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【5章】王太子ヴァーリックの婚約者
49.お茶会
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それから数日後、いよいよお茶会当日がやってきた。
(お天気に恵まれてよかったわ……!)
オティリエは窓から外を眺めつつ、ホッと胸をなでおろす。
招待客に喜んでもらえるよう、王妃と一緒にいろんなことを検討し、大事に作ってきたお茶会だ。最後まで上手くいってほしいと切に願う。
「いよいよですね、オティリエ様」
カランはそんなことを言いながら、オティリエの身支度をテキパキと整えてくれた。彼女が今日のためにメイクやヘアアレンジを改めて研究し、一生懸命備えてくれていたことをオティリエは知っている。ありがたい……と同時に、なにやらむず痒い気持ちにさせられる。
【あぁ……どうしよう! オティリエ様が妃に選ばれたら、あたしは王太子妃の侍女になるのかぁ! 夢よねぇ。素敵過ぎる】
お茶会へ招待されたことを打ち明けないわけにはいかなかったものの、こんなふうに勘違いされてしまっては居心地が悪い、というのがその理由だ。
(ごめんね、カラン。ヴァーリック様が私を妃に選ぶことはないと思うんだけど)
お茶会に招待されただけで、そういう可能性があると思われているのが恥ずかしい。あまり期待をされてしまうと、ダメだったときに申し訳ない気持ちになってしまうので、ほどほどでお願いしたいところだ。
とはいえ、カランの夢を壊すことも忍びない。オティリエは曖昧にほほえみながら私室をあとにした。
会場に到着するとオティリエはぐるりと周囲を見回してみる。
(……うん、ちゃんと段取りどおりに整っているわね)
テーブルのセッティングやお料理、デザート、飾り付けなどなど、王妃との打ち合わせどおりに手配がされていることを確認し、オティリエはふぅと息をついた。
「オティリエ」
と、ちょうど会場入りした王妃から声をかけられる。開始時間にはまだ少し余裕があるため招待客はまばらだ。それでも、早くから会場入りしている令嬢たちがチラリとこちらを見たことに気づいてしまう。
【誰、あの子?】
【妃殿下から直接声をかけられているわ……ズルい。わたくしもお近づきになりたいのに】
ついで聞こえてくる心の声にオティリエの胃がキリキリと痛む。
(いけない。こんな顔をしていては妃殿下に気をつかわせてしまうわ)
オティリエはニコニコとほほえみつつ、王妃に向かって挨拶をした。
「妃殿下、あの……」
「来てくれて嬉しいわ」
王妃はそう言ってオティリエの手をギュッと握る。
「え? えぇと……」
(私は妃殿下に招待いただいたわけじゃないのに……)
王妃がオティリエが招待されていると知っていたことには安心したものの、なんだか申し訳ない気分になってしまう。
「今日は仕事のことは忘れて。オティリエも招待客の一人として楽しんでね」
「はい。ありがとうございます」
王妃はそう言って他の招待客のもとへと向かう。
(招待客の一人として、か)
たしかに、仕事ばかりしてきたオティリエにとってこんな機会はまたとない。今日この場に招かれているのはヴァーリックの婚約者候補だけではないのだし、王妃の言うとおりしっかりと楽しむべきだろう。
(よし)
オティリエは気持ちを切り替えることにした。
定刻。王妃が挨拶をしてからお茶会が正式にはじまる。ヴァーリックは遅れてくることになっているため、令嬢たちは次々に王妃のもとへと集まっていた。
【絶対に王太子妃になってみせるわ】
【ヴァーリック殿下の前に王妃様に気に入られないと】
【この日のために社交界で妃殿下の情報をたくさん仕入れてきたんだもの。絶対に失敗できないわ】
そういった心の声が聞こえてくるたびにオティリエは面食らってしまう。
(こんなにたくさんの令嬢が王太子妃になりたいと思っているのね)
城内で働く侍女や女官たちは仕事で成功したいという欲はあれども、王太子妃になりたいと考えてはいない。もちろん、今日お茶会に招かれている令嬢よりも身分が低いからというのもあるだろうが、ここにいる令嬢たちの熱意はオティリエが想像していたよりずっと凄まじかった。
(みんなすごいな……あんなに自分に自信があって)
自分よりも王太子妃にふさわしい女性はいない――容姿も教養も身分的にも――心の声など聞こえずとも、彼女たちのプライドが手に取るようにわかる。羨ましい……オティリエは自分を眺めながらちょっぴり悲しくなってしまう。
ヴァーリックのおかげで以前に比べれば随分自分のことを好きになった。
けれど、イアマや父親、使用人たちに虐げられてきた過去は消えないし、彼らの蔑むような視線や恐怖は今でも時々夢に見る。自分はダメな人間なんだ――そう考えてしまうことも少なくない。そのたびに仕事を必死で頑張って、自分を必死に保っている。
だけど時々……本当に時々だが、仕事がなかったらオティリエにはなにも残らないのではないかと、そんなことを思ったりもするのだ。そんな自分はヴァーリックにはふさわしくない、と。
「こんにちは」
「「「……!」」」
とそのとき、ヴァーリックがお茶会の会場にやってきた。その途端、令嬢たちの表情が明らかに変わる。完全にハンターの顔つきになった。
「ヴァーリック殿下!」
「本日はお招きいただきありがとうございます!」
「以前の夜会ぶりでございますわね! お会いできて光栄ですわ!」
我先にと令嬢たちが集まっていく。互いに身体をぶつけ合い、少しでもヴァーリックに近づこうと必死だ。あまりの逞しさ、凄まじさにオティリエは目が点になってしまう。
(すごい……とてもじゃないけど敵わないわ)
オティリエはああはなれない。やはりあのぐらいのガッツがないとヴァーリックの妃にはなれないのだと現実を突きつけられた気分だった。
【あーーあ、せっかくオシャレしてきたのに、やっぱりヴァーリック殿下には挨拶すらできそうにないわね】
ふと、誰かの心の声が聞こえてきて、オティリエははたと顔を上げる。
【仕方がないわよね。わたくしはあんなに綺麗じゃないし】
【すごいな……羨ましい】
【勇気を出してきてみたけど、私なんてお呼びじゃないわよね。せめてひとことぐらい殿下と言葉をかわしてみたかったな】
オティリエの近くで数人、令嬢たちがヴァーリックのことを見つめている。
(そうか……そういう女性もいるわよね)
みんながみんな自分に自信を持てる訳では無い。オティリエと同じように感じている女性もたくさんいるのだ。
もしもオティリエがヴァーリックに頼めば、彼は彼女たちに声をかけてくれるだろう。けれど、少なくともしばらくのあいだあの場から動けないだろうし、そもそもこのお茶会は妃を選ぶためのものだ。邪魔をするのは忍びない。
(だけど、せっかく来てくださったんだもの。せめて楽しんでいってほしい)
オティリエは意を決して令嬢たちのもとへと向かう。
「あの……よかったらあちらでお話をしませんか? すごく美味しいデザートがあるんです」
令嬢たちは一斉に顔を上げ、オティリエのことをじっと見つめる。
「私、お茶会に呼ばれるのがはじめてで。友達と呼べる人も少ないですし、しばらくはヴァーリック殿下に話しかけられそうにないでしょう? せっかくだからいろいろとお話を聞いてみたいなぁって」
オティリエの心臓がドキドキと鳴る。断られたらどうしよう? 鬱陶しい、不快に思われてしまったら……そんな不安はある。それでも――。
「……そうね。こんなところで待っていても順番はちっとも来そうにないし」
「ありがとうございます。声をかけていただけて嬉しいです……! 一人でいるのは居たたまれないし心細くて」
「わたくしもあまり王都に来ないから、友達が欲しかったんです」
令嬢たちの反応に、オティリエは瞳を輝かせる。
(勇気を出してよかった……!)
ありがとうございます、と返事をしてからオティリエは満面の笑みを浮かべた。
それから数人で連れ立って一つのテーブルを囲み、お茶やデザートを堪能する。
「美味しい」
「本当! さすが王城のパティシエは腕が違いますのね」
「こちらのお茶も。なんだか不思議な味がするわ」
王妃と一緒にこだわって選んだものだから、こうして喜んでもらえてとても嬉しい。
その後も彼女たちの領地の話やその特産物、最近出席した夜会でのできごとや流行りのドレスについてなど話題は尽きない。あれこれ話を聞きながら、オティリエは何度も笑い声を上げた。
(楽しい。女性同士のおしゃべりってこんなに楽しいものなのね)
普段男性に囲まれて仕事をしているため、なんだかとても新鮮だ。王妃とのやりとりよりもずっと気が楽だし、なんだか癒やされる心地がする。
「あの、よかったらわたくしもお話に混ぜていただけませんか? 皆様とても楽しそうにしていらっしゃるのが羨ましくて……」
そうこうしているうちに、一人、二人と令嬢の数が増えていく。気づけば話しはじめたときよりもずっと、大きな輪ができあがっていた。
【来なきゃよかったかもしれないって思っていたけど】
【こんなふうに友達ができて嬉しい】
【王都に来る楽しみが増えたわ】
彼女たちの会話と心の声を聞きながら、オティリエはホッと胸を撫で下ろす。
(よかった……)
王妃と一緒に頑張って準備をしてきたお茶会だ。嫌な思いをしてほしくない。できれば喜んでほしいと思っていたため、こうして目的が達成できたことを嬉しく思う。
「……楽しそうだね」
と、背後から声をかけられる。
(あ……)
オティリエが振り返ると、嬉しそうな笑顔を浮かべたヴァーリックと視線が絡む。ドキッと心臓が高鳴ると同時に、同じテーブルの令嬢たちがざわりと色めき立った。
「殿下!」
「ヴァーリック殿下!」
先ほどまでは近づくことすらできなかったヴァーリックの登場に、令嬢たちの頬が染まる。
「あまりにも楽しそうに話をしているから僕も混ぜてもらいたくなってしまった。ダメかな?」
「まさか……!」
「是非お話させてください!」
弾ける笑顔。ヴァーリックに声をかけてもらえてみんなとても嬉しそうだ。
【ありがとう、オティリエ】
ふと、ヴァーリックの心の声が聞こえてくる。オティリエがヴァーリックを見つめると、彼はとてもまぶしそうに目を細める。その表情があまりにも優しくて、温かくて、オティリエは思わず泣きそうになってしまうのだった。
(お天気に恵まれてよかったわ……!)
オティリエは窓から外を眺めつつ、ホッと胸をなでおろす。
招待客に喜んでもらえるよう、王妃と一緒にいろんなことを検討し、大事に作ってきたお茶会だ。最後まで上手くいってほしいと切に願う。
「いよいよですね、オティリエ様」
カランはそんなことを言いながら、オティリエの身支度をテキパキと整えてくれた。彼女が今日のためにメイクやヘアアレンジを改めて研究し、一生懸命備えてくれていたことをオティリエは知っている。ありがたい……と同時に、なにやらむず痒い気持ちにさせられる。
【あぁ……どうしよう! オティリエ様が妃に選ばれたら、あたしは王太子妃の侍女になるのかぁ! 夢よねぇ。素敵過ぎる】
お茶会へ招待されたことを打ち明けないわけにはいかなかったものの、こんなふうに勘違いされてしまっては居心地が悪い、というのがその理由だ。
(ごめんね、カラン。ヴァーリック様が私を妃に選ぶことはないと思うんだけど)
お茶会に招待されただけで、そういう可能性があると思われているのが恥ずかしい。あまり期待をされてしまうと、ダメだったときに申し訳ない気持ちになってしまうので、ほどほどでお願いしたいところだ。
とはいえ、カランの夢を壊すことも忍びない。オティリエは曖昧にほほえみながら私室をあとにした。
会場に到着するとオティリエはぐるりと周囲を見回してみる。
(……うん、ちゃんと段取りどおりに整っているわね)
テーブルのセッティングやお料理、デザート、飾り付けなどなど、王妃との打ち合わせどおりに手配がされていることを確認し、オティリエはふぅと息をついた。
「オティリエ」
と、ちょうど会場入りした王妃から声をかけられる。開始時間にはまだ少し余裕があるため招待客はまばらだ。それでも、早くから会場入りしている令嬢たちがチラリとこちらを見たことに気づいてしまう。
【誰、あの子?】
【妃殿下から直接声をかけられているわ……ズルい。わたくしもお近づきになりたいのに】
ついで聞こえてくる心の声にオティリエの胃がキリキリと痛む。
(いけない。こんな顔をしていては妃殿下に気をつかわせてしまうわ)
オティリエはニコニコとほほえみつつ、王妃に向かって挨拶をした。
「妃殿下、あの……」
「来てくれて嬉しいわ」
王妃はそう言ってオティリエの手をギュッと握る。
「え? えぇと……」
(私は妃殿下に招待いただいたわけじゃないのに……)
王妃がオティリエが招待されていると知っていたことには安心したものの、なんだか申し訳ない気分になってしまう。
「今日は仕事のことは忘れて。オティリエも招待客の一人として楽しんでね」
「はい。ありがとうございます」
王妃はそう言って他の招待客のもとへと向かう。
(招待客の一人として、か)
たしかに、仕事ばかりしてきたオティリエにとってこんな機会はまたとない。今日この場に招かれているのはヴァーリックの婚約者候補だけではないのだし、王妃の言うとおりしっかりと楽しむべきだろう。
(よし)
オティリエは気持ちを切り替えることにした。
定刻。王妃が挨拶をしてからお茶会が正式にはじまる。ヴァーリックは遅れてくることになっているため、令嬢たちは次々に王妃のもとへと集まっていた。
【絶対に王太子妃になってみせるわ】
【ヴァーリック殿下の前に王妃様に気に入られないと】
【この日のために社交界で妃殿下の情報をたくさん仕入れてきたんだもの。絶対に失敗できないわ】
そういった心の声が聞こえてくるたびにオティリエは面食らってしまう。
(こんなにたくさんの令嬢が王太子妃になりたいと思っているのね)
城内で働く侍女や女官たちは仕事で成功したいという欲はあれども、王太子妃になりたいと考えてはいない。もちろん、今日お茶会に招かれている令嬢よりも身分が低いからというのもあるだろうが、ここにいる令嬢たちの熱意はオティリエが想像していたよりずっと凄まじかった。
(みんなすごいな……あんなに自分に自信があって)
自分よりも王太子妃にふさわしい女性はいない――容姿も教養も身分的にも――心の声など聞こえずとも、彼女たちのプライドが手に取るようにわかる。羨ましい……オティリエは自分を眺めながらちょっぴり悲しくなってしまう。
ヴァーリックのおかげで以前に比べれば随分自分のことを好きになった。
けれど、イアマや父親、使用人たちに虐げられてきた過去は消えないし、彼らの蔑むような視線や恐怖は今でも時々夢に見る。自分はダメな人間なんだ――そう考えてしまうことも少なくない。そのたびに仕事を必死で頑張って、自分を必死に保っている。
だけど時々……本当に時々だが、仕事がなかったらオティリエにはなにも残らないのではないかと、そんなことを思ったりもするのだ。そんな自分はヴァーリックにはふさわしくない、と。
「こんにちは」
「「「……!」」」
とそのとき、ヴァーリックがお茶会の会場にやってきた。その途端、令嬢たちの表情が明らかに変わる。完全にハンターの顔つきになった。
「ヴァーリック殿下!」
「本日はお招きいただきありがとうございます!」
「以前の夜会ぶりでございますわね! お会いできて光栄ですわ!」
我先にと令嬢たちが集まっていく。互いに身体をぶつけ合い、少しでもヴァーリックに近づこうと必死だ。あまりの逞しさ、凄まじさにオティリエは目が点になってしまう。
(すごい……とてもじゃないけど敵わないわ)
オティリエはああはなれない。やはりあのぐらいのガッツがないとヴァーリックの妃にはなれないのだと現実を突きつけられた気分だった。
【あーーあ、せっかくオシャレしてきたのに、やっぱりヴァーリック殿下には挨拶すらできそうにないわね】
ふと、誰かの心の声が聞こえてきて、オティリエははたと顔を上げる。
【仕方がないわよね。わたくしはあんなに綺麗じゃないし】
【すごいな……羨ましい】
【勇気を出してきてみたけど、私なんてお呼びじゃないわよね。せめてひとことぐらい殿下と言葉をかわしてみたかったな】
オティリエの近くで数人、令嬢たちがヴァーリックのことを見つめている。
(そうか……そういう女性もいるわよね)
みんながみんな自分に自信を持てる訳では無い。オティリエと同じように感じている女性もたくさんいるのだ。
もしもオティリエがヴァーリックに頼めば、彼は彼女たちに声をかけてくれるだろう。けれど、少なくともしばらくのあいだあの場から動けないだろうし、そもそもこのお茶会は妃を選ぶためのものだ。邪魔をするのは忍びない。
(だけど、せっかく来てくださったんだもの。せめて楽しんでいってほしい)
オティリエは意を決して令嬢たちのもとへと向かう。
「あの……よかったらあちらでお話をしませんか? すごく美味しいデザートがあるんです」
令嬢たちは一斉に顔を上げ、オティリエのことをじっと見つめる。
「私、お茶会に呼ばれるのがはじめてで。友達と呼べる人も少ないですし、しばらくはヴァーリック殿下に話しかけられそうにないでしょう? せっかくだからいろいろとお話を聞いてみたいなぁって」
オティリエの心臓がドキドキと鳴る。断られたらどうしよう? 鬱陶しい、不快に思われてしまったら……そんな不安はある。それでも――。
「……そうね。こんなところで待っていても順番はちっとも来そうにないし」
「ありがとうございます。声をかけていただけて嬉しいです……! 一人でいるのは居たたまれないし心細くて」
「わたくしもあまり王都に来ないから、友達が欲しかったんです」
令嬢たちの反応に、オティリエは瞳を輝かせる。
(勇気を出してよかった……!)
ありがとうございます、と返事をしてからオティリエは満面の笑みを浮かべた。
それから数人で連れ立って一つのテーブルを囲み、お茶やデザートを堪能する。
「美味しい」
「本当! さすが王城のパティシエは腕が違いますのね」
「こちらのお茶も。なんだか不思議な味がするわ」
王妃と一緒にこだわって選んだものだから、こうして喜んでもらえてとても嬉しい。
その後も彼女たちの領地の話やその特産物、最近出席した夜会でのできごとや流行りのドレスについてなど話題は尽きない。あれこれ話を聞きながら、オティリエは何度も笑い声を上げた。
(楽しい。女性同士のおしゃべりってこんなに楽しいものなのね)
普段男性に囲まれて仕事をしているため、なんだかとても新鮮だ。王妃とのやりとりよりもずっと気が楽だし、なんだか癒やされる心地がする。
「あの、よかったらわたくしもお話に混ぜていただけませんか? 皆様とても楽しそうにしていらっしゃるのが羨ましくて……」
そうこうしているうちに、一人、二人と令嬢の数が増えていく。気づけば話しはじめたときよりもずっと、大きな輪ができあがっていた。
【来なきゃよかったかもしれないって思っていたけど】
【こんなふうに友達ができて嬉しい】
【王都に来る楽しみが増えたわ】
彼女たちの会話と心の声を聞きながら、オティリエはホッと胸を撫で下ろす。
(よかった……)
王妃と一緒に頑張って準備をしてきたお茶会だ。嫌な思いをしてほしくない。できれば喜んでほしいと思っていたため、こうして目的が達成できたことを嬉しく思う。
「……楽しそうだね」
と、背後から声をかけられる。
(あ……)
オティリエが振り返ると、嬉しそうな笑顔を浮かべたヴァーリックと視線が絡む。ドキッと心臓が高鳴ると同時に、同じテーブルの令嬢たちがざわりと色めき立った。
「殿下!」
「ヴァーリック殿下!」
先ほどまでは近づくことすらできなかったヴァーリックの登場に、令嬢たちの頬が染まる。
「あまりにも楽しそうに話をしているから僕も混ぜてもらいたくなってしまった。ダメかな?」
「まさか……!」
「是非お話させてください!」
弾ける笑顔。ヴァーリックに声をかけてもらえてみんなとても嬉しそうだ。
【ありがとう、オティリエ】
ふと、ヴァーリックの心の声が聞こえてくる。オティリエがヴァーリックを見つめると、彼はとてもまぶしそうに目を細める。その表情があまりにも優しくて、温かくて、オティリエは思わず泣きそうになってしまうのだった。
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