一から百まで

渡辺 佐倉

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鬱血痕は隠しようがなくて諦める。

コンビニかどこかで絆創膏でも買った方がマシかもしれない。

昨日泣きすぎて、瞼が腫れぼったい。
体全体が少しだけ重たくて、動くのが億劫だ。

体を動かすのが億劫だなんて思う事はめったにない。

「その色気駄々洩れどうにかならないのか?」

百目鬼がまたよく分からない事を言う。

「いつもの犯したくなる、とか舐めまわしたくなる、ってやつか?
はいはい。」

適当に受け流すと、百目鬼がなんとも言えない顔をする。

「せめて、これだけ着とけ。」

出されたのはジャージっぽいパーカーだ。

「夏だぞ……。」

長袖は無い。というか、なんで持ってるんだよ。

「首の跡、少しは隠れるだろ?」

そう言われると言い返せずしぶしぶ着る。
どう考えても洗いたてなのに百目鬼の匂いがする気がして、よくない。

腕まくりをぞんざいにしてぼんやりとしていると、朝食が来た。

朝はトーストも好きだけれど、こういう和食って感じのも好きだ。
それに、百目鬼と朝食を一緒に食べる機会なんて多分めったにない。

ふかふかの座布団に座る。さすがに今日正座するのは無理だ。

昨日よりは現実味がある。
目の前の食事にも、百目鬼と昨日した性行為にも。

「また、こうやって二人でどっか行きたいな。」

白米とみそ汁を食べながら百目鬼に言うと「そうだな。」と言って微笑まれる。

こんな関係になるとこの前まで全く信じられなかった。

「美味いな。」
「そうだな。」
「今度はゆっくり、景色でも見たいな。」
「ああ。」

たまご焼きが美味しい。
食べていると「俺の分も食べるか?」と聞かれた。

本当に俺の事よく見ている。

「……じゃあ、貰う。」

たまご焼きをもう一切れ。
穏やかな、甘やかな。くすぐったい。そんな気持ちで朝食を食べる。
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