上 下
72 / 74
第3章 新たな拠点

第64話 救荒

しおりを挟む
 僕は依頼で引き受けたエクトス村への救援物資の運搬に丁度良いと思って、エクトス村を救助・新しい拠点にすることを決めた。

 帝国の郊外に一軒家を建ててはいるけれど、もしこの村を新しい拠点に出来れば、これ以上の便利さはないだろう。

 という訳で僕はこの村を助ける第一の計画。食糧確保兼周囲の安全確保をする。ただ、周囲の安全確保のためと言えど安全対策もない村を離れるのはアレなので、ガラムラルクのレイク、コール、レイの3人を村に置き、レオン、テツ、コール、僕の4人が魔物討伐に向かう。

「村の警備。あの3人で大丈夫かぁ?」

「光輝は帝国に行ってるけど、茜と麗香も一応戦えるさ。それに村の警備と言っても村の周辺にはそんなに強い魔物がいるってこともないでしょ」

「そうか。なら心配いらねっか」

 さて、最初は遠くの魔物より、村のすぐ近くを屯する魔物の撃破だろう。少しずつ村の安全圏を拡大させていく計画だ。

 村周辺の魔物は吹雪が吹き荒れる寒い地域ということもあってか、魔物の生態が少し違った。もう見るのも飽きた狼も体毛は白く、身体は一回り大きく。
 全身が既に凍ってもなお動き続けるゾンビのような魔物もいた。

「ウヴァァァッ」

「なんかっ、大迷宮のせいで手応えねぇなぁっ!」

「敵の動きが遅く見えるっす!」

 それもそのはず、僕自身もガルムラルクレオンとかのサポート無しに、単身で魔物を次々と撃破していた。
 大迷宮の連戦がおかげか、【回避】を使わずとも敵の攻撃が見え、確かにレベルは上がったが、本当の肉体的にも成長したように思う。

 そうして暫く変わらない戦いを続けて、凍ったゾンビは置いといて、アイスウルフとでも名付けられる狼は解体して肉へと変える。
 アイスウルフの肉は普通の狼の肉より、どこか冷凍肉のようで、普通より美味そうに見えた。実際は知らないけど。

「よし、そろそろ帰ってもいいんじゃねぇか?」

「そうだね。大丈夫だとは思うけど、村の様子も確認したい」

 特に茜と麗香には村人の治療とまとめ役を任せたんだ。村人たちはまだ僕らを信用していない。そんな人らが僕らの治療を受けたりするだろうか?

 そんなことを思って僕は村に帰ると、先程までの態度はなんだったんだと思えるような光景が広がっていた。

「女神、女神様だぁ」

「あぁ、この村にもついに女神様が降臨なされたのだ!」

「あわわわわ……」

 茜が平伏す村人たちに囲まれ、女神の降臨だと崇められていた。一体なにをしたらこうなるのだろう。

「茜、何があったんだい?」

「えっとねぇ。影君の言う通りに、村人たちの怪我や病気を治していたらこうなっちゃった」

 あぁ、本当に病気まで治すとは。茜の治癒力でも流石に病気の予防までかと思っていた僕の考えは間違っていたようだ。
 一体どんな病気を治したのかは知らないけど、おそらく不治の病でも治さないとこうはならないだろう。

 まぁ、村人がどんな形であれ信用(?)してくれるのは今後としてもありがたい。こうなったら僕らは決して美味しくは無い食糧提供だ。

「あーごほん。みんな聞いてくれ。この村をこれから僕は新たな拠点とする。
 周囲の安全確保や食糧の調達が安定してきたら、この村をどんどん発展させて、僕にとって最も良い環境を作るつもりだ。
 村の人達もこんな寒い村でいつまでも過ごすは嫌だろう?
 だからノルデン皇帝を許してくれとは言わない。でも、建て直せる気があるなら立て直さないかい?」

「おぉ、女神様が共に行くなら、俺たちも手伝う!」

「えぇ、女神様が助けてくれるなら、私たちも応えなくちゃならないわ!」

 なんかもう既に宗教が出来始めている。茜も元は勇者メンバーだ。光輝が魔王の討伐を諦めていない以上、この女神も出来る限り早く引き剥がさないといけないね。

 こうして僕はエクトス村にたくさんの食糧と期間限定の女神を提供した。
 まずは食糧と村の働き手の安定のために、レオンと暫く村の周辺の魔物だけを狩り続けた。
 魔物討伐の報酬が貰えなくとも、その分村の人達が食糧庫の建設や村の家の補強などの仕事をしてくれて、なにかと良く回り始めていた。まぁ、光輝の仕事も無駄では無いけどね。

 この上に報酬も貰えたら最高だよ。

 そんなこんなで1週間経った所で光輝が帝国から帰り、エクトス村周辺の開拓と魔物討伐をエクトス村の依頼として、ギルドではなく帝国が請け負うという申請が通った。
 これで暫くは魔物討伐するたびに帝国から固定報酬が貰えるようになる。

 ただ光輝の話によれば、流石にいつまでも町にすら発展していないエクトス村の開拓に帝国が報酬を払う訳にもいかないらしく、帝国が払ったお金で早めに村を発展させて欲しいとのこと。

 要は町として認められる最低ラインまで出来る限り早く発展させてくれという。
 その最低ラインとは……。

 食糧・資材の安定生産、医療・宿泊施設や警備の充実、特産品の選定、物品の売買とそのルートの確保。
 という、これだけ有ればなんとか町として認められるらしい。

 これから必要な物をざっと見れば分かるが、町へと発展させるには、相当な金が必要のようだ……。

「それとグレイブ皇帝から影に伝言なんだけど……『確かにハクは信頼におけるが、皇帝となった私の支援をさらに受けたいなら、それに相応する成果を見せてくれ』だそうだ」

「流石皇帝様だ。命を墓から吹き返した程度じゃまだ駄目か」

「は、ははは……」

「なら、グレイブにもう一度応えようじゃないか。僕は魔王討伐とかには興味ないけど、自由な暮らしを求めるのは本気だってことをね」
 
 こうして僕は村人によって補強された村長の家をから拠点として、今後の作戦を練ることにした。
 いやはや、気軽にやろうとしたことがここまで面倒なことになるとはねぇ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

転生した体のスペックがチート

モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。 目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい このサイトでは10話まで投稿しています。 続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!

目立つのが嫌でダンジョンのソロ攻略をしていた俺、アイドル配信者のいる前で、うっかり最凶モンスターをブッ飛ばしてしまう

果 一
ファンタジー
目立つことが大嫌いな男子高校生、篠村暁斗の通う学校には、アイドルがいる。 名前は芹なずな。学校一美人で現役アイドル、さらに有名ダンジョン配信者という勝ち組人生を送っている女の子だ。 日夜、ぼんやりと空を眺めるだけの暁斗とは縁のない存在。 ところが、ある日暁斗がダンジョンの下層でひっそりとモンスター狩りをしていると、SSクラスモンスターのワイバーンに襲われている小規模パーティに遭遇する。 この期に及んで「目立ちたくないから」と見捨てるわけにもいかず、暁斗は隠していた実力を解放して、ワイバーンを一撃粉砕してしまう。 しかし、近くに倒れていたアイドル配信者の芹なずなに目撃されていて―― しかも、その一部始終は生放送されていて――!? 《ワイバーン一撃で倒すとか異次元過ぎw》 《さっき見たらツイットーのトレンドに上がってた。これ、明日のネットニュースにも載るっしょ絶対》 SNSでバズりにバズり、さらには芹なずなにも正体がバレて!? 暁斗の陰キャ自由ライフは、瞬く間に崩壊する! ※本作は小説家になろう・カクヨムでも公開しています。両サイトでのタイトルは『目立つのが嫌でダンジョンのソロ攻略をしていた俺、アイドル配信者のいる前で、うっかり最凶モンスターをブッ飛ばしてしまう~バズりまくって陰キャ生活が無事終了したんだが~』となります。 ※この作品はフィクションです。実在の人物•団体•事件•法律などとは一切関係ありません。あらかじめご了承ください。

生まれる世界を間違えた俺は女神様に異世界召喚されました【リメイク版】

雪乃カナ
ファンタジー
世界が退屈でしかなかった1人の少年〝稗月倖真〟──彼は生まれつきチート級の身体能力と力を持っていた。だが同時に生まれた現代世界ではその力を持て余す退屈な日々を送っていた。  そんなある日いつものように孤児院の自室で起床し「退屈だな」と、呟いたその瞬間、突如現れた〝光の渦〟に吸い込まれてしまう!  気づくと辺りは白く光る見た事の無い部屋に!?  するとそこに女神アルテナが現れて「取り敢えず異世界で魔王を倒してきてもらえませんか♪」と頼まれる。  だが、異世界に着くと前途多難なことばかり、思わず「おい、アルテナ、聞いてないぞ!」と、叫びたくなるような事態も発覚したり──  でも、何はともあれ、女神様に異世界召喚されることになり、生まれた世界では持て余したチート級の力を使い、異世界へと魔王を倒しに行く主人公の、異世界ファンタジー物語!!

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

迷い人 ~異世界で成り上がる。大器晩成型とは知らずに無難な商人になっちゃった。~

飛燕 つばさ
ファンタジー
孤独な中年、坂本零。ある日、彼は目を覚ますと、まったく知らない異世界に立っていた。彼は現地の兵士たちに捕まり、不審人物とされて牢獄に投獄されてしまう。 彼は異世界から迷い込んだ『迷い人』と呼ばれる存在だと告げられる。その『迷い人』には、世界を救う勇者としての可能性も、世界を滅ぼす魔王としての可能性も秘められているそうだ。しかし、零は自分がそんな使命を担う存在だと受け入れることができなかった。 独房から零を救ったのは、昔この世界を救った勇者の末裔である老婆だった。老婆は零の力を探るが、彼は戦闘や魔法に関する特別な力を持っていなかった。零はそのことに絶望するが、自身の日本での知識を駆使し、『商人』として新たな一歩を踏み出す決意をする…。 この物語は、異世界に迷い込んだ日本のサラリーマンが主人公です。彼は潜在的に秘められた能力に気づかずに、無難な商人を選びます。次々に目覚める力でこの世界に起こる問題を解決していく姿を描いていきます。 ※当作品は、過去に私が創作した作品『異世界で商人になっちゃった。』を一から徹底的に文章校正し、新たな作品として再構築したものです。文章表現だけでなく、ストーリー展開の修正や、新ストーリーの追加、新キャラクターの登場など、変更点が多くございます。

処理中です...