英雄の条件

渡辺 佐倉

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許し3

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「あれは、もう待てなかったんだ。」

劉祜は友の名を呼ばなかった。
顔に悔しさを滲ませている。

「……地下の彼女の事でしょう?」

レオニードは劉祜がそんな表情をする理由を他に知らなかった。

政治の話なのだと、レオニードは思っていた部分もあった。
勿論、劉祜は皇帝だ。だから彼が何をするかは政《まつりごと》なのだが、もっと個人の意思に関わらない話だと思いたかった。

「晃は彼女の事を本当に大切にしてるんですね。」

確認の様なものだった。
別にレオニードにとって、そんなことはどちらでもよかった。
大切なのは劉祜が二人をとても大切に思っている事だけだ。

「あなたが殺されそうになったのですよ。」
「分かってる。」

日常だからですか? と聞こうとしてやめる。
友人に命を狙われることは日常ではない。

そんな事レオニードでも分かる。

自分が友に命を狙われて、それでもレオニードの事を気遣ってくれただけで充分なのだ。


「彼女の犠牲で成り立っている世界が晃には許せないんだ。」

じゃあ劉祜の犠牲によってこの世界が成り立っていることだって同じじゃないか、とはレオニードには言えなかった。

「彼女を救う方法はあるんだな?」

でなければ劉祜を殺そうとする意味が無い。
八つ当たりを友にするという次元では無かった。

劉祜を殺して少女を救い出す。
そういうプランが晃の中に無ければ、こんな大それた事実行できないと思いたかった。

「晃に詳細は聞いたのか?」
「……ああ。」

少し間を開けてから、劉祜は答えた。
それでも懐かしむ様に目を細めていて、自分を襲ってきた刺客として考えられないのがうかがえる。

大切な友だということは変わらないのだろう。

「方法は?」

劉祜は答えなかった。

「……晃に会わせて欲しい。」

レオニードの怪我の原因が晃だということは知らされているのだろう。けれど、それが皇帝の殺害の意図があったことは知らされていない。

そうでなければ自宅軟禁で済むはずがなかった。

自国がこの国の将軍よりも軽んじられているということに他ならないが、いたしかたが無い。

「晃に会って、どうするつもりだ?」
「別に、どうもしないさ。」

この通り無事なのだ。それに暴虐王が暴虐王であることを願っているなら、レオニードは何かするつもりは無かった。

劉祜の事は愛している。だから彼の命を狙った男を許せないという感情は無かった。

だから、会って話をせねばならないと思ったのだ。
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