一から百まで

渡辺 佐倉

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百目鬼の母親は思ったより普通に接してくれた。

夏休み何度かお邪魔して、宿題をして、それから百目鬼の本を読む。
だんだん二人で過ごすのが当たり前になっていく。

時々キスをして、花火大会にも一緒に行った。

それから、週に一度うちの道場で百目鬼も鍛錬することになった。

百目鬼の動作は綺麗だ。

「ふーん。彼のために柔道覚えようとしてたのか。」

カナタさんにニヤリと笑われる。

「まあ、今はまだ柔道“では”勝てないですけど、いずれは。」

俺がそう返すと「あれ?もしかして春秋君ちょっと雰囲気変わった?」と聞かれる。

心境の変化があったかはよく分からない。
柔道の鍛錬はそれほど進んでいない。

勝負をもう一度って話はお互いにしない。

けれど、足は思うままに動く様になっている。
筋肉がこわばる症状は出ていない。少なくとも今のところは。

「まあ、彼相当強そうだから、頑張らないとダメだろうね。」

筋トレも増やした。
今はまだそのつもりはないけれど、いつかまた。
そう思う。

「じゃあまずはこの組手、集中しようか。」

カナタさんに言われて頷く。
勝つことは好きだ。

だけど、負けたからこそ次がと思えることがあることも知った。
……勝っても次をと思ったことが始まりだったから、俺と百目鬼にとって勝ち負けは同じ価値のものなのかもしれない。

集中する。
目の前の相手とそれから型の事だけを考える。

その日から、いつもより無駄が無く動けるようになった気がした。


「綺麗だった。」

その日いつもの交差点まで百目鬼を送っていく際、百目鬼に言われた。

もし、そう思うならそれは百目鬼のおかげだよとは言えず、ただ照れて、百目鬼の髪の毛に手を伸ばして撫でる事しかできなかった。
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