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7章
決別
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「美味い……!」
「よかった。そこ、美味しいって評判らしいんです」
店に戻った俺たちは、1日遅れの誕生日を祝っていた。
「お前も食べろよ。さっきから俺ばっかり食べてるじゃないか」
「俺はいいですよ。星川さんのケーキですし」
「俺にワンホール食えって言うのか?いいから食べろって、ほら」
フォークをこちらに差し出す星川さんからは、先ほどまでの悲しみはすっかり消えていた。
「ん、美味い」
「だろ。やっぱりこっちのケーキにして良かっただろ」
「フルーツがたくさんのったケーキもあったのに……まあ、星川さんがいいならいいです」
「やっぱり誕生日ならイチゴだけのったシンプルなショートケーキが一番だろ」
「はいはい」
「ニャア」
「マサムネにはあげられないな。代わりにカリカリで我慢してくれ」
「ニャ……」
俺が買ってきたワインを片手にケーキを頬張る星川さんは、いつもよりもテンションが高い。今も寄ってきたマサムネに表情を緩ませながら、わしゃわしゃと撫でている。
「その辺にしてあげてくださいよ。グラス、落としますよ」
「ん……」
傾いていたグラスを受け取ると、星川さんはそっと俺にもたれかかってきた。
「……なあ、柳瀬」
「なんですか?」
「俺、お前がいるとどんどん変になる気がする」
どきりと胸が跳ねる。
「変、ですか?」
「ああ。こう、なんと言うかいつもの俺じゃなくなるというか、お前には俺の事誤解してほしくないというか……良く分からないけど、そんな気持ちになるんだ」
「それ、は」
ああ、この人はどこまで俺を惑わせるつもりなのだろうか。
今すぐ好きだと伝えたい。
そしてこの無防備な人を押し倒して、俺だけの事しか考えられなくさせたい。
だけど、そんなことをすれば星川さんは俺の元から今度こそ離れて行ってしまうだろう。
星川さんは俺の事を信じて、そして頼りにしてくれているのだ。
それを自らの手で壊すようなことはしたくない。
(でも……)
「星川さん」
「なんだ?」
「キス、していいですか?」
せめてこれぐらいは許されるだろうか?
「それはっ……ダメ、だ」
俺の言葉に顔を赤く染めながら距離を取る星川さんに、俺はジリジリと間合いを詰めていく。
「もう酔ってるのか⁉」
「酔ってないですよ。なんでダメなんですか?」
「だってそれは……お前は男、で」
「星川さんは男でもいいんですよね?」
「し、仕事仲間だし」
「もう仕事は終わりました」
「そ、それに年下だし!」
「それって」
「あっ……」
ソファのひじ掛けに背が当たり、逃げられなくなった星川さんが小さく声を上げる。
あと少し動けば、互いの吐息を感じられるほどに顔を寄せながら、俺は耳元で囁いた。
「今、関係あります?」
「っ……!」
目を見開く星川さんにゆっくりと顔を近づける。
そして、互いの唇が触れそうになった瞬間。
プルルルr……
突然、星川さんの電話が鳴った。
携帯をちらりと見た星川さんの顔がサッと青ざめる。
「……翔真だ」
「出なくていいです。もう関わりたくないんですよね?」
「だけど、急に連絡が来るなんてあいつらしくない。もしかしたら何かあったのかも」
「だとしても、こんな夜遅くに連絡が来るなんておかしいです」
電話は7コールを最後に切れた。だが、またすぐにかかってくる。
「で、出なきゃ」
「待っ」
俺が携帯を奪うよりも早く、星川さんが通話ボタンを押した。
《遅い》
「ご、ごめん。今手が離せなくて」
《お前、今店にいるだろ。開けろ》
「で、でも……」
《なんだよ?なにか俺に見せられないものでもあるのか》
「そう言う訳じゃ……」
《なら開けろよ。じゃないと……分かってるよな?》
ブツリ
「あいつはなんて?」
「今店の前にいるって。開けないとまた殴られるかもしれない……どうしよう、ここにいたらお前まであいつに殴られる……っ」
「星川さん、落ち着いてください」
青白い顔をさらに白くしながら、パニックになる星川さんの肩を掴む。
「店の入り口以外に出口はありますか?」
「ない……」
「なら、俺はここにいます。もし俺がいて星川さんが困るなら隠れておきます。何かあったらすぐに助けられるように」
「だけど、」
泣きそうな顔で俺を見る星川さんを、できるだけ安心させるように俺は笑った。
「大丈夫です。俺を頼ってって言ったでしょう?今度こそ、俺に守らせてください」
「……ああ、分かった。ありがとう……」
俺は部屋を見回すと、部屋の隅にあったクローゼットに隠れた。クローゼットの中は薄暗く、わずかな隙間から部屋が見える。
(視界が悪いな……なにかあったらすぐに飛び出せるようにしておこう)
星川さんは俺が隠れるクローゼットを見て気合を入れるように息をつくと、ゆっくりと階段を降りていった。
ガチャ
「ったく、お前はいつもどんくさいな。ただ扉を開けるだけなのに、こんなに待たせやがって」
「ご、ごめん……」
部屋に入るなり嫌味を言う滝沢に対して怯えるように謝る。そんな星川さんの姿に胸が締め付けられる。
「ん、ケーキ?何でこんなものがここに?」
「これは、昨日誕生日だったから」
「あ?だれの」
「俺の……」
(あいつ……星川さんとヨリを戻したいって言っていたくせに、誕生日も覚えてないのかよ)
滝沢はちらりとテーブルに置かれたケーキを見て、馬鹿にしたように笑う。
「へぇ、それであいつに祝ってもらってたのか」
「な、何でそれを……」
「グラスが2つあるのに分からないわけないだろ。本当にお前は俺をイラつかせるのが上手いよな、いっそ感心するよ」
目を見開く星川さんに、眉間に皴を寄せながら滝沢が詰め寄る。
「お前が俺とフランスに戻るのを渋るから、俺が必死にお前のためにあちこち手をまわして帰りやすくしてやっている時に、お前はあいつと乳繰り合ってたってわけか」
「あいつとはそんな関係じゃ……!」
「俺がここに来なくてなって安心していたのか?残念だったな、俺はお前を諦めてないし、お前も俺を忘れることなんて出来ないんだよ!」
滝沢は星川さんの首を片手で絞めると、ぎりりと力を入れる。
「ぐっ」
「このくそビッチが……誰のおかげでフランスでやって来れたと思ってんだ!誰がお前を守ってやっていたと思ってる!ああ⁉」
「は、離せ……!」
「お前が周りに馴染めないと俺に縋りついてきたときもあったな?アジア人だからと虐められていた時もそうだ!全部、俺がカバーしてやってたんだろうが!」
「……っ……うぅ」
「お前なんか俺がいないと何も出来ないくせに!なのに勝手に俺の傍から離れて、自分は日本で全部忘れたみたいな顔しやがって!」
「っあ……!」
滝沢はそう叫ぶと、星川さんをテーブルに押し倒した。
テーブルに置いていた食器は鋭い音を立てて落ち、割れた破片が床に散らばる。
破片など気にも留めていないのか、柳瀬は背を打ち付けた痛みに呻く星川さんに近づくと、力任せにシャツを引き裂いた。布を引き裂くような音と飛び散ったボタンがこれから起こることを暗に示す。
「ヤらせろ」
「や、やだ……!」
(なっ⁉)
「お前が誰のものなのか、もう一度分からせてやるよ!」
そう言うと、滝沢は拳を振り上げて星川さんに殴りかかった。
「や、柳瀬っ!」
悲痛な叫び声にクローゼットから飛び出した俺は、星川さんを庇うように立ちふさがった。
ガツッ
骨の当たる音と同時に、ぐらりと脳が揺れる。口の中が切れたのか、じわりと血の味が広がる。
「ってぇ……」
「や、なせ?」
「お前、何でここに⁉」
「大丈夫ですか?」
「俺は大丈夫……だけど、血が……!」
「あんた、好きだった相手を殴るなんて最低だな」
俺は星川さんの前に立つと、滝沢を睨みつけた。
「星川さんはあんたのモノじゃない。ましてや、あんたがいないと何もできないほど弱い人間じゃない!」
「なんだと⁉」
「この人はな、日本に戻ってきてから一生懸命に店を出して、ようやくコレクションに出すほど注目されるようになったんだ!」
「全部、星川さんの調香師としての才能が世間に認められただけのことだ。あんたがいたから出来たことじゃない」
「うるせえ!部外者が口を出してくるな!」
俺は滝沢を見ながら、馬鹿にしたように笑う。
「なあ、あんたは一度でも、この人が仕事をする様を見たのかよ?」
「なに⁉」
「見てないよな。お前はいつも星川さん個人しか見てなかった」
「だけど俺は違う」
「俺はずっと見てきた。星川さんはどのお客に対しても、誠実にそして真摯に向き合ってきた。どんな仕事も完璧に、常にお客の事を第一に考えて調香していた」
「俺は調香の事は何も分からない……でも、そんな俺でも1つだけ分かることがある」
「黙れよ!」
俺の言葉に苛立った様子の滝沢が、力任せに俺の胸倉を掴む。
でも、俺は怯まなかった。
星川さんの努力を、人生を、こいつに渡すわけにはいかない。
「この人は……星川さんは」
「誰よりも真面目で、そして純粋に調香師としてやってるんだ」
「それを見てねぇお前が、連れて帰るなんて言うんじゃねえ!」
「柳瀬……」
「なんなんだよ……お前は悠貴のなんなんだ!」
俺の言葉に、滝沢が髪をぐしゃりと手で崩しながら叫ぶ。
「俺は……この人を幸せにしたいだけの男だ」
「あんたみたいに星川さんを悲しませたり、苦しませたりしたくないだけだ!」
俺は貴方に笑っていてほしい。
そして、もしも許されるのならその隣に俺を置いてほしい。
たとえ恋が報われないとしても、俺はそれだけで幸せになれるのだから。
「よかった。そこ、美味しいって評判らしいんです」
店に戻った俺たちは、1日遅れの誕生日を祝っていた。
「お前も食べろよ。さっきから俺ばっかり食べてるじゃないか」
「俺はいいですよ。星川さんのケーキですし」
「俺にワンホール食えって言うのか?いいから食べろって、ほら」
フォークをこちらに差し出す星川さんからは、先ほどまでの悲しみはすっかり消えていた。
「ん、美味い」
「だろ。やっぱりこっちのケーキにして良かっただろ」
「フルーツがたくさんのったケーキもあったのに……まあ、星川さんがいいならいいです」
「やっぱり誕生日ならイチゴだけのったシンプルなショートケーキが一番だろ」
「はいはい」
「ニャア」
「マサムネにはあげられないな。代わりにカリカリで我慢してくれ」
「ニャ……」
俺が買ってきたワインを片手にケーキを頬張る星川さんは、いつもよりもテンションが高い。今も寄ってきたマサムネに表情を緩ませながら、わしゃわしゃと撫でている。
「その辺にしてあげてくださいよ。グラス、落としますよ」
「ん……」
傾いていたグラスを受け取ると、星川さんはそっと俺にもたれかかってきた。
「……なあ、柳瀬」
「なんですか?」
「俺、お前がいるとどんどん変になる気がする」
どきりと胸が跳ねる。
「変、ですか?」
「ああ。こう、なんと言うかいつもの俺じゃなくなるというか、お前には俺の事誤解してほしくないというか……良く分からないけど、そんな気持ちになるんだ」
「それ、は」
ああ、この人はどこまで俺を惑わせるつもりなのだろうか。
今すぐ好きだと伝えたい。
そしてこの無防備な人を押し倒して、俺だけの事しか考えられなくさせたい。
だけど、そんなことをすれば星川さんは俺の元から今度こそ離れて行ってしまうだろう。
星川さんは俺の事を信じて、そして頼りにしてくれているのだ。
それを自らの手で壊すようなことはしたくない。
(でも……)
「星川さん」
「なんだ?」
「キス、していいですか?」
せめてこれぐらいは許されるだろうか?
「それはっ……ダメ、だ」
俺の言葉に顔を赤く染めながら距離を取る星川さんに、俺はジリジリと間合いを詰めていく。
「もう酔ってるのか⁉」
「酔ってないですよ。なんでダメなんですか?」
「だってそれは……お前は男、で」
「星川さんは男でもいいんですよね?」
「し、仕事仲間だし」
「もう仕事は終わりました」
「そ、それに年下だし!」
「それって」
「あっ……」
ソファのひじ掛けに背が当たり、逃げられなくなった星川さんが小さく声を上げる。
あと少し動けば、互いの吐息を感じられるほどに顔を寄せながら、俺は耳元で囁いた。
「今、関係あります?」
「っ……!」
目を見開く星川さんにゆっくりと顔を近づける。
そして、互いの唇が触れそうになった瞬間。
プルルルr……
突然、星川さんの電話が鳴った。
携帯をちらりと見た星川さんの顔がサッと青ざめる。
「……翔真だ」
「出なくていいです。もう関わりたくないんですよね?」
「だけど、急に連絡が来るなんてあいつらしくない。もしかしたら何かあったのかも」
「だとしても、こんな夜遅くに連絡が来るなんておかしいです」
電話は7コールを最後に切れた。だが、またすぐにかかってくる。
「で、出なきゃ」
「待っ」
俺が携帯を奪うよりも早く、星川さんが通話ボタンを押した。
《遅い》
「ご、ごめん。今手が離せなくて」
《お前、今店にいるだろ。開けろ》
「で、でも……」
《なんだよ?なにか俺に見せられないものでもあるのか》
「そう言う訳じゃ……」
《なら開けろよ。じゃないと……分かってるよな?》
ブツリ
「あいつはなんて?」
「今店の前にいるって。開けないとまた殴られるかもしれない……どうしよう、ここにいたらお前まであいつに殴られる……っ」
「星川さん、落ち着いてください」
青白い顔をさらに白くしながら、パニックになる星川さんの肩を掴む。
「店の入り口以外に出口はありますか?」
「ない……」
「なら、俺はここにいます。もし俺がいて星川さんが困るなら隠れておきます。何かあったらすぐに助けられるように」
「だけど、」
泣きそうな顔で俺を見る星川さんを、できるだけ安心させるように俺は笑った。
「大丈夫です。俺を頼ってって言ったでしょう?今度こそ、俺に守らせてください」
「……ああ、分かった。ありがとう……」
俺は部屋を見回すと、部屋の隅にあったクローゼットに隠れた。クローゼットの中は薄暗く、わずかな隙間から部屋が見える。
(視界が悪いな……なにかあったらすぐに飛び出せるようにしておこう)
星川さんは俺が隠れるクローゼットを見て気合を入れるように息をつくと、ゆっくりと階段を降りていった。
ガチャ
「ったく、お前はいつもどんくさいな。ただ扉を開けるだけなのに、こんなに待たせやがって」
「ご、ごめん……」
部屋に入るなり嫌味を言う滝沢に対して怯えるように謝る。そんな星川さんの姿に胸が締め付けられる。
「ん、ケーキ?何でこんなものがここに?」
「これは、昨日誕生日だったから」
「あ?だれの」
「俺の……」
(あいつ……星川さんとヨリを戻したいって言っていたくせに、誕生日も覚えてないのかよ)
滝沢はちらりとテーブルに置かれたケーキを見て、馬鹿にしたように笑う。
「へぇ、それであいつに祝ってもらってたのか」
「な、何でそれを……」
「グラスが2つあるのに分からないわけないだろ。本当にお前は俺をイラつかせるのが上手いよな、いっそ感心するよ」
目を見開く星川さんに、眉間に皴を寄せながら滝沢が詰め寄る。
「お前が俺とフランスに戻るのを渋るから、俺が必死にお前のためにあちこち手をまわして帰りやすくしてやっている時に、お前はあいつと乳繰り合ってたってわけか」
「あいつとはそんな関係じゃ……!」
「俺がここに来なくてなって安心していたのか?残念だったな、俺はお前を諦めてないし、お前も俺を忘れることなんて出来ないんだよ!」
滝沢は星川さんの首を片手で絞めると、ぎりりと力を入れる。
「ぐっ」
「このくそビッチが……誰のおかげでフランスでやって来れたと思ってんだ!誰がお前を守ってやっていたと思ってる!ああ⁉」
「は、離せ……!」
「お前が周りに馴染めないと俺に縋りついてきたときもあったな?アジア人だからと虐められていた時もそうだ!全部、俺がカバーしてやってたんだろうが!」
「……っ……うぅ」
「お前なんか俺がいないと何も出来ないくせに!なのに勝手に俺の傍から離れて、自分は日本で全部忘れたみたいな顔しやがって!」
「っあ……!」
滝沢はそう叫ぶと、星川さんをテーブルに押し倒した。
テーブルに置いていた食器は鋭い音を立てて落ち、割れた破片が床に散らばる。
破片など気にも留めていないのか、柳瀬は背を打ち付けた痛みに呻く星川さんに近づくと、力任せにシャツを引き裂いた。布を引き裂くような音と飛び散ったボタンがこれから起こることを暗に示す。
「ヤらせろ」
「や、やだ……!」
(なっ⁉)
「お前が誰のものなのか、もう一度分からせてやるよ!」
そう言うと、滝沢は拳を振り上げて星川さんに殴りかかった。
「や、柳瀬っ!」
悲痛な叫び声にクローゼットから飛び出した俺は、星川さんを庇うように立ちふさがった。
ガツッ
骨の当たる音と同時に、ぐらりと脳が揺れる。口の中が切れたのか、じわりと血の味が広がる。
「ってぇ……」
「や、なせ?」
「お前、何でここに⁉」
「大丈夫ですか?」
「俺は大丈夫……だけど、血が……!」
「あんた、好きだった相手を殴るなんて最低だな」
俺は星川さんの前に立つと、滝沢を睨みつけた。
「星川さんはあんたのモノじゃない。ましてや、あんたがいないと何もできないほど弱い人間じゃない!」
「なんだと⁉」
「この人はな、日本に戻ってきてから一生懸命に店を出して、ようやくコレクションに出すほど注目されるようになったんだ!」
「全部、星川さんの調香師としての才能が世間に認められただけのことだ。あんたがいたから出来たことじゃない」
「うるせえ!部外者が口を出してくるな!」
俺は滝沢を見ながら、馬鹿にしたように笑う。
「なあ、あんたは一度でも、この人が仕事をする様を見たのかよ?」
「なに⁉」
「見てないよな。お前はいつも星川さん個人しか見てなかった」
「だけど俺は違う」
「俺はずっと見てきた。星川さんはどのお客に対しても、誠実にそして真摯に向き合ってきた。どんな仕事も完璧に、常にお客の事を第一に考えて調香していた」
「俺は調香の事は何も分からない……でも、そんな俺でも1つだけ分かることがある」
「黙れよ!」
俺の言葉に苛立った様子の滝沢が、力任せに俺の胸倉を掴む。
でも、俺は怯まなかった。
星川さんの努力を、人生を、こいつに渡すわけにはいかない。
「この人は……星川さんは」
「誰よりも真面目で、そして純粋に調香師としてやってるんだ」
「それを見てねぇお前が、連れて帰るなんて言うんじゃねえ!」
「柳瀬……」
「なんなんだよ……お前は悠貴のなんなんだ!」
俺の言葉に、滝沢が髪をぐしゃりと手で崩しながら叫ぶ。
「俺は……この人を幸せにしたいだけの男だ」
「あんたみたいに星川さんを悲しませたり、苦しませたりしたくないだけだ!」
俺は貴方に笑っていてほしい。
そして、もしも許されるのならその隣に俺を置いてほしい。
たとえ恋が報われないとしても、俺はそれだけで幸せになれるのだから。
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