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【1章】夜会と秘密の共有者
14.夢
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「ロキと随分仲が良くなったんだね」
久々にお会いしたアーネスト様は、開口一番そんなことを口にした。
(アーネスト様……ちゃんと寝ていらっしゃるのだろうか?)
穏やかに目を細めているものの、アーネスト様の目の下にはくっきりと隈が出来ているし、いつも真っ白で陶器みたいにスベスベの綺麗な肌が、今日はどこかくすんで見える。
ロキに唆されたとはいえ、そんな人を呼びつけてしまった罪悪感がチリチリと胸を焼いた。
「ミーナ?」
「あっ……すみません。ロキはわたしとすごく境遇が似てますし、二人ともアーネスト様を慕っているっていう共通点がありますから」
慌ててそう答えつつ、アーネスト様がゆっくり休めるように部屋の環境を整える。カミラが用意してくれたリラックス効果のある精油を焚いて、灯りをほんのり落とすと、アーネスト様は眠たそうに目を擦った。
「うん。二人はきっと、気が合うだろうなと思ったんだ」
そう言ってアーネスト様はわたしのことを手招きする。隣に座るよう促され、わたしはゆっくりと腰を下ろした。
金剛宮にいらっしゃる日はいつも、アーネスト様とわたしは一緒のベッドで眠る。色気が無いのは重々承知しているものの、そもそもわたしはアーネスト様にとって『女性』という枠組みに入っていないんだと思う。ロキに出会ってから、そう感じるようになった。
「いつも二人でどんな話をしているの?」
「ロキとですか? そんなの当然、アーネスト様のことに決まっています」
ロキと二人で『アーネスト様のことをどれ程崇拝しているのか』語り合うのが、わたしのここ最近の楽しみだった。エスメラルダ様やベラ様だって当然、アーネスト様のことを慕っているものの、わたし達とは種類も熱量も違う。
アーネスト様に拾ってもらったもの同士――――わたしとロキは、互いにしか分かり合えない絆みたいなものがある。自分の命より大切なもの。それがわたし達にとってのアーネスト様だ。
「俺のこと、ね」
そう言ってアーネスト様はゴロンとベッドに横になる。どうやら眠さの限界らしい。瞼を何度もしばたかせて、アーネスト様はわたしのことを見つめた。泣きたくなるような優しい笑顔。愛しさに胸を震わせつつ、わたしは口を開く。
「アーネスト様」
「ん?」
「ドレスを――――ありがとうございました」
心の底からそう口にすると、アーネスト様は穏やかに目を細めた。
「おいで、ミーナ」
「へ……? わっ」
それから唐突に腕を引っ張られ、わたしはアーネスト様の胸に抱き留められた。薄い夜着越しにアーネスト様の体温と鼓動を感じる。心臓がバクバクと鳴り響いた。
「気に入った?」
頭上で響くアーネスト様の声は心臓に悪い。身体が狂ったみたいに熱くなって、苦しくて堪らなくなる。けれど、その分だけ幸せで心の中が甘ったるくて、良いのかな?って思いつつ、そこから動くことができない。
「もちろんです。アーネスト様が選んでくださったって聞いて、ビックリして。だけど――――すごくすごく嬉しかったです」
やっとの思いでそう答えると、アーネスト様が嬉しそうに微笑む気配がした。
「良かった。ミーナに似合うと、そう思ったんだ」
わたしの背をポンポンと叩きながら、アーネスト様はそう口にする。まるで子どもかペットにでもなった気分だ。温かくて、気持ち良くて、わたしの瞼も次第に重くなっていく。
「俺ね……今回の人生で、成し遂げたいことがあるんだ」
ポツリポツリとアーネスト様が言葉を紡ぐ。既に夢の淵にいるのだろうか。所々言葉が途切れ、掠れていた。
「そのせいですごく忙しいし、ミーナにも中々会いに来れない。だけど今日、ミーナに『会いたい』って手紙を貰えて、すごく嬉しかった……」
アーネスト様の声が優しく響く。身体が温かくて、ふわふわする。もしかしたら夢を見ているのはわたしの方なのかもしれない。だとすれば、あまりにも自分に都合の良い夢だ。
(ずっと覚めなければ良いのに)
そう思いつつ、わたしはアーネスト様の背中に腕を回す。胸いっぱいにアーネスト様の香りを吸い込んで、そのあまりの甘さに微笑んだ。
「ミーナ――――もしも俺が、八か月後も生き残ることが出来たら、その時は――――――」
けれど、アーネスト様の言葉がそれ以上続くことは無い。やっぱりわたしは既に夢の中にいるのだろう。二人分の寝息が聞こえてくる。まるで自分が自分じゃ無くなったみたいな感覚だ。
(アーネスト様のことは死なせませんよ)
何があっても、絶対。そう心に誓いつつ、今度こそわたしは意識を手放したのだった。
久々にお会いしたアーネスト様は、開口一番そんなことを口にした。
(アーネスト様……ちゃんと寝ていらっしゃるのだろうか?)
穏やかに目を細めているものの、アーネスト様の目の下にはくっきりと隈が出来ているし、いつも真っ白で陶器みたいにスベスベの綺麗な肌が、今日はどこかくすんで見える。
ロキに唆されたとはいえ、そんな人を呼びつけてしまった罪悪感がチリチリと胸を焼いた。
「ミーナ?」
「あっ……すみません。ロキはわたしとすごく境遇が似てますし、二人ともアーネスト様を慕っているっていう共通点がありますから」
慌ててそう答えつつ、アーネスト様がゆっくり休めるように部屋の環境を整える。カミラが用意してくれたリラックス効果のある精油を焚いて、灯りをほんのり落とすと、アーネスト様は眠たそうに目を擦った。
「うん。二人はきっと、気が合うだろうなと思ったんだ」
そう言ってアーネスト様はわたしのことを手招きする。隣に座るよう促され、わたしはゆっくりと腰を下ろした。
金剛宮にいらっしゃる日はいつも、アーネスト様とわたしは一緒のベッドで眠る。色気が無いのは重々承知しているものの、そもそもわたしはアーネスト様にとって『女性』という枠組みに入っていないんだと思う。ロキに出会ってから、そう感じるようになった。
「いつも二人でどんな話をしているの?」
「ロキとですか? そんなの当然、アーネスト様のことに決まっています」
ロキと二人で『アーネスト様のことをどれ程崇拝しているのか』語り合うのが、わたしのここ最近の楽しみだった。エスメラルダ様やベラ様だって当然、アーネスト様のことを慕っているものの、わたし達とは種類も熱量も違う。
アーネスト様に拾ってもらったもの同士――――わたしとロキは、互いにしか分かり合えない絆みたいなものがある。自分の命より大切なもの。それがわたし達にとってのアーネスト様だ。
「俺のこと、ね」
そう言ってアーネスト様はゴロンとベッドに横になる。どうやら眠さの限界らしい。瞼を何度もしばたかせて、アーネスト様はわたしのことを見つめた。泣きたくなるような優しい笑顔。愛しさに胸を震わせつつ、わたしは口を開く。
「アーネスト様」
「ん?」
「ドレスを――――ありがとうございました」
心の底からそう口にすると、アーネスト様は穏やかに目を細めた。
「おいで、ミーナ」
「へ……? わっ」
それから唐突に腕を引っ張られ、わたしはアーネスト様の胸に抱き留められた。薄い夜着越しにアーネスト様の体温と鼓動を感じる。心臓がバクバクと鳴り響いた。
「気に入った?」
頭上で響くアーネスト様の声は心臓に悪い。身体が狂ったみたいに熱くなって、苦しくて堪らなくなる。けれど、その分だけ幸せで心の中が甘ったるくて、良いのかな?って思いつつ、そこから動くことができない。
「もちろんです。アーネスト様が選んでくださったって聞いて、ビックリして。だけど――――すごくすごく嬉しかったです」
やっとの思いでそう答えると、アーネスト様が嬉しそうに微笑む気配がした。
「良かった。ミーナに似合うと、そう思ったんだ」
わたしの背をポンポンと叩きながら、アーネスト様はそう口にする。まるで子どもかペットにでもなった気分だ。温かくて、気持ち良くて、わたしの瞼も次第に重くなっていく。
「俺ね……今回の人生で、成し遂げたいことがあるんだ」
ポツリポツリとアーネスト様が言葉を紡ぐ。既に夢の淵にいるのだろうか。所々言葉が途切れ、掠れていた。
「そのせいですごく忙しいし、ミーナにも中々会いに来れない。だけど今日、ミーナに『会いたい』って手紙を貰えて、すごく嬉しかった……」
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けれど、アーネスト様の言葉がそれ以上続くことは無い。やっぱりわたしは既に夢の中にいるのだろう。二人分の寝息が聞こえてくる。まるで自分が自分じゃ無くなったみたいな感覚だ。
(アーネスト様のことは死なせませんよ)
何があっても、絶対。そう心に誓いつつ、今度こそわたしは意識を手放したのだった。
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