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あれから約5分後。僕はやっとその温泉に着いていた。
路地に面する平屋の白い外壁でできた建物。奥からはモクモクと煙が上がっているのが見てとれた。
そして、入口の自動ドアの上には大きな木の板に"井ノ湯"と書かれたいかにも、それっぽい看板が掛けられている。
建物の周りには観葉植物がライトアップされ和風な雰囲気が醸し出されていて、いかにも温泉という感じがする。
自動ドアの前に立つとドアが開き、それと同時に少し湿っぽい空気が頬の毛を撫でていく。
中のロビーには鷲獣人と馬獣人の僕と同い年くらいに見える男性たちが椅子に腰掛け、すぐそばにある扇風機にあたりながら雑談をしていた。
毛が濡れているのでおそらくもう温泉に入り終わった後だろう。
扇風機の風で、彼らの来ているゆるゆるのTシャツの胸元が開き、時折見せる胸筋が凄く欲情的で、思わず入口の前で静止してしまった。
もう少し早く来ていれば彼らの裸体が見られたかも......という邪念がよぎったが、僕には翼君がいるんだから、と叶いもしない恋をバネになんとかその邪念を振り払った。
そして、ようやく彼らから目を離した僕は、入口の横に券売機が置かれていることを発見した。
そこから券を購入し、受け付けにいた兎獣人のお姉さんに渡す。
すると、そのお姉さんはなぜか目を丸くさせ、券と僕を交互に見比べた。
「え、男性......?」
ああ、そういうことか。
僕みたいな三毛猫の雄は珍しいから、「三毛猫=雌」という固定観念が世間で定着してしまっている。だから、女性と間違われるのは日常茶飯事のことだ。
この前も男子トイレに入ろうとして警備員さんに止められたし......
「あっ、男です」
「!? 失礼しましたっ! 三毛色をしてらっしゃったもので......」
「大丈夫ですよ、よく言われますから」
その女性はそれからすぐにロッカーの鍵を渡してくれ、僕はようやく男湯と書かれた暖簾をくぐることになった。
脱衣所に入ると、湿気がより一層強くなり毛が肌に張り付き始める。
中に人はいないが、ロッカーは何個か使われているから入っている人はいるようだ。
ふと壁を見ると、この温泉の効能が書かれた看板が視界に入る。
美毛・疲労回復・冷え性改善など、という至って普通のものだが、これから苦手な寒い季節に入る僕にとっては冷え性改善はありがたい効能かもしれない。
自分の鍵の番号が掛かれたロッカーを探してそこに荷物を詰める。
そして、まだ少し恥ずかしさのある僕は、一応周りを見渡してから服を脱ぎ始めた。まず上着とシャツを脱いで、上半身を露わにする。
少しでも、狼獣人や犬獣人のように筋肉隆々なら良かったのに。そんなことを自分の華奢な体つきを見ながら思う。
猫獣人は生まれつき、筋肉が付きづらい。反対に、同じ猫科でも筋肉の付きやすい獅子獣人や虎獣人は本当に羨ましく思う。
僕は、おまけに女性に間違われるくらいだし......
その時、浴室の扉が開く音がし、反射的にそちらを振り返る。
浴室から出てきたのは、犬獣人と猫獣人の二人だ。
犬獣人の人はおそらくコーギー種で、身長は180cmくらいありそうだ。猫獣人の人はキジトラ柄で僕より少し背が高いくらいだろう。
二人とも股をタオルで隠しながら出てきた。
どちらも僕の好みなスラっとした筋肉質をしていて、六つに割れた腹筋が僕の欲情を誘い、その裸体を見るだけで思わず僕の息子が反応してしまいそうになる。
しかし、それに気づかれてはいけないと思い、すぐに視線をロッカーに戻し、先に上着を片付ける。
それから、なるべく前を見られないように気を付けながらズボンとパンツを一緒に降ろす。
それらもすぐに片付け、タオルと、一緒に持ってきていたボディソープを手に取りそそくさと浴室に行こうとした、その時だ。
「ねえ、お兄さん一人?」
声を掛けられた......!? 驚いて振り返ると、さっきの二人がこちらに近寄ってきていた。声を掛けたのは犬獣人の人の方らしい。
「えっ、そうです...けど......」
「君、三毛だよね? 僕も三毛猫好きなんだけど、なかなか雄っていなくてさ」
「まあ、そうですね」
あれ、今三毛猫が好きって言った? それも雄が......?
「君いい体してるよね、恋人いるの?」
「いや、いませ.....ひゃっ!?」
僕が答え終わるのも束の間、犬獣人の人が僕の物を鷲掴みにし、反射的に素っ頓狂な声を出してしまった。
触られている!? まさかそんな訳がと思う僕の脳はその思い込みとは裏腹に、明らかに犬獣人の手の肌触りを感じている。
それと同時に、いつの間にか後ろに回っていた猫獣人にもお尻を触られ、体がビクッと跳ね上がる。
もしかして、この人たちも僕と同じ……!?
いやいや、そうだとしても流石にこんな場所で、しかも無理やりされるなんて嫌だ。
「やっ、やめてください!」
僕は決死の思いで男の手を力一杯引き剥がし、一目散に浴室へと走った。その時、後ろでチッという舌打ちの音がした気がした。
路地に面する平屋の白い外壁でできた建物。奥からはモクモクと煙が上がっているのが見てとれた。
そして、入口の自動ドアの上には大きな木の板に"井ノ湯"と書かれたいかにも、それっぽい看板が掛けられている。
建物の周りには観葉植物がライトアップされ和風な雰囲気が醸し出されていて、いかにも温泉という感じがする。
自動ドアの前に立つとドアが開き、それと同時に少し湿っぽい空気が頬の毛を撫でていく。
中のロビーには鷲獣人と馬獣人の僕と同い年くらいに見える男性たちが椅子に腰掛け、すぐそばにある扇風機にあたりながら雑談をしていた。
毛が濡れているのでおそらくもう温泉に入り終わった後だろう。
扇風機の風で、彼らの来ているゆるゆるのTシャツの胸元が開き、時折見せる胸筋が凄く欲情的で、思わず入口の前で静止してしまった。
もう少し早く来ていれば彼らの裸体が見られたかも......という邪念がよぎったが、僕には翼君がいるんだから、と叶いもしない恋をバネになんとかその邪念を振り払った。
そして、ようやく彼らから目を離した僕は、入口の横に券売機が置かれていることを発見した。
そこから券を購入し、受け付けにいた兎獣人のお姉さんに渡す。
すると、そのお姉さんはなぜか目を丸くさせ、券と僕を交互に見比べた。
「え、男性......?」
ああ、そういうことか。
僕みたいな三毛猫の雄は珍しいから、「三毛猫=雌」という固定観念が世間で定着してしまっている。だから、女性と間違われるのは日常茶飯事のことだ。
この前も男子トイレに入ろうとして警備員さんに止められたし......
「あっ、男です」
「!? 失礼しましたっ! 三毛色をしてらっしゃったもので......」
「大丈夫ですよ、よく言われますから」
その女性はそれからすぐにロッカーの鍵を渡してくれ、僕はようやく男湯と書かれた暖簾をくぐることになった。
脱衣所に入ると、湿気がより一層強くなり毛が肌に張り付き始める。
中に人はいないが、ロッカーは何個か使われているから入っている人はいるようだ。
ふと壁を見ると、この温泉の効能が書かれた看板が視界に入る。
美毛・疲労回復・冷え性改善など、という至って普通のものだが、これから苦手な寒い季節に入る僕にとっては冷え性改善はありがたい効能かもしれない。
自分の鍵の番号が掛かれたロッカーを探してそこに荷物を詰める。
そして、まだ少し恥ずかしさのある僕は、一応周りを見渡してから服を脱ぎ始めた。まず上着とシャツを脱いで、上半身を露わにする。
少しでも、狼獣人や犬獣人のように筋肉隆々なら良かったのに。そんなことを自分の華奢な体つきを見ながら思う。
猫獣人は生まれつき、筋肉が付きづらい。反対に、同じ猫科でも筋肉の付きやすい獅子獣人や虎獣人は本当に羨ましく思う。
僕は、おまけに女性に間違われるくらいだし......
その時、浴室の扉が開く音がし、反射的にそちらを振り返る。
浴室から出てきたのは、犬獣人と猫獣人の二人だ。
犬獣人の人はおそらくコーギー種で、身長は180cmくらいありそうだ。猫獣人の人はキジトラ柄で僕より少し背が高いくらいだろう。
二人とも股をタオルで隠しながら出てきた。
どちらも僕の好みなスラっとした筋肉質をしていて、六つに割れた腹筋が僕の欲情を誘い、その裸体を見るだけで思わず僕の息子が反応してしまいそうになる。
しかし、それに気づかれてはいけないと思い、すぐに視線をロッカーに戻し、先に上着を片付ける。
それから、なるべく前を見られないように気を付けながらズボンとパンツを一緒に降ろす。
それらもすぐに片付け、タオルと、一緒に持ってきていたボディソープを手に取りそそくさと浴室に行こうとした、その時だ。
「ねえ、お兄さん一人?」
声を掛けられた......!? 驚いて振り返ると、さっきの二人がこちらに近寄ってきていた。声を掛けたのは犬獣人の人の方らしい。
「えっ、そうです...けど......」
「君、三毛だよね? 僕も三毛猫好きなんだけど、なかなか雄っていなくてさ」
「まあ、そうですね」
あれ、今三毛猫が好きって言った? それも雄が......?
「君いい体してるよね、恋人いるの?」
「いや、いませ.....ひゃっ!?」
僕が答え終わるのも束の間、犬獣人の人が僕の物を鷲掴みにし、反射的に素っ頓狂な声を出してしまった。
触られている!? まさかそんな訳がと思う僕の脳はその思い込みとは裏腹に、明らかに犬獣人の手の肌触りを感じている。
それと同時に、いつの間にか後ろに回っていた猫獣人にもお尻を触られ、体がビクッと跳ね上がる。
もしかして、この人たちも僕と同じ……!?
いやいや、そうだとしても流石にこんな場所で、しかも無理やりされるなんて嫌だ。
「やっ、やめてください!」
僕は決死の思いで男の手を力一杯引き剥がし、一目散に浴室へと走った。その時、後ろでチッという舌打ちの音がした気がした。
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