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14.プライド激高の難攻不落令嬢は、王太子殿下に求婚される
2.
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そんなことがあった数日後のこと。アンナの元に王宮から遣いが来た。
呼び出しの主は、この国の王太子エヴァレット。アンナの二つ年上の二十歳で、まだ独身。婚約者も存在しない。
「いやいや、アンナには無理だろう」
そう口にしたのはアンナの両親だった。
公爵家という恵まれた家柄、これまでだって王族との婚姻話が出なかったわけではない。けれど、アンナの高すぎるプライドは、王族に対しても発揮されるに違いないと、両親が巧妙にはぐらかしてきたのである。
「まぁ、何故ですの? わたくし、立派にお話相手を務めて参りますのに」
アンナはそう言って、心底不思議そうに首を傾げた。
今回の名目は『お茶会』へのお誘いだ。王宮の用意したお茶を飲みながら、王子の話し相手を務めればそれで良い。
けれど、その裏にある意図は明白だった。
エヴァレット殿下が本気で花嫁を探している。それは、貴族ならば誰もが知る事実だからだ。
「アンナ、よ~~く考えなさい。相手は王族なのよ? いつものように、『あなた』が最上、ではダメなのよ?」
「そんなの当然ですわ。不敬扱いされるような真似、わたくしがするわけ無いじゃありませんか」
(((いや、アンナならやりかねない)))
両親とモーリスは、互いに顔を見合わせつつ、心の中でそう呟いた。
娘の粗相は即ち、自分たちの首に直結しうる。けれど、今回の招待はエヴァレット自身の手によるものだ。行かせないという選択肢も、正直言ってない。
ゴッドウィンオースティン家の面々は、何十回も何百回も声が出なくなる程時間をかけて、アンナに注意事項を説き続けたのだった。
***
それから数日後、アンナは一人、王宮のテラスを訪れていた。
「楽にしてくださいね。紅茶はお好きですか?」
「……ええ。ありがとうございます」
エヴァレットは噂に違わない、ほんわかした雰囲気の美男子だった。人懐っこく親しみやすい笑顔に、優雅で穏やかな声。アンナは思わずドギマギしてしまう。
これまでの婚約者候補たちは皆、ギラギラと瞳を光らせた自信家ばかりで。エヴァレットのようなタイプの人間と接する機会は、アンナには無かった。
「噂通り、アンナ様はとてもお美しいですね」
(当然ですわ)
アンナは思わずそう答えそうになって、必死に口を噤んだ。両親や兄たちの教えが辛うじて生きている。小さく咳ばらいをしつつ、アンナは穏やかに微笑んだ。
「ありがとうございます」
本当はお返しにエヴァレットを讃えるべきなのだろうが、アンナには他人を褒めるという概念がない。上手く言葉が出てこなくて、アンナは小さく眉間に皺を寄せた。
「おまけに、アンナ様はとても博識でいらっしゃるそうですね。僕はあまり勉強が得意ではなくて――――」
エヴァレットはそれから、色んな話題をアンナに振ってくれた。どんなに反応が乏しくても、アンナの好きそうな方向に話を持って行っては、言葉を引き出す努力をしてくれる。
おまけにエヴァレットは、アンナに対して終始、低姿勢を崩さなかった。
正式な王位継承権を持つ王族であるというのに、まるでアンナの方が上であるかのように振る舞い、常にニコニコと笑顔を忘れない。これにはアンナも、本気で驚いた。
「今日はアンナ様とお話ができて、とても楽しかったです」
帰り際、エヴァレットはそう言ってアンナの手を握った。その途端、アンナは頬を真っ赤に染める。これまで、どの婚約者候補たちにも身体を触らせたこと等無かった。このため、こういったことには耐性が全く無い。心臓がバクバクと鳴り響き、顔は真顔で硬直していた。
「また、僕と会っていただけませんか?」
「……はい、喜んで」
気づけば、アンナの口は勝手にそう動いていた。これまでの彼女にはとても考えられない受け答えだ。
帰りの馬車に揺られている間もずっと、アンナは夢見心地だった。
呼び出しの主は、この国の王太子エヴァレット。アンナの二つ年上の二十歳で、まだ独身。婚約者も存在しない。
「いやいや、アンナには無理だろう」
そう口にしたのはアンナの両親だった。
公爵家という恵まれた家柄、これまでだって王族との婚姻話が出なかったわけではない。けれど、アンナの高すぎるプライドは、王族に対しても発揮されるに違いないと、両親が巧妙にはぐらかしてきたのである。
「まぁ、何故ですの? わたくし、立派にお話相手を務めて参りますのに」
アンナはそう言って、心底不思議そうに首を傾げた。
今回の名目は『お茶会』へのお誘いだ。王宮の用意したお茶を飲みながら、王子の話し相手を務めればそれで良い。
けれど、その裏にある意図は明白だった。
エヴァレット殿下が本気で花嫁を探している。それは、貴族ならば誰もが知る事実だからだ。
「アンナ、よ~~く考えなさい。相手は王族なのよ? いつものように、『あなた』が最上、ではダメなのよ?」
「そんなの当然ですわ。不敬扱いされるような真似、わたくしがするわけ無いじゃありませんか」
(((いや、アンナならやりかねない)))
両親とモーリスは、互いに顔を見合わせつつ、心の中でそう呟いた。
娘の粗相は即ち、自分たちの首に直結しうる。けれど、今回の招待はエヴァレット自身の手によるものだ。行かせないという選択肢も、正直言ってない。
ゴッドウィンオースティン家の面々は、何十回も何百回も声が出なくなる程時間をかけて、アンナに注意事項を説き続けたのだった。
***
それから数日後、アンナは一人、王宮のテラスを訪れていた。
「楽にしてくださいね。紅茶はお好きですか?」
「……ええ。ありがとうございます」
エヴァレットは噂に違わない、ほんわかした雰囲気の美男子だった。人懐っこく親しみやすい笑顔に、優雅で穏やかな声。アンナは思わずドギマギしてしまう。
これまでの婚約者候補たちは皆、ギラギラと瞳を光らせた自信家ばかりで。エヴァレットのようなタイプの人間と接する機会は、アンナには無かった。
「噂通り、アンナ様はとてもお美しいですね」
(当然ですわ)
アンナは思わずそう答えそうになって、必死に口を噤んだ。両親や兄たちの教えが辛うじて生きている。小さく咳ばらいをしつつ、アンナは穏やかに微笑んだ。
「ありがとうございます」
本当はお返しにエヴァレットを讃えるべきなのだろうが、アンナには他人を褒めるという概念がない。上手く言葉が出てこなくて、アンナは小さく眉間に皺を寄せた。
「おまけに、アンナ様はとても博識でいらっしゃるそうですね。僕はあまり勉強が得意ではなくて――――」
エヴァレットはそれから、色んな話題をアンナに振ってくれた。どんなに反応が乏しくても、アンナの好きそうな方向に話を持って行っては、言葉を引き出す努力をしてくれる。
おまけにエヴァレットは、アンナに対して終始、低姿勢を崩さなかった。
正式な王位継承権を持つ王族であるというのに、まるでアンナの方が上であるかのように振る舞い、常にニコニコと笑顔を忘れない。これにはアンナも、本気で驚いた。
「今日はアンナ様とお話ができて、とても楽しかったです」
帰り際、エヴァレットはそう言ってアンナの手を握った。その途端、アンナは頬を真っ赤に染める。これまで、どの婚約者候補たちにも身体を触らせたこと等無かった。このため、こういったことには耐性が全く無い。心臓がバクバクと鳴り響き、顔は真顔で硬直していた。
「また、僕と会っていただけませんか?」
「……はい、喜んで」
気づけば、アンナの口は勝手にそう動いていた。これまでの彼女にはとても考えられない受け答えだ。
帰りの馬車に揺られている間もずっと、アンナは夢見心地だった。
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