switch【D/Sユニバース】

楽川楽

文字の大きさ
上 下
9 / 16
第3章

しおりを挟む
 清宮の部屋に着くと、俺の躰はソファに下ろされた。

「ハジメ、そこに座りな」

 篠原はまるで何かに取り憑かれた様に黙って指示に従い、俺の横を一つ開けてソファに座った。

「腕、後ろに回して」
「え……」
「この首輪、お前に返してやるよ」
「ちょっ!」

 抵抗を見せた篠原だったけど、呆気なくその腕は後ろで拘束された。あの、漆黒の首輪によって。

「伊沢くん。床に膝ついて、後ろ向いて?」
「ん……」

 まだ中途半端にswitchがかかったままの俺は、とろんとした意識のまま清宮に従う。ソファの上で躰を反対に向けると、清宮はボタンが外れたままの俺のデニムを一気に膝上まで脱がした。粘ついた下着は、デニムと一緒に脱げてしまった。

「この子が誰のモノか、そこで指咥えて見てな」
「あっ、はっ、あァあ"ぁ"アッ!」

 その言葉を誰に向けて言ったのか、俺が理解するよりも早く清宮が俺の中へと侵入する。
 入口をぐちぐちと指で弄られていただけのそこは、多少キツくはあるがそれでも清宮を根元までしっかり飲み込んだ。

「伊沢くん、こっち見て?」

 ソファにしがみついていた両手を剥がされる。天井を仰ぐように首を傾けると、清宮がそれを覗き込んだ。

「switch、解くよ」

 その瞬間、躰に纏わりついていた重いものがスっと消えてなくなった。狭くなっていた視界も普通に戻る。その中で残されたのは、狂ってしまいそうな程の熱と清宮への、欲望。

「今からするのはプレイじゃない。それだけ…理解して」
「あっ、ああ"ぁ"あ、熱っ……ンあッ」

 無理に捩じ込んだそれが、中で馴染むのも待たずに動き始めた。余りの激しさに俺はまたソファにしがみつく。

「ンっ! ンっ! あっ! い"っ、ひっ……!」

 あのままswitchがかかっていれば、耐えられたかもしれない。けれど今は元に戻っているから、清宮の激しさに躰と感情がちぐはぐになって苦しい。

「もっ、ゆっく……ゆっくりっ」

 頼むから、もっとゆっくり。懇願するように振り向いて、片手を俺の腰を掴む清宮の手に重ねた。だけど、どうやらそれは逆効果になったみたいだ。

「ごめんッ、可愛すぎて……無理っ」
「ひぃいっ……ンンっ、んぅ"うッ!」

 重ねた方の手を軸に躰を持ち上げられ、両脇から腕を回された。膝立ちになった俺に清宮は激しく口付けて、そのまま躰を下から突き上げた。

「ンあぁあっ! あっ、ひゃあっ、あっ」

 上下に躰が揺れて、頭が揺れて、視界が揺れる。そんな中で、俺の目が何かを見つける。
 白いニットに包まれた細身の胴と、薄いベージュのパンツに通された長い足。そのバランスの良い躰の中心が、痛々しい程張り詰めている。
 持ち上げた視線の先で、躰の持ち主と目があった。

(あ……篠原……)

 けれどそれも一瞬のこと。俺の躰を支えていた腕に視界を遮られ、視界はあっと言う間に真っ黒に塗りつぶされる。

「俺以外、見ちゃダメ」
「あっ」

 貫かれたまま躰をぐるりと反対に向けられ、清宮と向き合う。そのまま深く口付けられて、俺はそれに夢中になった。
 今までどれだけ躰を合わせてきても、プレイの最中にキスをすることはなかった。キスは俺への〝ご褒美〟であり、俺をホッとさせるプレイ終了の合図だったからだ。だから一度たりとも、キスから始まる行為は無かった。けど……。
 始まりか与えられるキスに夢中になっていた。途中で与えられるキスに溺れていた。これでやっと行為が終わる、なんて意識は今、頭の中に微塵も浮かんでいなかった。

「きよみや……」

 キスの合間に音を零す。それを拾った余裕の無い清宮の顔に気分が良くなった。今までで一番、気持ちの良い瞬間だったかもしれない。
 その後も永遠、俺は清宮に躰を食い荒らされた。ソファから寝室へと移動させられ、それからまた貪られて。堪らず根を上げて、もう止めてくれと泣いても奴は止めてくれなかった。

「も、無理だって! やめっ」
「俺も無理」
「あっ! あっ、ちょ……見ろよ! ほら!」

 生理的なもので流れて止まらない涙を必死になって清宮に見せる。お前、俺が泣くのが一番苦手って言ってたろ!?

「うん、めちゃくちゃ可愛い」
「ちがぁああっ!」
「好き、大好き」
「バカッ、アホ! ひッ!? ひぃぃぃッ」

 どれだけ罵声を浴びせても清宮は笑うばかりで、結局俺が白目を剥いてブッ倒れるまで、アイツは腰を振り続けた。


 ◇


 カーテンの隙間から溢れる朝日に起こされた。
 怠い躰をなんとか持ち上げ起きると、その腰には俺じゃない別の誰かの腕が巻きついていた。

「うぜぇ……」

 憎まれ口を叩きながら、そっと腕の持ち主を盗み見る。
 こうしてコイツの寝顔を見るのは初めてかもしれない。いつも必ず俺より先に起きていたから。
 朝日を浴びてキラキラする男とか、ほんとなんなの。寝ていてもイケメンとか腹しか立たない。何となくイラッとして、腰に回っていた腕を叩き落とした。それでも起きずにぐっすりと眠る清宮を少しだけ見てから、俺は全裸のままベッドから腰を上げた。

「痛ってぇ……」

 酷使された躰はあちこち悲鳴をあげた。そりゃそうだ、あれだけガクガク揺さぶり回されれば筋肉痛にもなる。
 痛みに舌打ちをしながら、なんとか躰をリビングまで引きずって行って…、漸く俺は忘れ物に気付く。

「アンタ……まだ居たの」

 ソファの上でぐったりと横たわる塊は、昨日見た綺麗な女顔を見る影もなく窶れさせて俺を見た。

「……俺のこと、忘れすぎでしょ」
「あれ、首輪外せたんだ?」
「お前らが忘れるからっ、自分でなんとかしたんだよ!」

 昨日までの口調を崩し怒鳴る篠原に、へぇ…とだけ言葉を返す。だって、俺にはそれしか言えない。居心地悪くて何となく見回した部屋の中で、ふとゴミ箱が目に付いた。その横に置かれたボックスティッシュも。

「げ、アンタまさか、そこでオナったのかよ」

 小さめのゴミ箱に溢れる程入れられたティッシュのゴミ。ここで俺も飯食うのに、と眉間に皺を寄せて言えば、篠原はその目に涙を溜めて叫んだ。

「お前、ホント優しさの欠片もないヤツだね!」
「俺に優しさ求めるのが間違ってンだろ、アホじゃね」
「クズ! 服くらい着ろよ! クズ!」
「それ、アンタもだろ? 何でもかんでも清宮のを欲しがるクズ」

 恨めしそうな篠原を鼻で笑えば、奴は唇を噛んで言い放った。

「気付いてないみたいだから教えてやるけど、お前また首輪着けられてるからなッ」
「あ!?」

 慌てて首を触っても、そこにはなんの感触も無い。

「それは流石に俺でも外せない」
「はぁ……?」
「馬鹿だよねぇ、恋人なんかになっちゃってさ」

 言ってる意味が全く分からん。そんな訝しむ俺に、篠原は最後の爆弾を投下した。

「言っとくけど、元々D/Sパートナーはプレイでセックスなんかしないからね」
「え……?」
「当たり前でしょ? どこにパートナーとのセックスまで許す恋人がいるんだよ」
「でも俺、始めから清宮に……」
「よっぽど特殊な関係じゃない限り、D/Sでセックスなんてしないよ。そんなのノーマルな俺でも知ってる」

 お前、ちょっと無知すぎるよ。そう言って篠原が嘲笑う。
 その直後に全裸の俺が、清宮を叩き起こして罵詈雑言をぶっかけたのは言うまでもない。が、清宮がそんなことにへこたれる訳が無く。寧ろ……

「なぁにぃ、今更気付いたの? もぉ…ほんと鈍いんだからぁ。可愛い……」

 なんて言いながら第2ラウンド(2ラウンド!?)へ突入しようと尻に手をかけるから。

「テメッ、鬱陶しい!!」

 今までで一番強烈なビンタを清宮に食らわせることになった。それでもニヤニヤと笑い抱きついてくる清宮に、頭痛しか感じない。

「くっそ……覚えてろよ清宮ぁ……!」

 まるで負け犬の様なセリフを投げて逃げるように向かった大学で、俺の新しい〝首輪〟とやらがまたひと騒動起こすのだが、この時の俺はまだ知る由もない。


 首の周りにぐるりと回る、紅や紫の歪な形で作られた新しい首輪は。この日から消える間もなく、常に清宮によって鮮やかさを保たれることになる。
 だが今の俺は、まだそんな清宮から逃げ出す術を、見つけられずにいるのだ。


END
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

俺の推しが幼馴染でアイドルでメンヘラ

ベポ田
BL
あの時引っ越してきたイケメン幼馴染が今はアイドルで俺の推し。ただしクソメンヘラ 橙矢将生(とうや まさき) 大人気アイドルグループの王子様担当。俳優業に力を入れる国民的スターだが、裏ではクソメンヘラの人間不信を拗らせている。睡眠薬が手放せない。 今村颯真(いまむら そうま) 橙矢の幼馴染であり将生くんの厄介過激派オタク。鍵垢で将生くんの動向を追ってはシコシコ感想やレポを呟いている。

ヤンデレBL作品集

みるきぃ
BL
主にヤンデレ攻めを中心としたBL作品集となっています。

【R18】【BL】嫉妬で狂っていく魔法使いヤンデレの話

ペーパーナイフ
BL
魔法使いのノエルには欲しい物が何もなかった。美しい容姿、金、権力、地位、魔力すべてが生まれ持って与えられていたからだ。 ある日友達に誘われてオーティファクトという美男美女が酒を振る舞う酒場へ足を運ぶ。その店で出会った異世界人の青年ヒビキに恋をした。 彼は不吉なこの黒い髪も、赤い瞳でさえも美しいと言ってくれた。ヒビキと出会って初めて、生きていて楽しいと思えた。俺はもう彼なしでは生きていけない。 素直で明るい彼にノエルはどんどんハマっていく。そしていつの間にか愛情は独占欲に変わっていった。 ヒビキが別の男と付き合うことを知りノエルは禁断の黒魔術を使ってしまうが…。 だんだん狂っていくヤンデレ攻め視点の話です。2万文字程度の短編(全12話ぐらい) 注意⚠ 最後に性描写あり(妊娠リバなし本番) メリバです

大親友に監禁される話

だいたい石田
BL
孝之が大親友の正人の家にお泊りにいくことになった。 目覚めるとそこは大型犬用の檻だった。 R描写はありません。 トイレでないところで小用をするシーンがあります。 ※この作品はピクシブにて別名義にて投稿した小説を手直ししたものです。

変なαとΩに両脇を包囲されたβが、色々奪われながら頑張る話

ベポ田
BL
ヒトの性別が、雄と雌、さらにα、β、Ωの三種類のバース性に分類される世界。総人口の僅か5%しか存在しないαとΩは、フェロモンの分泌器官・受容体の発達度合いで、さらにI型、II型、Ⅲ型に分類される。 βである主人公・九条博人の通う私立帝高校高校は、αやΩ、さらにI型、II型が多く所属する伝統ある名門校だった。 そんな魔境のなかで、変なI型αとII型Ωに理不尽に執着されては、色々な物を奪われ、手に入れながら頑張る不憫なβの話。 イベントにて頒布予定の合同誌サンプルです。 3部構成のうち、1部まで公開予定です。 イラストは、漫画・イラスト担当のいぽいぽさんが描いたものです。 最新はTwitterに掲載しています。

overdose

水姫
BL
「ほら、今日の分だよ」 いつも通りの私と喜んで受けとる君。 この関係が歪みきっていることなんてとうに分かってたんだ。それでも私は… 5/14、1時間に1話公開します。 6時間後に完結します。 安心してお読みください。

【報告】こちらサイコパスで狂った天使に犯され続けているので休暇申請を提出する!

しろみ
BL
西暦8031年、天使と人間が共存する世界。飛行指導官として働く男がいた。彼の見た目は普通だ。どちらかといえばブサ...いや、なんでもない。彼は不器用ながらも優しい男だ。そんな男は大輪の花が咲くような麗しい天使にえらく気に入られている。今日も今日とて、其の美しい天使に攫われた。なにやらお熱くやってるらしい。私は眉間に手を当てながら報告書を読んで[承認]の印を押した。 ※天使×人間。嫉妬深い天使に病まれたり求愛されたり、イチャイチャする話。

平凡腐男子なのに美形幼馴染に告白された

うた
BL
平凡受けが地雷な平凡腐男子が美形幼馴染に告白され、地雷と解釈違いに苦悩する話。 ※作中で平凡受けが地雷だと散々書いていますが、作者本人は美形×平凡をこよなく愛しています。ご安心ください。 ※pixivにも投稿しています

処理中です...