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2.全力で愛を叫ばせろ!

5.

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 トミーは財産を全て没収された上で、ダミアンの領地から追放された。ダミアン曰く『脱税された分を取り返しただけ』らしく、かなり寛大な処置なんだそうだ。


(あれで寛大? どんだけあくどい商売をしていたんだ、あの男は……)


 先程トミーに聞かされた自慢話を思い返しつつ、あたしは思わず苦笑を漏らす。
 まぁ、悪魔に目をつけられて、制裁を受けて、命が無事なだけマシなのかもしれないけど。


「本当は記憶を奪ってやっても良かったのだがな……ツテと商才さえあれば、商人は幾らでも再起が出来てしまうし」


 ワイングラスを片手に、ダミアンはフッと小さく笑う。


「だけど、それをしなかったってことは、トミーにはまだ利用価値があるってことでしょう?」

「――――その通りだ。お前は中々に賢い女だな」


 珍しく褒められた上、頭まで撫でられてしまい、あたしは思わず目を瞠った。


(何よ、ダミアンの奴。普段ツンツンしている分、急にデレられると対処に困るんだけど!)


 何だか無性に気恥ずかしい。あたしはフイとそっぽを向いた。


「……そうでしょう? あたしって、中々に見どころがある女でしょう?」

「馬鹿者、調子に乗るな」

「痛っ!」


 ダミアンがあたしの額をピンと弾く。尖った爪が当たってめちゃくちゃ痛い。


 それにしても、薄々気づいてはいたけど間違いない。
 この男、ドSだ。

 人を痛めつけて、虐めて楽しむ、真性のサディスト。
 まぁ、今のところあたしへの実害は殆ど無いし、良いのだけれど……。


「ときにアイナ。先程、トミーの頬に口づけまでしたのは、少々やりすぎではないか?」

「は? やりすぎ? だけど、本気を出せって言ったのはダミアンでしょう?」


 何よ、それ。あたしだって本当はキスなんてしたくなかったし。 
 だけど、ダミアンが『愛に溺れさせろ』とか『全力で愛を叫ばせろ』とか言うからああしたわけで。


「しろ」

「は? 何を?」

「俺の頬にも口づけろ」

「は!?」


 全く! 何を言い出すかと思えば、口づけろですって!? この男に!?


「なんであたしが」

「なんで、じゃない。元よりお前は俺のものだ。拒否権はない。しろ」


 ダミアンはそう言うと、あたしを無理やり彼の膝の上に座らせた。

 腹が立つほど美しい白い肌に、彫刻みたいに整った高い鼻。形の良い薄い唇を見下ろしてから、彼の明るい緑色の瞳を見つめる。
 その瞬間、胸の奥が熱く疼くような感覚がして、あたしは静かに息を呑んだ。


「早くしろ」

「――――分かってるわよ」


 心臓が高鳴る。さっきトミーにしたときみたいに冷静では居られない。

 しっかりと、頬の位置を確認してから目を瞑る。それから勢いをつけて唇を下ろせば、柔らかな感覚があたしを包み込んだ。


「んっ……」


 片手で腰を、もう片方の手で顔を固定されて、全身がビクとも動かない。
 頬ってこんなに柔らかいもの? ――――なんて愚問ね。だってこれ、頬じゃないし。ワインの風味に酔ってしまいそう。

 ちらりと瞳を開ければ、ダミアンと視線が絡み合った。


(何よ、悪魔のくせに)


 唇も吐息も、あたしも見つめる眼差しも、めちゃくちゃ熱い。


「…………っ、もう良いでしょ!?」


 放っておいたら、色々とエスカレートしてしまいそうだ。口を拭い、膝の上から滑り降り、あたしは思い切り踵を返す。


「アイナよ、頬への口づけがまだだぞ?」

「それ以上のことしたんだから良いでしょう? もう!」


 ドS悪魔め。あたしで遊ぶのは止めてほしい。
 ピシャリと扉を閉めてから、ズルズルとその場にしゃがみ込む。


(ホント、勘弁して)


 ため息を一つ、あたしは自分の部屋へと戻った。



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