英雄の条件

渡辺 佐倉

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暴虐王の過去

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その夜、レオニードの寝室に来たのは劉祜では無かった。

「やあ、お姫様、おひさしゅう。」

晃は当たり前の様に、寝室に入り込む。
今日であったばかりだというのに、白々しい台詞を当たり前の様に言う。

「何かありましたか?」

何も無いのは知っている。
そもそも、また一人なのだ。

誰も伴わないで、人質の部屋に来るのがおかしい事はレオニードにも分かる。

けれど、人を呼んで何とかなる話だとも思えない。

この男に逆らえる人間が周りにはいない。

「いやいや、今日の踊りがあんまりにも綺麗だったからな。」

ニヤリと晃は笑う。
それが程度の良い笑いだとは、レオニードにはどうしても思えなかった。

「お礼に、昔話をしよと思うてな。」

“暴虐王”様のおとぎ話をしよか。確かめる様に晃は言う。

彼が話すことが本当の事だという確証はない。むしろこの男は嘘つきだ。
ただ、レオニードが断ったところでこの男は話すのだろうということも分かっていた。


晃の話が始まる。

昔々でもない時代、彼はこの国の王子として生まれた。
上の兄は優秀で、下の兄は優しかった。

自分が王になることは無いであろうということは幼い彼にも分かっていた。
けれど毎日懸命に勉強してたらしい。

らしい、というのはまだ当時あったことが無かったんや。

それが感慨というべきなのか、まるで懐かしい日々を思い浮かべている様な表情をして、レオニードはいささか驚く。
晃の素の表情なのか、わざとそれを演出しているのかが分からなかった。

体が弱かった。と聞いている。
けれど、宮殿で大きな宴があった時には、さすがに出席していた。

それが、俺たち四人の出会いやったん。

「四人?」

二人では無いのか? 何の話を晃はしているのか。
晃はしいっと黙らせるように口に上に人差し指を置く。

「まず、俺が王様に声をかけてな。」

あの事の王様はまだ、少し人見知りするところがあってん。
有力貴族の子と王族や。周りは当たり前と思ってたところがあった。

それから年の近い貴族の息子、今はお大臣さまや。式典で会った事あるかい?

レオニードにはもしかしたらという人物がいたが、それが彼の言っている男なのかは分からない。

それから、もう一人……。

晃は一旦言葉を区切る。懐かしそうに目を細めて「お姫様がおったんや。」

かわいい、かわいいお姫さんがな。
嬉しそうに晃が言う。

それはレオニードに向って蔑むようにいう姫君という響きと、まるで違って聞こえる。

――けどな。

ぞの声はぞっとする位平坦だった。

「姫さんの国にもあるやろ。おとぎ話が。」

王族が本当に愛したものに身代わり石を渡すと何かあった時に身代わりになれるそうで? うちの国のおとぎ話はそんな救いのある話じゃない。

「人柱である巫女が必要だって話。」

この国は昔々龍が治めていた。その龍の力を押さえるためにって、まあどこにでもある御伽噺だ。

「姫さんは知っとるか?」

彼の口角が歪に上がって不気味な笑みを浮かべる。
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