一から百まで

渡辺 佐倉

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「そう言えば、脛今日になって痣でてきてないか?」

性行為の所為じゃない。別の跡。
かなり強引に足払いをした記憶がある。

払い技で足に痣を作るのは下手糞のやることだとは思わないでもないけれど、どうしてもついてしまうことがある。

俺の足は綺麗なものだった。
今日、朝起きたら百目鬼はもう着替えていて、足は見れていない。

布団を上げさせて、こうやって甲斐甲斐しく世話をしている百目鬼自身は怪我をしていないのか。

「別に何ともないぞ。」

そもそも、そういう細かい怪我はよくあることだろうと言うように返される。

それが本当の事かは分からないけれど、少なくとも百目鬼にとってはどうでもいい事なのだろう。
少なくとも昨日あれだけ夜動けたのだ。

別に本気で心配して聞いたわけじゃない。
今日だって綺麗に正座をして朝食を食べている。

その上、甘さが気恥ずかしくなった俺の突飛な話もニコニコとしながら聞いている。

ただ、甘すぎる雰囲気にいたたまれなくなってこの話を出しただけだ。


帰りたくないなって言いそうになってやめる。
言っても意味がない事だと知っている。

早く大人になりたいと少しだけ思った。


仲居さんも、おかみさんも何も言わなかった。
どこまで知っているのかとか、百目鬼は気まずくないのかとか考えないでもないけれどこれも気にしても仕方がないのだろう。

少しずつ俺にも話をしてくれればいいなと思う。

会計を済ませて、宿を出る。
結局朝、風呂に入ることはできなかった。
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