英雄の条件

渡辺 佐倉

文字の大きさ
上 下
30 / 61

誓い1

しおりを挟む
公私混同という言葉がある。
いったいどこからが公で、一体どこからが私なのだろうか。

レオニードは馬に乗りながら視界に入る護衛の人間を眺める。
皇帝が個人として馬を駆る。

けれど、それは本当に個人にはなり得ないのだ。

彼がレオニードの部屋に来た時も、誰かが皇帝の安全のために監視していたのかもしれない。
勿論レオニードもプロだ。気配があれば気づいた筈なのだが、これだけ始終監視されていると自分の感覚が怪しいのではとさえ思ってしまう。

「これでも宮殿よりは随分人数は少ない。」

劉祜は言う。それから、レオニードの寝室に直接許可なく監視は置いていない旨を伝えられる。

「これを確認させるために、態々誘ったのですか?」

レオニードが聞くと劉祜は「いや。」と答えた。

「この先に主に鷹狩用に使っている離宮があるんだ。」

そこには人を近づけない様にしている。
途中に、湖もあって気に入ってるんだ。

劉祜は屋敷の中には警護の者すら入れない事になっていると笑った。
密約を結ぶにしろなんにしろ、人の出入りを厳重に管理できる場所は必要なのだと言った。

レオニードがその言葉で思い浮かんだのは、自分が劉祜が暴虐王ではないと知る数少ない人間だという事だった。
知られてしまったからには、となることに不安を感じた時もあったのに、もうそんなことはまるで思い出せない。

殺すだけなら別にここまでくる必要も無いのだ。
益々レオニードは遠出をしている理由が分からなくなった。



劉祜の言葉通り、湖は見晴らしがよく穏やかで美しい場所だった。

馬に積んでいたカーペットの様なものを敷いてそこに座る。
劉祜の国の様式の茶と、それから小さな砂糖菓子を渡された。

隣に劉祜が腰を下ろした時、ようやくレオニードはまるでこれは恋人同士の逢瀬の様だと気が付く。

人質として必要なことではないので、自分には関係ないと思っていた。

劉祜が、こちらを見て微笑む。

まさか、本当にたまには番らしいことでもしようと思った訳でもあるまいしとレオニードは思う。

けれど、暴虐王に嫁いで初めて宮殿を出たのだ。
それを優しさだと思ってしまうのは仕方が無い。

レオニードは手渡された茶碗に口をつけた。
それは、劉祜が準備したものだった。

「平民のままいたいと思った事はないのか?」

所謂失言の類《たぐい》だろう。
レオニード自身分かっていたのに聞いてしまう。

少女の言った事が本当かも分からないのに、確信めいたものがあった。

「一度もないな。」

簡潔に劉祜は言う。迷いのない目だった。

「そうか。」

レオニードは大きく息を吐いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

美形×平凡の子供の話

めちゅう
BL
 美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか? ────────────────── お読みくださりありがとうございます。 お楽しみいただけましたら幸いです。

僕の幸せは

春夏
BL
【完結しました】 恋人に捨てられた悠の心情。 話は別れから始まります。全編が悠の視点です。 1日2話ずつ投稿します。

王子様から逃げられない!

白兪
BL
目を覚ますとBLゲームの主人公になっていた恭弥。この世界が受け入れられず、何とかして元の世界に戻りたいと考えるようになる。ゲームをクリアすれば元の世界に戻れるのでは…?そう思い立つが、思わぬ障壁が立ち塞がる。

顔も知らない番のアルファよ、オメガの前に跪け!

小池 月
BL
 男性オメガの「本田ルカ」は中学三年のときにアルファにうなじを噛まれた。性的暴行はされていなかったが、通り魔的犯行により知らない相手と番になってしまった。  それからルカは、孤独な発情期を耐えて過ごすことになる。  ルカは十九歳でオメガモデルにスカウトされる。順調にモデルとして活動する中、仕事で出会った俳優の男性アルファ「神宮寺蓮」がルカの番相手と判明する。  ルカは蓮が許せないがオメガの本能は蓮を欲する。そんな相反する思いに悩むルカ。そのルカの苦しみを理解してくれていた周囲の裏切りが発覚し、ルカは誰を信じていいのか混乱してーー。 ★バース性に苦しみながら前を向くルカと、ルカに惹かれることで変わっていく蓮のオメガバースBL★ 性描写のある話には※印をつけます。第12回BL大賞に参加作品です。読んでいただけたら嬉しいです。応援よろしくお願いします(^^♪ 11月27日完結しました✨✨ ありがとうございました☆

【完結】相談する相手を、間違えました

ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。 自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・ *** 執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。 ただ、それだけです。 *** 他サイトにも、掲載しています。 てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。 *** エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。 ありがとうございました。 *** 閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。 ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*) *** 2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。

僕だけの番

五珠 izumi
BL
人族、魔人族、獣人族が住む世界。 その中の獣人族にだけ存在する番。 でも、番には滅多に出会うことはないと言われていた。 僕は鳥の獣人で、いつの日か番に出会うことを夢見ていた。だから、これまで誰も好きにならず恋もしてこなかった。 それほどまでに求めていた番に、バイト中めぐり逢えたんだけれど。 出会った番は同性で『番』を認知できない人族だった。 そのうえ、彼には恋人もいて……。 後半、少し百合要素も含みます。苦手な方はお気をつけ下さい。

うるせぇ!僕はスライム牧場を作るんで邪魔すんな!!

かかし
BL
強い召喚士であることが求められる国、ディスコミニア。 その国のとある侯爵の次男として生まれたミルコは他に類を見ない優れた素質は持っていたものの、どうしようもない事情により落ちこぼれや恥だと思われる存在に。 両親や兄弟の愛情を三歳の頃に失い、やがて十歳になって三ヶ月経ったある日。 自分の誕生日はスルーして兄弟の誕生を幸せそうに祝う姿に、心の中にあった僅かな期待がぽっきりと折れてしまう。 自分の価値を再認識したミルコは、悲しい決意を胸に抱く。 相棒のスライムと共に、名も存在も家族も捨てて生きていこうと… のんびり新連載。 気まぐれ更新です。 BがLするまでかなり時間が掛かる予定ですので注意! 人外CPにはなりません ストックなくなるまでは07:10に公開 3/10 コピペミスで1話飛ばしていたことが判明しました!申し訳ございません!!

完結·助けた犬は騎士団長でした

BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。 ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。 しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。 強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ…… ※完結まで毎日投稿します

処理中です...