上 下
52 / 74
第2章 エリクシア

第46話 魔物化

しおりを挟む
 鬼堂は僕に向かって両拳に炎を纏わせ、猛突進。正拳突きを繰り出してきた。が、当たる直前に僕を庇うようにしてレイが大盾で僕を守ってくれた。

「おっとお前の相手はこのオレ。どうだ? 俺の盾、硬えだろ」

「誰だテメェ!?」

「そのまま止めてろ! オラァァ!」

 鬼堂の猛突進を止めたレイの真上からレオンが大剣を逆刃にして鬼堂を叩き潰そうとする。だが、あれから鬼堂はどれだけレベルが上がったのか、大熊を一撃で吹き飛ばしたレオンを余裕に上回る力で、素手で大剣の刃を掴むと後方へ投げ飛ばした。

「がはっ……!?」

「雑魚どもはひっこんでろぉ!」

「雑魚だなんて言ってくれるっすね! ほらほらオレの動きに翻弄されててくれっす!」

 レオンが投げ飛ばされた直後、次にテツが鬼堂の懐に滑り込みダガーで一太刀を浴びせる。後に回り込んだら一撃、鬼堂の裏拳を横に回避したら一撃、確実に鬼堂の動きを制しながら攻撃を回避しつつ、ダメージを与えていた。

「ちょこまかとうぜぇなぁ! クソ餓鬼は地べたで寝てろ!」

 だがそんな戦況も一瞬の内で壊れる。テツの攻撃はなかなか良かったが、鬼堂にさほどのダメージは無く、痺れを切らした鬼堂がテツの体を抱き抱えるように掴むと、片手を胸倉にもう片手を足の付け根に持っていき、体の上下を持ち上げると、そのままの形からテツを頭から地面に向けて投げ落とした。

「がッッ……!?」

 そこから更に追撃で至近距離にも拘らずレイの大盾に向けて正拳突きを繰り出すと、なんとレイの大盾が破壊されてしまう。

「え、うそだろ!?」

「なんだぁ? テメェの盾、実は鍋の蓋なんじゃねぇか? は!」

「不味いッ! 守れない!」

「テメェにはとっておきだぁ!!」

 大盾を破壊され衝撃で仰け反るレイのこめかみに向けて、鬼堂の渾身の後回し蹴りの踵が入る。こちらまで嫌な音が響くほどの一撃だった。
 レイは声を上げる暇も無く、横の建物まで蹴り飛ばされる。

「……ッ!?」

「なんて強さだ……レオンたちでもこんなにも歯が立たないだなんて……鬼堂君! なんか薬でもやったのかい? 君の成長速度は異常だ!」

「はははははは! 良く見抜いたなぁ!? 今の俺は最強だぜえぇ!」

 いや、勘というか煽るつもりで言ったんだけど、まさか本当にやっているとは。しかし本当なら少しまずい。その薬がどれだけの効力なのかは知らないけど、現にガルムラルクの力を上回っているし、それだと僕でも反応しきれるか分からない。

 次にゲラゲラと笑う鬼堂が突然全身が氷塊と成り果てる。この技はコールの力だ。

「いくら力が強くても魔式にどれだけ対応できるかな?」

「う……お……おおぉ……おおおぉ!!」

 たったこれだけじゃ鬼堂は止められないと僕も分かっていた。氷塊にじわじわと内側から日々が入ると鬼堂の雄叫びと共に氷が砕け散る。
 が、それを予想していたかのようにコールは魔式による追撃を加える。
 鬼堂の頭上から雷が落ちる。これによって自分の体を纏っていた氷を弾き飛ばした鬼堂は冷えた体と氷の溶け水により普通以上の閃光を撒き散らす。

「ぐあああぁぁ!! だらくせぇ! この俺に良く少しだけダメージを与えたな。だがそれもすぐ無意味になる! オラアァ!」

「無意味なのは君の方じゃないか? どうやら力と物理防御だけ成長してて、肝心の魔式の対処は出来ていないように見えるけど?」

 堪らず突進攻撃を仕掛ける鬼堂。しかしコールは冷静に鬼堂に向けて指を鳴らす。

「じゃあこれはどうかな?」

「うぐっ!? ごはっ! て、テメェ何を……?」

 鬼堂は突然首元を抑えて苦しみ始める。この感じは窒息なんかじゃない。猛毒だ。魔式には音霊念呪おんれいねんじゅの4つが大きく分けた部類と言っていたけど、これは?

「ふふ、あんまり得意分野では無いんだけど、呪の魔式だよ。君は今、極度の興奮状態にあるからね。容易に君の魂に干渉出来る。一見毒だと見えるだろ? でもこれは毒じゃない。君の魂を異常な物として置き換えているだけだ。
 呪の魔式では基本的には無垢の魂の生成と対象から魂を抜き取ったりしか出来ないが、これはレイクの魔式と同じ原理でね。無垢の魂に霊の魔式で地水火風の何かを混ぜれば、それは精霊となって新たに誕生するんだけど……それを君の体に混ぜ込んだだけだ」

「クソが……長々説明しやがってゴホッ! クソがあああああ!!!」

「おやおや……本当に君は化け物だな。体内で精霊を殺すとは……」

 鬼堂の体は更に激しく燃え上がる。その際にコールの仕掛けた精霊を殺したらしいが、僕は案外にも早く鬼堂の限界を見てしまった。
 あまりの力の酷使により、指の先端が真っ黒に変色している。まさか炭化し始めている訳じゃあ無いよね?

「みんな! あと少しだ! どうやら鬼堂君は力を出しすぎるのも良くないようだね!?」

「俺は……俺はテメェをぜってえにぶっ殺す! 何があってもなぁ!! うおおおああああ!!」

 どうやら本人は気づいていないようだ。自分を纏う炎の力が自身を焼き焦がしていると。
 鬼堂は更に温度を上げて燃え上がる。こちらにも熱風が伝わってくる程に。それによって炭化とも思わしき現象は急速に進み、鬼堂の両腕の真ん中辺りまで黒く変色していく。

「はっはっは! 今の俺のこの腕を心配してくれてんのか? 残念だがこれは心配するべき物じゃあない。俺が次の段階ステージへ進む為の物だ……。勇者メンバーがそう簡単に死ぬ訳ねぇだろ? 勇者には勇者なりの覚醒っつー力があんだよぉ!」

「止めろ……」

 鬼堂が自分の体を炎で焦がしながら笑う所に、僕の真横を通り過ぎるようにして鬼堂の前に立つ男がいた。ジンだ。

「不殺は守る。しかしこれ以上はガレオンに危険が及ぶ。勇者の覚醒は魔王討伐前であるべき。ここで覚醒はガレオンを潰しかねない。出直してこい」

 ジンは鬼堂の目の前で刀を鞘に仕舞う動作をすると、鬼堂は突如として地面に倒れ伏せる。

「か、身体が動かねぇ。何が起きた?」

「貴様の全神経を切断した。意識を保っているのは奇跡的だが、それまでだろう。神経の修復はどんな超速回復を持っても直ぐには不可能だ。諦めろ」

「俺は、こんな所で! ふざけやがって! なんのためにガレオンに大規模停電を起こさせたんだ。ここの奴ら全員ぶっ殺して、戦争起こそうと思ってたのによ! 返せ、俺の記憶を! 変わっちまったアイツらを返せ! 影が生きているせいで、みんな変わっちまった……ウオオオオオォ!!」

 なんて理不尽な。僕がのうのうと生きているのが原因だなんて。こんなもの仕方がないというしか無いじゃないか。

「鬼堂君ごめんねぇ? でもまた僕は死ぬ気は無いなぁ。僕はいつでも君の襲撃を歓迎しよう。いつか僕を殺して記憶を取り戻して見るといい。その時はもう光輝君たちも君の敵になっているだろうけどね」

 そう言えば鬼堂は最後の力と言えるほどに全身を燃え上がらせると、身体の変色は一瞬にして全身に伝わる。
 鬼堂の体はもう人間のそれとは呼べない。真っ黒に変色した体からは時々火が噴き出し、顔は目は白目が無くなって黒くなり、口から牙を生やし、まるで正に鬼の人相になっていた。

 言うなれば炎鬼えんきと名付けてもいい。鬼堂はもう人間を止めた。魔物として生きることを決意したとも見てもいい程の姿になっていた。
 どうやら魔物のような体に成り代わったことでジンに切断された神経が再構築されたのか、二足で立ち上がった。

「ガルムラルクと言ったか? いつかテメェらも殺す。今戦っても返り討ちに会うんだろどうせ。次の襲撃では命は無いと思っておけ……」

 魔物として転生した鬼堂はどこか大人しく、全く怒りを感じなかった。いやこれは怒りではなく、もはや単純な殺意へと変わっているようだ。
 そう言い終わると、鬼堂はその場から瞬間移動するように消えていった。

 これからはアレはもう鬼堂では無い。炎鬼と呼ぶようにしよう。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

転生した体のスペックがチート

モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。 目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい このサイトでは10話まで投稿しています。 続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!

目立つのが嫌でダンジョンのソロ攻略をしていた俺、アイドル配信者のいる前で、うっかり最凶モンスターをブッ飛ばしてしまう

果 一
ファンタジー
目立つことが大嫌いな男子高校生、篠村暁斗の通う学校には、アイドルがいる。 名前は芹なずな。学校一美人で現役アイドル、さらに有名ダンジョン配信者という勝ち組人生を送っている女の子だ。 日夜、ぼんやりと空を眺めるだけの暁斗とは縁のない存在。 ところが、ある日暁斗がダンジョンの下層でひっそりとモンスター狩りをしていると、SSクラスモンスターのワイバーンに襲われている小規模パーティに遭遇する。 この期に及んで「目立ちたくないから」と見捨てるわけにもいかず、暁斗は隠していた実力を解放して、ワイバーンを一撃粉砕してしまう。 しかし、近くに倒れていたアイドル配信者の芹なずなに目撃されていて―― しかも、その一部始終は生放送されていて――!? 《ワイバーン一撃で倒すとか異次元過ぎw》 《さっき見たらツイットーのトレンドに上がってた。これ、明日のネットニュースにも載るっしょ絶対》 SNSでバズりにバズり、さらには芹なずなにも正体がバレて!? 暁斗の陰キャ自由ライフは、瞬く間に崩壊する! ※本作は小説家になろう・カクヨムでも公開しています。両サイトでのタイトルは『目立つのが嫌でダンジョンのソロ攻略をしていた俺、アイドル配信者のいる前で、うっかり最凶モンスターをブッ飛ばしてしまう~バズりまくって陰キャ生活が無事終了したんだが~』となります。 ※この作品はフィクションです。実在の人物•団体•事件•法律などとは一切関係ありません。あらかじめご了承ください。

【絶対幼女伝説】 〜『主人公は魔王なのに』を添えて〜

是呈 霊長(ぜてい たまなが)
ファンタジー
彼の昔、最強の吸血鬼であり最強の魔王『ゼティフォール』が世界を闇で支配していた。 時を経て、神の力を手に入れし勇者率いる英雄によって、100年の闇による統治は終わりを迎えたのだった。 それから400年後、魔王が目を覚ました! 闇と共に滅ぼされるかに思えたゼティフォールだったが、勇者と神の意思により長らえていたのだ。 『再び危機が迫った時、新しき勇者と"共に"世界を救う』ために。 目を覚ましたゼティフォールは危機の訪れを察し、敵を迎え撃つ! 最強の名を欲しいままに、魔王の名を知らしめるが如く、勇者など必要ないと言わんばかりに! 最強の名は伊達じゃない。 復活した魔王軍だけの力で世界を救ったのだった! …………という予定だったが、うまく行かず、敵こそ撃退したものの魔王たる力を無くし、圧倒的強さも奪われ、残ったのはプライドだけ。 しかも、見ず知らずの土地に飛ばされ、雑魚モンスターにいじめられる始末。 服もボロボロ、体もボロボロ、唯一残ったプライドすらもボロボロ。 そんな哀愁漂うゼティフォールを救ったのは、天使のような翼を持った"最強"の幼女『ステラ』だった! ステラというチートな仲間を手に入れたゼティフォールの快進撃? が始まる── 頑張れゼティフォール! 負けるなゼティフォール! 今は幼女にお守りされる身だが、いずれ最終的には、多分、きっと、いつの日か、ひとり立ちしてプライドに見合った実力を取り戻すのだ!! ※一応主人公は魔王です

生まれる世界を間違えた俺は女神様に異世界召喚されました【リメイク版】

雪乃カナ
ファンタジー
世界が退屈でしかなかった1人の少年〝稗月倖真〟──彼は生まれつきチート級の身体能力と力を持っていた。だが同時に生まれた現代世界ではその力を持て余す退屈な日々を送っていた。  そんなある日いつものように孤児院の自室で起床し「退屈だな」と、呟いたその瞬間、突如現れた〝光の渦〟に吸い込まれてしまう!  気づくと辺りは白く光る見た事の無い部屋に!?  するとそこに女神アルテナが現れて「取り敢えず異世界で魔王を倒してきてもらえませんか♪」と頼まれる。  だが、異世界に着くと前途多難なことばかり、思わず「おい、アルテナ、聞いてないぞ!」と、叫びたくなるような事態も発覚したり──  でも、何はともあれ、女神様に異世界召喚されることになり、生まれた世界では持て余したチート級の力を使い、異世界へと魔王を倒しに行く主人公の、異世界ファンタジー物語!!

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

処理中です...