上 下
25 / 74
第1章 解放

勇者視点・その3

しおりを挟む
 光輝、伊吹、鬼堂、玲香、康太郎。勇者一行。かげり はくより借金をしてから一日半が経った。影から10万オロ借りて、一週間以内に馬車の往復分を含めたお金を返さなくてはならない。
 しかし、勇者一行はまだ影の元から馬車で帰ってきてから装備を整えるだけでなにも稼ぎは出来ていなかった。

 ギルドから稼ぎの良い依頼を受けようとするが、期日が一週間と短くそれを過ぎれば影が回収しにくるという。その時に影から逃げるという選択も考えるが、そんなことをすれば影は決して許さないだろう。
 あまり時間はかけていられず、勇者達は速く、多く稼げる依頼を探していた。

「期日は一瞬間。それまでに約束の最低10万オロと、できれば一週間分の馬車料金をケチらずに17万5,000オロをまとめて返せば、影くんと良い関係を持てるかもしれない」

「クソッ、この俺がアイツに負けさえしなければ!」

「鬼堂。すまないが元から影くんから借りるしか無かったんだ。俺は勇者だから、お金を国民から借りることなんてしたく無いんだ。だから同じ転移者である影くんから借りるのが良いと思って……」

「そもそもよぉ、こんな金欠生活していたら魔王を倒すのも無理じゃね? どうせアイツに金返したらまたすっからかんになるんだろう?」

「なら、約束の倍稼げば良いだけだ」

「ったく簡単に言うんじゃねぇよ。そんなの出来たら借りる必要も無かっただろ! もういい、速く依頼を探すぞ!」

 勇者は冒険者ギルドへ行き、稼ぎのいい依頼が無いかしらみ潰しに探す。

「金策、金策……んーなかなか見つからないなぁ」

 そう悩んでいる光輝の元に康太郎が割り込んで来る。

「んー困っているようですなぁ。光輝くん。この前は情報料に多く使ってしまいましたが、今度こそ僕を頼るべきでは無いですかな? 僕は皆さんが休憩や人々から話を聞いている間に今度は無料で手に入る情報だけをかき集めたんですよねぇ。
 いやー大変でしたよ。情報屋と違って信憑性の薄い噂だったり、過去に金欠から脱出した人の身の上話とかとか。
 どうです? 聞きたいでしょう?」

 康太郎の態度に鬼堂はキレる。

「ふざけてんじゃねぇ! 誰のせいで金が無ぇと思ってんだおい? マジで殺すぞ」

「ひぃっ!? 僕は君達とは違うのだよ! ろくに情報収集もしない、駄目だと分かれば諦める、金にもならないものを無駄にかき集めようとする! その行動が気に入らないにも程がある! 
 ぼ、僕は君達のおかげでほぼ戦わずに済んでるけどねぇ、君達より頭は誰より使ってるんだよぉ!」

「テメェなぁ! 今すぐ俺の前から消えろ。てめえが情報通とかどうでも良いんだよ。その顔を見ると殴りたくなってくる」

「お、おい鬼堂! そこまで言う必要は無いだろう! な、なぁ分かった。康太郎、その情報とやらを教えてくれないか?」

 光輝は鬼堂を宥め、康太郎から情報を聞き出そうとするが、完全に空気が悪くなったところで康太郎も遂には完全に黙り込む。
 その光景に伊吹や玲香は眺めることしか出来なかった。

「情報とやらだって? 情報は情報だ。光輝くんは僕に優しくしているようだがその態度もそろそろうんざりだ。まぁ、僕は転移前こそ君達とは深く関わったことは無い人種だ。今さら仲良くしようたってやっぱりそう上手くはいかないか。
 良いだろう。僕は鬼堂君と言う通り消えるとするよ。でも、ただのゲームオタクじゃない僕を捨てたことは、これから大きな失敗になるだろう」

 康太郎は暗い表情でへらへらと笑いながら背中を向けると、康太郎の手元からどっさりと金袋が投げられた。
 一体どこでいつ稼いだのか。その袋の中には、光輝が目指すと言っていた約束の金額の倍額。55万オロが入っていた。

「それは君達にあげよう。僕はこれを手に入れるのに戦闘なんて一切していない。僕は頭を使ってるからねぇ。それでは……さらばだ! はーっはっはっは!」

 康太郎は何もかも吹っ切れた様子で大笑いしながら光輝の元から去って行った。

「へ、どうせあいつはこっそり金を持っていたんだ。空気が悪くなったから自棄になって返したんだろ」

「鬼堂。お前……はぁ。もういい。とりあえず明日は国王様に会いに行こう」

 そうして康太郎は勇者一行のメンバーから消えた。戦わずして情報で金を稼ぐ。これが金欠の原因となった康太郎のやっていることだと全員はどうしても信じられなかった。

◆◇◆◇翌日◆◇◆◇

 借金をしてから二日目、康太郎のおかげで目標額の倍を手に入れてしまった勇者一行は、影の頼みごとである、国王に影の生存と活躍を伝えようと、王の間に来ていた。

「ほう。勇者、光輝達じゃないか。あれから魔王討伐の進捗はどうかな?」

「すみません。どうも仲間との馬が合わず、あまり進んではいません。それはともかく、一つご報告したいことがありまして。
 国外追放された勇者。影 白の生存を確認しました」

「へぇ、生きてんだ……」

「そこで、影は無能だと判断した王様ですが……本人のお願いで見直して欲しいとのことでして。活躍を聞いては頂けないでしょうか?」

 光輝は王の前で跪くと、追放されたはずの影 白の生存と、先日起きた低難易度の依頼が尽くキャンセルされていた原因が影にあり、影はお金を稼ぐために狼の縄張りを多数制圧後、ボスの撃破も果たしたことを報告した。

「へぇ、一人で? それは面白い。良いことを聞いた。ありがとう。もう下がっていいよ」

「影を見直してくれるんですか!」

「うん。見直したよ。罪人のくせになかなかやるじゃないか。所で彼は今どこに済んでいるんだい?」

「えっと、ノルデン帝国の外れに家を建てているそうで」

「なるほど。では今度会いに行こうじゃないか」

「おお、ありがとうございます!!」

 光輝は王の言う事に目を輝かせて、これなら影と和解できると確信するが、王は影の生存に表は満面の笑顔だったが、光輝が王の間から去ると不敵な笑みを浮かばせていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

転生した体のスペックがチート

モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。 目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい このサイトでは10話まで投稿しています。 続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!

目立つのが嫌でダンジョンのソロ攻略をしていた俺、アイドル配信者のいる前で、うっかり最凶モンスターをブッ飛ばしてしまう

果 一
ファンタジー
目立つことが大嫌いな男子高校生、篠村暁斗の通う学校には、アイドルがいる。 名前は芹なずな。学校一美人で現役アイドル、さらに有名ダンジョン配信者という勝ち組人生を送っている女の子だ。 日夜、ぼんやりと空を眺めるだけの暁斗とは縁のない存在。 ところが、ある日暁斗がダンジョンの下層でひっそりとモンスター狩りをしていると、SSクラスモンスターのワイバーンに襲われている小規模パーティに遭遇する。 この期に及んで「目立ちたくないから」と見捨てるわけにもいかず、暁斗は隠していた実力を解放して、ワイバーンを一撃粉砕してしまう。 しかし、近くに倒れていたアイドル配信者の芹なずなに目撃されていて―― しかも、その一部始終は生放送されていて――!? 《ワイバーン一撃で倒すとか異次元過ぎw》 《さっき見たらツイットーのトレンドに上がってた。これ、明日のネットニュースにも載るっしょ絶対》 SNSでバズりにバズり、さらには芹なずなにも正体がバレて!? 暁斗の陰キャ自由ライフは、瞬く間に崩壊する! ※本作は小説家になろう・カクヨムでも公開しています。両サイトでのタイトルは『目立つのが嫌でダンジョンのソロ攻略をしていた俺、アイドル配信者のいる前で、うっかり最凶モンスターをブッ飛ばしてしまう~バズりまくって陰キャ生活が無事終了したんだが~』となります。 ※この作品はフィクションです。実在の人物•団体•事件•法律などとは一切関係ありません。あらかじめご了承ください。

生まれる世界を間違えた俺は女神様に異世界召喚されました【リメイク版】

雪乃カナ
ファンタジー
世界が退屈でしかなかった1人の少年〝稗月倖真〟──彼は生まれつきチート級の身体能力と力を持っていた。だが同時に生まれた現代世界ではその力を持て余す退屈な日々を送っていた。  そんなある日いつものように孤児院の自室で起床し「退屈だな」と、呟いたその瞬間、突如現れた〝光の渦〟に吸い込まれてしまう!  気づくと辺りは白く光る見た事の無い部屋に!?  するとそこに女神アルテナが現れて「取り敢えず異世界で魔王を倒してきてもらえませんか♪」と頼まれる。  だが、異世界に着くと前途多難なことばかり、思わず「おい、アルテナ、聞いてないぞ!」と、叫びたくなるような事態も発覚したり──  でも、何はともあれ、女神様に異世界召喚されることになり、生まれた世界では持て余したチート級の力を使い、異世界へと魔王を倒しに行く主人公の、異世界ファンタジー物語!!

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

迷い人 ~異世界で成り上がる。大器晩成型とは知らずに無難な商人になっちゃった。~

飛燕 つばさ
ファンタジー
孤独な中年、坂本零。ある日、彼は目を覚ますと、まったく知らない異世界に立っていた。彼は現地の兵士たちに捕まり、不審人物とされて牢獄に投獄されてしまう。 彼は異世界から迷い込んだ『迷い人』と呼ばれる存在だと告げられる。その『迷い人』には、世界を救う勇者としての可能性も、世界を滅ぼす魔王としての可能性も秘められているそうだ。しかし、零は自分がそんな使命を担う存在だと受け入れることができなかった。 独房から零を救ったのは、昔この世界を救った勇者の末裔である老婆だった。老婆は零の力を探るが、彼は戦闘や魔法に関する特別な力を持っていなかった。零はそのことに絶望するが、自身の日本での知識を駆使し、『商人』として新たな一歩を踏み出す決意をする…。 この物語は、異世界に迷い込んだ日本のサラリーマンが主人公です。彼は潜在的に秘められた能力に気づかずに、無難な商人を選びます。次々に目覚める力でこの世界に起こる問題を解決していく姿を描いていきます。 ※当作品は、過去に私が創作した作品『異世界で商人になっちゃった。』を一から徹底的に文章校正し、新たな作品として再構築したものです。文章表現だけでなく、ストーリー展開の修正や、新ストーリーの追加、新キャラクターの登場など、変更点が多くございます。

処理中です...