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誓い1
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公私混同という言葉がある。
いったいどこからが公で、一体どこからが私なのだろうか。
レオニードは馬に乗りながら視界に入る護衛の人間を眺める。
皇帝が個人として馬を駆る。
けれど、それは本当に個人にはなり得ないのだ。
彼がレオニードの部屋に来た時も、誰かが皇帝の安全のために監視していたのかもしれない。
勿論レオニードもプロだ。気配があれば気づいた筈なのだが、これだけ始終監視されていると自分の感覚が怪しいのではとさえ思ってしまう。
「これでも宮殿よりは随分人数は少ない。」
劉祜は言う。それから、レオニードの寝室に直接許可なく監視は置いていない旨を伝えられる。
「これを確認させるために、態々誘ったのですか?」
レオニードが聞くと劉祜は「いや。」と答えた。
「この先に主に鷹狩用に使っている離宮があるんだ。」
そこには人を近づけない様にしている。
途中に、湖もあって気に入ってるんだ。
劉祜は屋敷の中には警護の者すら入れない事になっていると笑った。
密約を結ぶにしろなんにしろ、人の出入りを厳重に管理できる場所は必要なのだと言った。
レオニードがその言葉で思い浮かんだのは、自分が劉祜が暴虐王ではないと知る数少ない人間だという事だった。
知られてしまったからには、となることに不安を感じた時もあったのに、もうそんなことはまるで思い出せない。
殺すだけなら別にここまでくる必要も無いのだ。
益々レオニードは遠出をしている理由が分からなくなった。
◆
劉祜の言葉通り、湖は見晴らしがよく穏やかで美しい場所だった。
馬に積んでいたカーペットの様なものを敷いてそこに座る。
劉祜の国の様式の茶と、それから小さな砂糖菓子を渡された。
隣に劉祜が腰を下ろした時、ようやくレオニードはまるでこれは恋人同士の逢瀬の様だと気が付く。
人質として必要なことではないので、自分には関係ないと思っていた。
劉祜が、こちらを見て微笑む。
まさか、本当にたまには番らしいことでもしようと思った訳でもあるまいしとレオニードは思う。
けれど、暴虐王に嫁いで初めて宮殿を出たのだ。
それを優しさだと思ってしまうのは仕方が無い。
レオニードは手渡された茶碗に口をつけた。
それは、劉祜が準備したものだった。
「平民のままいたいと思った事はないのか?」
所謂失言の類《たぐい》だろう。
レオニード自身分かっていたのに聞いてしまう。
少女の言った事が本当かも分からないのに、確信めいたものがあった。
「一度もないな。」
簡潔に劉祜は言う。迷いのない目だった。
「そうか。」
レオニードは大きく息を吐いた。
いったいどこからが公で、一体どこからが私なのだろうか。
レオニードは馬に乗りながら視界に入る護衛の人間を眺める。
皇帝が個人として馬を駆る。
けれど、それは本当に個人にはなり得ないのだ。
彼がレオニードの部屋に来た時も、誰かが皇帝の安全のために監視していたのかもしれない。
勿論レオニードもプロだ。気配があれば気づいた筈なのだが、これだけ始終監視されていると自分の感覚が怪しいのではとさえ思ってしまう。
「これでも宮殿よりは随分人数は少ない。」
劉祜は言う。それから、レオニードの寝室に直接許可なく監視は置いていない旨を伝えられる。
「これを確認させるために、態々誘ったのですか?」
レオニードが聞くと劉祜は「いや。」と答えた。
「この先に主に鷹狩用に使っている離宮があるんだ。」
そこには人を近づけない様にしている。
途中に、湖もあって気に入ってるんだ。
劉祜は屋敷の中には警護の者すら入れない事になっていると笑った。
密約を結ぶにしろなんにしろ、人の出入りを厳重に管理できる場所は必要なのだと言った。
レオニードがその言葉で思い浮かんだのは、自分が劉祜が暴虐王ではないと知る数少ない人間だという事だった。
知られてしまったからには、となることに不安を感じた時もあったのに、もうそんなことはまるで思い出せない。
殺すだけなら別にここまでくる必要も無いのだ。
益々レオニードは遠出をしている理由が分からなくなった。
◆
劉祜の言葉通り、湖は見晴らしがよく穏やかで美しい場所だった。
馬に積んでいたカーペットの様なものを敷いてそこに座る。
劉祜の国の様式の茶と、それから小さな砂糖菓子を渡された。
隣に劉祜が腰を下ろした時、ようやくレオニードはまるでこれは恋人同士の逢瀬の様だと気が付く。
人質として必要なことではないので、自分には関係ないと思っていた。
劉祜が、こちらを見て微笑む。
まさか、本当にたまには番らしいことでもしようと思った訳でもあるまいしとレオニードは思う。
けれど、暴虐王に嫁いで初めて宮殿を出たのだ。
それを優しさだと思ってしまうのは仕方が無い。
レオニードは手渡された茶碗に口をつけた。
それは、劉祜が準備したものだった。
「平民のままいたいと思った事はないのか?」
所謂失言の類《たぐい》だろう。
レオニード自身分かっていたのに聞いてしまう。
少女の言った事が本当かも分からないのに、確信めいたものがあった。
「一度もないな。」
簡潔に劉祜は言う。迷いのない目だった。
「そうか。」
レオニードは大きく息を吐いた。
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