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暴虐王の過去2
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それはまるでレオニードの事を偽物だと言っている様に見える。
「そのお姫様は?」
思ったより冷静に声は出た。
軍にいた所為だろう。どんなに辛くても衝撃的なことがあっても声だけは出る。
御伽話の世界の様なものだ。それの残渣だ。
レオニードだって、石を握って生れてきているが、首からぶら下がっているそれは奇跡等起こしたことは無い。
迷信とまでは言わないが、劇的な効果が望めるとは思えない。
そんなものがあれば、レオニードは軍人にもなっていないだろうし、人質としてこの国にも来ていないだろう。
それがこの世界の事実だ。
「ありえないやろ。
そのありえない事のために姫君は生贄になった。」
決めたのはこの国の王族だ。
ああ、そうだ。レオニードはようやく最初の話しに思い至る。
この話は劉祜のものだ。
姫君が貴族の令嬢の事なのか、王族のお姫様なのかは分からない。
それでも――。
レオニードの思考は「劉祜は最後まで反対しとった。けど、ほとんど表舞台に立っていなかったあいつに、発言権なんぞ無かった。」という言葉にかき消されている。
しかもな。
晃の顔は笑いだしそうな、泣き出しそうな表情をしている。
救われる筈の国に大きな天災が起きた。
それで、あいつらはもう一人生贄をささげようとしたんや。
だから、あいつは……。
今まで饒舌だった男の言葉が詰まる。
それで察しがついた。
そのため、次に紡がれた言葉をレオニードは受け止められた。
――だから、暴虐王は自分の父と兄たちを殺した。
かなり途中経過を端折られているということにレオニードは気が付いた。
けれど、今まで噂として聞いたどの話よりも具体的だった。
それに、この話が事実だとすると。
レオニードは己の過ちにようやく気が付く。
この男の言っていることが本当であれば、暴虐王は、ありえもしない奇跡にすがるものも、それを言い訳にするものも許せないのだろう。
レオニードはようやく、何故劉祜が自分の元を訪れたのかに気が付く。
きっと、彼はレオニードを許せなかったのだろう。
石は御伽噺で、レオニードが言い訳として使ったことにもきっと気が付いている。
「優しい兄さんじゃなかったのか?」
嘘であって欲しいという願いは、晃のどう猛な笑みで消えてしまう。
「身内に優しい事と、それ以外を顧みない事は両立するやろ。」
要するに、劉祜は自分に優しかった人間を含め、すべてを殺して玉座についたという事だ。
しかも、その時は最善と思われていた慣例が許せなかったという理由で。
恐らく、何故殺したのか。当時の状況だけでは誰も思い至らなかったのだろう。
「それで?」
「それで、ってなんや?」
生贄の女の子は? その後のこの国の拡大路線を選んだ理由は? 聞きたいことは沢山ある。
けれど、一番聞きたいことは何だろうか。
「その道は、暴虐王一人で決めたことなのか?」
あの優し気な眼差しをするごく普通の人間が、どんな想いでその道を選んだのだろう。
晃は答えなかった。
自分がその同志なのだという言葉を期待していたのかもしれない。
その代わり、彼が答えたのは「知っとるか? お姫様はまだこの宮殿の地下で龍の力を押さえるために幽閉されているんや。」
とだけ言った。
冷え切った眼差しでレオニードは見つめられる。
劉祜は生贄を出さないために、弑逆の王となった。
けれど生贄はこの城の地下に幽閉されている。
一種のパラドックスだった。
「そのお姫様は?」
思ったより冷静に声は出た。
軍にいた所為だろう。どんなに辛くても衝撃的なことがあっても声だけは出る。
御伽話の世界の様なものだ。それの残渣だ。
レオニードだって、石を握って生れてきているが、首からぶら下がっているそれは奇跡等起こしたことは無い。
迷信とまでは言わないが、劇的な効果が望めるとは思えない。
そんなものがあれば、レオニードは軍人にもなっていないだろうし、人質としてこの国にも来ていないだろう。
それがこの世界の事実だ。
「ありえないやろ。
そのありえない事のために姫君は生贄になった。」
決めたのはこの国の王族だ。
ああ、そうだ。レオニードはようやく最初の話しに思い至る。
この話は劉祜のものだ。
姫君が貴族の令嬢の事なのか、王族のお姫様なのかは分からない。
それでも――。
レオニードの思考は「劉祜は最後まで反対しとった。けど、ほとんど表舞台に立っていなかったあいつに、発言権なんぞ無かった。」という言葉にかき消されている。
しかもな。
晃の顔は笑いだしそうな、泣き出しそうな表情をしている。
救われる筈の国に大きな天災が起きた。
それで、あいつらはもう一人生贄をささげようとしたんや。
だから、あいつは……。
今まで饒舌だった男の言葉が詰まる。
それで察しがついた。
そのため、次に紡がれた言葉をレオニードは受け止められた。
――だから、暴虐王は自分の父と兄たちを殺した。
かなり途中経過を端折られているということにレオニードは気が付いた。
けれど、今まで噂として聞いたどの話よりも具体的だった。
それに、この話が事実だとすると。
レオニードは己の過ちにようやく気が付く。
この男の言っていることが本当であれば、暴虐王は、ありえもしない奇跡にすがるものも、それを言い訳にするものも許せないのだろう。
レオニードはようやく、何故劉祜が自分の元を訪れたのかに気が付く。
きっと、彼はレオニードを許せなかったのだろう。
石は御伽噺で、レオニードが言い訳として使ったことにもきっと気が付いている。
「優しい兄さんじゃなかったのか?」
嘘であって欲しいという願いは、晃のどう猛な笑みで消えてしまう。
「身内に優しい事と、それ以外を顧みない事は両立するやろ。」
要するに、劉祜は自分に優しかった人間を含め、すべてを殺して玉座についたという事だ。
しかも、その時は最善と思われていた慣例が許せなかったという理由で。
恐らく、何故殺したのか。当時の状況だけでは誰も思い至らなかったのだろう。
「それで?」
「それで、ってなんや?」
生贄の女の子は? その後のこの国の拡大路線を選んだ理由は? 聞きたいことは沢山ある。
けれど、一番聞きたいことは何だろうか。
「その道は、暴虐王一人で決めたことなのか?」
あの優し気な眼差しをするごく普通の人間が、どんな想いでその道を選んだのだろう。
晃は答えなかった。
自分がその同志なのだという言葉を期待していたのかもしれない。
その代わり、彼が答えたのは「知っとるか? お姫様はまだこの宮殿の地下で龍の力を押さえるために幽閉されているんや。」
とだけ言った。
冷え切った眼差しでレオニードは見つめられる。
劉祜は生贄を出さないために、弑逆の王となった。
けれど生贄はこの城の地下に幽閉されている。
一種のパラドックスだった。
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