13 / 61
名前3
しおりを挟む
「約束しただろう。」
入っているものは恐らく菓子だろう。
渡されたものは花のような透かし彫りがしてある綺麗な紙に包まれている。
それが二つ、手渡される。
「ありがとうございます。」
中身を確認はしていないが、きっとユーリィは喜んでくれるだろう。
そう思って受け取ると「白い箱はレオニード。君自身に。」と言われる。
「普段から、甘いものはほとんどとっていないだろう。」
だから、こっちは伴侶殿にと言いながら劉祜が笑みを深める。
何故わざわざそれを確認して、プレゼントを贈られるのかがレオニードには分からなかった。
「開けてみてもよろしいでしょうか?」
レオニードが聞くと劉祜は勿論と頷く。
薄い紙を破ると中に入っていたのは美しい装飾のされた短刀だった。
彫られている意匠が花だということだけはかろうじてレオニードにも分かる。
けれど、いくら小ぶりとはいえ剣を贈られる意味がこの国にあるのか、レオニードには分からない。
「これは?」
おずおずと尋ねるレオニードに、劉祜は軽い調子で「剣技の褒美として、丁度良いだろう。」と言った。
それから「我が故国では、嫁入りの際に短刀を持ってくる風習がある。」と付け加えた。
「結婚式は挙げないだろうから、せめてもの贈り物だ。」
嫁入り道具なのであれば夫から贈られること自体一般的ではないのだろう。
「まあ、式は正式な皇妃のためにとっておいてください。」
レオニードが言うと、劉祜はきょとんとした顔でこちらを見た。
その表情があまりにも暴虐王のイメージと違っていて思わずレオニードは笑ってしまった。
「その顔……、あははは。」
思わず声を上げて笑うレオニードに、劉祜が微笑む。
「じゃあ、お妃サマとしてありがたくいただきます。」
ひとしきり笑った後、レオニードが言った。
「ああ、婚姻の誓いとして受け取って欲しい。」
劉祜はまじめな顔で言った。
「何も誓えはしないけれど、レオニードとその民の命はできる限り尊重しよう。」
そもそも、誓いの意味がある婚姻ではないこと位レオニードでも知っているし、劉祜は他国の民の命を保証できる立場なのかといえば今のレオニードには分からなくなってしまっている。
だからこそ、劉祜のこの言葉が、彼の最大限だということが理解できる。
「ありがとうございます、皇帝陛下。」
レオニードは座っていた椅子から立ち上がって頭を下げる。
このポーズがこの国での正式な挨拶だということは、もう学んでいた。
そこで、彼の事をもう“暴虐王”だと全く思っていないことに気が付いた。
形式上だけの婚姻だ。
だけど、友になることはできるかもしれない。
レオニードはそんな期待を抱いてしまう。
何故、彼が暴虐王と呼ばれるのか分からない。
自分もつい先日まで、心の中で彼の事をそう呼んでいたにも関わらず、まるで分からなかった。
本人に聞けば答えてくれるだろうか。
その考えはすぐにレオニード自身で否定した。どうして、彼がレオニードに教育を施してくれるのかは知らないが、何を教えようとしているのかは少しずつ朧気ながら分かってきている。
聞けば答えてくれるような世界に彼は生きてはいない。
それであれば、聞かないのが礼儀だろう。
彼に報告されずに教師たちに教わる方法があるのかも分からない。
けれど、彼が何故暴虐王とまで呼ばれなければならないのかが少し前から気になって仕方が無いのだ。
「レオニードのふるう為の剣は、また今度にとっておいて欲しい。」
劉祜に言われ、また剣を交えようと話したことを胸の中でそっと反芻する。
それは、レオニードの中で、とても尊い約束になっていることを劉祜は知らない。
けれど、再び鍛錬を始めたということは誰かから聞いているのだろう。
そっとレオニードの指を撫でる。
近い距離ではあった。
けれど、触れられるとは思っていなかったのだ。
思わず固まるレオニードに劉祜は双眸を下げる。
何が面白いのか、レオニードには分からなかった。
入っているものは恐らく菓子だろう。
渡されたものは花のような透かし彫りがしてある綺麗な紙に包まれている。
それが二つ、手渡される。
「ありがとうございます。」
中身を確認はしていないが、きっとユーリィは喜んでくれるだろう。
そう思って受け取ると「白い箱はレオニード。君自身に。」と言われる。
「普段から、甘いものはほとんどとっていないだろう。」
だから、こっちは伴侶殿にと言いながら劉祜が笑みを深める。
何故わざわざそれを確認して、プレゼントを贈られるのかがレオニードには分からなかった。
「開けてみてもよろしいでしょうか?」
レオニードが聞くと劉祜は勿論と頷く。
薄い紙を破ると中に入っていたのは美しい装飾のされた短刀だった。
彫られている意匠が花だということだけはかろうじてレオニードにも分かる。
けれど、いくら小ぶりとはいえ剣を贈られる意味がこの国にあるのか、レオニードには分からない。
「これは?」
おずおずと尋ねるレオニードに、劉祜は軽い調子で「剣技の褒美として、丁度良いだろう。」と言った。
それから「我が故国では、嫁入りの際に短刀を持ってくる風習がある。」と付け加えた。
「結婚式は挙げないだろうから、せめてもの贈り物だ。」
嫁入り道具なのであれば夫から贈られること自体一般的ではないのだろう。
「まあ、式は正式な皇妃のためにとっておいてください。」
レオニードが言うと、劉祜はきょとんとした顔でこちらを見た。
その表情があまりにも暴虐王のイメージと違っていて思わずレオニードは笑ってしまった。
「その顔……、あははは。」
思わず声を上げて笑うレオニードに、劉祜が微笑む。
「じゃあ、お妃サマとしてありがたくいただきます。」
ひとしきり笑った後、レオニードが言った。
「ああ、婚姻の誓いとして受け取って欲しい。」
劉祜はまじめな顔で言った。
「何も誓えはしないけれど、レオニードとその民の命はできる限り尊重しよう。」
そもそも、誓いの意味がある婚姻ではないこと位レオニードでも知っているし、劉祜は他国の民の命を保証できる立場なのかといえば今のレオニードには分からなくなってしまっている。
だからこそ、劉祜のこの言葉が、彼の最大限だということが理解できる。
「ありがとうございます、皇帝陛下。」
レオニードは座っていた椅子から立ち上がって頭を下げる。
このポーズがこの国での正式な挨拶だということは、もう学んでいた。
そこで、彼の事をもう“暴虐王”だと全く思っていないことに気が付いた。
形式上だけの婚姻だ。
だけど、友になることはできるかもしれない。
レオニードはそんな期待を抱いてしまう。
何故、彼が暴虐王と呼ばれるのか分からない。
自分もつい先日まで、心の中で彼の事をそう呼んでいたにも関わらず、まるで分からなかった。
本人に聞けば答えてくれるだろうか。
その考えはすぐにレオニード自身で否定した。どうして、彼がレオニードに教育を施してくれるのかは知らないが、何を教えようとしているのかは少しずつ朧気ながら分かってきている。
聞けば答えてくれるような世界に彼は生きてはいない。
それであれば、聞かないのが礼儀だろう。
彼に報告されずに教師たちに教わる方法があるのかも分からない。
けれど、彼が何故暴虐王とまで呼ばれなければならないのかが少し前から気になって仕方が無いのだ。
「レオニードのふるう為の剣は、また今度にとっておいて欲しい。」
劉祜に言われ、また剣を交えようと話したことを胸の中でそっと反芻する。
それは、レオニードの中で、とても尊い約束になっていることを劉祜は知らない。
けれど、再び鍛錬を始めたということは誰かから聞いているのだろう。
そっとレオニードの指を撫でる。
近い距離ではあった。
けれど、触れられるとは思っていなかったのだ。
思わず固まるレオニードに劉祜は双眸を下げる。
何が面白いのか、レオニードには分からなかった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
79
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる