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6章
真実
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昼間のカフェは、課題に追われる大学生やコーヒー片手に仕事をするサラリーマンで賑わっていた。
「やっほ~、悠貴君。呼び出してごめんね」
「大丈夫だ。今日はやることもなくて暇だったからな」
俺はひらりと手を振る八代を見つけると、目の前の椅子に座った。
最悪の誕生日を迎えた翌日。
俺は八代に呼び出され、美容院近くのカフェに来ていた。
「それよりも何かあったのか?」
「……うん、まあね。ちょっと聞きたいことがあって」
八代は言いずらそうに口を開きながら、伺うようにこちらを見た。
「昨日何かあった?」
「……なんでだ」
「いや、何もなかったならいいんだ。ただ、昨日は大地君しか帰ってこなかったから、二人の間に何かあったのかと思ったんだ」
八代には、何度か柳瀬と一緒にシェアハウスに戻ってくる姿を見られていた。だからこそ、帰ってこなかった俺と柳瀬の間に何かあったのだと感づいたのだろう。
だがそれも、すべて過去の事だ。
「そうか。でも、別に八代に心配されるようなことはなにもない。話がそれだけなら、俺は戻るぞ」
俺はそう言うと、持っていたレシートを掴むと席を立ち、八代に背を向けた。
「柳瀬君、落ち込んでたんだ」
その言葉に思わず足が止まる。
「帰ってきてからずっとリビングに座っててさ。声をかけても「約束を守れなかった俺が悪いんです」って」
八代は思い出すかのように腕を組むと、椅子にぎしりともたれかかった。
「……あいつは何か言っていたか?」
「柳瀬君、大事な約束に向かう途中に、担当している子が急変したって連絡が来たらしいんだ」
「それで相手に遅れる旨の連絡を入れて急いで戻ったらしいんだけど、先生は来ないわでてんやわんやだったらしい。ようやくひと段落して確認したら、メッセージは誤って別の人に送信していた」
「それに気づいて急いで向かっている途中に、今度は女の子に捕まっちゃったんだ」
「女だと?」
「なんでも前に遊んだ子だったらしいんだけどね。どうやら柳瀬君のことを気に入っちゃったらしくて、一緒に飲んでくれないと離さないと、泣くわ喚くわで大変だったらしい」
八代は苦笑いをすると、机に置いていたコーヒーを一口飲んだ。
「ほら柳瀬君って、普段は何も気にしてませんよって態度だけど、実は案外誰に対しても優しいじゃない?それで、置いても行けずに強引にバーに連れて行かれたんだって」
「まあ結局、お友達に女の子を預けて、飲まずにすぐに出たらしいんだけどね」
「……それで?」
「結局相手と会えたのは約束の時間を大幅に過ぎてから。しかも女の子と一緒にいたって誤解されて、そのまま門前払いを食らったらしい」
(あいつが女と遊んでない……?)
俺は八代の話を聞いても、まだ信じられなかった。
「そんなの、ただ単にあいつが悪いだけだろ。メッセージの件も女の件も、あいつがちゃんとしていれば防げたはずだ。それにあいつの話が本当かどうかなんて、誰も分からないじゃないか」
(そうだ……あいつが嘘をつくことだって……)
「でも、柳瀬君はそんな嘘をつくような人間だと思う?」
八代の言葉に、昨日からもやついていた頭が急にクリアになる。
「いや……あいつはそんな嘘をつくような奴じゃない」
「俺もそう思うよ。それにしても、柳瀬君のあの落ち込む姿、よっぽど大切な人の用事だったんだろうなぁ……」
「大切な人……」
「そうだよ。まだ少ししか一緒に住んでないけど、あんなに楽しそうに計画を立てていた柳瀬君は初めて見たからね」
(あいつがそんなに楽しみに?)
「柳瀬君なら、今水族館を出たみたいだよ」
「え?」
「今から帰れば会えるんじゃないかな?」
携帯を見ていた八代さんがニコリと笑う。
もしも。
今までの話が、本当のことだとしたら。
あいつはただただ俺の誕生日を祝う事だけを考えて、急いで来てくれてたとしたら。
俺はあいつになんて酷いことをしてしまったんだろう。
「俺、帰らないと」
「うん、俺はまだここにいるから」
「ありがとうな、八代」
「何のことかな~?俺はただ気になったことを話しただけだよ」
ひらりと手を振る八代に背を向け、俺は走り出した。
足早に去っていく姿を見ながら、俺はぬるくなったコーヒーを飲んだ。
さっきまで悠貴君が座っていた席に、男が座る。
「……あれでよかったのか?もしかしたら余計に拗れるかもしれないぞ」
「まあね。でも、結局は自分たちで解決しなきゃ。それに……」
目の前の男の指にそっと指を絡ませる。
「悠貴君なら俺たちの関係に気づくかもしれない。でも、俺としてはまだ2人には秘密にしておきたいんだ」
「悪い隣人だな……誠」
「お互い様だろ、晴臣」
俺がそう言うと、目の前の男_もとい、浅見 晴臣はこちらを見ながらにやりと笑った。
「やっほ~、悠貴君。呼び出してごめんね」
「大丈夫だ。今日はやることもなくて暇だったからな」
俺はひらりと手を振る八代を見つけると、目の前の椅子に座った。
最悪の誕生日を迎えた翌日。
俺は八代に呼び出され、美容院近くのカフェに来ていた。
「それよりも何かあったのか?」
「……うん、まあね。ちょっと聞きたいことがあって」
八代は言いずらそうに口を開きながら、伺うようにこちらを見た。
「昨日何かあった?」
「……なんでだ」
「いや、何もなかったならいいんだ。ただ、昨日は大地君しか帰ってこなかったから、二人の間に何かあったのかと思ったんだ」
八代には、何度か柳瀬と一緒にシェアハウスに戻ってくる姿を見られていた。だからこそ、帰ってこなかった俺と柳瀬の間に何かあったのだと感づいたのだろう。
だがそれも、すべて過去の事だ。
「そうか。でも、別に八代に心配されるようなことはなにもない。話がそれだけなら、俺は戻るぞ」
俺はそう言うと、持っていたレシートを掴むと席を立ち、八代に背を向けた。
「柳瀬君、落ち込んでたんだ」
その言葉に思わず足が止まる。
「帰ってきてからずっとリビングに座っててさ。声をかけても「約束を守れなかった俺が悪いんです」って」
八代は思い出すかのように腕を組むと、椅子にぎしりともたれかかった。
「……あいつは何か言っていたか?」
「柳瀬君、大事な約束に向かう途中に、担当している子が急変したって連絡が来たらしいんだ」
「それで相手に遅れる旨の連絡を入れて急いで戻ったらしいんだけど、先生は来ないわでてんやわんやだったらしい。ようやくひと段落して確認したら、メッセージは誤って別の人に送信していた」
「それに気づいて急いで向かっている途中に、今度は女の子に捕まっちゃったんだ」
「女だと?」
「なんでも前に遊んだ子だったらしいんだけどね。どうやら柳瀬君のことを気に入っちゃったらしくて、一緒に飲んでくれないと離さないと、泣くわ喚くわで大変だったらしい」
八代は苦笑いをすると、机に置いていたコーヒーを一口飲んだ。
「ほら柳瀬君って、普段は何も気にしてませんよって態度だけど、実は案外誰に対しても優しいじゃない?それで、置いても行けずに強引にバーに連れて行かれたんだって」
「まあ結局、お友達に女の子を預けて、飲まずにすぐに出たらしいんだけどね」
「……それで?」
「結局相手と会えたのは約束の時間を大幅に過ぎてから。しかも女の子と一緒にいたって誤解されて、そのまま門前払いを食らったらしい」
(あいつが女と遊んでない……?)
俺は八代の話を聞いても、まだ信じられなかった。
「そんなの、ただ単にあいつが悪いだけだろ。メッセージの件も女の件も、あいつがちゃんとしていれば防げたはずだ。それにあいつの話が本当かどうかなんて、誰も分からないじゃないか」
(そうだ……あいつが嘘をつくことだって……)
「でも、柳瀬君はそんな嘘をつくような人間だと思う?」
八代の言葉に、昨日からもやついていた頭が急にクリアになる。
「いや……あいつはそんな嘘をつくような奴じゃない」
「俺もそう思うよ。それにしても、柳瀬君のあの落ち込む姿、よっぽど大切な人の用事だったんだろうなぁ……」
「大切な人……」
「そうだよ。まだ少ししか一緒に住んでないけど、あんなに楽しそうに計画を立てていた柳瀬君は初めて見たからね」
(あいつがそんなに楽しみに?)
「柳瀬君なら、今水族館を出たみたいだよ」
「え?」
「今から帰れば会えるんじゃないかな?」
携帯を見ていた八代さんがニコリと笑う。
もしも。
今までの話が、本当のことだとしたら。
あいつはただただ俺の誕生日を祝う事だけを考えて、急いで来てくれてたとしたら。
俺はあいつになんて酷いことをしてしまったんだろう。
「俺、帰らないと」
「うん、俺はまだここにいるから」
「ありがとうな、八代」
「何のことかな~?俺はただ気になったことを話しただけだよ」
ひらりと手を振る八代に背を向け、俺は走り出した。
足早に去っていく姿を見ながら、俺はぬるくなったコーヒーを飲んだ。
さっきまで悠貴君が座っていた席に、男が座る。
「……あれでよかったのか?もしかしたら余計に拗れるかもしれないぞ」
「まあね。でも、結局は自分たちで解決しなきゃ。それに……」
目の前の男の指にそっと指を絡ませる。
「悠貴君なら俺たちの関係に気づくかもしれない。でも、俺としてはまだ2人には秘密にしておきたいんだ」
「悪い隣人だな……誠」
「お互い様だろ、晴臣」
俺がそう言うと、目の前の男_もとい、浅見 晴臣はこちらを見ながらにやりと笑った。
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