11 / 61
名前1
しおりを挟む
聞える音はお互いの息遣いだけだった。
結婚式もしていなければ、特に何もしていない伴侶と初めてしたことがこれというのは、少しばかり愉快だった。
レオニードは思わず微笑む。けれどそれは勝者の微笑みという訳では、全くなかった。
そんな風に自然と笑顔を浮かべるのはいつぶりだろうか。
軍にいた時はその時の状況に合わせて半ば無理やり笑顔を浮かべていた気がする。
それが戦闘のために必要だったからという理由だけで軽口をいって笑い合っていた気がする。
だから、多分久しぶりの笑顔だった。
その笑顔をみて、暴虐王が我に返ったかの様にニヤリと笑った。
剣を交えていた時間はほんのわずかな時間だった。
レオニードは暴虐王に向って手を伸ばす。
その手をつかんで暴虐王は立ち上がった。
「完敗だ。」
そう“暴虐王”は笑った。
けれどあまりそうだとは思わなかった。
レオニードは本気を出していたけれど、果たして暴虐王もそうだったのかは分からない。
まるでレオニードの力を確認するみたいなそんなやり取りだった。
けれど、あのニヤリと笑った瞬間だけは彼の素が出ていたのかもしれない。
「調べていた軍歴と少しばかり違ったな。」
暴虐王に言われるがレオニードは肯定も否定もしなかった。
国のためにその質問に答えることはできない。
そんなことは百も承知なのであろう。何も答えないレオニードに暴虐王は気にした素振りも無く負けたにも関わらず上機嫌だった。
「名を教える以外に酒でもふるまおうか?」
聞かれてふと最近飲酒をしていない事に気が付く。
けれどそれよりもとレオニードは欲しいものがあった。
軍にいたころ上官は部下に秘蔵の酒だの煙草だの、それから菓子の様な嗜好品をそっと手渡すことがあった。
ユーリィは年齢的に菓子がいいだろう。
「この国には美しい砂糖菓子があると聞きます。是非それを。」
「甘党だったとは、それもこちらの調べとは違うな。」
当てにならないものだと暴虐王が言う。
レオニードは思わず笑った。
暴虐王はレオニードと向き合うと、まじめな表情になる。
「劉祜《りゅうこ》だ。」
慣れない響きの言葉に一瞬何を言っているのか分からなかったけれど、レオニードはすぐにそれが暴虐王の名だということに気が付く。
「帝位の名ではないが、気が向いたときに呼べばいい。」
一応、妃なんだ。咎める者はいないだろうと笑う。
レオニードは、さすがに気安く誰かの前で呼べるものではない事位分かっていた。
「劉祜。」
「なんだ?」
どうせ呼ばない名なので一度呼んでみたかった。それだけだった。
自分の声で響く暴虐王の名は不思議に響く。
「面映ゆいものだな。」
劉祜はそんなことを言う。何故彼が恥ずかしがっているのかレオニードにはよく分からない。
「レオニードという名は王族のものか?」
「まさか。母さんが付けたんじゃないかと思ってるけど。」
父が付けたという話を聞いたことは無い。だから多分母親が一人でつけた名だ。
「そうか。良い名だ。」
劉祜にそういわれて、何故彼が恥ずかしがるような、照れる様なそんなことを言ったのかが分かった。
これは照れてしまう。
「今度は……。」
劉祜が静かに言う。
「レオニードに合わせた剣を作らせよう。」
次があるとしたら、その時は負けない。
そう言われてレオニードは思わず笑みを浮かべた。
「鍛錬して待ってるから。」
まるでそれを待ち望んている言い方になったことにレオニード自身が驚いた。
それは劉祜もそれには少しばかり驚いたらしく、一瞬固まってから吐息に近い笑い声をあげて「そうだな。俺も楽しみにしている。」とこたえた。
結婚式もしていなければ、特に何もしていない伴侶と初めてしたことがこれというのは、少しばかり愉快だった。
レオニードは思わず微笑む。けれどそれは勝者の微笑みという訳では、全くなかった。
そんな風に自然と笑顔を浮かべるのはいつぶりだろうか。
軍にいた時はその時の状況に合わせて半ば無理やり笑顔を浮かべていた気がする。
それが戦闘のために必要だったからという理由だけで軽口をいって笑い合っていた気がする。
だから、多分久しぶりの笑顔だった。
その笑顔をみて、暴虐王が我に返ったかの様にニヤリと笑った。
剣を交えていた時間はほんのわずかな時間だった。
レオニードは暴虐王に向って手を伸ばす。
その手をつかんで暴虐王は立ち上がった。
「完敗だ。」
そう“暴虐王”は笑った。
けれどあまりそうだとは思わなかった。
レオニードは本気を出していたけれど、果たして暴虐王もそうだったのかは分からない。
まるでレオニードの力を確認するみたいなそんなやり取りだった。
けれど、あのニヤリと笑った瞬間だけは彼の素が出ていたのかもしれない。
「調べていた軍歴と少しばかり違ったな。」
暴虐王に言われるがレオニードは肯定も否定もしなかった。
国のためにその質問に答えることはできない。
そんなことは百も承知なのであろう。何も答えないレオニードに暴虐王は気にした素振りも無く負けたにも関わらず上機嫌だった。
「名を教える以外に酒でもふるまおうか?」
聞かれてふと最近飲酒をしていない事に気が付く。
けれどそれよりもとレオニードは欲しいものがあった。
軍にいたころ上官は部下に秘蔵の酒だの煙草だの、それから菓子の様な嗜好品をそっと手渡すことがあった。
ユーリィは年齢的に菓子がいいだろう。
「この国には美しい砂糖菓子があると聞きます。是非それを。」
「甘党だったとは、それもこちらの調べとは違うな。」
当てにならないものだと暴虐王が言う。
レオニードは思わず笑った。
暴虐王はレオニードと向き合うと、まじめな表情になる。
「劉祜《りゅうこ》だ。」
慣れない響きの言葉に一瞬何を言っているのか分からなかったけれど、レオニードはすぐにそれが暴虐王の名だということに気が付く。
「帝位の名ではないが、気が向いたときに呼べばいい。」
一応、妃なんだ。咎める者はいないだろうと笑う。
レオニードは、さすがに気安く誰かの前で呼べるものではない事位分かっていた。
「劉祜。」
「なんだ?」
どうせ呼ばない名なので一度呼んでみたかった。それだけだった。
自分の声で響く暴虐王の名は不思議に響く。
「面映ゆいものだな。」
劉祜はそんなことを言う。何故彼が恥ずかしがっているのかレオニードにはよく分からない。
「レオニードという名は王族のものか?」
「まさか。母さんが付けたんじゃないかと思ってるけど。」
父が付けたという話を聞いたことは無い。だから多分母親が一人でつけた名だ。
「そうか。良い名だ。」
劉祜にそういわれて、何故彼が恥ずかしがるような、照れる様なそんなことを言ったのかが分かった。
これは照れてしまう。
「今度は……。」
劉祜が静かに言う。
「レオニードに合わせた剣を作らせよう。」
次があるとしたら、その時は負けない。
そう言われてレオニードは思わず笑みを浮かべた。
「鍛錬して待ってるから。」
まるでそれを待ち望んている言い方になったことにレオニード自身が驚いた。
それは劉祜もそれには少しばかり驚いたらしく、一瞬固まってから吐息に近い笑い声をあげて「そうだな。俺も楽しみにしている。」とこたえた。
15
お気に入りに追加
87
あなたにおすすめの小説
【完結】僕の大事な魔王様
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
BL
母竜と眠っていた幼いドラゴンは、なぜか人間が住む都市へ召喚された。意味が分からず本能のままに隠れたが発見され、引きずり出されて兵士に殺されそうになる。
「お母さん、お父さん、助けて! 魔王様!!」
魔族の守護者であった魔王様がいない世界で、神様に縋る人間のように叫ぶ。必死の嘆願は幼ドラゴンの魔力を得て、遠くまで響いた。そう、隣接する別の世界から魔王を召喚するほどに……。
俺様魔王×いたいけな幼ドラゴン――成長するまで見守ると決めた魔王は、徐々に真剣な想いを抱くようになる。彼の想いは幼過ぎる竜に届くのか。ハッピーエンド確定
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/11……完結
2023/09/28……カクヨム、週間恋愛 57位
2023/09/23……エブリスタ、トレンドBL 5位
2023/09/23……小説家になろう、日間ファンタジー 39位
2023/09/21……連載開始
置き去りにされたら、真実の愛が待っていました
夜乃すてら
BL
トリーシャ・ラスヘルグは大の魔法使い嫌いである。
というのも、元婚約者の蛮行で、転移門から寒地スノーホワイトへ置き去りにされて死にかけたせいだった。
王城の司書としてひっそり暮らしているトリーシャは、ヴィタリ・ノイマンという青年と知り合いになる。心穏やかな付き合いに、次第に友人として親しくできることを喜び始める。
一方、ヴィタリ・ノイマンは焦っていた。
新任の魔法師団団長として王城に異動し、図書室でトリーシャと出会って、一目ぼれをしたのだ。問題は赴任したてで制服を着ておらず、〈枝〉も持っていなかったせいで、トリーシャがヴィタリを政務官と勘違いしたことだ。
まさかトリーシャが大の魔法使い嫌いだとは知らず、ばれてはならないと偽る覚悟を決める。
そして関係を重ねていたのに、元婚約者が現れて……?
若手の大魔法使い×トラウマ持ちの魔法使い嫌いの恋愛の行方は?
かくして王子様は彼の手を取った
亜桜黄身
BL
麗しい顔が近づく。それが挨拶の距離感ではないと気づいたのは唇同士が触れたあとだった。
「男を簡単に捨ててしまえるだなどと、ゆめゆめ思わないように」
──
目が覚めたら異世界転生してた外見美少女中身男前の受けが、計算高い腹黒婚約者の攻めに婚約破棄を申し出てすったもんだする話。
腹黒で策士で計算高い攻めなのに受けが鈍感越えて予想外の方面に突っ走るから受けの行動だけが読み切れず頭掻きむしるやつです。
受けが同性に性的な意味で襲われる描写があります。
幼馴染は僕を選ばない。
佳乃
BL
ずっと続くと思っていた〈腐れ縁〉は〈腐った縁〉だった。
僕は好きだったのに、ずっと一緒にいられると思っていたのに。
僕がいた場所は僕じゃ無い誰かの場所となり、繋がっていると思っていた縁は腐り果てて切れてしまった。
好きだった。
好きだった。
好きだった。
離れることで断ち切った縁。
気付いた時に断ち切られていた縁。
辛いのは、苦しいのは彼なのか、僕なのか…。
すべてはあなたを守るため
高菜あやめ
BL
【天然超絶美形な王太子×妾のフリした護衛】 Y国の次期国王セレスタン王太子殿下の妾になるため、はるばるX国からやってきたロキ。だが妾とは表向きの姿で、その正体はY国政府の依頼で派遣された『雇われ』護衛だ。戴冠式を一か月後に控え、殿下をあらゆる刺客から守りぬかなくてはならない。しかしこの任務、殿下に素性を知られないことが条件で、そのため武器も取り上げられ、丸腰で護衛をするとか無茶な注文をされる。ロキははたして殿下を守りぬけるのか……愛情深い王太子殿下とポンコツ護衛のほのぼの切ないラブコメディです
【完結】紅く染まる夜の静寂に ~吸血鬼はハンターに溺愛される~
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
BL
吸血鬼を倒すハンターである青年は、美しい吸血鬼に魅せられ囚われる。
若きハンターは、己のルーツを求めて『吸血鬼の純血種』を探していた。たどり着いた古城で、美しい黒髪の青年と出会う。彼は自らを純血の吸血鬼王だと名乗るが……。
対峙するはずの吸血鬼に魅せられたハンターは、吸血鬼王に血と愛を捧げた。
ハンター×吸血鬼、R-15表現あり、BL、残酷描写・流血描写・吸血表現あり
※印は性的表現あり
【重複投稿】エブリスタ、アルファポリス、小説家になろう
全89話+外伝3話、2019/11/29完
オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる
クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる