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11.俺の話を聞いてくれますか?
2.
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「シュリ――――あなた、馬鹿なの?」
「へ?」
それは、父母から今回の件の開示を許可された、もう一人の人物から放たれた言葉だった。
父方の従姉妹であり、公爵令嬢のジェニュインだ。数年前、聖女の力に目覚めた彼女は、城内の一室で生活をしている。高齢出産の母のこと。今後彼女には色々と助けてもらうだろうからと、私から話をすることになったのだけれど。
「あなたが将来女王にならないってことは、レグラス様が王配になる道も無くなるってことでしょう?」
「えっ……? えぇ、まぁそうなるわね」
「そんなの、レグラス様にとっては地獄じゃない。折角これまで、王配になるために必死で努力してきたのに、ある日いきなり『別に後継者ができたから用済み』になった、ってことでしょう?」
「へ?」
正直言って私は、そんな風に考えたことが無かった。彼はいつも淡々としていて、努力とか苦労とか、そういう素振りを見せたことすら無かったから。
「お気楽なあなたは知らないかもしれないけど、相当大変らしいわよ。常に品行方正を求められる上、何でも一番にならなきゃならないし。折角モテるのに、世間の目があるから令嬢方との会話もままならない。彼が『冷たい』と囁かれるようになったのは、あなたの婚約者になったからだって専らの噂なんだから」
「そうなの⁉」
「そうよ。それだって、女王の配偶者になれると思えばこそ我慢できたんでしょうに……きっとレグラス様は落胆なさったはずよ。肝心なあなたは、彼の苦しみに寄り添うどころか、呑気に喜んでいるのだし」
ジェニュインの言葉が鋭利に私の胸に突き刺さる。
(言われてみれば、そうかも)
彼が私の婚約者に選ばれたのは、将来私が女王となった時に、配偶者として補佐ができると見込まれたからだ。周囲からのプレッシャーは私が思う以上に凄まじかっただろうし、その分、将来得られる王配という最高の身分への期待も大きかっただろう。
「私……レグラス様を傷つけてしまったのね。どうしよう、ジェニー? どうしたら良いと思う?」
過去に戻って無神経な言葉を取り消すことも、母が妊娠したという事実を変えることもできない。けれど、もしも私がレグラス様のために出来ることがあるなら――――。
「解放して差し上げたらどう?」
「え?」
ジェニュインはサラリと、そう口にした。
(解放?)
彼女の言わんとしたいことが分からず、私はそっと首を傾げる。
「婚約を破棄して、レグラス様をあなたから解放して差し上げるの。王配になれないなら、王女との結婚は重い鎖みたいなもの。他の令嬢と結婚した方がずっと良い筈よ。気楽だし、失われた青春も取り戻せるし」
「ジェニーが言うと……説得力がすごいわね」
ジェニュインの母親は、父の姉――――元王女だ。伯母に見初められた現公爵は、半ば押し切られる形で彼女と結婚する羽目になったらしいと、私も聞き及んでいる。王女との結婚は不自由なことが多い――――それが、二人の娘であるジェニュインが見た真実なのだろう。
「そっか……そうなのかもね」
滅多に感情を表に出さない人だからと――――私はそんな彼に甘えていたのかもしれない。レグラスの気持ちを考えようともしなかった。自分が彼の重荷になっているだなんて、想像したことも無かった。
(私はずっと――――自分が中心の世界に生きてきたんだ)
そう思い知る。
「ありがとうね、ジェニー」
そう伝えると、ジェニーは朗らかな笑顔を浮かべた。
「へ?」
それは、父母から今回の件の開示を許可された、もう一人の人物から放たれた言葉だった。
父方の従姉妹であり、公爵令嬢のジェニュインだ。数年前、聖女の力に目覚めた彼女は、城内の一室で生活をしている。高齢出産の母のこと。今後彼女には色々と助けてもらうだろうからと、私から話をすることになったのだけれど。
「あなたが将来女王にならないってことは、レグラス様が王配になる道も無くなるってことでしょう?」
「えっ……? えぇ、まぁそうなるわね」
「そんなの、レグラス様にとっては地獄じゃない。折角これまで、王配になるために必死で努力してきたのに、ある日いきなり『別に後継者ができたから用済み』になった、ってことでしょう?」
「へ?」
正直言って私は、そんな風に考えたことが無かった。彼はいつも淡々としていて、努力とか苦労とか、そういう素振りを見せたことすら無かったから。
「お気楽なあなたは知らないかもしれないけど、相当大変らしいわよ。常に品行方正を求められる上、何でも一番にならなきゃならないし。折角モテるのに、世間の目があるから令嬢方との会話もままならない。彼が『冷たい』と囁かれるようになったのは、あなたの婚約者になったからだって専らの噂なんだから」
「そうなの⁉」
「そうよ。それだって、女王の配偶者になれると思えばこそ我慢できたんでしょうに……きっとレグラス様は落胆なさったはずよ。肝心なあなたは、彼の苦しみに寄り添うどころか、呑気に喜んでいるのだし」
ジェニュインの言葉が鋭利に私の胸に突き刺さる。
(言われてみれば、そうかも)
彼が私の婚約者に選ばれたのは、将来私が女王となった時に、配偶者として補佐ができると見込まれたからだ。周囲からのプレッシャーは私が思う以上に凄まじかっただろうし、その分、将来得られる王配という最高の身分への期待も大きかっただろう。
「私……レグラス様を傷つけてしまったのね。どうしよう、ジェニー? どうしたら良いと思う?」
過去に戻って無神経な言葉を取り消すことも、母が妊娠したという事実を変えることもできない。けれど、もしも私がレグラス様のために出来ることがあるなら――――。
「解放して差し上げたらどう?」
「え?」
ジェニュインはサラリと、そう口にした。
(解放?)
彼女の言わんとしたいことが分からず、私はそっと首を傾げる。
「婚約を破棄して、レグラス様をあなたから解放して差し上げるの。王配になれないなら、王女との結婚は重い鎖みたいなもの。他の令嬢と結婚した方がずっと良い筈よ。気楽だし、失われた青春も取り戻せるし」
「ジェニーが言うと……説得力がすごいわね」
ジェニュインの母親は、父の姉――――元王女だ。伯母に見初められた現公爵は、半ば押し切られる形で彼女と結婚する羽目になったらしいと、私も聞き及んでいる。王女との結婚は不自由なことが多い――――それが、二人の娘であるジェニュインが見た真実なのだろう。
「そっか……そうなのかもね」
滅多に感情を表に出さない人だからと――――私はそんな彼に甘えていたのかもしれない。レグラスの気持ちを考えようともしなかった。自分が彼の重荷になっているだなんて、想像したことも無かった。
(私はずっと――――自分が中心の世界に生きてきたんだ)
そう思い知る。
「ありがとうね、ジェニー」
そう伝えると、ジェニーは朗らかな笑顔を浮かべた。
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