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20.一目惚れも、ここまでくれば

4.

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 (絶対、反対する人が沢山いると思ったんだけどなぁ)


 想像に反し、わたしと殿下の婚約に異を唱える人間は殆ど居なかった。異母姉さまや、殿下の他の婚約者候補たちが精々で、概ね好意的に受け入れられてしまったのだから驚きである。
 肝心の陛下や妃殿下は、アイザック殿下によく似たホンワカした雰囲気の和やかな人達で、『息子が選んだ人ならば』と、快く婚約を受け入れてしまった。


 かくして、わたしとアイザック殿下の婚約は実にアッサリと結ばれてしまった。


「良かったね、ローラ。これで僕達は正式に婚約者になれた」


 婚約式の後、殿下はわたしの手を握って、ニコニコと嬉しそうに微笑む。


(わたし的には良くないんだけど)


 こんな反乱因子を妃として招き入れるなんて――――平和も過ぎたれば悪というか、王室の間諜たちは一体なにをしているんだろうと思わずにはいられない。


(普通、妃となる人間の身辺調査ぐらいするでしょう?)


 その過程で不適切となるものが大多数だから、婚約者候補にあがることはないし、王子たちとそもそも関わらせはしない――――そんな簡単なカラクリすらも機能していないのだから、割と本気で国の未来を憂いてしまう。


「僕はすごく嬉しいよ」


 そう言ってアイザック殿下はわたしをそっと抱き寄せた。大きな手のひらがわたしの頭を優しく撫で、知らず心臓が小さく高鳴る。


(あっ……)


 だけどそれは、わたしだけじゃなかった。殿下の心臓もトクントクンとハッキリ、大きく刻まれているのが分かる。


「わたしも嬉しいです」

(……って、何を言っているの⁉)


 自分の発言が信じられず、わたしは思わず殿下からそっと顔を背ける。
 けれど、殿下がそれを許さなかった。殿下はわたしの顔をグイッとご自分の方に向けると、大きく目を見開き、それから嬉しそうに口の端を綻ばせる。


「どうしよう……。さっきよりもずっと嬉しくなった」


 まるで今にも泣き出しそうな表情で笑う殿下に、わたしは得も言われぬ感情に襲われる。

 その感情の名を、わたしはまだ知らない。

 憐みでもなく、侮蔑でもなく、思わず手を差し伸べたくなるような心の動き。


(早くこの人をわたしから解放してあげないと)


 そう思う理由が、彼と出会った頃からほんの少しだけ、変わりつつあった。
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