4 / 13
4.語られぬ歴史
しおりを挟む
静まり返った後宮のなか、わたくしは見知らぬ男性――――天龍様に抱きしめられている。
(もしかして、夢なのかしら?)
むしろ、そう考えたほうがしっくりくる。だって、この後宮に龍晴様以外の男性が存在するなんてありえないもの。後宮の管理人であるわたくしが知らない宦官などいないし、どう考えたっておかしな状況だ。
本当は『なんで? どうやってここに入ったの?』と確認すべきだって――咎めるべきだってわかっている。
だけど、そうしたらこの甘やかな時間が終わってしまう気がして。わたくしは未だに口を開けずにいる。
「神華――――今は桜華、だったね」
「……! はい、そうです」
どうやら彼は、わたくしの名前を正しく知っていたらしい。わたくしは思わず顔を上げる。
「22年前、地界に君の息吹を再び感じられたとき、私は本当に嬉しかった。すぐにでも会いに来たかったのだが、天界の掟で100歳を過ぎるまでは地界に降りれなくて……ようやく今日、君に会いに来ることができたんだ」
「え? ……つまり、天龍様は100歳でいらっしゃるのですか?」
「そうだよ」
サラリと返事をされたものの、にわかには信じられない状況だ。
だって、彼はどう見たってわたくしと同年代の青年にしか見えない。それに、『天界』とか『地界』とか、まったく聞き馴染みのない言葉なんだもの。
(もしかしたら、異国ではこの国のことを『地界』と呼ぶのかしら?)
首を傾げていると、天龍様はクスクスと笑い声を上げた。
「すまない。早く君を手に入れたいあまり、説明を端折ってしまって……」
「え? あ……いえ、そんな」
どうしよう。笑われているはずなのに、なんだかすごく嬉しい。――というか、天龍様が愛らしすぎて、心臓がトクンと跳ねる。平静を装いつつ、わたくしは首を横に振った。
「どこから話そうか――――桜華はこの国の建国の歴史を知っているよね?」
「はい。今から千年ほど前、天災に見舞われたこの国を救い、導いた一人の女性がいました。女性は呪いや占いを用い、荒れた土地や人々の争いを鎮め、病を払い、やがて聖女として人々に崇められるようになりました。彼女の息子が成人すると、聖女と同様に人々をよく導くようになりました。そうして、民は彼を王と――――皇帝として敬い、自ら仕えるようになりました。これが、初代皇帝とその生母・神華による、この国の建国の歴史です」
それは子供の頃から何度も何度も読み聞かされてきた我が国の歴史。
なにがあっても初代皇帝の――聖女の血を絶やしてはならない。守らなければならない――――そのために、この後宮は存在する。我が国の平和を維持するために。人々の幸せを守るために。
だから、龍晴様がたくさん妃を持つのは仕方がないことなんだって、何度も自分に言い聞かせてきた。
「そのとおり。それがこの国の人々の知る建国の歴史だ。けれど、すべてが語り継がれているわけではない」
天龍様はそう言ってそっと微笑む。わたくしは思わずドキリとしてしまった。
「神華が人々に聖女と崇められたとき、彼女のお腹のなかには男児がいた。けれど、その夫の存在について歴史のなかで語られることはない。……桜華は不思議に思うことはなかった?」
「それは……いいえ。そういうものなのだとばかり……」
王とは、聖女とは、神に等しい存在。我が国の建国の歴史は、実話というより神話扱いされている。
飢えた人々の腹を満たしたり、病を癒したり、荒れた土地を蘇らせたり、天災を鎮めたり――――それらは、人では決してなしえない神秘的な逸話だ。それらがすべて、本当に起こったこととは考えづらい。そういった事情を鑑みるに、神華に夫が存在しなくても不思議ではないというか、考えたことすらなかったのだけど。
「神華にはね、神龍という夫がいたんだ。二人はとても仲睦まじい夫婦でね。天界の王と王妃として、幸せに暮らしていたんだよ」
まるで直接その光景を見てきたかのように、天龍様が言葉を紡ぐ。美しく、儚く、懐かしそうなその表情に、わたくしは思わず見入ってしまった。
「けれど、二人がちょうど100歳を過ぎた頃、当時の地界があまりにも酷い状況に陥ってしまってね。見過ごせないと言って、神華は地龍を身ごもったまま地界へ降りたんだ。ほんの数年で帰るという約束だった。だが、地界の空気は私たち天界の人間には合わなかったらしい。約束の年を待たず、神華は地界で亡くなってしまったんだ。どうして私も地界に降りなかったんだろう――あのときは本気で後悔したよ」
苦悶に満ちた表情で天龍様がわたくしを見つめる。なぜだろう――その理由がわたくしにはなんとなく理解できた。
「わたくしが『神華』で天龍様が『神龍』なのですか?」
「そうだよ。私は神華に再び会うため、神龍の記憶を持ったまま生まれ変わった。だから、神華の魂を――地界で君を見つけたときは、本当に嬉しかったんだ。そして、こうして地界に降りれるようになるまでの22年間は、おそろしいほどもどかしかった」
天龍様がわたくしを撫でる。温かくて、ドキドキして。だけど、その分だけ罪悪感を覚えてしまう。
(天龍様は記憶を打ち明けてくださったのに、わたくしは彼のことをちっとも思い出せない)
誰かに求めてもらえること、愛してもらえることはこの上なく嬉しい。当然だ。何年もの間、叶わぬ恋に身を焦がしていたんだもの。
だけど、本当は人違いなんじゃないかって。
わたくしには、誰かに愛してもらうような資格なんてないんじゃないかって。
あとから間違いだってわかって、捨てられてしまうんじゃないかって。
――――そういうことを考えてしまう。
それに、天龍様は一途にわたくしを思ってくださっていたというのに、わたくしは龍晴様に惹かれていたんだもの。そんな女性で本当にいいのだろうか?
「桜華は私たちの子孫に――龍晴に惹かれているのだったね」
「……!」
知られていた。天龍様に。
わたくしが、龍晴様を想ってきたということを。
もしかして、天界というのは地界のできごとすべてを見ることができるのだろうか? わたくしは驚きに目を見開きつつ、静かにうなずく。
「すみません。わたくし……」
「謝る必要はない。当然のことだと思うよ。彼には私の面影がある――――相当薄くはなっているが、私の遺伝子を受け継いでいるのだからね。だからこそ、桜華は龍晴に惹かれたんだ」
天龍様はそう言って静かに息をつく。わたくしは思わず目を瞠った。
「それから、あの子はあの子で君の中に神華の――母親の面影を見たのだと思う」
「え?」
龍晴様が? わたくしが首を傾げると、天龍様はコクリとうなずいた。
「桜華は龍晴にとって、決して汚してはならない聖域。誰よりも愛しく、誰よりも尊い。けれど、女性として愛することはできない――――そういう存在なんだと思う」
「そう、ですか……」
悲しいかな。天龍様の仰りたいこと、なんとなくわかる気がする。
龍晴様が口にする『愛している』はいつも、わたくしの求めている感情とは違っていた。彼がわたくしをそういう対象として見れないということは、薄々感づいていた。
だから、これから先、どんなに頑張ったって、龍晴様はわたくしのことを本当の意味で愛してはくれない。しがみついたところで意味もない。一方通行の恋心。だったら――――
「あの……わたくし色々と混乱していて。天龍様の仰ることをきちんと理解できていないと思うんです」
もしかしたら、これは自分に都合のいい夢なのかもしれないって、まだ心のどこかで思っているし。わたくしの前世のこと――――神華について、納得いくまで調べてみたい。そもそも、今日の今日で天龍様の手を取るのも、なんだか違う気がするし。
「わかっている。私はなにも無理やり君を連れて行こうとは思っていない。きちんと桜華自身が納得したうえで、私についてきてほしいと思っている。もちろん、絶対に私を選んでもらうつもりでいるし、できる限り早く桜華と一緒になりたいけれど」
指先に軽く口づけられ、身体が大きく跳ね上がる。天龍様はクスクスと笑いながら、今度はわたくしの額に口づけた。
「明日、またこの時間にここで会えるだろうか?」
「はい、必ず」
わたくしが返事をすれば、天龍様は微笑み、それから身を翻す。
するとその瞬間、天龍様がいたところに、大きな白銀の龍が現れた。
「え? もしかして……天龍様?」
肯定の意だろうか? 龍はグルルと喉を鳴らし、わたくしにそっと頬ずりをする。それから、静かに天へと舞い上がった。
それは、夜明けにはまだ早い時間。けれど、天龍様の周りに星の光がキラキラと集まり、空が白んだ。
(皇族に龍の血が流れているというのは本当だったのね)
優雅に空を飛ぶその姿は神秘的で、あまりにも美しくて、なんだか涙が滲んでくる。まるで、人々の願いを叶える流れ星のよう――そんなことを思ってしまう。
天龍様が見えなくなったあとも、まるで魔に魅入られたかのように、わたくしはずっと、その場に立ち尽くしていた。
(もしかして、夢なのかしら?)
むしろ、そう考えたほうがしっくりくる。だって、この後宮に龍晴様以外の男性が存在するなんてありえないもの。後宮の管理人であるわたくしが知らない宦官などいないし、どう考えたっておかしな状況だ。
本当は『なんで? どうやってここに入ったの?』と確認すべきだって――咎めるべきだってわかっている。
だけど、そうしたらこの甘やかな時間が終わってしまう気がして。わたくしは未だに口を開けずにいる。
「神華――――今は桜華、だったね」
「……! はい、そうです」
どうやら彼は、わたくしの名前を正しく知っていたらしい。わたくしは思わず顔を上げる。
「22年前、地界に君の息吹を再び感じられたとき、私は本当に嬉しかった。すぐにでも会いに来たかったのだが、天界の掟で100歳を過ぎるまでは地界に降りれなくて……ようやく今日、君に会いに来ることができたんだ」
「え? ……つまり、天龍様は100歳でいらっしゃるのですか?」
「そうだよ」
サラリと返事をされたものの、にわかには信じられない状況だ。
だって、彼はどう見たってわたくしと同年代の青年にしか見えない。それに、『天界』とか『地界』とか、まったく聞き馴染みのない言葉なんだもの。
(もしかしたら、異国ではこの国のことを『地界』と呼ぶのかしら?)
首を傾げていると、天龍様はクスクスと笑い声を上げた。
「すまない。早く君を手に入れたいあまり、説明を端折ってしまって……」
「え? あ……いえ、そんな」
どうしよう。笑われているはずなのに、なんだかすごく嬉しい。――というか、天龍様が愛らしすぎて、心臓がトクンと跳ねる。平静を装いつつ、わたくしは首を横に振った。
「どこから話そうか――――桜華はこの国の建国の歴史を知っているよね?」
「はい。今から千年ほど前、天災に見舞われたこの国を救い、導いた一人の女性がいました。女性は呪いや占いを用い、荒れた土地や人々の争いを鎮め、病を払い、やがて聖女として人々に崇められるようになりました。彼女の息子が成人すると、聖女と同様に人々をよく導くようになりました。そうして、民は彼を王と――――皇帝として敬い、自ら仕えるようになりました。これが、初代皇帝とその生母・神華による、この国の建国の歴史です」
それは子供の頃から何度も何度も読み聞かされてきた我が国の歴史。
なにがあっても初代皇帝の――聖女の血を絶やしてはならない。守らなければならない――――そのために、この後宮は存在する。我が国の平和を維持するために。人々の幸せを守るために。
だから、龍晴様がたくさん妃を持つのは仕方がないことなんだって、何度も自分に言い聞かせてきた。
「そのとおり。それがこの国の人々の知る建国の歴史だ。けれど、すべてが語り継がれているわけではない」
天龍様はそう言ってそっと微笑む。わたくしは思わずドキリとしてしまった。
「神華が人々に聖女と崇められたとき、彼女のお腹のなかには男児がいた。けれど、その夫の存在について歴史のなかで語られることはない。……桜華は不思議に思うことはなかった?」
「それは……いいえ。そういうものなのだとばかり……」
王とは、聖女とは、神に等しい存在。我が国の建国の歴史は、実話というより神話扱いされている。
飢えた人々の腹を満たしたり、病を癒したり、荒れた土地を蘇らせたり、天災を鎮めたり――――それらは、人では決してなしえない神秘的な逸話だ。それらがすべて、本当に起こったこととは考えづらい。そういった事情を鑑みるに、神華に夫が存在しなくても不思議ではないというか、考えたことすらなかったのだけど。
「神華にはね、神龍という夫がいたんだ。二人はとても仲睦まじい夫婦でね。天界の王と王妃として、幸せに暮らしていたんだよ」
まるで直接その光景を見てきたかのように、天龍様が言葉を紡ぐ。美しく、儚く、懐かしそうなその表情に、わたくしは思わず見入ってしまった。
「けれど、二人がちょうど100歳を過ぎた頃、当時の地界があまりにも酷い状況に陥ってしまってね。見過ごせないと言って、神華は地龍を身ごもったまま地界へ降りたんだ。ほんの数年で帰るという約束だった。だが、地界の空気は私たち天界の人間には合わなかったらしい。約束の年を待たず、神華は地界で亡くなってしまったんだ。どうして私も地界に降りなかったんだろう――あのときは本気で後悔したよ」
苦悶に満ちた表情で天龍様がわたくしを見つめる。なぜだろう――その理由がわたくしにはなんとなく理解できた。
「わたくしが『神華』で天龍様が『神龍』なのですか?」
「そうだよ。私は神華に再び会うため、神龍の記憶を持ったまま生まれ変わった。だから、神華の魂を――地界で君を見つけたときは、本当に嬉しかったんだ。そして、こうして地界に降りれるようになるまでの22年間は、おそろしいほどもどかしかった」
天龍様がわたくしを撫でる。温かくて、ドキドキして。だけど、その分だけ罪悪感を覚えてしまう。
(天龍様は記憶を打ち明けてくださったのに、わたくしは彼のことをちっとも思い出せない)
誰かに求めてもらえること、愛してもらえることはこの上なく嬉しい。当然だ。何年もの間、叶わぬ恋に身を焦がしていたんだもの。
だけど、本当は人違いなんじゃないかって。
わたくしには、誰かに愛してもらうような資格なんてないんじゃないかって。
あとから間違いだってわかって、捨てられてしまうんじゃないかって。
――――そういうことを考えてしまう。
それに、天龍様は一途にわたくしを思ってくださっていたというのに、わたくしは龍晴様に惹かれていたんだもの。そんな女性で本当にいいのだろうか?
「桜華は私たちの子孫に――龍晴に惹かれているのだったね」
「……!」
知られていた。天龍様に。
わたくしが、龍晴様を想ってきたということを。
もしかして、天界というのは地界のできごとすべてを見ることができるのだろうか? わたくしは驚きに目を見開きつつ、静かにうなずく。
「すみません。わたくし……」
「謝る必要はない。当然のことだと思うよ。彼には私の面影がある――――相当薄くはなっているが、私の遺伝子を受け継いでいるのだからね。だからこそ、桜華は龍晴に惹かれたんだ」
天龍様はそう言って静かに息をつく。わたくしは思わず目を瞠った。
「それから、あの子はあの子で君の中に神華の――母親の面影を見たのだと思う」
「え?」
龍晴様が? わたくしが首を傾げると、天龍様はコクリとうなずいた。
「桜華は龍晴にとって、決して汚してはならない聖域。誰よりも愛しく、誰よりも尊い。けれど、女性として愛することはできない――――そういう存在なんだと思う」
「そう、ですか……」
悲しいかな。天龍様の仰りたいこと、なんとなくわかる気がする。
龍晴様が口にする『愛している』はいつも、わたくしの求めている感情とは違っていた。彼がわたくしをそういう対象として見れないということは、薄々感づいていた。
だから、これから先、どんなに頑張ったって、龍晴様はわたくしのことを本当の意味で愛してはくれない。しがみついたところで意味もない。一方通行の恋心。だったら――――
「あの……わたくし色々と混乱していて。天龍様の仰ることをきちんと理解できていないと思うんです」
もしかしたら、これは自分に都合のいい夢なのかもしれないって、まだ心のどこかで思っているし。わたくしの前世のこと――――神華について、納得いくまで調べてみたい。そもそも、今日の今日で天龍様の手を取るのも、なんだか違う気がするし。
「わかっている。私はなにも無理やり君を連れて行こうとは思っていない。きちんと桜華自身が納得したうえで、私についてきてほしいと思っている。もちろん、絶対に私を選んでもらうつもりでいるし、できる限り早く桜華と一緒になりたいけれど」
指先に軽く口づけられ、身体が大きく跳ね上がる。天龍様はクスクスと笑いながら、今度はわたくしの額に口づけた。
「明日、またこの時間にここで会えるだろうか?」
「はい、必ず」
わたくしが返事をすれば、天龍様は微笑み、それから身を翻す。
するとその瞬間、天龍様がいたところに、大きな白銀の龍が現れた。
「え? もしかして……天龍様?」
肯定の意だろうか? 龍はグルルと喉を鳴らし、わたくしにそっと頬ずりをする。それから、静かに天へと舞い上がった。
それは、夜明けにはまだ早い時間。けれど、天龍様の周りに星の光がキラキラと集まり、空が白んだ。
(皇族に龍の血が流れているというのは本当だったのね)
優雅に空を飛ぶその姿は神秘的で、あまりにも美しくて、なんだか涙が滲んでくる。まるで、人々の願いを叶える流れ星のよう――そんなことを思ってしまう。
天龍様が見えなくなったあとも、まるで魔に魅入られたかのように、わたくしはずっと、その場に立ち尽くしていた。
3
お気に入りに追加
828
あなたにおすすめの小説

寡黙な貴方は今も彼女を想う
MOMO-tank
恋愛
婚約者以外の女性に夢中になり、婚約者を蔑ろにしたうえ婚約破棄した。
ーーそんな過去を持つ私の旦那様は、今もなお後悔し続け、元婚約者を想っている。
シドニーは王宮で側妃付きの侍女として働く18歳の子爵令嬢。見た目が色っぽいシドニーは文官にしつこくされているところを眼光鋭い年上の騎士に助けられる。その男性とは辺境で騎士として12年、数々の武勲をあげ一代限りの男爵位を授かったクライブ・ノックスだった。二人はこの時を境に会えば挨拶を交わすようになり、いつしか婚約話が持ち上がり結婚する。
言葉少ないながらも彼の優しさに幸せを感じていたある日、クライブの元婚約者で現在は未亡人となった美しく儚げなステラ・コンウォール前伯爵夫人と夜会で再会する。
※設定はゆるいです。
※溺愛タグ追加しました。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
踏み台令嬢はへこたれない
IchikoMiyagi
恋愛
「婚約破棄してくれ!」
公爵令嬢のメルティアーラは婚約者からの何度目かの申し出を受けていたーー。
春、学院に入学しいつしかついたあだ名は踏み台令嬢。……幸せを運んでいますのに、その名付けはあんまりでは……。
そう思いつつも学院生活を満喫していたら、噂を聞きつけた第三王子がチラチラこっちを見ている。しかもうっかり婚約者になってしまったわ……?!?
これは無自覚に他人の踏み台になって引っ張り上げる主人公が、たまにしょげては踏ん張りながらやっぱり周りを幸せにしたりやっと自分も幸せになったりするかもしれない物語。
「わたくし、甘い砂を吐くのには慣れておりますの」
ーー踏み台令嬢は今日も誰かを幸せにする。
なろうでも投稿しています。
【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす
まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。
彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。
しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。
彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。
他掌編七作品収録。
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します
「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」
某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。
【収録作品】
①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」
②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」
③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」
④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」
⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」
⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」
⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」
⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」
寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。
にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。
父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。
恋に浮かれて、剣を捨た。
コールと結婚をして初夜を迎えた。
リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。
ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。
結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。
混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。
もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと……
お読みいただき、ありがとうございます。
エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。
それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる