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嫁入り1
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レオニードは隣国へと向かう馬車の中で一人溜息をついた。
隣国、といってもレオニードが子供の頃に隣国だった国は帝国に滅ぼされ今はもう存在しない。
どの国にとっても隣国というのはある一つの帝国を指すようになってしまった。
その帝国から自国の王に特使が派遣されたのはつい先日だと聞いている。
詳細すら聞かされていないレオニードは名ばかりの第七王子だ。母親は王族という訳ですらない。
帝王学なんてものは学んだことは無いし、実際今の今まで軍人として働いていたのだ。
それが突然王都に呼び戻されたと思ったら「喜べ!帝国がお前を妃に迎え入れたいと言っている。」という具合で突然出された話にレオニードの頭の中はこんらんしていた。
まるで意味が分からないことを自分の国の大臣達が言っている。
けれど今や世界最大の国家になった帝国に自国が逆らえる筈がないのも分かる。
「俺、男なんですが……。」
思わず呟いてしまった言葉に「先方は性別は指定してこなかった。」とだけ答えられる。
それでようやくなんとなく状況を察することができた。
おそらく帝国は人質が欲しいのだ。男でも女でも構わないから王族から人質を差し出せと言われたのだろう。
そもそも、面識もなければ国の公式行事にも参加していないレオニードが指定される筈がないのだし“性別は”と言われたのだ。
けれどレオニードはそれが詭弁だということもよく知っている。
王族の誰かを差し出せとでも言われたのだろう。
それに諾々と従いたくはないのだろう。
だから国家運営に支障をきたさないレオニードが適任だったのだろう。
殆ど顔を合わせたことも無いお父上たる国王陛下のご命令で人質として暴虐王に嫁げと言われたのだ。
馬鹿らしい。
馬鹿らしいが、暴虐王はきっと見目の麗しい姫君か若君が来ると信じているのだろう。
我が王室は銀髪にアメジストの瞳を持つ美しい者達で占められていると有名なのだ。
それを求める意味を感じない方がおかしい。
レオニードも髪色と瞳こそその特徴を有しているが、お世辞にも美しいとは言い難い。
仕事をしていてもまず王族だとは思われない。それほどに、レオニードとは違う儚げな印象を持っているのが兄弟であり、父である。
美しいという言葉がぴったりな王族から誰かをと言われて、全くその条件に合わないレオニードが嫁ぐ。
事務的に告げた国王はすぐに下がってしまい、質問すらできなかった。
「俺が行って、先方は怒らないんですか?」
次官を名乗る男に聞く。
すぐに出立だと言われているのに親にしろ兄弟にしろ見送りに来そうな気配すらないのは、まあそういうことだろう。
別に特に楽しい思い出が親族とある訳でもないのでどうでもいい。
「こちらは約束を果たしますのでケチをつけられる謂れはないのですよ。
ただし、暴虐王の機嫌を損ねないよう、くれぐれもご注意ください。」
まるで他人事の様に言われ思わずため息を吐く。
当たり前だろう。切り捨てると決めた人間に対する接し方としては至極当然だ。
人質にされても、不興を買って殺されてもこの国にとって痛くもかゆくも無い存在がレオニードだ。
隣国の皇帝、最初は小国の王だったため。いまだに王をつけて暴虐王と呼ばれている男の元に嫁ぐことになったらしいのに、まともな感情はわかなかった。
誰にも見送られず馬車で向かった帝国の帝都は、自国のそれとは比べ物にならない位栄えていた。
富がこの場所に集まってきているのだろうか、活気があるしそれに服装等で様々な場所から人が集まっていることも分かる。
ぼんやりと外を眺めながらため息をつく。
どうせ碌なことにはならないのだ。市が見える。そこも活気がありそうで思わず馬車から降りてしまうかなんて考えてしまう。
実際はそんな事できやしないのだけど、考える位は許して欲しい。
自分かわいさにここで逃亡すればおそらく帝国は約束を反故にされたという大義名分を掲げて帝国は故郷を滅ぼすだろう。
それを許容できるほどレオニードは悪人ではなかった。
明らかに自分の故郷と文化が違うであろう織物が市に並んでいる。
行きかう人の着ている服もレオニードのものとは全く違うものだ。
髪の毛自体みな濃い色をしている。
全く違う文化の国でレオニードは一人きりだ。
王城についたがまともな出迎えは無い。
役人らしき男が出てきてこちらをチラリと見て「陛下はお忙しいので暫くはあちらでお過ごしください。」と言われただけだった。
明らかに歓迎されていないのが分かる対応だ。
こちらから付いてきた官僚も似たようなもので案内された殿につくと、こちらを憐れむように見つめたのち直ぐに帰り支度を始めている。
残ったのは俺と従者としてつけられた少年が一人。
教育係すらいないのだ。本気で妃として送り込んだつもりすらないのだろう。
公務などは絶対にできないしこの体制では”お出まし”になることさえできない。
「お前、親は?」
レオニードは与えられた部屋のソファーに座るとまずそれを従者になった少年に聞く。
「お、おれが小さい時に……。」
だろうなとレオニードは思った。いよいよ自国の目的が、レオニードとこいつにここで死ねという事だろうと確信を深め溜息をつく。
なるべく暴虐王様の機嫌を損ねず長生きをする。それしかないのだろう。
「俺の名前は、レオニード。お前は?」
「はい、ユーリィと申します。」
訛りのキツイ発音でユーリィは名乗った。
暴虐王と呼ばれる皇帝は、気に入らない人間がいればすぐに適当な罪をでっちあげて処刑をすると聞く。
レオニードはいわば生贄の様にこの国に送り込まれたのだが、王族としての矜持なんてものは元々持ち合わせてはいない。
この自分と同じように見捨てられた少年と、何としても生き延びてやりたいと思った。
隣国、といってもレオニードが子供の頃に隣国だった国は帝国に滅ぼされ今はもう存在しない。
どの国にとっても隣国というのはある一つの帝国を指すようになってしまった。
その帝国から自国の王に特使が派遣されたのはつい先日だと聞いている。
詳細すら聞かされていないレオニードは名ばかりの第七王子だ。母親は王族という訳ですらない。
帝王学なんてものは学んだことは無いし、実際今の今まで軍人として働いていたのだ。
それが突然王都に呼び戻されたと思ったら「喜べ!帝国がお前を妃に迎え入れたいと言っている。」という具合で突然出された話にレオニードの頭の中はこんらんしていた。
まるで意味が分からないことを自分の国の大臣達が言っている。
けれど今や世界最大の国家になった帝国に自国が逆らえる筈がないのも分かる。
「俺、男なんですが……。」
思わず呟いてしまった言葉に「先方は性別は指定してこなかった。」とだけ答えられる。
それでようやくなんとなく状況を察することができた。
おそらく帝国は人質が欲しいのだ。男でも女でも構わないから王族から人質を差し出せと言われたのだろう。
そもそも、面識もなければ国の公式行事にも参加していないレオニードが指定される筈がないのだし“性別は”と言われたのだ。
けれどレオニードはそれが詭弁だということもよく知っている。
王族の誰かを差し出せとでも言われたのだろう。
それに諾々と従いたくはないのだろう。
だから国家運営に支障をきたさないレオニードが適任だったのだろう。
殆ど顔を合わせたことも無いお父上たる国王陛下のご命令で人質として暴虐王に嫁げと言われたのだ。
馬鹿らしい。
馬鹿らしいが、暴虐王はきっと見目の麗しい姫君か若君が来ると信じているのだろう。
我が王室は銀髪にアメジストの瞳を持つ美しい者達で占められていると有名なのだ。
それを求める意味を感じない方がおかしい。
レオニードも髪色と瞳こそその特徴を有しているが、お世辞にも美しいとは言い難い。
仕事をしていてもまず王族だとは思われない。それほどに、レオニードとは違う儚げな印象を持っているのが兄弟であり、父である。
美しいという言葉がぴったりな王族から誰かをと言われて、全くその条件に合わないレオニードが嫁ぐ。
事務的に告げた国王はすぐに下がってしまい、質問すらできなかった。
「俺が行って、先方は怒らないんですか?」
次官を名乗る男に聞く。
すぐに出立だと言われているのに親にしろ兄弟にしろ見送りに来そうな気配すらないのは、まあそういうことだろう。
別に特に楽しい思い出が親族とある訳でもないのでどうでもいい。
「こちらは約束を果たしますのでケチをつけられる謂れはないのですよ。
ただし、暴虐王の機嫌を損ねないよう、くれぐれもご注意ください。」
まるで他人事の様に言われ思わずため息を吐く。
当たり前だろう。切り捨てると決めた人間に対する接し方としては至極当然だ。
人質にされても、不興を買って殺されてもこの国にとって痛くもかゆくも無い存在がレオニードだ。
隣国の皇帝、最初は小国の王だったため。いまだに王をつけて暴虐王と呼ばれている男の元に嫁ぐことになったらしいのに、まともな感情はわかなかった。
誰にも見送られず馬車で向かった帝国の帝都は、自国のそれとは比べ物にならない位栄えていた。
富がこの場所に集まってきているのだろうか、活気があるしそれに服装等で様々な場所から人が集まっていることも分かる。
ぼんやりと外を眺めながらため息をつく。
どうせ碌なことにはならないのだ。市が見える。そこも活気がありそうで思わず馬車から降りてしまうかなんて考えてしまう。
実際はそんな事できやしないのだけど、考える位は許して欲しい。
自分かわいさにここで逃亡すればおそらく帝国は約束を反故にされたという大義名分を掲げて帝国は故郷を滅ぼすだろう。
それを許容できるほどレオニードは悪人ではなかった。
明らかに自分の故郷と文化が違うであろう織物が市に並んでいる。
行きかう人の着ている服もレオニードのものとは全く違うものだ。
髪の毛自体みな濃い色をしている。
全く違う文化の国でレオニードは一人きりだ。
王城についたがまともな出迎えは無い。
役人らしき男が出てきてこちらをチラリと見て「陛下はお忙しいので暫くはあちらでお過ごしください。」と言われただけだった。
明らかに歓迎されていないのが分かる対応だ。
こちらから付いてきた官僚も似たようなもので案内された殿につくと、こちらを憐れむように見つめたのち直ぐに帰り支度を始めている。
残ったのは俺と従者としてつけられた少年が一人。
教育係すらいないのだ。本気で妃として送り込んだつもりすらないのだろう。
公務などは絶対にできないしこの体制では”お出まし”になることさえできない。
「お前、親は?」
レオニードは与えられた部屋のソファーに座るとまずそれを従者になった少年に聞く。
「お、おれが小さい時に……。」
だろうなとレオニードは思った。いよいよ自国の目的が、レオニードとこいつにここで死ねという事だろうと確信を深め溜息をつく。
なるべく暴虐王様の機嫌を損ねず長生きをする。それしかないのだろう。
「俺の名前は、レオニード。お前は?」
「はい、ユーリィと申します。」
訛りのキツイ発音でユーリィは名乗った。
暴虐王と呼ばれる皇帝は、気に入らない人間がいればすぐに適当な罪をでっちあげて処刑をすると聞く。
レオニードはいわば生贄の様にこの国に送り込まれたのだが、王族としての矜持なんてものは元々持ち合わせてはいない。
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