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4.『王太子の耳』だけど、黙ってばかりじゃいられません!

4.吐露(3)

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「なっ……! な、な」

「ごめん、嫌だった?」


 美しく整った顔を寄せられ、熱っぽく見つめられる。
 この状況で『嫌』だと言えるのは、美醜フィルタがいかれているか、余程の男嫌いか――――いや、よくよくよく考えたら、この状況を嫌がる女性は案外多いんじゃなかろうか。だって、もしもさっきの遣いの騎士にいきなり同じことされたら、ちょっと嫌かもしれない。彼だってアルヴィア様に劣らないイケメンなのに。


「リュシー?」

「…………驚きましたけど、嫌ではありません」


 寧ろ、ちょっと嬉しい、なんて思ってしまっていることは黙っておく。だって、はしたないって思われたら嫌だし、恥ずかしいし、あんまり良いことではないだろうから。


「嫌ではない、ね。良かった」


 そう言ってアルヴィア様は嬉しそうに笑う。さっきまでの表情とのギャップに、少しだけ安堵してしまった。


(過剰反応しなくて良かったぁ……)


 アルヴィア様としては少し揶揄ったつもりなのに、いちいち本気にされては面倒だろう。高潔ぶるつもりは更々ないけど、痛い女認定はされたくない。


「そういえば、殿下からの手紙、開けてみないの?」

「あっ、そうでしたね」


 話に夢中で、すっかり存在を忘れていた。だけど、思い出したその途端、ずっしりと異様な程の重さを感じる。凄まじい存在感。開封しなきゃって分かってるけど、得体が知れなくてとても怖い。


「えぇ? ……っと、怖がらなくても大丈夫だと思うよ」


 震えているわたしに驚いたのか、アルヴィア様が困ったように笑う。


「本当にそうでしょうか?」


 こんな下っ端女官に対し、殿下直々の手紙が来るなんてどう考えてもおかしい。お叱りとか、罷免とか、そういう類の内容なんじゃなかろうか。


「ほらほら、勇気を出して」


 促され、渋々封を切る。開けたそばから漂う、上品な癖にどこか刺激的な香り。ドキドキしながら便箋を開くと、そこには力強く、けれど流麗な文字達が並んでいた。


「何て書いてある?」


 耳元でそんなことを囁かれて、ビクッと身体が震える。元々ドキドキしていたのに、更に拍車が掛かってしまった。


(罪作りな男だなぁ)


 若干の腹立たしさに唇を尖らせたものの、勢いも手伝い、わたしはようやく文面へと視線を落とした。


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