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3章
過ちの後で
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そして翌朝。
窓の外では鳥が鳴き、カーテンの隙間からは柔らかな光が差し込んでいる。
そんな爽やかな朝とは対照的に、俺の部屋はどんよりとした空気に包まれていた。
「……」
「何か言いたいことは?」
「や、やりすぎました……」
ぺしり
「ちげぇよ。いや、まあそれもあるけど」
(結局2回……いや、3回もしやがって)
見当違いの事を言う柳瀬の頭を軽く叩く。腰は鉛を背負っているかのようにずしりと重く、昨日の激しさを鮮明に思い出させる。
「ちなみに記憶は全部あるのか?」
「その……えっと、はい……」
「ハァ……そうか」
ベッドの端で大きな体を縮こまらせている柳瀬を見ながらため息をつく。
「とりあえず今回の事はお互い事故だったということでいいな?」
「えっ?」
「お前ノンケだろ?男とヤったなんて思い出したくもないだろうしな。じゃあ俺はシャワー浴びてくるから。体がベタベタしてて気持ち悪いし」
「そんなことは……って、待ってください」
ベッドから立ち上がり、風呂場へ向かう俺の腕を柳瀬が慌てたように掴んだ。
「おまえ“は”ってどういうことですか?それってつまり……」
「ああ、言ってなかったな」
俺はくるりと振り向くと、戸惑う柳瀬にそっと顔を近づけて囁いた。
「俺、ゲイなんだわ。それも生粋のネコ」
「えっ」
「じゃあそう言うことで」
俺は驚いた顔のまま固まる柳瀬を置いて、風呂場へと向かった。
ザー……
「ゲイ……星川さんが……」
(確かに妙に慣れてるなとは思っていたけど……)
風呂場からはシャワーの水音が聞こえる。
(つまり……今までもそういう経験があるってことだよな)
《もう……いくっ……あぁー……》
《星川さん……っ》
「なんでまた……」
昨日の星川さんの痴態を思い出してゆるく持ち上がる自身を、呆れた目で見下ろす。
「いくらお互い溜まってたからって、まさか最後までヤるなんてな……洋輔には死んでも言えないな」
そんなことをすれば、いつまでもいい酒のツマミにされることだろう。それだけならまだしも、何かの拍子に口を滑らしでもしたら――
「……墓まで持っていかねぇとな」
その時、遠くで聞こえていたシャワーの音が止まった。
「まずはこっちからだよな」
(殴られるぐらいで済めばいいけど……)
俺はこれからの事を考えて、ひやりと汗が滲む額を拭った。
「それで?何か言いたいことはあるか?」
「……すみませんでした。いくら酔ってたからとはいえ、酷いことを……」
「ああ、それは別にいい。俺も途中から止めなかったしな」
「え?」
「日本に帰ってきてからそっちはご無沙汰だったし、お前なら顔も良いしいいかなって思ったんだよ。だから今回の事は事故ってことにしよう。お前もこれ以上思い出したくもないだろうし」
「そ、んなことは……」
(って、なんで否定なんてしてるんだ)
急に突き放すような言葉を投げる星川さんの様子に、とっさに言いどもる。それを見た星川さんは一瞬悲しそうな顔をした後、気を取り直すように両手を叩いた。
「んじゃあこの話は終わりな。あっそうだ、この後用事があるのを思い出したんだった。だからさっさと帰れよ」
「え、でも……」
「ほら帰った帰った!」
「ちょっ、待ってください!俺の話は終わってな……」
「じゃあな」
星川さんは強引に俺の背を押すと店の外に追い出した。
「いきなり何なんだ……?」
バタンッ
店の外にいる柳瀬の気配を扉越しに感じながら、俺はズルズルとその場に座り込んだ。
「……は、っ」
呼吸が浅くなり、視界が定まらない。地面がぐにゃりと歪む感覚に襲われる。
「思い出すな……思い出すんじゃない」
「あいつは……柳瀬は、アイツとは違うんだ……」
窓の外では鳥が鳴き、カーテンの隙間からは柔らかな光が差し込んでいる。
そんな爽やかな朝とは対照的に、俺の部屋はどんよりとした空気に包まれていた。
「……」
「何か言いたいことは?」
「や、やりすぎました……」
ぺしり
「ちげぇよ。いや、まあそれもあるけど」
(結局2回……いや、3回もしやがって)
見当違いの事を言う柳瀬の頭を軽く叩く。腰は鉛を背負っているかのようにずしりと重く、昨日の激しさを鮮明に思い出させる。
「ちなみに記憶は全部あるのか?」
「その……えっと、はい……」
「ハァ……そうか」
ベッドの端で大きな体を縮こまらせている柳瀬を見ながらため息をつく。
「とりあえず今回の事はお互い事故だったということでいいな?」
「えっ?」
「お前ノンケだろ?男とヤったなんて思い出したくもないだろうしな。じゃあ俺はシャワー浴びてくるから。体がベタベタしてて気持ち悪いし」
「そんなことは……って、待ってください」
ベッドから立ち上がり、風呂場へ向かう俺の腕を柳瀬が慌てたように掴んだ。
「おまえ“は”ってどういうことですか?それってつまり……」
「ああ、言ってなかったな」
俺はくるりと振り向くと、戸惑う柳瀬にそっと顔を近づけて囁いた。
「俺、ゲイなんだわ。それも生粋のネコ」
「えっ」
「じゃあそう言うことで」
俺は驚いた顔のまま固まる柳瀬を置いて、風呂場へと向かった。
ザー……
「ゲイ……星川さんが……」
(確かに妙に慣れてるなとは思っていたけど……)
風呂場からはシャワーの水音が聞こえる。
(つまり……今までもそういう経験があるってことだよな)
《もう……いくっ……あぁー……》
《星川さん……っ》
「なんでまた……」
昨日の星川さんの痴態を思い出してゆるく持ち上がる自身を、呆れた目で見下ろす。
「いくらお互い溜まってたからって、まさか最後までヤるなんてな……洋輔には死んでも言えないな」
そんなことをすれば、いつまでもいい酒のツマミにされることだろう。それだけならまだしも、何かの拍子に口を滑らしでもしたら――
「……墓まで持っていかねぇとな」
その時、遠くで聞こえていたシャワーの音が止まった。
「まずはこっちからだよな」
(殴られるぐらいで済めばいいけど……)
俺はこれからの事を考えて、ひやりと汗が滲む額を拭った。
「それで?何か言いたいことはあるか?」
「……すみませんでした。いくら酔ってたからとはいえ、酷いことを……」
「ああ、それは別にいい。俺も途中から止めなかったしな」
「え?」
「日本に帰ってきてからそっちはご無沙汰だったし、お前なら顔も良いしいいかなって思ったんだよ。だから今回の事は事故ってことにしよう。お前もこれ以上思い出したくもないだろうし」
「そ、んなことは……」
(って、なんで否定なんてしてるんだ)
急に突き放すような言葉を投げる星川さんの様子に、とっさに言いどもる。それを見た星川さんは一瞬悲しそうな顔をした後、気を取り直すように両手を叩いた。
「んじゃあこの話は終わりな。あっそうだ、この後用事があるのを思い出したんだった。だからさっさと帰れよ」
「え、でも……」
「ほら帰った帰った!」
「ちょっ、待ってください!俺の話は終わってな……」
「じゃあな」
星川さんは強引に俺の背を押すと店の外に追い出した。
「いきなり何なんだ……?」
バタンッ
店の外にいる柳瀬の気配を扉越しに感じながら、俺はズルズルとその場に座り込んだ。
「……は、っ」
呼吸が浅くなり、視界が定まらない。地面がぐにゃりと歪む感覚に襲われる。
「思い出すな……思い出すんじゃない」
「あいつは……柳瀬は、アイツとは違うんだ……」
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