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第1章 解放

第5話 ノルデン帝国

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 僕は無能として国外追放された後、道中でグレイ、バル、レイカの三人の冒険者に出会った。本来なら一人で別の国に到着する筈だったが、思いの外距離があり体力も限界に達し倒れる寸前になってしまった。
 それから三人の冒険者の話を聞き、僕は焚き火を囲んだ訳だが、勇者一行を追放された身として今後の目的が無い僕は成り行きで冒険者を目指すことにした。

 焚き火を囲んで朝になれば、僕を含めた四人は、僕の目的に合わせて北の国を目指す。

「そういえばハクさんの行こうとしている国はどういう所か知ってるいるんですか?」

「なんだい? 知ってなくちゃ危険だと言っているように聞こえるんだけど?」

「いや、別にそう言う訳では無いんですが、北の国と言うと思い当たる最も近い国は法に厳しい国なので……」

 法に厳しい国か。これは聞いておいて損は無いね。僕は常識は持っていてもその常識は異世界で通じるとは思えない。だから僕は異世界にとっては世間知らず同然。しっかり聞いておこうじゃないか。

「へぇ、法に厳しいか。じゃあ出来る限りその国で安全に過ごせるように色々聞かせてもらおうか。じゃあまず、僕たちが目指している国について簡単に教えてくれ」

 グレイは続けて答える。

「うん。俺達が行こうとしている国の名前は、ノルデン帝国。一人の皇帝と呼ばれるクラトラス王を中心で動き、軍事力に長けているんだ。法に厳しいって言ったけど、要は君主制でね。国民はみんな王様の機嫌を損ねないように生きている感じかな。
 と言っても入国から生活に至るまで細かいって訳では無いし、"普通"に生活する分には申し分ないよ。ただ何が問題なのかと言えば、冒険者や軍かな。もし此処でこれからをやっていくつもりなら王様に従った方が良い。
 調子に乗って生意気な態度取った人で生き残った人なんて見た事も聞いたことないよ」

 君主制の帝国かぁ。ファンタジーの物語には必ず一つあってもおかしく無いありきたりな設定だよね。それから主人公は王様を更生させるとか? んな命知らずなことは決してやるつもりはない。

「なるほど。それは肝に命じておこう。とにかくヤバい国だってことは分かった。じゃあ、冒険者をやって行くについて注意すべきことはあるかな?
 そんな国なら下手しても『知らなかった』なんて許されなさそうだ」

「そうだねぇ。強いて言えば軍と冒険者の上下関係かな。国民は当たり前だけど、軍人に逆らおうものなら、怪しまれようものなら絶対抵抗しない方が良い。理不尽なことなら抵抗したい気持ちも分かるけど、あの国は軍人に対する軽口で侮辱も王への反逆に繋がるから。
 正直に本当のことを話して、例え事実が膨張されてもそれを認めるしかない。
 もっと言って仕舞えば、素直に殴られろ。そんな感じかな」

 尽く、絶対王政なんだねぇ。一切の抵抗、言論は許されない。例え抵抗せずとも舐めた真似すれば殺されるって? ストレスが溜まりやすい人は長生き出来なさそうだ。
 これくらいなら……僕でも耐えられそうかな。いや耐えるって言い方は違うかな。僕に合ってる。何がなんでも反逆罪に問われてしまったらまぁ、何とかなるでしょ。

 こういう国の王様はあまりの自己中心で国民から怖いイメージを持たれやすいけど、だからこそ真摯な忠誠の前では意外と温厚な人だったりする。僕の偏見だけどね。

「ありがとう。内情はよーく分かった。まぁ、平穏に生きていくよ」

「うん。さて、そろそろ着きますよ。今日は降ってなさそうだな。とりあえず一人だと色々と分からないことも多いだろうし、入口から冒険者ギルドまで付き添いましょう」

 草原の道を歩きノルデン帝国とやらが近づくと若干の気候の変化を感じた。極寒って程でも無いけど若干肌寒いって感じかな。

 それで漸く目的のノルデン帝国に到着っと。巨大な無機質な鋼の壁と、門番の死んだような目。外観は要塞そのものなのに、兵士の空気が物々しさ以上に陽気さが一切感じられない。この人たち生きてて楽しいのかな?

 大門前に近づけば兵士が僕と三人を止める。

「そこ止まれ。通行証を見せろ」

「はいはい。えっとすみません。一人だけ通行証を無くしてしまいまして、再発行を頼めますか?」

「ッチ……面倒くせぇなあ。これが仮通行証だ。これでは何処でも国に入るまでが権限の限界だ。入ってすぐ横にある役所で通行証の再発行をしてもらえ。分かっているとは思うが変な真似はするなよ? こっちだって忙しいんだ」

 通行証無くしたって僕のことだろうか? この感じだと通行証は誰でも持っているのが当たり前なのだろう。
 適当に合わせよう。

「安心したまえ。僕は善良な国民だ。わざわざ喧嘩を売るような馬鹿な真似はしないさ」

「シッ! さっさと失せろゴミが」

 おっとー? これはなかなかだねぇ。上下関係なんて言うより、軍人にとっては国民や冒険者は最早生物として見ていないようだ。

「じゃあ、次は通行証の再発行だね。確かシュトラール王国発だよね。出身でなくとも何処で生きていたか。それさえ有れば、これは全大陸共通でいつでも発行出来るんだ。
 正直いって訳ありで出身地が無いとか覚えてないだとか、面倒だからね」

 ノルデン帝国に入って役所を訪れるとグレイは通行証について話しながらテキパキと慣れた動きで僕に通行証を渡した。

 通行証は5×7cmくらいの小さな硝子板で、硝子面に大きく僕の名前『カゲリ・ハク』と浅く彫り込まれていた。
 そして名前の下に小さく『ノルデン帝国』と彫られている。

「はいこれ通行証。大事にしてね」

「美しい。こんな繊細な硝子細工、そんなに即興で作れてしまうのかい?」

「アハハ、人が彫ってる訳ないじゃないですか。それは音の『魔式』です。人の声や周囲の音を媒介として発動するものですね。別に珍しくは無い筈ですが……必要な時しか使われませんからねえ。俺達冒険者にとっては身近な物でも無いですねぇ」

「魔式? とはなんだい? 魔法とは違うのかな?」

「魔法……? ええっと……その魔法がなんのか分からないけど、色んな種類があるんだ。それは追々説明するよ。まずは冒険者ギルドへ行こう」

「あぁ、頼む」

 異世界特有のものかな。どこでも魔法と魔術だけって訳では無いんだね。まぁ、これについては軽い知識として取り入れておこう。
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