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5章
二人っきり
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「やあ、柳瀬君。それに星川君も」
タクシーを降りると、入場口の前で浅見さんが俺たちを出迎えた。
「ここは……水族館?」
「ええ、柳瀬君から連絡をもらってね。どうしても今から行きたいっていうから待ってたんですよ」
「今日非番だって言ってたのを思い出して。おかげで助かりました」
「やっぱりあの時、俺の事を意図的に無視してたんだね……。まあ、星川さんもうちの関係者だし問題ないでしょ」
「ありがとうございます」
「いえいえ~それじゃあ楽しんで」
「連れてきたい所ってここだったのか」
「昼の水族館もいいですけど、夜はまた違っていいんですよ。何かあると、ここにきて動物たちを見てるだけで落ち着くんです」
俺は扉を開けると、星川さんを連れて館内に入った。
誰もいない水族館には、空気ボンベのコポコポという音と俺たちの靴音だけが響く。
「こっちです」
俺は星川さんの手を引くと、水族館の奥へと進んだ。自然と繋いだ手はほどかれることはなかった。
そして一番奥にあるペンギンコーナーまで来ると、こちらに気が付いたのか寝ていた1羽のペンギンがこちらに近寄ってきた。
「よう、ヒデリ。起こしたか?」
「クエッ」
ヒデリはにガラスの前に立つと、俺たちを興味深げに見つめている。
「ヒデリ?」
「この子はアデリーペンギンのヒデリ。俺がここに来るまでは、人馴れしてなくて暴れてたみたいなんですけど、なぜか俺には懐いているみたいで」
「へぇ、お前に懐くなんて、変わったペンギンだな」
「クエッ」
ガラス越しにコツコツと叩くと、ヒデリが星川さんの前に立ち一声上げた。
「へえ……この子が俺以外に懐くのは珍しいですね」
「懐いている?これがか?」
「興味がないなら鳴きませんし、嫌いだったら突きますからね。お前まさか、顔がいいからって惚れたのか?」
「クエーッ」
「ははっ、ヒデリだっけ?見る目があるな」
星川さんはそう言いながらしゃがむと、目を細めて笑った。
「お前、俺の事好きなのか?」
「クエッ」
星川さんの言葉に、ヒデリが答えるように鳴く。
「ちなみにラテン語に「ピングウィス」という言葉があって、太っているっていう意味なんです。そこからスペイン語の太っちょの意味を持つ「ペングウィーゴ」が出来たんですが、これが訛ってペンギンって呼ばれるようになったんですよ」
「へぇ、そうなのか。じゃあペンギンって呼ぶと怒るかもな」
「太ってないって思ってたら怒るかもしれないですね」
「じゃあちゃんと名前で呼んであげないとな。なぁヒデリ」
「クエッ」
「お前可愛いな」
星川さんが柔らかく微笑む。
それを隣で見ていると、なぜかむずがゆいような、ざわざわと落ち着かないようなそんな気持ちになる。
「……なんだよ。俺の顔に何かついているか?」
見つめていたのに気が付いたのか、星川さんが少し照れくさそうにこちらを見る。
「いえ、星川さんも動物には弱いんだなと思って」
「俺だって動物を愛でる気持ちはあるぞ」
「そうみたいですね。なんだか今日は、星川さんの知らなかった一面をたくさん知れますね」
「そう、だな」
俺の言葉に少しだけ気まずそうに星川さんが笑う。
そうしてどれだけの時間が経ったのだろうか。
不意に星川さんの頭が、こつりと俺の肩に当たる。
「なあ、柳瀬」
「なんですか?」
「これからは、ちょっとはお前を頼ることにするよ」
「ちょっとと言わず、いっぱい頼ってくれてもいいですよ」
「面倒くさいと思う事もあると思う」
「大丈夫です、もう慣れっこですから」
「うるせえ」
「ははっ」
「……ありがとうな、柳瀬」
「どういたしまして」
誰もいない水族館。
水槽の薄暗い明かりに照らされた俺たちは、まるで海の中に二人きりだけのような感覚を味わいながら、どちらからともなく互いの手を握っていた。
(この気持ちが何なのか、知りたい……)
(だけど、この関係が変わってしまうのは怖いんだ)
タクシーを降りると、入場口の前で浅見さんが俺たちを出迎えた。
「ここは……水族館?」
「ええ、柳瀬君から連絡をもらってね。どうしても今から行きたいっていうから待ってたんですよ」
「今日非番だって言ってたのを思い出して。おかげで助かりました」
「やっぱりあの時、俺の事を意図的に無視してたんだね……。まあ、星川さんもうちの関係者だし問題ないでしょ」
「ありがとうございます」
「いえいえ~それじゃあ楽しんで」
「連れてきたい所ってここだったのか」
「昼の水族館もいいですけど、夜はまた違っていいんですよ。何かあると、ここにきて動物たちを見てるだけで落ち着くんです」
俺は扉を開けると、星川さんを連れて館内に入った。
誰もいない水族館には、空気ボンベのコポコポという音と俺たちの靴音だけが響く。
「こっちです」
俺は星川さんの手を引くと、水族館の奥へと進んだ。自然と繋いだ手はほどかれることはなかった。
そして一番奥にあるペンギンコーナーまで来ると、こちらに気が付いたのか寝ていた1羽のペンギンがこちらに近寄ってきた。
「よう、ヒデリ。起こしたか?」
「クエッ」
ヒデリはにガラスの前に立つと、俺たちを興味深げに見つめている。
「ヒデリ?」
「この子はアデリーペンギンのヒデリ。俺がここに来るまでは、人馴れしてなくて暴れてたみたいなんですけど、なぜか俺には懐いているみたいで」
「へぇ、お前に懐くなんて、変わったペンギンだな」
「クエッ」
ガラス越しにコツコツと叩くと、ヒデリが星川さんの前に立ち一声上げた。
「へえ……この子が俺以外に懐くのは珍しいですね」
「懐いている?これがか?」
「興味がないなら鳴きませんし、嫌いだったら突きますからね。お前まさか、顔がいいからって惚れたのか?」
「クエーッ」
「ははっ、ヒデリだっけ?見る目があるな」
星川さんはそう言いながらしゃがむと、目を細めて笑った。
「お前、俺の事好きなのか?」
「クエッ」
星川さんの言葉に、ヒデリが答えるように鳴く。
「ちなみにラテン語に「ピングウィス」という言葉があって、太っているっていう意味なんです。そこからスペイン語の太っちょの意味を持つ「ペングウィーゴ」が出来たんですが、これが訛ってペンギンって呼ばれるようになったんですよ」
「へぇ、そうなのか。じゃあペンギンって呼ぶと怒るかもな」
「太ってないって思ってたら怒るかもしれないですね」
「じゃあちゃんと名前で呼んであげないとな。なぁヒデリ」
「クエッ」
「お前可愛いな」
星川さんが柔らかく微笑む。
それを隣で見ていると、なぜかむずがゆいような、ざわざわと落ち着かないようなそんな気持ちになる。
「……なんだよ。俺の顔に何かついているか?」
見つめていたのに気が付いたのか、星川さんが少し照れくさそうにこちらを見る。
「いえ、星川さんも動物には弱いんだなと思って」
「俺だって動物を愛でる気持ちはあるぞ」
「そうみたいですね。なんだか今日は、星川さんの知らなかった一面をたくさん知れますね」
「そう、だな」
俺の言葉に少しだけ気まずそうに星川さんが笑う。
そうしてどれだけの時間が経ったのだろうか。
不意に星川さんの頭が、こつりと俺の肩に当たる。
「なあ、柳瀬」
「なんですか?」
「これからは、ちょっとはお前を頼ることにするよ」
「ちょっとと言わず、いっぱい頼ってくれてもいいですよ」
「面倒くさいと思う事もあると思う」
「大丈夫です、もう慣れっこですから」
「うるせえ」
「ははっ」
「……ありがとうな、柳瀬」
「どういたしまして」
誰もいない水族館。
水槽の薄暗い明かりに照らされた俺たちは、まるで海の中に二人きりだけのような感覚を味わいながら、どちらからともなく互いの手を握っていた。
(この気持ちが何なのか、知りたい……)
(だけど、この関係が変わってしまうのは怖いんだ)
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