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1.そのままの君が好きだよ

10.そのままの君が好きだよ(2)【END】

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「あの――――わたくし、サムエレ様にお伝えしたいことがあるんです」


 言いながらわたくしは、自分の声が震えていることに気づいた。緊張で喉のあたりが痞えたような心地がする。表情は強張っていて、きっと可愛さの欠片も無いだろう。


(それでも)


 どうしても今、わたくしの想いを伝えなければならない。ゴクリと唾を呑み込み、わたくしはサムエレ様を真っ直ぐに見つめた。


「――――好きだよ、ディアーナ」


 けれど、わたくしが口を開くよりも先に、サムエレ様はそう口にした。涙が、想いが一気に込み上げてくる。サムエレ様はわたくしの手を引き、ギュッと抱き締めた。


「ずっとずっと、ディアーナのことが好きだった。兄上の婚約者だから諦めなきゃいけないって分かっていたのに、そんなの絶対無理だった。
ディアーナに俺のことを意識してほしくて、勉強も運動も頑張った。俺が兄上より先に生まれていたらディアーナと結婚できただろうか――――そんな意味のないことを何度も考えてしまう程、俺はディアーナに恋焦がれていたんだ」


 サムエレ様の声は、先程のわたくしと同じように震えていた。心臓がドキドキと早鐘を打ち、頬は真っ赤に染まっている。


(わたくしと同じ)


 そのことがあまりにも嬉しい。


「――――わたくしも、サムエレ様のことが大好きです」


 想いを言葉に乗せて、わたくしもサムエレ様を抱き締める。
 彼のおかげでわたくしは、自分を見失わずに済んだ。わたくしはわたくしのままで良いのだと、そう思うことが出来た。サムエレ様がわたくしを優しく包み込んでくれたから――――わたくしは再び前を向くことが出来たのだと思う。


「実は俺、父上に許可を貰ったんだ」


 サムエレ様が頭上で微笑む気配がして、わたくしはそっと顔を上げた。彼はわたくしのことをまじまじと見つめ、大きく息を吸う。何となく緊張が走って、わたくしは居住まいを正した。


「俺が兄上に代わって王太子になったら――――妃には新しい聖女ではなく、誰よりも素晴らしい最愛の人を迎えたい――――そう願い出た」


 サムエレ様はそう言って、穏やかに目を細める。その途端、胸が感動に打ち震え、涙が零れ落ちた。


「俺はそのままの君が好きだよ」


 左手がそっと握られ、薬指を冷やりとした何かが通る。見ればそこには、白く輝く宝石が光り輝いていた。


「誰よりも頑張り屋で、意地っ張りな所も。真面目で、素直で、その分傷つきやすくて……少しだけ涙脆い所も。全部、全部好きだ。
これからずっと、俺が君を守っていくから――――」


 そう言ってサムエレ様は微笑む。幸せを凝縮したみたいな温かな笑顔に、わたくしの胸は熱くなる。サムエレ様の手を強く握り返すと、彼は感慨深げに目を細めた。


「ディアーナ……俺と結婚してくれませんか?」


 その瞬間、夜空に星が流れ、月明かりがわたくし達を優しく照らした。わたくしはそっと背伸びをして、サムエレ様の頬に唇を寄せる。時間にしてほんの一瞬。けれど、サムエレ様は呆然としつつも、嬉しそうに瞳を輝かせている。


「はい……喜んで!」


 わたくしはそう口にして、彼と同じ満面の笑みを浮かべたのだった。
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