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第3章 新たな拠点

第65話 開拓

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 僕はエクトス村を新たな自分の拠点にするために、村人達と協力して開拓と発展を進める。

 まず最初にやるべきは警備兵の雇用だろうか。安くてもしっかりやってくれる者がいれば、村は任せてより広範囲の開拓ができるようになる。
 と言ってもそんな伝手は無い。いや、あるか?

 僕はふとほぼ無償で働いてくれる懐かしい冒険者の名を思い出す。グレイ、バル、レイカの三人だ。
 最も最初に僕を助け、帝国まで案内してくれた人達だ。

 えーっと確かこの笛を吹けば。
 僕は首に掛けていたネックレスの木笛を吹くと、どこからともなく白い鳩が飛んできて僕の肩に止まった。
 鳩の足には小さな空白の紙を掴ませており、いつでもどこでも短い言葉なら伝えられるという躾役の配慮を感じた。

「えーっと確か手紙を書くときは音の魔式だったよね? えーっとえー……どうすれば良いんだ?」

 音の魔式で声に魔力を乗せて手紙に文字を綴るという。原理は分かるけど、具体的なやり方をまだ一度も教わったこと無いんだよね。
 一番最初の頃に魔力が最低15あれば書けると言っていたような気がするんだけだど……。

 とそんな所で横から光輝が話しかけてきた。

「どうしたんだ影」

「あぁ、光輝か。手紙の書き方が分からなくてね」

「あー、音の魔式か。そうだな。息を吐くんじゃなくて、口から魔力を声と同時に吐くんだ。あんまり強く吐くと魔力弾になるから、優しく囁くように……」

「ごめん。やっぱり分からないや。代わりに書いてくれるか?」

「なんてかけばいい?」

「えーっと『ガレオンと帝国領境界線の北端にある村に来て』でいいや。
 どうせこの村に来るだけでも時間が掛かるんだ。要件は来てから伝えれば、いざ断られても帰り辛いでしょ」

「な、なるほど……分かった」

 そう言うと光輝は僕の代わりに手紙を書いてくれた。手紙を書く基本魔式……。口答で伝えられても専門の人に教えられない限りはよく分からないな……。
 と言っても学校とか行くつもりは一切無いけどね。

 光輝に手紙を書いてもらうと僕はくるりと纏めた手紙を鳩の足に掴まさせ、空へ飛ばす。
 あの鳩はとても賢いらしく、宛先書かなくても筆者の考えを読み取ってくれるらしいから凄い。一体どんな頭してるんだろう。

 さてと、警備はあの3人に任せるとして、後は医療や宿泊施設……帝国から引き抜こうかな。これに至っては手紙で伝えても趣旨が伝わらないから、僕が直々に行かないといけないね。
 とりあえず医療に関しては目星が付いている。

 もう帝国から定期的に魔物討伐と開拓の報酬は出るようになっているから、警備にするグレイたちが来るまでにレオン達を全員村に置いて報酬を軍資金として貯めてもらい、僕はその間に帝国へ向かう。

 よし早速行動しよう。

「レオン、僕はこれから帝国に人を引き抜いてくるから、引き続き魔物討伐と村の警備をお願いできるかな?」

「人を……? 俺らじゃあ役不足ってか?」

「医療や宿泊施設の専門の人だよ。回復はコールと茜で出来るかもしれないが、知識はあるのかい?
 それに宿泊施設だってそうだ。運営自体は出来るかもしれないが、疲れた人や旅人を休ませるだけが宿屋じゃない」

「なるほどな! 分かった。任せろ」

「じゃ、また1週間くらい戻ってこないからよろしく~」

 あぁ、エクトス村と帝国はあまりにも距離があり過ぎる。鳩みたいに空とか飛べたら良いんだけどなぁ……。
 まぁ、あったとしても免許持ってないからまともに操縦なんて出来る気がしないけどね。

 僕はそうして馬車のアルヴィズを全力で走らせて帝国へ向かった。
 この馬車は馬力が化け物級だから、ある程度の魔物なら轢き飛ばせる。
 よって僕は一度も戦うことなく帝国に行けるんだ。

◆◇◆◇3日後◆◇◆◇

 本当にアルヴィズ一騎で帝国まで一走り出来た。お金をケチらずに特級の馬車を買って本当に正解だった。
 さてさて、これから帝国にて人を引き抜く訳だが……まずは医療関係者。

 目星ってのは、恐らくノルデンの死亡後暇しているであろうお爺さんのことだ。
 その名も帝国調合師のシアン・ヴィッセンだ。まだ死んでなきゃ良いけど……。

 僕は帝国に入ると、真っ先にシアン爺さんの家に行き、扉をノックする。

「おーい爺さーん。僕だ。カゲリ・ハクだよ」

 ……。そう呼び掛けるが、なんか予想が当たっているような、妙な匂いも漂って来ないし、留守とは呼べないほどに静かだった。
 そこでもう一度呼びかけようとした瞬間、通りかかった人が僕に話しかけてきた。

「あ、そこの爺さんなら先週から既に亡くなってるよ。確か、薬の調合中の事故死だっけな……?」

「衰弱死じゃないのか!!」

「うん。なんて薬だっけな……エリ、エリシリア??」

「なんてこったい。研究熱心なのは良いけど、そりゃないや」

 どうやらシアン爺さんはエリクシアの調合中に、事故起こしてそのまま打ち所が悪くて死亡したらしい。
 まぁ、確か90くらいは超えていたお爺ちゃんだったからねぇ。

 えーっとじゃあ……あと頼るべきはヴァンかな。ヴァン・クラトレス。
 ノルデン皇帝仕えていたんだけど、すごいタイミングで暗殺紛いのことをしでかした帝国の執政官だ。
 グレイブの皇帝就任後はもう制限なく全力で国を動かしているという噂有り。
 さすがにこの人を引き抜く訳にはいかないけど、誰か適任者を教えてくれるかもしれない。

 という訳で僕はヴァンの働いている執務館へ行く。ノルデン皇帝がいた時は物々しい兵士が見張りに付いていたけど、今はもう観光スポットみたいな賑やかさがある。
 玄関扉を勝手開けても怒られないし、当然ながら巡回兵はいるけど、すれ違うたびに会釈される。やっぱり皇帝が変わると、町の至るところまで変わるんだよなぁ。

 そうして僕は執務室まで辿り着くと、扉をノックする。

「ヴァン、覚えているかい? ハクだよ」

「入ってくれ。久しぶりだねハク君」

 扉を開けるとすぐに迎えてくれた。

「いやぁ、アポもなくてすまないね」

「アポ……?」

「いんややこっちの話。えっと今日来た理由はというと……今、ガレオンと帝国領境界線の北端にあるエクトス村って所を、新たな拠点として発展させようとしているんだけど……医療や宿泊施設の関係者の伝手がなくてさ。
 任せればやってくれるような人いないかな?」

 そういえばヴァンは軽く瞬きをすると、何かが思い当たるような表情をして、僕に質問してきた。

「ん……? エクトス村? ハク君、今あそこにいるの? よく見つけたね?」

「え? ヴァンはあの村を知っているのかい?」

「あぁ……寧ろ執政官である私が管理していた場所でもある。ハク君があそこを引き継いでくれるのなら喜んで協力しよう」

 あぁ、あの村はノルデン皇帝の搾取対象だってことは分かっていたけれど、ヴァンによる最低限の慈悲が関わっていた場所でもあったんだねぇ……。
 まぁ、そんな慈悲も食糧運搬役の兵士に揉み消されていた訳だけど……。

「そうだったんだ……そりゃ後で村人たちに説明しないとね。ありがとう。じゃあ、最初にお願いしたいことは……」
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