一から百まで

渡辺 佐倉

文字の大きさ
上 下
95 / 101

94

しおりを挟む
「もう、つくぞ。」

その声で、目が覚める。
瞳を開けて車窓から外を見ると見慣れた風景にもう変わっていた。

「百目鬼、ずっと起きてたのか?」
「いや。俺も少し寝てた。」
「また、アラームか?」

百目鬼は首を振る。

「俺も丁度起きたところだ。」

そう言われてから、百目鬼にすり寄る様に体重をかけて寝ていたことに気が付いて、姿勢を戻す。

「駅でタクシーに乗るか?」

百目鬼に言われて首を振る。
俺の体を気遣ってくれているのだろうけれど、そういうのはいらない。

いつもの交差点まで二人でゆっくり歩きたい気分なのだ。

繋いだては、繋ぎっぱなしだった。
それが嬉しい。

手を放してしまうのは寂しいけれど、そっとお互いに握る手を緩める。

夏の日差しは相変わらず暑い。

アスファルトを反射する熱が、じわりと体を照らす。

お互いに態とゆっくりと歩いていることにお互いが気付いている。
ゆっくり、ゆっくり歩いて、離れがたい気持ちを少しずつ落ち着ける。

いつもの交差点。

百目鬼はこちらを見てる。
もしかしなくても、いつもこうやって見てたのかもしれない。

「また、明日。」

俺が言うと百目鬼は笑顔を浮かべる。

「明日も、明後日も毎日。」

百目鬼が返す。
ずっと続いていく日々を百目鬼の口からきけて、嬉しかった。
泣けちゃう位。

昨日から涙腺は緩みっぱなしだ。
だけど嬉しかったんだ。

涙の滲む目で、一人で家に帰る。
パーカーを借りっぱなしにしてしまったことに家に帰ってから気が付く。

脱ぐのも惜しい気がして、そのまま自分のベッドで横になった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

真・身体検査

RIKUTO
BL
とある男子高校生の身体検査。 特別に選出されたS君は保健室でどんな検査を受けるのだろうか?

営業活動

むちむちボディ
BL
取引先の社長と秘密の関係になる話です。

ナースコール

wawabubu
青春
腹膜炎で緊急手術になったおれ。若い看護師さんに剃毛されるが…

隣の親父

むちむちボディ
BL
隣に住んでいる中年親父との出来事です。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

処理中です...