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2.全力で愛を叫ばせろ!
9.(END)
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ダミアンは予め、すべての証拠を押さえていた。
ロズウェルが取引をした商人――――トミーの売買記録も、お父さまの遺書を偽造した人間とそのルートも、義母が隠し持っていた毒物も全て。
人間の法律に基づき、正しく二人を罰するために。
(教えてくれたら良かったのに)
まぁ、その方がダミアンらしいけど。
「アイナ! あんた、よくも……よくもお母さまを!」
そのときだった。
屋敷から連行される義母を見送りながら、メアリーがあたしに向かって声を荒げる。隣にはあたしを捨てたラファエルが、困惑した面持ちで突っ立っていた。
「この悪魔! 人の心を持たない糞女がっ! お母さまは何も悪くないのに! それなのに……!」
「ふふっ……貴女それ、本気で言ってるの?」
メアリーの罵倒を聞きながら、あたしは高笑いが止まらなかった。
「何を今更……あたしは悪魔と契約した女だもの。そんな風に言われたところで褒められてるとしか思わないわよ?」
泣き喚くメアリーを見ながら、ラファエルはオロオロするばかり。
全く、顔だけが取り柄の男はこれだから使えない。あたしは小さく嘲笑った。
「馬鹿ね、ラファエル。だから言ったでしょう? そこの猫かぶり娘が良いのか? って。
メアリーはこの屋敷から追放するわ。当然よね? もう家族でもなんでもないのだもの。
それからラファエル――――残念だったわね。貴方はもう、爵位を継ぐことはできないのよ?」
ラファエルは小さく目を見開き、それから悔しげに顔を歪ませ、メアリーを置いて屋敷を出る。
一人残されたメアリーは、しばしの間呆然としていた。あたしはメアリーの傍に屈み、彼女の頬をそっと撫でる。
「恨むなら魅力のない自分を恨みなさい――――だったかしら? そっくりそのままお返しするわ。ラファエルは爵位を継げないなら、貴女に用はないみたいよ?」
笑い声が木霊する。
メアリーは顔を真っ赤に染め、屋敷を勢いよく飛び出していった。
使用人も全員追い出してしまったから、この屋敷にはもう、あたしとダミアン以外の誰も居ない。
「終わった――――」
空っぽになった屋敷の中、あたしは思わずそう呟く。
失ったものが多すぎて、何だか無性に泣けてきた。
「なぁにが終わった、だ。お前の人生はこれからだろう」
ダミアンはそう言って、あたしの頭を小突いた。
「でも……」
「先程使い魔から報告があった。お前の父親が目覚めたらしい」
「……! 本当に!?」
「ああ。会話もできる状態だそうだ」
「そう――――良かった」
涙が勢いよく溢れ出る。
ダミアンは静かにあたしの涙を拭った。
「――――ラグエル伯爵領については、しばらく俺が面倒を見てやろう。お前の父親が元気になるまで、他に管理をする人間が必要だろう?」
「……良いの?」
「ああ。一度狙われたとあって、今後、伯爵領や伯爵の財産を奪おうとするものが出てこないとも限らないからな」
なんともありがたい申し出だ。あたし一人じゃ領地経営は心もとないし、ダミアンならば悪いようにはしないだろう。あたしはホッと胸をなでおろす。
「それから、被害者の娘とあって、お前への好奇の視線も多数向くだろう。ロズウェルの縁者や、メアリーから付け狙われる可能性だってある。
おまけに、今回の件で俺がこの家に出入りしたという噂が立って、嫁の貰い手が付かないかもしれない。
だが、そんな状態を防ぐ方法が一つだけ有る」
「あら――――何かしら?」
「アイナが俺の嫁になれば良い」
ダミアンは至極アッサリと、そんなことを口にした。
「悪名高き悪魔公爵の妻に手出しができる人間はそう居ない。何があっても、俺がお前を守ってやれる。
伯爵位についても、いずれ生まれる我等の息子が継げば良い。
どうだ、アイナ? 俺と結婚するのは理にかなっているだろう?」
真剣な眼差しのダミアン。
ふふ、と小さく笑い声が漏れる。
ダミアンはそんなあたしを、まじまじと見つめた。
「全く……何を言うかと思えば。
ダミアン――――そんな言葉じゃ全然ダメ。あたしには響かないわ」
首を横に振り、ゆっくりと大きく胸を張る。
「外堀なんて埋めなくて結構! 合理性だって要らない。そんなもの、何一つ求めていないわ!
必要なものは唯一つ――――あんたの愛情だけよ!
跪きなさい! 傅きなさい! ダミアン――――あたしのことが欲しいなら、全力で愛を叫びなさい!」
ダミアンは瞬き一つしないまま、あたしのことを見つめていた。
緊張と興奮で身体が震える。
ダミアンはなんて言うだろう――――そう思ったのも束の間、彼は口の端を綻ばせ、恭しく跪いた。
「良いだろう、アイナ。よく覚えておけ。
この俺にこんなことをさせられる女は、未来永劫お前だけだ。
俺はお前の愛が欲しい! 心が、身体が、全てが欲しい!
俺の全てはお前のものだ。全部全部くれてやる。
だから――――俺と結婚してほしい」
ダミアンは縋るようにしてあたしの手を握り、熱く甘やかに唇を寄せる。
胸が、身体が燃えるように熱かった。
「知ってる。あたしもあんたが――――ダミアンが欲しい」
あたし達は微笑みあい、噛みつくようなキスをする。
あたしの旦那様は悪魔で、ドSで。
だけど、声高に愛を叫んでくれる――――そんな最高の男性だ。
ロズウェルが取引をした商人――――トミーの売買記録も、お父さまの遺書を偽造した人間とそのルートも、義母が隠し持っていた毒物も全て。
人間の法律に基づき、正しく二人を罰するために。
(教えてくれたら良かったのに)
まぁ、その方がダミアンらしいけど。
「アイナ! あんた、よくも……よくもお母さまを!」
そのときだった。
屋敷から連行される義母を見送りながら、メアリーがあたしに向かって声を荒げる。隣にはあたしを捨てたラファエルが、困惑した面持ちで突っ立っていた。
「この悪魔! 人の心を持たない糞女がっ! お母さまは何も悪くないのに! それなのに……!」
「ふふっ……貴女それ、本気で言ってるの?」
メアリーの罵倒を聞きながら、あたしは高笑いが止まらなかった。
「何を今更……あたしは悪魔と契約した女だもの。そんな風に言われたところで褒められてるとしか思わないわよ?」
泣き喚くメアリーを見ながら、ラファエルはオロオロするばかり。
全く、顔だけが取り柄の男はこれだから使えない。あたしは小さく嘲笑った。
「馬鹿ね、ラファエル。だから言ったでしょう? そこの猫かぶり娘が良いのか? って。
メアリーはこの屋敷から追放するわ。当然よね? もう家族でもなんでもないのだもの。
それからラファエル――――残念だったわね。貴方はもう、爵位を継ぐことはできないのよ?」
ラファエルは小さく目を見開き、それから悔しげに顔を歪ませ、メアリーを置いて屋敷を出る。
一人残されたメアリーは、しばしの間呆然としていた。あたしはメアリーの傍に屈み、彼女の頬をそっと撫でる。
「恨むなら魅力のない自分を恨みなさい――――だったかしら? そっくりそのままお返しするわ。ラファエルは爵位を継げないなら、貴女に用はないみたいよ?」
笑い声が木霊する。
メアリーは顔を真っ赤に染め、屋敷を勢いよく飛び出していった。
使用人も全員追い出してしまったから、この屋敷にはもう、あたしとダミアン以外の誰も居ない。
「終わった――――」
空っぽになった屋敷の中、あたしは思わずそう呟く。
失ったものが多すぎて、何だか無性に泣けてきた。
「なぁにが終わった、だ。お前の人生はこれからだろう」
ダミアンはそう言って、あたしの頭を小突いた。
「でも……」
「先程使い魔から報告があった。お前の父親が目覚めたらしい」
「……! 本当に!?」
「ああ。会話もできる状態だそうだ」
「そう――――良かった」
涙が勢いよく溢れ出る。
ダミアンは静かにあたしの涙を拭った。
「――――ラグエル伯爵領については、しばらく俺が面倒を見てやろう。お前の父親が元気になるまで、他に管理をする人間が必要だろう?」
「……良いの?」
「ああ。一度狙われたとあって、今後、伯爵領や伯爵の財産を奪おうとするものが出てこないとも限らないからな」
なんともありがたい申し出だ。あたし一人じゃ領地経営は心もとないし、ダミアンならば悪いようにはしないだろう。あたしはホッと胸をなでおろす。
「それから、被害者の娘とあって、お前への好奇の視線も多数向くだろう。ロズウェルの縁者や、メアリーから付け狙われる可能性だってある。
おまけに、今回の件で俺がこの家に出入りしたという噂が立って、嫁の貰い手が付かないかもしれない。
だが、そんな状態を防ぐ方法が一つだけ有る」
「あら――――何かしら?」
「アイナが俺の嫁になれば良い」
ダミアンは至極アッサリと、そんなことを口にした。
「悪名高き悪魔公爵の妻に手出しができる人間はそう居ない。何があっても、俺がお前を守ってやれる。
伯爵位についても、いずれ生まれる我等の息子が継げば良い。
どうだ、アイナ? 俺と結婚するのは理にかなっているだろう?」
真剣な眼差しのダミアン。
ふふ、と小さく笑い声が漏れる。
ダミアンはそんなあたしを、まじまじと見つめた。
「全く……何を言うかと思えば。
ダミアン――――そんな言葉じゃ全然ダメ。あたしには響かないわ」
首を横に振り、ゆっくりと大きく胸を張る。
「外堀なんて埋めなくて結構! 合理性だって要らない。そんなもの、何一つ求めていないわ!
必要なものは唯一つ――――あんたの愛情だけよ!
跪きなさい! 傅きなさい! ダミアン――――あたしのことが欲しいなら、全力で愛を叫びなさい!」
ダミアンは瞬き一つしないまま、あたしのことを見つめていた。
緊張と興奮で身体が震える。
ダミアンはなんて言うだろう――――そう思ったのも束の間、彼は口の端を綻ばせ、恭しく跪いた。
「良いだろう、アイナ。よく覚えておけ。
この俺にこんなことをさせられる女は、未来永劫お前だけだ。
俺はお前の愛が欲しい! 心が、身体が、全てが欲しい!
俺の全てはお前のものだ。全部全部くれてやる。
だから――――俺と結婚してほしい」
ダミアンは縋るようにしてあたしの手を握り、熱く甘やかに唇を寄せる。
胸が、身体が燃えるように熱かった。
「知ってる。あたしもあんたが――――ダミアンが欲しい」
あたし達は微笑みあい、噛みつくようなキスをする。
あたしの旦那様は悪魔で、ドSで。
だけど、声高に愛を叫んでくれる――――そんな最高の男性だ。
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