英雄の条件

渡辺 佐倉

文字の大きさ
上 下
16 / 61

花見1

しおりを挟む
昔、花見を友人としたことはあった。

けれど、こんな風に着飾ってというのは初めてだ。
体面がと言うのは分かっているが、他の貴族が見ている場所だとは思えない。

宮殿の中なのだ。他の誰かの目に触れるとはレオニードには思えなかった。

勿論そもそもこの中にいる人間は女官にしろ奉公人にしろ、貴族の人間なのだという事は頭では分かっているのだ。

彼らの常識では当たり前のことを当たり前にやっているだけなのだろう。

けれど、あまりにも華美で、レオニードは疲れてしまう。

ぼんやりと渡された茶器を手に取る。
美しい透かし彫りの様な技法が施されているそれは、薄水色をしていて美しい。

並べられた菓子も色とりどりだ。

それよりも何よりも、思いのほか沢山の桃の木が生えていてレオニードは驚いた。

数本あるのが綺麗だという話なのだと思っていたが、一面の満開の花に思わずレオニードも感嘆の声を上げてしまった。

自分の着ているひらひらとした服の事を忘れられる位桃の花は美しい。

「噂のお姫さんってあんたのことかい?」

イメージと随分ちごおてると訛りのキツイ共用語で話しかけられる。


その男がご同業であることは、体の動かし方ですぐわかった。

人質業《ひとじちぎょう》の方では無く、この男は軍人だ。
そして、この場に来れるということは、かなり上層部の人間なのだろう。

勝手に敷物に上がり込み、レオニードの隣に座った男を止めるものは誰もいない。
止めるどころか、声をかけて確認できる地位のものもこの中にはいないという事だろう。

「私の事がどこかで、噂になってますか?」

なるべく丁寧に聞く。
この場で名を聞くことが失礼ではないと教わった知識では分かっているのに、気分を害された時のリスクが大きすぎてきりだせない。

人質としての価値はそれほどでもない事はレオニード自身よく知っている。
けれど、全く無い訳でもない事も知っていた。

もしこの場で何かあった時責任を取らされるのはレオニードではない。
だからこそ、自分の言動には気を付けなければならない。

「“暴虐王”に生贄に捧げられたって話だけど、そうじゃなさそうやな。」

そんな、肩ひじはらんと大丈夫やで。と言われるがそれはむずかしい。
それに、妙な訛りはもしかして態とではないかとさえ思えてしまう。

この国で初対面の人間相手に劉祜を“暴虐王”と言える人間は限られてくる。

「ああ。自己紹介がまだだったなぁ。」

男はニヤリと笑って、レオニードを見据えた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

Promised Happiness

春夏
BL
【完結しました】 没入型ゲームの世界で知り合った理久(ティエラ)と海未(マール)。2人の想いの行方は…。 Rは13章から。※つけます。 このところ短期完結の話でしたが、この話はわりと長めになりました。

初恋

春夏
BL
【完結しました】 貴大に一目惚れした将真。二人の出会いとその夜の出来事のお話です。Rには※つけます。

婚約者に会いに行ったらば

龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。 そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。 ショックでその場を逃げ出したミシェルは―― 何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。 そこには何やら事件も絡んできて? 傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。

顔も知らない番のアルファよ、オメガの前に跪け!

小池 月
BL
 男性オメガの「本田ルカ」は中学三年のときにアルファにうなじを噛まれた。性的暴行はされていなかったが、通り魔的犯行により知らない相手と番になってしまった。  それからルカは、孤独な発情期を耐えて過ごすことになる。  ルカは十九歳でオメガモデルにスカウトされる。順調にモデルとして活動する中、仕事で出会った俳優の男性アルファ「神宮寺蓮」がルカの番相手と判明する。  ルカは蓮が許せないがオメガの本能は蓮を欲する。そんな相反する思いに悩むルカ。そのルカの苦しみを理解してくれていた周囲の裏切りが発覚し、ルカは誰を信じていいのか混乱してーー。 ★バース性に苦しみながら前を向くルカと、ルカに惹かれることで変わっていく蓮のオメガバースBL★ 性描写のある話には※印をつけます。第12回BL大賞に参加作品です。読んでいただけたら嬉しいです。応援よろしくお願いします(^^♪ 11月27日完結しました✨✨ ありがとうございました☆

春を拒む【完結】

璃々丸
BL
 日本有数の財閥三男でΩの北條院環(ほうじょういん たまき)の目の前には見るからに可憐で儚げなΩの女子大生、桜雛子(さくら ひなこ)が座っていた。 「ケイト君を解放してあげてください!」  大きなおめめをうるうるさせながらそう訴えかけてきた。  ケイト君────諏訪恵都(すわ けいと)は環の婚約者であるαだった。  環とはひとまわり歳の差がある。この女はそんな環の負い目を突いてきたつもりだろうが、『こちとらお前等より人生経験それなりに積んどんねん────!』  そう簡単に譲って堪るか、と大人げない反撃を開始するのであった。  オメガバな設定ですが設定は緩めで独自設定があります、ご注意。 不定期更新になります。   

【完結】相談する相手を、間違えました

ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。 自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・ *** 執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。 ただ、それだけです。 *** 他サイトにも、掲載しています。 てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。 *** エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。 ありがとうございました。 *** 閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。 ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*) *** 2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。

僕だけの番

五珠 izumi
BL
人族、魔人族、獣人族が住む世界。 その中の獣人族にだけ存在する番。 でも、番には滅多に出会うことはないと言われていた。 僕は鳥の獣人で、いつの日か番に出会うことを夢見ていた。だから、これまで誰も好きにならず恋もしてこなかった。 それほどまでに求めていた番に、バイト中めぐり逢えたんだけれど。 出会った番は同性で『番』を認知できない人族だった。 そのうえ、彼には恋人もいて……。 後半、少し百合要素も含みます。苦手な方はお気をつけ下さい。

そんなの真実じゃない

イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———? 彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。 ============== 人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。

処理中です...