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花見1
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昔、花見を友人としたことはあった。
けれど、こんな風に着飾ってというのは初めてだ。
体面がと言うのは分かっているが、他の貴族が見ている場所だとは思えない。
宮殿の中なのだ。他の誰かの目に触れるとはレオニードには思えなかった。
勿論そもそもこの中にいる人間は女官にしろ奉公人にしろ、貴族の人間なのだという事は頭では分かっているのだ。
彼らの常識では当たり前のことを当たり前にやっているだけなのだろう。
けれど、あまりにも華美で、レオニードは疲れてしまう。
ぼんやりと渡された茶器を手に取る。
美しい透かし彫りの様な技法が施されているそれは、薄水色をしていて美しい。
並べられた菓子も色とりどりだ。
それよりも何よりも、思いのほか沢山の桃の木が生えていてレオニードは驚いた。
数本あるのが綺麗だという話なのだと思っていたが、一面の満開の花に思わずレオニードも感嘆の声を上げてしまった。
自分の着ているひらひらとした服の事を忘れられる位桃の花は美しい。
「噂のお姫さんってあんたのことかい?」
イメージと随分ちごおてると訛りのキツイ共用語で話しかけられる。
その男がご同業であることは、体の動かし方ですぐわかった。
人質業《ひとじちぎょう》の方では無く、この男は軍人だ。
そして、この場に来れるということは、かなり上層部の人間なのだろう。
勝手に敷物に上がり込み、レオニードの隣に座った男を止めるものは誰もいない。
止めるどころか、声をかけて確認できる地位のものもこの中にはいないという事だろう。
「私の事がどこかで、噂になってますか?」
なるべく丁寧に聞く。
この場で名を聞くことが失礼ではないと教わった知識では分かっているのに、気分を害された時のリスクが大きすぎてきりだせない。
人質としての価値はそれほどでもない事はレオニード自身よく知っている。
けれど、全く無い訳でもない事も知っていた。
もしこの場で何かあった時責任を取らされるのはレオニードではない。
だからこそ、自分の言動には気を付けなければならない。
「“暴虐王”に生贄に捧げられたって話だけど、そうじゃなさそうやな。」
そんな、肩ひじはらんと大丈夫やで。と言われるがそれはむずかしい。
それに、妙な訛りはもしかして態とではないかとさえ思えてしまう。
この国で初対面の人間相手に劉祜を“暴虐王”と言える人間は限られてくる。
「ああ。自己紹介がまだだったなぁ。」
男はニヤリと笑って、レオニードを見据えた。
けれど、こんな風に着飾ってというのは初めてだ。
体面がと言うのは分かっているが、他の貴族が見ている場所だとは思えない。
宮殿の中なのだ。他の誰かの目に触れるとはレオニードには思えなかった。
勿論そもそもこの中にいる人間は女官にしろ奉公人にしろ、貴族の人間なのだという事は頭では分かっているのだ。
彼らの常識では当たり前のことを当たり前にやっているだけなのだろう。
けれど、あまりにも華美で、レオニードは疲れてしまう。
ぼんやりと渡された茶器を手に取る。
美しい透かし彫りの様な技法が施されているそれは、薄水色をしていて美しい。
並べられた菓子も色とりどりだ。
それよりも何よりも、思いのほか沢山の桃の木が生えていてレオニードは驚いた。
数本あるのが綺麗だという話なのだと思っていたが、一面の満開の花に思わずレオニードも感嘆の声を上げてしまった。
自分の着ているひらひらとした服の事を忘れられる位桃の花は美しい。
「噂のお姫さんってあんたのことかい?」
イメージと随分ちごおてると訛りのキツイ共用語で話しかけられる。
その男がご同業であることは、体の動かし方ですぐわかった。
人質業《ひとじちぎょう》の方では無く、この男は軍人だ。
そして、この場に来れるということは、かなり上層部の人間なのだろう。
勝手に敷物に上がり込み、レオニードの隣に座った男を止めるものは誰もいない。
止めるどころか、声をかけて確認できる地位のものもこの中にはいないという事だろう。
「私の事がどこかで、噂になってますか?」
なるべく丁寧に聞く。
この場で名を聞くことが失礼ではないと教わった知識では分かっているのに、気分を害された時のリスクが大きすぎてきりだせない。
人質としての価値はそれほどでもない事はレオニード自身よく知っている。
けれど、全く無い訳でもない事も知っていた。
もしこの場で何かあった時責任を取らされるのはレオニードではない。
だからこそ、自分の言動には気を付けなければならない。
「“暴虐王”に生贄に捧げられたって話だけど、そうじゃなさそうやな。」
そんな、肩ひじはらんと大丈夫やで。と言われるがそれはむずかしい。
それに、妙な訛りはもしかして態とではないかとさえ思えてしまう。
この国で初対面の人間相手に劉祜を“暴虐王”と言える人間は限られてくる。
「ああ。自己紹介がまだだったなぁ。」
男はニヤリと笑って、レオニードを見据えた。
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