英雄の条件

渡辺 佐倉

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月明り2

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ユーリィは花が好きらしい。
そういうタイプは軍にはいなかった様に思えて、レオニードには新鮮だった。

他の新しい奉公人たちは、「ようやく貴族らしいことに興味を持たれた。」と喜んでいる様だった。

貴族の嗜みというやつがどれほどの意味があるのかはレオニードには分からないけれど、それを必要とされていることは理解できる。

桃の木の下で茶を振舞い、詩を詠む。
誰か客人を招くこともあるらしいが、最初からそれをやって粗相があると事だ。
その位はレオニード自身も使用人たちも分かっている。

菓子は、茶器はと慌ただしいながらも動き回っている奉公人たちを見ながら、紙に向う。
こういうものはしきたりが大切なのだ。

劉祜にお茶会を行う許可を得るための手紙を書く。
レオニードが軍にいた頃の物資なり増援なりの嘆願書も迂遠な表現があった。それは自分達が責任を負わないためのもので、きっと多分これも同じようなものなのだろう。

同じ場所にいるのだからと会いにいって声をかける訳にもいかないこと位もう知っていた。

美しい紙にしたためる言葉は、レオニードの母国語だ。
これを劉祜は通訳無しで読むということだ。

このやり取りを面倒だとはあまり思わなくなったのは、相手が劉祜だからだろうか。


返事は予想した通り、劉祜は参加できない旨とそれから、好きに楽しむ様にという旨が流れる様な文章で書かれていた。

いつもの口調とあまりにも違う、劉祜の文章にまるで秘密の文章のやり取りの様で少し楽しい気分になる。

バタバタと周りが準備をしている数日、ぼんやりとその様子を見て自分が手出しをできないもどかしさを少しだけ感じた。

「あの、鍛錬を……。」

してくるから、とユーリィに言うと。彼は視線をさまよわせて「お庭ですよね? 御同行したほうがよろしいでしょうか?」と言った。
忙しいことは分かっている。

ユーリィも知識が無い中、異国の地で必死になっていることも知っている。

「いや、できれば一人になりたい。」

そう言うと、ユーリィは曖昧に笑った。
こういう笑い方をする人間とあまり今まで関わったことが無かったため、どういった心持ちでそう言った表情をするのかレオニードには分からない。

けれどそれを確認するにもユーリィは忙しすぎるし、改めて日課になっている剣の鍛錬を休みたくないとレオニードは思った。

「終わったら、休憩につきあってくれ。」

レオニードが言うと今度は、花がほころぶ様な笑顔でユーリィは笑った。
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