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16.君は友達
4.
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「すまなかった!」
アグライヤは勢いよく頭を下げつつ、そう口にした。この場にいるのはアグライヤとヴァルカヌスの二人きり。話がしたいからと、他のメンバーには先に講義へと戻ってもらうことにしたのだ。
「アグライヤが謝る必要はないだろう」
そう口にしつつ、ヴァルカヌスは眉間に皺を寄せる。
「いや……全てわたしが悪いんだ。ウェヌス様は元々ああいう方なのに、つい頭に血が上ってしまった。勢いであんなことを口にして、本当に悪かったと思っている」
あの後ウェヌスは「そうと決まったら、早く皆に知らせないと」と言って、足早にその場を後にしてしまった。追いかけようとしたものの、ヴァルカヌス達に引き止められ、それっきりになってしまっている。
(そもそも婚約は家同士の話であって、当人同士の気持ちでどうにかなるようなものではない。というか今回は、わたしが勝手に婚約を宣言してしまっただけなのだし)
しかし、顔の広いウェヌスのこと。このままでは明日にも噂が広まってしまう。アグライヤは泣きたい気分でヴァルカヌスを見上げた。
「とにかく、噂が広まらないようすぐに根回しをしよう。今すぐウェヌス様の所に行けば――――」
「いや……俺はこのままで良いと思う」
その瞬間、アグライヤは驚きに目を見張った。ヴァルカヌスはいつものように、真顔で彼女のことを見つめている。何を考えているかよく分からない、淡々とした表情だ。
「――――嘘の噂が広がっても構わないというのか? だが、婚約を破棄されたばかりだというのにそんな噂を流されては……しばらく次の結婚相手が見つからないぞ?」
「嘘じゃなくて事実にすれば良いんだろう?」
そう言ってヴァルカヌスはアグライヤの手を取った。太陽のように温かな手のひらがアグライヤを優しく包み込む。十年近く一緒に居て、初めて触れた互いの温もり。
「アグライヤ、俺と結婚しよう」
その瞬間、アグライヤは小さく息を呑んだ。
アグライヤは勢いよく頭を下げつつ、そう口にした。この場にいるのはアグライヤとヴァルカヌスの二人きり。話がしたいからと、他のメンバーには先に講義へと戻ってもらうことにしたのだ。
「アグライヤが謝る必要はないだろう」
そう口にしつつ、ヴァルカヌスは眉間に皺を寄せる。
「いや……全てわたしが悪いんだ。ウェヌス様は元々ああいう方なのに、つい頭に血が上ってしまった。勢いであんなことを口にして、本当に悪かったと思っている」
あの後ウェヌスは「そうと決まったら、早く皆に知らせないと」と言って、足早にその場を後にしてしまった。追いかけようとしたものの、ヴァルカヌス達に引き止められ、それっきりになってしまっている。
(そもそも婚約は家同士の話であって、当人同士の気持ちでどうにかなるようなものではない。というか今回は、わたしが勝手に婚約を宣言してしまっただけなのだし)
しかし、顔の広いウェヌスのこと。このままでは明日にも噂が広まってしまう。アグライヤは泣きたい気分でヴァルカヌスを見上げた。
「とにかく、噂が広まらないようすぐに根回しをしよう。今すぐウェヌス様の所に行けば――――」
「いや……俺はこのままで良いと思う」
その瞬間、アグライヤは驚きに目を見張った。ヴァルカヌスはいつものように、真顔で彼女のことを見つめている。何を考えているかよく分からない、淡々とした表情だ。
「――――嘘の噂が広がっても構わないというのか? だが、婚約を破棄されたばかりだというのにそんな噂を流されては……しばらく次の結婚相手が見つからないぞ?」
「嘘じゃなくて事実にすれば良いんだろう?」
そう言ってヴァルカヌスはアグライヤの手を取った。太陽のように温かな手のひらがアグライヤを優しく包み込む。十年近く一緒に居て、初めて触れた互いの温もり。
「アグライヤ、俺と結婚しよう」
その瞬間、アグライヤは小さく息を呑んだ。
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