅館に届いてしまうことがある。この前のドレスも旅館に届いちゃったし……。
「分かった。じゃあ俺のマンションの住所にしとくね」
え? マンションの、住所……?
「妃菜ちゃん、部屋に来てよ~?」
「う、うん」
ゆらくんは住所と名前を記入すると、これで終わりだった。ガラス工房から出るともう12時過ぎていた。
「出来上がるのが楽しみだね」
「うん、楽しみ。初めてお揃いだね」
ガラス工房から出て、都内に戻ると小さな可愛らしいお店に入る。
「妃菜ちゃんここが中華料理屋さんだよ」
「すごいお洒落な感じですね。中華料理屋さんとは思えない!」
席に案内され座ると、メニュー表を渡された。
「前、来たんだけど天津飯がとても美味しかったからこれ食べて欲しい」
「じゃあ、その天津飯食べたいです! あと、焼売も食べたい」
「了解」
ゆらくんは店員さんを呼び注文してくれている時、私のスマホが鳴った。画面には【お母さん】と表示されていた。
「……ちょっとごめんなさい」
ゆらくんに小さい声で言うと、私は席を立ち人気がない通行路に行く。電話のマークをスライドして「もしもし」とでた。
「あっ、妃菜! 大変なの……!」
「え、どうしたの?」
「稔くんが家に来たの!!」
稔くんが? 駆け落ちしたんだよね? なんで?
「今お祖父ちゃんが話してるけど……妃菜は今どこにいるの?」
「今、ゆらくんと中華料理屋さんに来てるんだけど……帰った方がいい?」
お母さんから電話が来たくらいだし、早く帰って来なさいってことだよね。
「その逆だよ、お祖父ちゃんがね妃菜を明日は休ませるって今……」
「え? 休み……?」
「そうなの。今日はゆらくんの部屋にお泊まりしてくれないかしら」
お、お泊まりって……。
「また詳しいことが決まったら、連絡するわ」
そうお母さんは電話を切った。嘘でしょ!? 急にお泊まりなんて無理――!!
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