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20.一目惚れも、ここまでくれば

9.

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「――――どうしてそのことを?」


 こんなこと、誰にも打ち明けたことは無い。今回のことで協力を依頼した男性たちにだって、肝心なことは何一つ打ち明けてはいなかった。


「王家の仕事の一つに、反乱因子の監視というものがあってね? 君の母親とローラのことは、出会う前から既に知っていたんだ」


 その瞬間、わたしは驚きに目を見開いた。


「じゃあ……初めからわたしを監視するために?」


 いつもニコニコと笑っているから、不穏とは無関係の世界で生きているように見えるから、彼がわたしのことを初めから知っていただなんて、とてもじゃないけど信じられない。


「わたしに一目惚れしたっていうのも嘘だったんですね……!」


 言いながら涙がポロポロと零れ落ちる。
 初めからこの婚約に裏があることなんて分かり切って居た筈なのに、わたしは馬鹿だ。大馬鹿だ。本当に救いようがない。


「ローラ」


 そう言って殿下はわたしのことを抱き締めた。殿下の腕の中はいつもとちっとも変わらず温かくて、わたしは涙が止まらなくなる。


「僕がローラに伝えた言葉に、嘘偽りは一つもないよ?」

「え……?」

「隣国の王族が生き残っている――――その動向を監視しなければならなかったのは本当。だけど、君の母親と接触している人間の中にはこちら側の間諜も混ざっていたし、僕がしなければならなかったのは状況把握だけ。
だけど、出会った瞬間、僕はどうしようもなくローラに惹かれてしまったんだ」


 アイザック殿下は困ったように笑いながら、わたしの顔を覗き込む。


「多分、こういうのは理屈じゃないんだ。僕は出会った瞬間、ローラに惹かれた。好きになった。
ローラはいつだって真っ直ぐで、不器用で、けれど一生懸命で。
母親のことだって、父親にも僕にも、誰にも相談せずに自分の胸に抱えてきただろう? 自分を悪者にして、僕との婚約を破棄して、不幸な人間を減らせるようにずっと頑張って来た。
だけどもう、頑張らなくて良いんだ。ローラは十分、よくやった。後は僕が何とかする。何も心配しなくて良いんだ」


 そう言ってアイザック殿下はわたしのことを抱き締める。胸がキュッて苦しくなって、涙がポロポロと流れ落ちた。


「一体……先程から二人は何の話を…………?」

「イザベラ――――異母妹であるローラを好きになれない君の気持ちは分からなくもない。だけどローラは君のことだって護ろうとしていた。幸せになって欲しいと願っていた。もう少し君が――――いや、互いに歩み寄ることができれば、君達にはもっと違った道があっただろうに」

「殿下⁉ けれど異母妹は…………」

「ローラはね、自分が浮気をしていると僕に思わせるよう、わざと男性たちと密会を重ねていた。君が押さえたのはその証拠だったんだ」


 異母姉さまはその瞬間、目を見開き、それからギュッと唇を噛んだ。彼女の瞳には大粒の涙が溜まり、顔は真っ赤に染まっている。これ以上の言葉は不要だったらしく、異母姉さまは足早にその場を去っていった。


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