一から百まで

渡辺 佐倉

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相変わらず、百目鬼はこちらを見ていて目があう。

「好きなら、もう一口食べるか?」

パンを差し出すと百目鬼がもう一口かじる。
目はパンなんか見てやしない。

武術をやってるとかやってないとか関係なく、その位分かる。

それを見て、『好きなら』がパンに対してなのか何なのか、自分の言葉がよく分からなくなった。

自分の失言から目を逸らすためにパンを食べる事に集中する。

だけど、視線をパンに移しても、多分百目鬼が俺の事を見続けてる事は分かっている。
もう知っている。

「なあ、今日家族の帰りが遅いんだ。」

百目鬼が俺にしか聞えない位の小さな声で俺に伝えてくる。


あー、もう。もう知ってる。
その意味も、百目鬼が俺のものを分けてもらうのがしたかったことも。

早く涼しくならないかなと思う。
二人きりで学校でご飯が食べたい。

初めてこいつと話した時にはなかった気持ちがわいてしまう。
こんなことを普段から考える人間じゃなかったはずだ。
なのに最近はそんなことばかり考えてしまう。
それを嫌悪していない自分にも気がついている。


気恥ずかしさに机の下で、百目鬼の足を蹴る。
百目鬼は避けない。

外行きの顔でニコニコ笑っているだけだ。

「分かったよ。行くよ。」

家に遅くなる旨、連絡を入れながら、俺も外行きの笑顔で笑いかける。
俺がどんな気持ちでこの返事をしてるのか本当に分かってるのか。なんて思うけれど、いつも通り百目鬼が大きくため息をついたので許してやることにした。

ただ、あのバカみたいな告白をもう二度と聞けないのかと思うと、ほんの少しだけ寂しい気がしてしまったのは多分俺の気の迷いだと思った。

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